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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
248/459

幸運探偵ロワ

今年も来ましたエイプリルフール話。今年は昨年と同じ探偵ものです。推理要素はありません。

本当はノエル、ホウリ、フランが主役の魔法少女ものを書こうと思ったんですが、1巻分書けると思い止めました。書ききったら賞に応募しようと思ってます。

第一話 ようこそ!落区高校探偵部へ!


 ここは落区高校。何処にでもあるような普通の高校。そんな高校に唯一、他の高校には無い変わった部活がある。

 「探偵部」、それがこの高校独自の部活だ。依頼をすれば100%解決という触れ込みで活躍しており、この高校を象徴する部活となっている。

 そんな探偵部の部室は校舎3階の一番奥に位置している。窓からは練習中の野球部の大声が聞こえてくる。

 部室の中にはシャーロックホームズや明智小五郎、どこかの少年探偵といった名だたる探偵の肖像画が飾られている。本棚には小難しそうな本が沢山入っている。しかし、埃が積もっており長らく読まれた形跡はない。

 棚にはお菓子や茶葉が入った袋が置いてあり、デカデカと来客用と書かれている。

 そんな部室の一番奥のデスクにその男子は座っていた。日の光を浴びながら日の点いていないパイプをくわえ、ハンチング帽子をかぶり、つまらなさそうに天井を眺めている。顔立ちはかなり整っており、座っているだけでかなり絵になっている。女子が放っておかないのは容易に想像できるだろう。

 その男子はパイプが口から落ちないように気を付けながら呟いた。



「依頼人、来ませんね」

「だな」



 その呟きに部室の中央にいる人物が答える。その人物は部室中央のソファーに座っており、ノートに何かを書いている。



「ホウリさんが依頼できる人を制限しているからですよ。制限されてなかったら今頃大忙しですからね?」



 ホウリと呼ばれた人物が手を止めて、パイプをくわえた男子に視線を移す。



「俺が制限してなかったら、お前目当ての依頼人が増えるだけだぞロワ?メイクのノリが悪いから何とかしてくれとかいう、どうでもいい依頼を受けたいのか?」

「それはそうですけど……」



 ロワと呼ばれた人物がパイプをテーブルに置く。



「はぁ、僕はもっと難解な事件をズバズバと解決していきたいんですけどね」

「難解な事件が簡単に起こってたまるか。暇なら勉強でもしてろ。毎回、選択肢だけ全部当てて赤点回避してるだろ?」

「勉強するくらいだったらお昼寝しますよ」

「今は寝るな。夜に眠れなくなるぞ」



 ホウリはそう言って再び手元のノートに視線を落とす。ロワは机に突っ伏すと、つまらなそうに呟く。



「それにしても、アレをどうしましょうか?もう機嫌が無いですよ?」

「アレをどうにかしないと探偵部の未来は無いしな。まあ、なるようになるだろ」

「適当ですね」

「お前の事だ。俺が何もしなくてもどうにかなるに決まってる」

「そんな物ですかね?」



 会話が終わるとロワは再び暇そうにパイプをくわえる。すると、部室の扉が控えめにノックされた。



「来た!」



 ロワが勢いよく立ち上がり、ホウリが冷静に扉を開けに行く。

 扉を開けると、そこには金髪ロングでスタイルが良く、顔立ちが整っている女生徒が立っていた。



「ここが探偵部で間違いないか?」

「そうだ。依頼か?」



 ホウリの言葉に女生徒は頷く。それをみたロワが花が咲いたような笑顔になって机から飛び出した。



「探偵部へようこそ!」



 ロワはホウリに目配せをして両手を広げる。ホウリは一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、何も言わずにロワの隣に移動する。



「僕らこそ噂に名高い!」

「落区高校探偵部。人呼んで」

「「フォールディテクティブ!」」



 2人は両手を広げ、声を合わせて叫ぶ。

 その様子を見ていたミエルは何が起こったのか分からず目を丸くしている。



「……それはなんだ?」

「この部の三大名物みたいな物だ。気にするな」

「残りの2つはなんだ?」

「茶菓子とこいつ」



 ホウリは女生徒を部室の中に通して中央にあるソファーに座らせ、お茶と羊羹を用意する。それを見たロワは女生徒の体面に勢いよく座り込む。



「改めて探偵部へようこそ。僕の名前はロワ。探偵部の部長で探偵です」

「俺はホウリ。推理担当で探偵だ」

「今日はどのような依頼ですか?」



 ロワが決め顔を作りながら、パイプをくわえる。普通ならばキザったらしい仕草だが、なまじ顔が良いだけに絵になっている。現に女生徒はロワに見とれ、依頼内容を言うのを忘れてしまっている。



