第二百二十六話 必殺!ももパーン!
何かくか迷った結果、特訓回になりました。
「必殺技が欲しいです」
「藪から棒にどうした?」
休日に朝飯を食っていると、ロワがそんな事を言ってきた。
「この前、遠征でコマンドデーモンと戦ったじゃないですか」
「あれ以上の強敵はフラン意外はいないだろうな」
「あの時にミエルさんの『シン・ダブルプロフェクション』と複製トリシューラとのコンボが決まったじゃないですか。あの時みたいに協力しての必殺技が欲しいなって思いまして」
「確かに、協力しての必殺技ってかっこいいねよね。今度、コアコちゃんと一緒に考えてみようかな?」
「やめてあげろ」
ミエル相手に困っているコアコの姿が容易に思い浮かぶ。
「で、必殺技だったか。明確なビジョンはあるのか?」
「そうですね?ミエルさんとの必殺技はあるので、他の方との必殺技が欲しいですね」
「例えば?」
「……皆さんは何かないですか?」
「いきなり他人任せか」
他の奴との必殺技か。確かアレがあったな。
「俺とノエルには合体必殺技があったな」
「あー、あったね。『しっぷうじんらい』だっけ」
ノエルを背負ってコネクトでMPを無限に使いつつ、雷装で超加速して炎装で超火力を叩き込む。これが出来れば大抵の奴には負けない。
「そんなのもあったな」
「むう、羨ましいのう。ノエルや、わしとも必殺技を作らぬか?」
「フランさんは必殺技いります?」
「デコピンだけでも必殺技になるからな」
「そんなの嫌じゃ!わしもノエルとの必殺技が欲しい!」
手足をバタバタと動かし、駄々っ子のように暴れるフラン。小学生のノエルよりも子供っぽい。
「ノエルはどうなんだ?」
「フランお姉ちゃんは、ノエルが居なくても大丈夫じゃない?」
「そんなことを言わんでくれ。わしの力があればなんでも出来るぞ?」
「うーん、別にいいかな?」
「そう……か……。ちょっと部屋に籠ってくる」
フランが残念そうに目を伏せ、リビングから出ていった。無理もないことだが、ほんの少しだけ可哀そうに思う。
だが、ここで構えば調子に乗るだろうから無視するか。
「今のところ俺達の疾風迅雷が最強って訳だな」
「それは聞き捨てなりませんね?最強は僕とミエルさんの『ホーリーシャインアロー』の方が強いですよ」
「え?……ああ、必殺技の名前か」
「その様子から察するにミエルは知らなかったんだな?」
「初めて聞いた」
「格好いいでしょ?」
「ああ……」
なんとも言えずに満面の笑みのロワを見る。ミエルはどう思っているのかと思い、視線を移してみると目を閉じて頷いていた。満更でもないみたいだな。
当人どうしが問題ないなら俺から言うことはないな。
「そういえば、ミエルお姉ちゃんのシン・ダブルプロフェクションの詳しいことって分かったの?」
「分かったぞ」
「流石だな。だが、どうやって調べたんだ?」
「話を聞いた時はわからないって言ってましたよね?」
「あの虐殺で得た情報を元に天界で調べた」
「やっぱり、あの時のは虐殺なんですね」
シン・ダブルプロフェクションを見た時、人間界に情報がない事を確信した。
あれだけの強力な力が少しの情報がないのは可笑しいからな。
「天界で調べたとなると、この世界のプログラム?とかいうやつを見たのか」
「そうだな」
天界ではこの世界の物理法則が見られる。だから、俺は全てのスキルの仕様や、ステータスの仕組み、魔物が発生する条件など世界の全てを知っている。
この世界で情報が無いことでも調べられるから重宝している。
「どういうスキルなの?」
「スキルの相称は覚醒スキル。神級スキルも持っている奴は全員使える可能性がある。ミエルの覚醒スキルの効果は見た通りだ。好きな場所に好きなだけ盾を出現させられる。盾の大きさは自由自在で破壊できず、受けた攻撃を2倍にして跳ね返す」
