第百二十五話 お前は何を言っているんだ
今回は神との会話です。神のやらかしが露呈します。
ホウリとリンタロウと共に2階にあるホウリの部屋に上がる。なぜ、わしら3人のみかというと、どうせ魂関連の話になるから、関係者以外には聞かせない方が良いというホウリの判断じゃ。ノエルは不満げじゃったが、こればっかりは仕方ないじゃろう。
ホウリの部屋はベッドとタンスしか家具が無いシンプルな部屋じゃ。ただし、普通の部屋とは違って、いつでもみっちゃんと通信出来るように床に魔方陣が書かれておる。
「ほう、ここが鳳梨殿の部屋でござるか」
「流れるようにベッドの下を探るのは止めろ」
「ぐえっ!」
這いつくばってベッドの下に手を伸ばしているリンタロウを軽く踏むホウリ。こいつは本当に……。
「さっさと立て。始めるぞ」
「その前に足を除けて欲しいでござる」
ホウリは足を除けてリンタロウを立たせる。こやつらは普段からこんなやり取りをしてるのか。仲が良いのう。
「フラン、頼む」
「了解じゃ」
わしは魔方陣に手を触れてMPを注ぎ込む。すると、魔方陣が輝きだして、いつも通りコール音が鳴り響いた。
(ザザザッ───ザザッ──ザッ─プルルルルルルル、プルルルルルルル、プルルルルルル)
「電話!?これ電話なのでござるか!?」
「そのリアクション、俺と全く同じだな」
「ホウリも同じことを思っておったのか」
やはり、皆始めは同じことを思うんじゃな。
いつもよりも長いコール音の後で、ガチャリという音と共にみっちゃんが出てきた。
『もしもし、今忙しいから後にしてくれないか───』
「おお!神でござるか!」
『……もしかして、リンリン?』
「そうでござるよ!通信もつながらなくて心細かったでござる!」
リンタロウの声を聴いたみっちゃんは困ったように話し出した。
『あ、えーっと……無事で良かったよリンリン』
「なんだか嬉しそうじゃないな?」
『そんなこと無いよ?』
何やらみっちゃんの様子がおかしい。楽しそうに話すのじゃが、今は話し難そうにしておる。
ホウリも気付いておるじゃろうが、あえて触れずに話を始めた。なんだか怒っておる気がするが気のせいじゃろうか?
「何を聞きたいか分かるな?」
『リンリンの事?』
「そうだ。こいつをこの世界に送った理由を教えろ」
『えっと……ホウリ君には関係ないよ?』
「みっちゃんや、それは流石に通らぬであろう?」
「フランの言う通りだ。クラスメイトを異世界に飛ばしておいて関係ないで済むと思うなよ?」
『ははは、これは手厳しいね……』
みっちゃんの口調はいつもの軽口のようで変に余裕がない。鈍いわしでも何か大変なことが起こっている事が分かる。
ホウリの追及にみっちゃんが言いにくそうに話す。
『いやー、実は他の異世界で大変な事が起こっててね。リンリンの力を借りたいんだ』
「こいつの力なんて借りて何をするつもりだ?猫の手でも借りた方がマシだろ?」
「鳳梨殿?拙者と猫を比べるのはいかがな物かと思うでござるよ?」
「世界を滅ぼさないだけ、猫の方がマシだろ?」
「しかも可愛い。貴様よりは価値があると思うぞ?」
「ほとんど初対面のフラン殿も辛辣でござるな!?」
「そんな事ないぞ。民意を代弁しているだけじゃ」
「拙者が猫以下なのは国民の総意なのでござるか!?」
「お前の力を知ったら誰でもそう思うだろ。で、そんな危険な力をどう使うつもりだ?」
脱線した話をホウリが元に戻す。みっちゃんは少し黙っていたが、ぽつりぽつりと話し始めた。
『ホウリ君も知ってると思うけど、世界には滅びかけている物もある』
「そうだな。人的、外的にかかわらず滅びかけている世界はある」
『リンリンにはそういう世界を救ってほしいんだよね』
「何で倫太郎なんだ?下手したら世界が終わるぞ?」
『だってリンリンしかいないんだもん』
「倫太郎しかいない?俺が言うのも何だが、他にも異能使いはいただろ?」
確かに、ホウリからは他のクラスメイトの話は色々と聞いておる。リンタロウ以外に適任がいそうなものじゃがな。
「倫太郎は何か聞いてたか?」
「何も聞いていないでござる。ただ世界を救ってほしいとしか聞いてないでござる。そうすればモテまくりになると神様からは聞いてるでござる」