「これどうぞ」

「……あ、どうも」



 ホウリが机にお茶の入った湯呑と羊羹が乗った皿を置くと、女生徒は正気を取り戻した。

 ホウリは自分たちの前にも同じものを置くと、ロワの隣に座る。



「依頼内容を聞かせて貰えるか?」

「ああ」



 女生徒はお茶を一口飲むと話を始めた。



「私の名前はミエル。2年3組に所属している」

「知ってますよ。この前、転校してきた方ですよね?」

「成績優秀で眉目秀麗。転校早々、学校一のアイドルの座に付いた転校生を知らない生徒はいないだろうよ」

「私を知っているのか。嬉しいやら恥ずかしいやら複雑だな」



 顔をほんのりと赤らめ、恥ずかしがるミエル。



「で、そんな学園のアイドルがどんな依頼を持って来たんだ?」

「実は……」



 ミエルはそこまで話すと、まだ迷っているのか視線を逸らせた。それを見たロワは優しく微笑む。



「大丈夫ですよ。僕たちは絶対に秘密と依頼人を守ります。信用してください」

「……分かった」



 ミエルは大きく深呼吸をすると、意を決したように目を見開いた。



「実はストーカーにつけられてるんだ」

「ストーカー?」



 ミエルの言葉にロワが首をかしげる。



「具体的に何があったんですか?」

「歩いていると、後ろから足音と気配を感じるんだ」

「だが、振り向いてもそいつの姿は見えない訳か」



 ホウリの言葉に見えるが頷く。



「そんなに美人だったらストーカーが出るのもあり得そうですね」

「いつもつけられているのか?」

「帰る時だけだ。駅でパパと会うまではおそらくつけてきていると思う」

「パパ?お父さんと一緒に帰っているんですか?」

「あ」



 ミエルがしまったという顔をして、顔を背ける。



「……忘れてくれ」

「大事な情報だから、そうはいかないな」

「むう……」



 顔を真っ赤にしながらホウリを睨むミエル。当のホウリはというと、どこ吹く風といった様子で情報をメモしている。

 ロワは変わらぬ笑顔のまま質問を続ける。



「犯人に心当たりはありませんか?」

「申し訳ないが無いな。私の周りの人物で態度が変わった者はいなかった」

「もしかしたら、話したことが無い奴がストーカーになったのかもな。先生や警察には相談したのか?」

「私の気のせいという可能性もあるからな。まずは調査してほしいと思ったんだ」

「そういう事なら任せてください。必ず真相を暴いてみせますよ」



 ロワが自信満々な表情をして胸を叩く。しかし、強すぎたのか胸を叩いた後に大きくせき込む。



「ゴホッゴホッ!」

「恰好つかないな」



 ホウリが呆れたように席を立つ。



「事態は切迫しているようだ。早速調査を始めよう」

「感謝する。私にできる事があったら何でも言ってくれ」



 ミエルが真剣な表情で頭を下げる。ロワは笑顔のまま大きく頷く。



「それでは、いつも通り()()()()()()()()()()()()()