「シンプルですが強いですね」
「数や大きさに制限はないのか?」
「無いが数が増えたり、大きくなると維持するのが難しくなる。こればっかりは訓練するしかないな」
「いちいち死にかけるのは嫌だぞ?流石に精神が持たない」
確かに普通の精神だと、緊張状態を短期間で何回も起こさせるのは良くない。全力で殺しに行くのは1週間に1度に減らしてやるか。
「発動さえできるようになれば、死にかける必要はない。それまでは頑張ってくれ」
「……まあいい。調べたのは効果だけなの?」
「いや、一番調べたかったのは何をエネルギーにしているかだ」
「エネルギー?」
普通のスキルはMPを消費する。だが、あれだけ強力なスキルはMPで賄いきれる訳が無い。だから、その辺りの仕様を調べた訳だ。
「下手すると魂を削って消費している可能性もあったからな。そうなると使いすぎると死んじまう」
「そんなに危険なスキルなのか!?」
「安心しろ。そのスキルは別のエネルギーを消費していた」
「なんですか?」
俺はストローでジュースを飲んでいるノエルを指さす。ノエルは自分が指さされるとは思っていなかったのか、首をかしげる。
「ノエル?」
「ああ。覚醒したスキルはノエルからエネルギーを得ている」
「どういう仕組みなんですか?」
「神の使いと神級スキルの使いは魂の繋がりがあるみたいでな。その繋がりからMPが流れ込んできて、覚醒スキルが使えるようになる」
神の使いはいつの時代もいた訳じゃない。これもシン・ダブルプロフェクションの情報がない理由の一端だろう。
「つまり使いたい放題ってことか?」
「そうなるな」
「あの、僕もノエルさんみたいな覚醒したスキルが使えたりするんですか?」
緊張した面持ちでロワが手を上げる。
「あるぞ」
「そうなんですか!?い、一体どんな能力が!?」
「秘密」
「そんなぁ!?」
「使えるようになったら使い方は強制的に知る。それまで楽しみにしておけ」
「はーい……」
不満そうなロワは口を尖らせてソッポを向く。元気ないのが2人に増えたな。
「俺が調べたのはこんなところだな」
「流石ホウリお兄ちゃんだね」
「だろ?」
「僕は不満ですけどね。覚醒スキルが簡単に使えるようになる方法は無いんですか?」
「あるぞ」
「本当ですか!?」
満面の笑みで立ち上がるロワに俺は満面の笑みを返す。
「なんなら今からやるか?」
「いいんですか?」
「俺とお前の仲だろ?」
「ホウリさん……」
ロワが感動したように目に涙を浮かべる。
「……嫌な予感がする」
そう呟くミエルの声はロワには届かないのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
「あのホウリさん」
「なんだ?」
「これはどういう事ですか?」
「ロワとミエルVS俺とノエルで試合をするってだけだぞ?」
俺はノエルを背負いながら答える。ロワは弓を準備しながら顔を引きつらせる。
「覚醒スキルを簡単に使える方法を教えてくれるんですよね?」
「前にも教えただろ?覚醒スキルに覚醒するには死にかけるのが一番手っ取り早い」
「安全性はどうなってるんですか!?」
「ははは」
「笑って誤魔化さないでください!」
「喋ってないで準備しろ。あと1分で始めるぞ」
リンゴのタイマーを1分にセットして適当な場所に放る。
「くう……、ノエルちゃんはこんな事したくないんだよね?」
俺を説得するのは無理だと判断したのか、ノエルの説得に切り替えるロワ。
ノエルは少し考えた後、ロワの質問に答えた。