「幸運の壷並みに信用できないな」
「幸運の壷、拙者は結構買ってるでござるよ?」
「……元の世界に帰ったら一斉摘発してやる」
「そんな事より、今は詳しい話が先じゃろ。みっちゃん、話の続きを頼めるか?」
『えー、もっと雑談しようよ。次のお題は告白された人数についてはどう?』
「拙者だけが怪我をする未来しか見えないのでござるが?」
無限に続いていきそうな会話を無理やり区切って、みっちゃんに話を振る。しかし、みっちゃんは中々先を話そうとはせん。まるで、点数の悪いテストを隠す子供みたいじゃ。
ホウリもそれに気が付いたのか、さっきまでのおちゃらけた雰囲気は消え、真剣な表情に変わる。
「で、ここまで話してお前が何かを隠しているのが分かった訳だが」
『えー?何も隠してないよ?』
「俺に隠し事が通じると思うなよ?」
ホウリが半分怒りながら話す。じゃが、それでもみっちゃんは核心部分を話そうとはせん。どれほど話したくないんじゃ。
「みっちゃんや、下手に隠しごとをすると後で怖いぞ?」
「そうでござるよ。鳳梨殿に隠し事は自殺行為でござるよ?」
「そういう事だ。さっさと吐いて楽になっちまえよ」
『……何の事かな?』
皆で説得するもみっちゃんは教えようとはせぬ。どれだけ頑固なんじゃ。
みっちゃんの言葉を聞いたホウリは溜息を吐く。ホウリもみっちゃんに呆れておるのじゃろう。
「はぁ、そこまで言いたくないのかよ」
『言いたくないっていうか、そんな事実はない訳だし』
「……扉は開いていないのか?」
「!?、どこでそれを!?」
ホウリの一言でみっちゃんの態度が急に変わる。まるで、必死に隠していた秘密が知られていて動揺しているみたいじゃ。
それにしても、扉とはいったいなんじゃ?みっちゃんにとって大切なものみたいじゃが。
わしが心の中で首を捻っているとホウリがニヤリと笑いながら話す。
「親父からの手紙におまけの情報で書かれていた。書かれている情報は『天界の扉が開いている』だけだったが、今の状況と合わせて考えれば今起こってい事が分かりそうじゃないか?それで……」
ホウリはそこまで言うと優しい笑顔で優しい声になる。
「俺に暴かれるのと、自分から話すのどっちがいい?」
『………………』
ホウリの言葉にみっちゃんが無言になる。もう無理じゃと思って覚悟を決めておるんじゃろう。
『はぁ、そこまで知られているんだったら言うしかないね』
「早くしろ。ここまでにどんだけの時間がかかっていると思っているんだ」
「それで神様の隠し事とは何でござるか?」
リンタロウの言葉にみっちゃんが答える。
『実はね、異世界転移してるのってホウリ君とリンリン以外にもいるんだよね』
「そうなのでござるか!?」
「そこまでは知ってた。問題は誰が転移してるのかだ」
『えーっとね……君たちのクラスメイトの子達が数人ほどね』
「やっぱりか!」
力いっぱい叫んだホウリが頭を抱える。リンタロウも驚いたように目を見開く。
「クラスメイトが異世界転移でござるか!?戦えない者もいるのでござるよ!?」
『一応、異能を持っているか戦う手段がある子しか転移してないよ。全部の世界が戦闘技能が必須って訳でもないし安心していいよ』
「安心できる訳ねぇだろうが!一定期間いるだけで消滅する世界もあるだろうが!楽観的すぎるんだよ!」
「へ?拙者聞いてないでござるよ?」
初めて聞いたのかリンタロウが目を丸くする。そして、意味を理解したのか、細かく震えだした。
「そ、そんなに危険な世界があるのでござるか……?」
「正しくは魂が合わない世界があるだな。そういう世界に行くと一定期間で魂が溶けて死ぬんだよ。まさか、何の対策もせずにそんな世界に行ってるとは思えないけどな?」
『………………』
「マジかよ……」
みっちゃんが何も言わない事で察したホウリが頭を押さえてふさぎ込む。自分の知り合いがピンチになっておるのだ。頭痛が起きるのも無理はないじゃろう。
「……で、倫太郎はそいつらを助けるために異世界を旅している訳か」
『そう言う事』
「異世界に行った奴らは誰だ?」
『異能を使える子は全員。例外的にともやんも異世界に行ってるね』
「結構多いな……」