「そうだな。犯人特定後に調査を始めよう」

「……へ?」



 2人の会話の意図が読み取れず、ミエルが首をかしげる。

 当のホウリとロワは部室の棚から、サイコロや10円玉、何かが書かれた紙を用意している。



「何をする気だ?」

「あれ?犯人を特定するって言いませんでしたっけ?」

「いやいや!調査前に犯人の特定など出来る訳ないだろう!?」

「もしかして、俺たちの事を知らないで依頼しに来たのか?」

「私が聞いたのは、ここの探偵が優秀という事だけだ。何かあるのか?」



 ミエルの目が疑いの色を帯びる。それを感じ取ったのか、ロワが慌てたように首を振る。



「何もないですよ!信じてください!」



 ロワがミエルの手を握って真っすぐと見つめる。

 ミエルは顔を赤らめながらも、疑いの眼差しのままだ。



「……本当か?だったら調査前に犯人を特定する方法を教えてもらおうか?」

「勿論だ。元より隠すつもりもない」



 ホウリが窓を開けて答えながら、ロワに何かを投げてよこす。ロワは難なく受け取るとニヤリと笑う。



「なんだそれは?」



 ミエルの質問に答えるようにロワは手を開いてみせる。手の中には赤と青のサイコロと、先がマジックテープになっているダーツがあった。



「なんだこれ?」

「サイコロとダーツです!」

「それは分かる。これを何に使うかと聞いているのだ」

「説明するよりも見た方が良いだろうよ。ロワ」

「分かりました。いきますよ!」



 ロワがサイコロを握りしめて机の上に投げつけた。

 サイコロは何度か転がると、勢いを失って止まった。



「出ました!赤が2で青が3です!」

「2年3組の奴が犯人か。次は具体的な人物の特定だ。ダーツ行くぞ」

「分かりました」

「ちょっと待ってくれ」



 ロワがダーツを投げようとする所をミエルが止める。



「どうしました?」

「それはこっちのセリフだ。サイコロやダーツを使って何をしている?遊んでいるのか?」

「そんな訳ないだろ。犯人を特定しているんだよ」

「サイコロやダーツでか?そんな事できる訳ないだろう?」

「ロワの幸運なら可能だ」

「幸運だと?そんな不確かな物に頼っているのか?」

「それが、不確かじゃないんだよ」

「言うより見てみましょう」



 ロワはミエルに紙とペンを渡す。



「その紙に1~10までの数を好きなだけ書いてください。僕はサイコロを振って書かれた当てます」

「何個書かれてるかも言わなくていいのか?」

「言わなくていいですよ」

「1つ当てるだけでも確率は10%、複数の場合は確率は格段に下がる。更に何個書いたかも当てるだと?相当な奇跡でも起こらないと不可能だ」

「良いから書け。不正が無いように俺たちは向こうを見ておく」



 ホウリとロワはミエルに背を向ける。ミエルは鼻で笑いながら紙にペンを走らせ、机に伏せる。



「いいぞ」

「よし、ロワ出番だ」

「任せてください」



 ホウリがロワに10面サイコロを20個渡す。

 両手に溢れんばかりのサイコロを持ち、満面の笑みでテーブルに向かう。



「行きますよ」



 ロワは無造作にサイコロをテーブルに落とす。サイコロは全てテーブルの上で目を出す。

 ロワは出目を適当に並べ、それをホウリが紙に書く。



「20以上か。結構書いたな」

「もう一回振りますね」



 ロワがサイコロを集めてもう一度テーブルに落とす。

 今度は半数がテーブルから落ちて、残りの半数が目を出した。ロワは再びサイコロを適当に並べ、ホウリがそれを紙に書く。



「テーブルに乗っているサイコロが必要な数だ。1回目と合わせて30か。容赦ねぇな」

「これが僕たちの答えです。合ってるか確認してください」

「ふん」



 ロワから紙を受け取り、自分が書いた紙と照らし合わせる。

 ミエルは紙を見比べていくと、徐々に目が大きくなっていった。



「……全部合ってるだと?」

「そういう事だ。ロワは適当にやっても幸運でどうにかなる。犯人もサイコロで運よく当てることが出来るって訳だ」

「これで信じました?」

「いやいや、少し驚いたがよく考えればイカサマに決まってる。どこかに監視カメラでもおいてあるんだろう?」



 ミエルが半笑いで部室を見渡す。監視カメラでも探そうとしているのだろう。

 ロワとホウリは顔を見合わせると、しょうがないなと肩をすくめた。



「信じないんだな?」

「勿論だ」

「だったら奥の手だ」

「分かりました」



 ロワが10面サイコロを3つ持つと、ホウリがニヤリと笑った。



「これから()()()()()()()()。ロワ、やれ」

「な!?」

「わかりました。テイッ!」



 ミエルが静止する間も無く、ロワがテーブルにサイコロを振る。サイコロが止まるとロワが手慣れた様子でサイコロを並び替える。



「55.9㎏か」

「な!?何故分かった!?」

「どうせ信じないんだろ?ロワ、1カ月前の体重だ」

「了解です。えーっと、54.3㎏。ちょっとだけ増えましたね?」

「食い過ぎか?」

「分かった!信じるからやめろ!」



 ミエルが顔を真っ赤にして、声を張り上げる。それを見たロワはサイコロをポケットにしまう。



「信じていただけて何よりです」

「悪趣味なやり方だ」

「相手に信じさせるには手っ取り早いやり方だ。ロワの幸運で犯人を捜して、証拠や手口を掴む。これが俺たちのやり方だ」

「では続きですね」



 ロワはポケットにサイコロを仕舞い、ダーツを取り出す。



「さっきはサイコロで2と3が出ました。つまり、2年3組に犯人がいます」

「2年3組には40人の生徒がいる。サイコロだと飽きて……手順が複雑だから次はダーツで犯人を決める」

「おい待て、何か言いかけなかったか?」

「気のせいだ」



 ミエルのツッコミを軽く流し、ホウリは丸いルーレットを用意する。バラエティ番組などでよく見る中央から円の淵までが仕切られて、ルーレット自体が回るタイプだ。



「これを1~40で分ける。命中した出世記番号の奴が犯人だ」



 ホウリがルーレットの側面を操作すると、ルーレットが40分割される。



「もう投げていいぞ」

「よし来ました!」



 ロワが右手をブンブンと振り回しダーツを構え、ホウリがルーレットを回す。



「行きますよ!」



 ロワは右足を突き出しダーツを持つ右手を思いっきり振りかぶる。

 ホウリはというと、手をリズミカルに叩きながら掛け声をあげる。



「ぜーんぶ、ぜーんぶ」

「なんだそれ?」

「ちょっとしたお約束ってやつだ。ミエルもやっていいぞ?」

「私は遠慮しておこう」

「そうか。あそれ、ぜーんぶ、ぜーんぶ」

「ていや!」



 見るからに滅茶苦茶な構えからダーツが投擲される。ヘロヘロと勢い無くルーレットに飛ぶ。

 ルーレットへと刺さる、そう思った瞬間、窓から物凄い突風が部屋に吹きこんできた。