「ロワお兄ちゃんとミエルお姉ちゃんなら、なんとかするって信じてるよ!」
「いつもは嬉しい信用が今日ばっかりは憎い!」
「もう諦めよう。今はしっかりと準備して2人に対抗するんだ」
「そ、そうですね。流石にフランさんを相手にする時よりはなんとかなりますよね」
ロワが矢筒を背負った瞬間にタイマーが鳴る。
「じゃあ行くぞ!」
「はい!」
「いつでも来い!」
「いっくよー!コネクト!」
ノエルから大量のMPが流れ込んでくるのを感じる。まるで滝から落ちる水が、全て体から湧き上がってくるような感覚。このまま何もしないと数秒で破裂するほどに強力だ。
「いきなり決めるぞ!疾風迅雷!」
俺は沸き上がるMPを全て雷装に回す。自分の全てが雷になり、どこでも一瞬で行けそうな感覚になる。
その感覚のまま、俺はミエルの懐に潜り込む。
「うおらぁ!」
「うおっ!?」
腹を蹴り上げて、ミエルを空中に吹き飛ばす。
「しまった!空中では身動きがとれない!」
「そう言う事だ!」
俺はミエルの上まで飛び、空中に結界を作る。そして、その結界を足場にミエルに向かって落下する。
「ヒャッハー!」
「ぐうううう」
ミエルとすれ違う瞬間に拳を叩き込む。そして、すれ違った先で結界を作って再びミエルに向かって飛び、もう一度拳を叩き込むことで再び浮かせる。
これを繰り返し、ミエルを空中に浮かせたまま攻撃を加えていく。
「く、空中コンボ!?いま助けますね!」
ロワが俺に狙いをつけて矢を放ってくる。だが、放たれた矢は俺に届く前に折れて、地面に落ちる。
「パチンコ玉も雷装で早くなってるんだぜ?俺達に矢が届くと思うなよ?」
「ロワ!雷装程度では私にダメージは入らない!じっくりと狙いをつけてくれ!」
「そんな悠長なことをしてていいのか?」
ミエルに殴る瞬間に拳だけ炎装にする。
「くらえ!」
「ぐあっ!」
炎装を叩き込み鎧を叩き割る。流石のミエルもダメージが入っているのか、顔に焦りの表情が浮かんでいる。
傍から見れば放電が起こっている中心でミエルに炎の塊がぶつかっているようにしか見えないだろう。
「ほらほら!このままだと本当に死ぬぞ!早く覚醒スキルを使えよ!」
俺が煽るとミエルの目つきが鋭くなり、瞳が金色に光った。そして、俺が向かってくる方に手を向ける。
「シン・プロフェクションガード!」
真っ白な盾が突っ込んだ先に出現する。このままだと盾に衝突し、俺のHPは0になるだろう。かなり上手い手だ。
「俺達が相手じゃなければ通じただろうな!」
横に結界を作って殴る事によって、無理やり軌道を変える。
「な!?」
ミエルはシン・プロフェクションガードを四方に増やして攻撃を防ごうとする。だが、全てを覆う事が出来ずに、少しだけ隙間が出来ている。
俺は炎装でパチンコ玉を構える。
「チェックメイトだ!」
弾丸よりも威力のあるパチンコ玉がミエルの腹に突き刺さる。
「がはっ……」
ミエルは白目を剥いて地面に落ちていった。
「まずは1人だ」
着地してロワに視線を向ける。
「次はロワ、お前だ」
「あ、あの……、この前のフランさんくらい絶望感が凄いんですけど?」
「じゃないと意味ないだろ」
「大丈夫!何かあったらノエルが治すから!」
「助かる確率は?」
「五分五分だな」
「半分は死ぬって事ですよね!?」
「ふふふ」
「へへへ」
「2人で笑わないでくださいよ!?」
こうして、1分後にはロワは気絶することになるのだが、それは別のお話。
迷った時は誰かをボコボコにする癖がついてる気がします。次はナップあたりをボコボコにしますかね。
次回はフラン回です。いい加減に進めないとですね。
炎天下で3時間歩いたら頭が痛くなりました。皆さんも無理はしないでくださいね。