ホウリはみっちゃんの言葉を聞いて考え込む。多分、クラスメイトの事が心配なんじゃろう。
「そういえば、扉うんぬんとは何だったのじゃ?」
「異世界を行くためには、親父みたいな例外を除いて、天界にある扉を開けないといけない。じゃないとちょっとした拍子に異世界に飛んじまうからな」
「む?しかし、異世界転移はかなりの数が発生しているのでござろう?まさか?」
「この神が俺を転移させた後に扉を閉め忘れたんだろうよ」
「みっちゃんや、それはどうなんじゃ?」
『……やっちゃった物はしかたないよね。今までの事よりもこれからの事だよ』
「そのセリフはお前が言うセリフじゃない」
ホウリが青筋を浮かべながら怒りを抑える。これは怒っても仕方がないのう。
ホウリは深呼吸して心を落ち着ける。怒りを鎮めたホウリはいつもの口調で話し始める。
「……神、一つ提案がある」
『何?』
「俺を天界に上げてくれ」
「へ?」
ホウリの言葉を聞いたみっちゃんが間抜けた声を出す。というか、わしもホウリが何を言っているのかわからぬ。
「すまぬ、鳳梨殿が何を言っているのか分からぬでござる。説明してくれぬでござるか?」
「俺が天界に行って飛ばされた奴らのサポートをする」
「具体的には何をするのでござるか?」
「状況を聞いてどうするかを指示する。そうすれば、生存率を大幅に上げる事が出来るだろ?」
『いやー、いくらホウリ君でも流石にそれは……』
「テメェだけで解決できるんならそれで良い。が、テメェは胸を張って出来るって言えるか?」
『それは……』
「テメェのミスの尻拭いをしてやるって言ってんだ。断るなら責任もって全員生きて帰せよ?出来なかった場合は分かってんだろうな?」
『……分かったよ』
ホウリの圧力に負けたみっちゃんが折れる。それにしても、人間が天界に行くなど前代未聞じゃなかろうか?
『いつ来るの?』
「今すぐに決まってるだろ。一刻を争う事態だぞ?」
『分かったよ。じゃあ、ホウリ君以外は魔方陣から出てね』
「待って欲しいでござる!拙者はどうすればいいのでござるか!」
みっちゃんの言葉にリンタロウが叫ぶ。そういえば、リンタロウをどうするかが通信の目的じゃったのう。すっかり忘れておったわい。
『リンリンはホウリ君が戻って来てから別の世界に転送するね』
「それは何日後でござるか?」
『1週間くらいでは戻ってこれるよ。それまではこの世界を観光でもしてて待っててくれない?』
「……わかったでござる」
みっちゃんの言葉を聞いたリンタロウは素直に魔方陣から出る。素直過ぎる気がするが、気のせいかのう?
わしも魔方陣から出ると、魔方陣が今まで以上に強く輝きだした。
「ちょっと行ってくるわ。留守は頼んだぜ」
「任せておけ。わしとミエルがおれば何とかなるじゃろう」
「倫太郎も迷惑かけるなよ?力は必要以上に使うなよ?」
「分かってるでござるよ」
「言ったな?帰ってきたらフランに確認するからな?」
「わ、分かってるでござるよ」
ホウリの念押しにリンタロウが顔を引きつらせる。ホウリの怖さが身に染みておるんじゃろう。その気持ちは痛い程に分かる。
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃいじゃ」
「お土産持ってきてもいいでござるよ?」
「旅行かよ」
そう言ってホウリは強烈な光に包まれて消えた。
思わず目を覆ってしまう程に強い光が収まり、部屋が元に戻る。部屋にはわしとリンタロウの2人が残された。
「して、これからどうする?」
「勿論決まっているでござる」
リンタロウは白い歯を見せてニカッと笑う。
「街に繰り出して、可愛い女の子に声をかけるでござる!」
「お主はそればっかりじゃな」
「あ、フラン殿でも良いでござるよ?」
「寝言は寝て言え!」
「ぐほっ!」
戯言をぬかしたリンタロウの腹を強めに殴る。
本当にリンタロウとやっていけるのか不安になったのじゃった。
という訳で、ホウリが一時離脱します。代わりに倫太郎がいますが、どうなるんでしょうね?
次回はクリスマスに更新予定です。リンタロウが去った後の話になります。
ビヨンドジェネレーション見てきました。センチュリーカッコよかったです。