「うわっ!?」



 あまりの勢いの風にミエルがスカートを押える。ダーツは風で吹き飛ばされ、ルーレットから大きく外れた所に当たった。



「おや?可笑しいですね?」



 ロワが首をかしげながらダーツを拾う。



「窓なんて開けるからだ。閉めてもう一度投げればいい」



 ミエルが閉めようと窓に手をかける。しかし、ホウリがその手をガッチリと掴み、窓を閉められないようにする。



「離せ」

「別にいいが、窓は閉めるな」

「なぜだ?窓を閉めないとさっきみたいにルーレットに当たらないかもしれないだろ?」

「ロワの幸運を舐めるなよ?風が吹いても犯人に当たらない事は無い」

「だが、当たっていないではないか」

「本物のロワなら当たる。つまる、ここにいるのは偽物って事だ」

「なんでそうなるんですか!?」



 ホウリはロワの後ろを取ると、腰に手を回す。



「さっさと吐け。何を調べに来た?誰から依頼された?さっさと吐かないとバックドロップを叩き込むぞ?」

「ちょっと待ってください!僕は本物のロワです!」

「安心しろ。命までは取らない」

「命取る以外はするって事ですよね!?」

「話す気はないって事か。なら、くたばれぇ!!」

「命は取らないんじゃないんですかぁぁぁぁぁ!?」



 ホウリのバックドロップによってロワがソファーに叩きつけられる。



「ぐべあ!?」



 潰されたカエルのような声をあげ、ロワがソファーの上で白目で気絶する。

 ホウリは手をパンパンと払うと、冷静な表情で話す。



「なんでロワのダーツが外れたかの話だったな?」

「この惨状でなぜ話を戻せる」

「ロワのダーツはあくまで、選択肢に正解があった時にだけ命中する。選択肢に正解が無いとどんな事があっても外れる」



 ミエルのツッコミを無視し、ホウリが話を続ける。ミエルも騒いでも無駄だと思ったのか、呆れながらホウリの話に乗る。



「つまり、あの40個の選択肢の中に犯人がいないという事か。……ん?どんな事があっても外れるって言ったのか?」

「そうだ」

「窓が閉めてあってもか?」

「野球ボールとかが飛んできて、窓を割ってダーツに当たって外れるだろうな」

「それが窓を開けさせた理由か」



 ホウリが大きく頷き、気絶している頬を摘まむ。



「こいつの幸運はあくまでロワ自身にしか効果が無い。俺は周りに被害を出さないように、こいつの幸運をコントロールしているんだ」

「そうだったのか。大変なんだな」

「大変なんてものじゃない。滅茶苦茶、大変なんだ」



 ホウリが疲れたように息を吐く。毎日ロワのお守をしていると考えると、無理もないのかもしれない。

 ホウリは羊羹を口に放り込むと、咀嚼してお茶で流しこむ。



「俺の事なんて今はどうでも良い。問題は今回の犯人だ」

「40人の生徒の中にはいないんだったな。ならば誰が犯人だ?」

「2年3組に所属しているのは間違いない。一体何者だ?」

「……あ」



 考え込んでいたミエルが何かを閃いたように顔を上げた。



「どうした?」



 ホウリもそれに気が付いたのか、ミエルに尋ねる。



「出席簿の中身を思い出していたんだが、2年3組の中で生徒以外の者の名前があった」

「誰だ?」

「〇〇〇だ」

「○○○?なるほど、41人目の人物って訳か。というか、転校してきたばかりで出席簿を暗記しているのか?」

「ああ。私には瞬間記憶が備わっている。一度見た事は忘れる事はない」

「へぇ、中々やるな」



 ホウリが感心したように頷く。

 ホウリは記憶よりも思考力が高い。記憶力も悪くはないが、完全記憶という訳にはいかない。そういった意味では、ホウリに真っ向勝負で勝てる数少ない人物といえよう。



「さてと、それが分かれば後はロワの幸運で確かめるだけだ」



 ホウリはルーレットに41を追加すると、ソファーの上でノビているロワの頬をペチペチと叩く。



「おーい、いつまで気絶してるつもりだ。さっさと起きろ」

「うーん?」



 ロワが目を覚ましぼんやりとした目で周りを見る。



「えーっと?おはようございます?」

「おはよう。早速で悪いがまたダーツをやるぞ」

「え?あ、はい」



 何のことだか分かっていない様子のロワはダーツを受け取ると大きく振りかぶる。それに合わせてホウリがルーレットを回す。



「ぜーんぶ、ぜーんぶ」

「いっきまーす」



 ロワの手からダーツが放たれ、ルーレットへと向かう。今度は風に吹かれることも無く、ダーツはルーレットに命中する。

 ホウリがルーレットを止めると、ダーツは41に突き刺さっていた。



「41ですか。あれ?ルーレットって41までありましたっけ?」

「お前が寝てるときにちょっとな」

「あれ?なんで僕は寝てるんでしたっけ?」

「細かい事は気にするな。そんな事よりも犯人が分かった」

「本当ですか!いったい誰が犯人なんですか!?」

「それは……」



☆   ☆   ☆   ☆



 次の日の放課後、ロワとホウリしかいない探偵部の部室に一人の女性が入ってくる。その女性はかなり小柄で童顔であり、見た目は中学生に見える。しかし、スーツを着ている所から恐らく先生であるのだと予想できる。

 一番奥の席に座っていたロワはスーツの女性が入ってくると、満面の笑みで立ち上がった。



「ラビちゃん、良く来ました!」

「ラビ先生と呼びなさい。今日はどうしたの?部活動の事で話があるって聞いたけど?」

「ラビ、とりあえずソファーに座ってくれ」

「ラビ先生です」



 文句を言いながらもラビと呼ばれた女性は素直にソファーへと腰掛ける。



「それで、今日の要件はなんですか?顧問として用があると聞きましたが?」



 ラビはこの探偵部の顧問である。しかし、そこまで頻繁に活動することも無く、たまに許可を取るだけである。それゆえ、呼び出されることは珍しいと言えるだろう。

 ラビの質問にホウリは申し訳なさそうに頭を掻く。



「悪いがそれは嘘だ」

「どういう事?」



 ホウリとロワはラビの対面に座り、1枚の写真を差し出してくる。



「これは?」

「昨日、俺とロワが撮ってきた写真だ。見てくれ」



 ラビがその写真を手に取り驚愕の表情になる。そこには電柱の陰からミエルをつけているラビの姿があった。

 ラビは震える声でホウリに聞く。



「どうしてこれを?」

「昨日、ミエルから帰り道で誰かに後を付けられていると依頼があってな。いつも通りロワの幸運で犯人を突き止めた」

「それがラビちゃんだったので、昨日のうちに証拠を押さえておいたって訳です」

「ラビ先生と言いなさい……」



 名前の指摘も先ほどよりも元気が無い。ラビが写真を見てから数分、部室内に沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのはホウリだった。



「こんな事した理由を話してもらおうか?」

「……言えません」

「何でですか?」

「ミエルのデリケートの部分だからです」

「えっちな奴ですか?」

「お前は黙ってろ」

「はい」



 ホウリはロワを睨みつけて話を続ける。



「俺たちはミエルから正式に依頼を受けている。それでも話せないのか?」

「はい」



 ホウリの説得にも応じないラビ。その眼には決して話さないという強い意志が見て取れる。

 だが、探偵部も依頼で受けている以上、そのまま引き下がる訳には行かない。



「俺たちは依頼主の不利益になる行動はしない。それでもか?」

「それでもです」



 ラビは頑として譲ろうとしない。また硬直状態になるのかと思われたその時、ホウリとロワが思わず噴き出した。



「あっははははは!」

「あっはっは、やっぱりラビは良い先生だな」

「ですね。ラビちゃんは良い先生です」

「ど、どういう事ですか?あとラビ先生と呼びなさい」



 2人は一通り笑った後、涙を拭きながら話をする。



「実はなラビの考えは大体、察してるんだよ」

「え?」

「僕の幸運でキーワードを引き出して、それを元にホウリさんが分析しました」

「キーワードはパパ、だろ?」

「!?」



 ホウリの言葉を聞いたラビの表情に動揺が走る。その表情を見たホウリは自分の考えに間違いがない事を確信する。



「別にラビが言わなくても俺たちは理由を知ってる。これはただの答え合わせだ」

「……ですが、私の口から言う訳には───」

「ラビ先生」



 ラビの言葉の途中で背後の戸が開く。入ってきたのはミエルだった。



「ミエルさん。どうしてここに?」

「調査報告を受けに来ました」

「もしかして、今の話を聞いてましたか?」

「すみません。盗み聞きするつもりはなかったんですけど、聞こえてしまって」

「……では、私がミエルさんを付けていたのも知っている訳ですね?」



 ミエルは申し訳なさそうにラビの隣に座る。



「依頼に来た時に、ロワの幸運でラビ先生が犯人だって知りました。調査報告は明日の放課後に伝えると言われたので来たんです」

「だから探偵部に来た訳ですね」

「それよりも、なんで私の後を付けていたのかを教えてくれませんか?」

「しかし……」



 まだ言いにくいのか、口をモゴモゴとさせるラビ。そんなラビをミエルはしっかりと見つめる。



「私にやましい事はありません。だから教えてください」

「……分かりました」



 ミエルの言葉にラビは大きく息を吐いて覚悟を決める。3人は聞き漏らさないように身を乗り出す。



「実は……」

「「「実は?」」」

「ミエルさんがパパ活をしていると聞いたのです」

「……はぁ?」



 想像もつかなかった理由にミエルは口を大きく開ける。

 言葉を失ったミエルの代わりにホウリが質問する。



「どうしてそう思ったんだ?」

「生徒たちがミエルさんはパパと帰っていると話していまして。心配になった私はミエルさんの後をこっそり付けていたのです」

「だとよ、ミエル」

「………………」



 まだ言葉も無いのか、ミエルはまだ口を開けたままでいる。そんなミエルに気付いているのかいないのか、ラビは話を続ける。



「今はパパ活でのトラブルも増えてきています。しかし、噂だけで指導する訳にもいかないでしょう?なので、実態を掴んでから事情を聞こうと思ったのです」

「確かに、噂だけで叱る事は出来ませんね」

「ラビはパパを見たのか?」

「はい」

「もしかしてこいつか?」



 ホウリはラビの前にもう一つの写真を置く。そこにはミエルが中年の男性と笑顔で腕を組んでいる姿が写っていた。



「そうです。私が見たのもこの人です」

「その人は私のパパ……父親です」

「え!?お父さん!?」



 ラビは写真の男性とミエルの顔を交互に見比べる。



「確かに似ているような?ですが、お父さんと帰るなんて珍しいですね?」

「転校してばかりで帰り道が不安なんだ」

「そうでしたか。勘違いしてしまい、すみませんでした」



 頭を深々と下げるラビを見て、ミエルは慌てたように手を振る。



「いやいや!元はと言えば誤解されるような事を言った私が悪いのだ!」

「こんな言葉のすれ違いなんてよくある事だ。どっちも悪くない」

「そうですよ。ラビちゃんは頑張って自分で調べようとしてくれました。不本意に噂を広めようともしなかったです。生徒自身の事を考えないと出来ないですよ」

「そうだな。私の事を思ってくれた事は分かる」

「皆さん……」



 3人の言葉でラビの目から涙があふれ出してくる。



「ううう……ラビ先生と呼びなさぁい……」

「泣くなよ。いつもみたいに元気に否定してくれ」

「そうですよ。ほら、これで涙拭いてください」



 そう言って、ロワはティッシュを箱ごと渡す。ラビはティッシュを受け取ると、涙をぬぐい始めた。



「こういう時って、渡すのはハンカチじゃないか?」

「え?そうなんですか?」

「懐からハンカチを取り出して、颯爽と差し出す。カッコいいだろ?」

「確かに!」



 ロワはポケットから手帳を取り出すと、熱心にメモを取る。



「ロワは何をしているんだ?」

「カッコいい探偵になるための勉強だとよ。そこを勉強する暇があるんなら、テストに出る項目を勉強してほしいんだがな」



 ホウリが呆れたように言い、ミエルに向き直る。



「これで依頼完了で良いか?」

「ああ、助かったよ」

「それは良かった。で、依頼料って訳じゃないんだが、ひとつ頼みがあってな」

「頼み?」



 ホウリはミエルへ一枚の紙を渡す。そこには「探偵部入部届」と書かれていた。



「なんだこれは?」

「文字通りだ。探偵部に入って欲しい」

「……は?」



 ラビのカミングアウトの時と同じくらい、ミエルの口が大きく開く。そんなミエルを無視しホウリは話を続ける。



「この部には部員が3人いる。だが、部としては4人の部員が必要なんだ」

「…………お前ら以外にもう1人部員がいるのか?」



 ショックから立ち直ったミエルは何とか言葉を紡ぐ。その質問に答えたのはロワだった。



「フランさんっていう部員がいますよ。訳あって今はいませんけどね」

「なぜ私を誘ったんだ?他になりたい奴はいないのか?」

「いる。だが、ほとんどはロワ目当ての奴ばっかりでな。そういう奴を入れていると依頼を受けるときに支障でるから断ってるんだ」

「それで、3人で決めたんです。能力が秀でた人を勧誘しようって」

「それが私って事か」



 期待の目でホウリとロワはミエルを見つめる。しかし、当のミエルはあまりピンと来ていないみたいだ。



「私の秀でた才能?なんだそれは?」

「完全記憶能力だよ。探偵部どころか、この学校でも唯一無二の能力だ」

「ぜひ、我が部に欲しいです!」

「……私なんかでいいのか?」

「勿論だ。嫌なら断って良いぞ」

「断った場合はどうなる?」

「この部がなくなるだけだ」

「………………」



 ミエルは無言で入部届を見つめる。そして、意を決したのかペンを手に取ると入部届に名前を書きだした。

 名前を書いた事を確認したラビは何とか涙を止めて入部届を受け取る。



「確かに受け取りました」

「わーい!これからよろしくお願いします!」

「よろしくな」

「よろしく」



 それぞれで手を取り合い、固く握手を交わす。こうして、落区高校探偵部に新たなメンバーが加わったのだった。




「ところで、ひとつ聞いていいか?」

「なんだ?」

「廃部になるまでの期日はいつだったのだ?」

「今日ですね!」

「……へ?廃部の前日まで、なんの対策もせずに依頼を受けてたのか?」

「そうですよ?」

「不安じゃなかったのか?」

「ロワの幸運さえあれば楽勝だろ?」

「………………」



 ホウリの言葉にミエルが言葉を失う。ミエルは探偵部に入部したことを少し後悔したという。







第二話 戦闘担当とマスコット担当



 ミエルが入部してから何日か経ったある日。ミエルはソファーでくつろぎながらお茶を飲んでいる。

 ホウリはノートに何かを書いており、ロワは奥の机でパイプをくわえている。

 誰も話すことなく数十分が経過した所で、ミエルがいきなり立ち上がった。



「暇だ!」

「いきなりどうした?」

「いきなりではない!私が入部して依頼がまったく来ないではないか!」

「そうですよね!」



 ロワも勢いよく立ち上がって、ミエルに同意する。



「せっかく部を立ち上げても、あまり依頼がこないんですよ!これじゃ暇すぎて死にそうです!」

「やはりそうだよな!我々に仕事をー!」

「仕事をー!」

「待遇の改善をー!」

「改善をー!」

「給料上げろー!」

「上げろー!」

「給料なんて渡してないだろうが」



 ホウリはノートを閉じると、いつものように呆れたような表情になる。



「あのな、俺たちが受けるような依頼は盗みの犯人探しやストーカーの特定、すぐに解決しないといけないような事件だけだ。そんなのがポンポン来てたまるか」

「だが、ここまで来ないと暇すぎるぞ。茶を啜るだけで一日が終ってしまうのはうんざりだ」

「だからって俺たちで事件を起こす訳にはいかないだろ?諦めろ」

「ぶーぶー」



 抗議を受け、ホウリはやれやれと言った様子で頭を振る。



「そんなに暇ならロワが過去の事件でも語ればいいだろう?ミエルも興味あるはずだろ?」

「なるほど、それは面白そうだな」

「僕の武勇伝を語る時が来ましたね!」



 ロワがミエルの隣に笑顔で座る。隣のミエルはというと、ロワが急に座って驚いたのと、ロワの顔が眼前に来たせいで顔を赤くしていた。



「い、いきなり隣に座らないでくれ!」

「あ、ごめんなさい」



 失敗しちゃったと言いたいのか、ロワが舌を少しだけ出す。イケメンのお茶目な表情、レアな表情をみたミエルの顔は更に赤く染まっていく。



「あれ?まだ怒ってます?」

「いや……その……」



 ロワが更にミエルに顔を近づけ、ミエルが顔を逸らす。



「飽きない奴らだな」



 その光景を見ながら、ホウリは再びノートを開ける。瞬間、部室の扉が轟音を立てて勢いよく開いた。

 3人が扉の方へと視線を向けると、赤髪でツインテールの女の子が立っていた。制服をきていることから学生である。背はミエルの肩くらいまでしか無く、一見しただけでは中学生に見える。

 勝気な表情の彼女は躊躇いなく部室に入ってくる。そして、テーブルを叩くと一言だけ発した。



「依頼じゃ」



 ミエルは呆気に取られていたが、少女の「依頼」という単語を聞き笑顔をみせた。



「ロワ!ホウリ!久しぶりの依頼だぞ!」



 満面の笑みでロワとホウリに喋りかけるミエル。しかし、ロワとホウリの表情は対照的に暗くなっている。



「どうした?待ちに待った依頼だぞ?」

「いや、こいつの依頼は受けない」

「は?なぜだ?」

「何度も同じ依頼を受けているからですよ。聞かなくても分かります」

「そんな事無いぞ!今回は部で扱うほどの事件じゃ!」

「はい、かいさーん」



 ロワとホウリが興味無さそうに定位置に戻る。ミエルは訳が分からずにオロオロと机の傍にいる。

 そんなミエルに少女は訝し気に視線を向ける。



「ん?なんじゃお主?依頼人か?」

「私は数日前に入部したミエル。2年3組に所属している」

「おお、お主が新入部員か。ホウリから聞いておるぞ」

「む?まさか……」



 気付いたミエルに少女はニヤリと口角を答える。



「わしはフラン。戦闘担当で探偵じゃ。よろしくのう」

「よろしく」



 ミエルとフランは固く握手を交わす。すると、ミエルは何かが引っかかったのか首を傾げた。



「待ってくれ、戦闘担当とはなんだ?」

「呼んで字のごとくじゃよ。わしは捜査などが苦手な代わりに敵の殲滅を得意としておる」

「軍隊くらいなら殲滅可能だ。危険な潜入とかに重宝する力だ」

「いやいや、たとえ重火器があったとしても女子高生一人で軍隊を殲滅できるわけないだろう?そんなウソには騙されないぞ?」

「重火器?そんなもの必要ない。拳ひとつあれば十分じゃ」

「益々信じられんな」

「ほう?そうなのか?」



 自信満々にコインを取り出す。そして、そのコインをミエルに手渡した。

 ミエルは不思議そうにコインを受け取る。そのコインは一部だけが何かに押しつぶされていた。

 ミエルはフランが潰したのだと理解すると、その顔が驚愕のものに変わる。



「素手でこれを?」

「ああ。全力ではないがのう」

「…………軍隊云々はともかく、戦闘力は高いみたいだな。なぜ今まで部にいなかったんだ?」

「依頼が無い時は運動部の助っ人にいっておるんじゃよ」

「この剛力があれば色々と出来そうか」

「自己紹介も終わったのう。では、わしの依頼を聞いてもらおうか?」



 フランが話を戻してソファーに座る。だが、ロワとホウリは興味無さそうに自身の席に戻る。

 ミエルだけはまだ疑問があるのかフランの前に座る。



「部員が依頼を出すというのか?」

「別に禁止してはおらぬ。ミエルも困ったことがあれば依頼していいぞ」

「そうなのか。で、どういう依頼なんだ?」

「お主は聞いてくれるんじゃな!」



 感動したフランがミエルの手を握り、勢いよく上下に振る。ミエルは苦笑いしながらされるがままになっている。

 何度か振った後、満足したフランはソファーに座りなおす。



「して、わしの依頼じゃったな。依頼はわしの妹についてじゃ」

「妹がいるのか」

「それはそれは可愛い妹がおる」



 フランは懐から写真を取り出す。そこには銀色の長い髪をした女の子が写っていた。



「この子の名前はノエル。可愛いじゃろ?」

「確かに可愛らしい子だな」

「じゃろ?お主は見る目があるのう」

「それで、この子が依頼と関係あるのか?」



 ミエルが写真を手に聞くと、それまで上機嫌だったフランが急に静かになる。



「どうした?もしかして、大変な事が起こっていたりするのか?」

「……その通りじゃ」



 フランが手を組み真剣な表情になる。ただ事ではない気配を感じ、ミエルが背筋を伸ばす。



「実はな……」

「実は?」

「…………ノエルの帰りが30分遅くなったんじゃ」

「へ?」

「ノエルの帰りが30分遅くなったんじゃ」

「聞こえていない訳では無い。斜め下の理由で驚いただけだ」



 ミエルは纏まっていない頭で手帳を取り出し、フランに質問を投げかける。



「帰りが遅くなっているだけで、帰ってきてはいるんだな?」

「そうじゃな」

「遅れるのは30分だけか?」

「毎回キッチリ30分という事ではない。毎日、大体30分くらいは遅れて来る」

「帰ってきたノエルに何か変わったことは?」

「無いのう。傷ひとつない」



 そこまで聞いたミエルは手帳をパタンと閉じる。



「……友達と遊んでいるだけではないのか?」

「お主まで2人と同じことを言うのか!」



 フランが興奮して勢いよく立ち上がる。ミエルはペンで頭の後ろを書きながら困ったような表情になる。



「そうは言ってもな。聞いた限りだと、私たちが捜査する必要性を感じないぞ?」

「俺たちがフランの依頼を蔑ろにしている理由が分かったか?」



 誰もいない筈のミエルの背後からいきなり声がした。

 振り向くと、ホウリがいつの間にかミエルの後ろに立っていた。



「フランの依頼はほとんどがノエル関連だ。しかも、調査するまでもないのばかりだ」

「それが1週間に1度の頻度で来るんですよ?真面目に聞く気が無くなりますよ」

「それに、フランの説明には1つ間違いがある」

「間違い?」



 ホウリはもう一枚の写真を取り出す。そこには笑顔のノエルがホウリに抱き着いている姿があった。



「ノエルは俺の妹でフランとは赤の他人だ」

「お主とは赤ん坊の頃からの仲じゃ。お主の妹という事なら、わしの妹という事にならんか?」

「妹分なら分かるけどな。それでも、関係性は正確に伝えろ」

「わざと誤解するように言ったんじゃよ」

「なお悪い」



 フランは少しも悪びれずに言う。ホウリも慣れたものなのか、あまり反応していない。

 この部の仲は全体的に良いが、幼馴染の2人は特に仲が良い。こういう軽口を言い合えるのも、信頼関係があるからだろう。



「ん?待てよ?なんで実の妹でもないのにフランが家で待っているんだ?」

「わしとホウリは家が隣でのう。よくお互いの家に行くんじゃ」

「飯も俺の家で食うよな」

「3人とも仲良しですからね」

「今時珍しいな」

「じゃろ?まあ、それはともかく……」



 ミエルからも見放されたフランはホウリの腕にしがみつく。



「頼むホウリ!万が一のことがあれば、わしは生きておれん!」

「大人数人を相手に無傷の小学生に万が一なんてあるのか?」



 ノエルはフランに格闘技を教わっており、普通の大人であれば数人までは殴り倒せる。だが、心優しく暴力を良しとしない子であるため、普段は力を振るおうとしない。

 勿論、フランもそれが分かっており首を横に振って否定する。



「そんなの心配しておらん!」

「じゃあ何が心配なんだよ」

「仮にノエルが公園で遊ぶとするじゃろ?」

「ああ」

「それが芸能スカウトの目にでも入ってみろ。芸能界にスカウトされたノエルは断り切れず、みるみる内に人気が出ていずれは世界中に知られるまでになり、ついには美人な姉と共にアイドルデビュー。忙しい日々の中でノエルの心は荒んでいき、グレて姉の元から去り、数年後に感動的な出会いを───」

「ポジティブにネガティブなのやめろ」



 ホウリがフランを乱暴に引きはがす。すると、フランはわざとらしく倒れた。



「うわー、ホウリにいじめられるー」

「わざとらしいな。騙そうという気概すら感じられない」

「もっとマシな演技は出来ないんですか?」

「子供でも騙されんぞ?」

「お主ら辛辣すぎんか?」



 皆にボロクソに言われたフランが思わず素に戻る。フランはスカートの埃を払いつつ立ち上がる。



「お主らな、人の心は無いのか?」

「面倒事を避けられるなら捨てますね」

「俺なんて燃えるゴミの日には忘れずに捨ててるぞ?」

「というか、フランも探偵なんだろう?自分で調べた方が早いんじゃないか?苦手と言っても心得くらいはあるだろう?」



 ミエルの言葉にフランが苦い顔をして口を結ぶ。

 言葉に詰まっているフランに変わってホウリが説明を始める。



「フランはな、捜査が死ぬほど苦手なんだ」

「苦手と言っても素人よりはマシなのではないか?」

「素人の方がマシですよ。なにせ、尾行するだけで街が壊滅寸前になるんですから」

「かいめつ?」



 言葉の意味が理解できないのか、ミエルが言葉をそのまま繰り返す。その様子はまるで初めて聞いた単語を真似する赤ん坊のようだった。



「かいめつってどういういみだ?」

「漢字の概念を忘れたのか?」

「What does "kaimetsu" mean?」

「漢字分からないままですけど、逆に頭が良くなってません?」

「あびゃばばびゅあ~」

「遂に壊れたか?」

「宇宙語かもしれませんよ?」

「漫才している場合か!目を覚ませ!」

「うぐっ!」



 ミエルがフランにはたかれて、潰れたカエルのような声をあげる。



「痛たたた……。あれ?私はいったい?」

「フランについての説明の途中だ。というか、なんでフランの一撃を受けても平気そうなんだ?」



 フランの攻撃を受けたミエルだったが、頬には腫れすら無い。



「フラン、手加減したのか?」

「手加減はしたが、普通は気絶するレベルじゃぞ?」

「ミエルさん、固すぎません?」

「なぜだか、昔から打たれ強くてな。今まで怪我はしたことはない」

「心強いな。で、フランの捜査の話だったな」



 ホウリが反れかけていた話を元に戻す。



「そういえば、そういう話だったな。何をどうすれば街が壊滅するんだ?」

「今の攻撃で分かっただろ?こいつは力加減がとてつもなく苦手なんだよ。壁とか道路とかの破壊で済めば軽傷ってレベルだ」

「僕の幸運でも完全に抑えられませんからね」

「う、うるさい!武力が必要な時な何度も助けてやったじゃろ!」

「必要な時はかなり助かっている。が、それ以外の時は死ぬほど迷惑しているのを忘れるなよ?」

「む、むう……」



 痛い所を突かれてしまったのか、フランはそれ以上なにも言う事はなかった。



「そんな訳で、フランには調査は不向きだ」

「ならば、ノエルに直接聞いたらどうだ?」

「聞いたが、教えてくれなかったんじゃよ。だから、依頼に来たんじゃ」

「本人が教えてくれないのであれば、そっとしておいた方が良いのでは?」

「ロワの言う通りだ。諦めろ」

「いーや、今回ばかりは諦めんぞ。協力してもらうまで騒ぎまくってやる」

「子供か」



 ホウリはしょうが無いなとため息を吐くと、ロワにコインを投げた。

 不意に飛んできたコインをロワは難なく受け止める。

 ロワは手を握ると親指にコインを乗せる。



「僕の幸運で『はい』か『いいえ』で答えられる質問の答えを出します。表ではい、裏でいいえです」

「俺やミエルが適切な質問をして結果を見る。それでいいか?」

「何故わしに質問させん?」

「関係無い質問をさせないためだ。依頼したなら黙って見てろ」

「答えが出るならそれで良い」



 フランが頷いたのを見て、ホウリとミエルが質問を開始する。



「まずは小手調べだ。実在する人物ですか?」

「アキネー○ーか!ノエルが実在しない訳ないじゃろ!」

「はい、実在するみたいですね」

「ロワも答えんで良い!」

「次は私だな。調理の工程は関係あるか?」

「ウミガメのスープ!水平思考は関係無いじゃろうが!」

「はい!重要です!良い質問ですね!」

「なんで!?ノエルはウミガメのスープを作っておるのか!?」

「赤い部屋は好きですか?」

「いいえ、僕は嫌いです」

「最早ロワの感想ではないか!せめてコインを投げよ!」

「今日のご飯何が良い?」

「ポテトサラダを所望します!」

「普通に飯の会話をするな!『はい』か『いいえ』のルールはどこ行った!」



 フランの叫びが校舎中に木霊する。

 その後も依頼に関係の無い質問は下校時刻まで続いたのだった。



☆   ☆   ☆   ☆



 夕日に照らされた帰り道を4人は歩いていた。



「はぁ、結局ノエルの事は分からんかったな」

「落ち込むなよ。どうせ大したこと無いって」

「そうですよ。元気出してください」

「明日は明日の風が吹くさ」

「お主らがふざけた性じゃろうが」

「ははは」

「笑って済むかい」



 フランは夕日の光を眩しそうに手で遮る。



「まったく、いつもよりも帰るのが遅くなってしまったわい」

「いつもは助っ人が終ったら即座に帰ってるからな。夕日を見るのは久しぶりじゃないか?」

「そうじゃな。前に夕日を見たのはいつじゃったかな?」

「僕覚えてますよ。5カ月くらい前にノエルちゃんと一緒に4人で帰った時以来です」

「そうじゃったか」

「そうだったな。丁度、あんな風に帰り道でノエルを見つけて……」



 ホウリが道の向こうを指さす。そこには銀色の長い髪で真っ赤なランドセルを背負っている女の子がいた。



「あれ?ノエルちゃんじゃないですか?」

「本当じゃ。ノエル~!」



 フランが両手を振ってノエルの名前を叫ぶ。ノエルは4人に気が付くと笑顔で突進してきた。そう、駆けて来たではなく、突進してきた、である。

 ノエルは子供とは思えない速度で突っ込んでくる。このまま受け止めれば、骨が折れる所ではないだろう。



「な、なんだあの子は?」

「ノエルは強いって言ったろ?本気で向かってこられたら牛すら気絶させるぞ」

「それは不味いんじゃないか?」

「だな。フラン」

「任せよ。妹を受け止めるのは姉の役目じゃ」



 フランが両手を大きく広げノエルを迎える。ノエルがフランの胸に飛びこみ銃弾が壁にめり込んだ時のような轟音がなりびく。

 フランの体が衝撃を受けて数m引きずられ、靴から煙と焦げ臭い匂いが漂う。



「フランお姉ちゃん!」

「ノエル!今帰りか?」

「うん!」

「おお、よしよし」

「えへへ」



 ノエルの頭をフランが優しくなでる。直前の光景に目を瞑れば仲が良い姉妹にしか見えない。



「こんにちは、ノエルちゃん」

「あ、ロワお兄ちゃんだ。こんにちは!あれ?そっちの綺麗なお姉ちゃんは誰?」



 ノエルがミエルを見て首をかしげる。

 ミエルはしゃがんでノエルに視線を合わせて微笑む。



「私はミエル。最近探偵部に入部したんだ」

「そうなんだ。よろしくね!」

「よろしく、ノエル」

「あ、そうだ」



 ノエルがランドセルを開けて中をまさぐる。



「あった」



 ノエルは個包装されたクッキーを取り出す。焦げていたり形が変であったりはなく、とても上手に焼けている。

 ノエルは4つの包みを両手で持ち4人に差し出す。



「はい、どーぞ!」

「もしかして、最近遅かったのって」

「うん、コアコちゃんに作り方を教えて貰ってたんだ。上手にできなくて、出来たのは今日になっちゃったけど」

「なんで4つあるんだ?」

「1つはノエルの。でも、ノルは味見でいっぱい食べたからミエルお姉ちゃんにあげる!」

「そうか、ならば遠慮なく貰おうか」



 ミエルがノエルの手から包みを1つ取る。フランとホウリ、ロワも1つずつ手に取ってクッキーを口に入れる。



「美味いな」

「絶品じゃ!」

「頑張ったね、ノエルちゃん」

「良い腕だ」

「わーい!皆に喜んでもらえたー!」



 皆でクッキーを摘まみながら道を歩く。

 ホウリは空になった包みをポケットにしまう。そして、何かを思いついたのか、大きく手を叩いた。



「そうだ、今日は俺が夕飯当番なんだが、ミエルとロワも食っていくか?」

「いいんですか?」

「勿論だ」

「そういう事ならご相伴にあずかろうか」

「今日の夕飯はなんじゃ?」

「肉じゃがとポテトサラダにするか」

「「わーい!」」



 5人は夕焼けに染まった道を歩いていく。今後も彼らの周りで様々な事件が起こるだろう。しかし、彼らなら、どんな事件でも解決に導いていくだろう。

 落区高校探偵部。この物語は彼らの青春の物語である。

ちなみに、今回の話も1巻分書けそうと思ったので、魔法少女がダメだったら今回のも書きます。ではでは、また来年お会いしましょう。

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