第百二十一話 作戦ターイム!
認める!
次の日、ノエルが目を覚ますと知らない天井が目に映った。
「ふわああ……」
欠伸をしながらベッドから起き上がる。すると、隣のベッドから大きないびきが聞こえてきた。
隣のベッドには気持ちよさそうに寝ているリンタロウお兄ちゃんがいる。
「可哀そうだけど、時間も無いし起こしちゃおう」
掛け布団を剥がして、リンタロウお兄ちゃんの体を揺すってみる。
「朝だよー起きてー」
「えへへ……こんなに多くの女性とお茶が出来るなんて幸せでござる……」
結構、強めに揺すってみたけど全然起きない。
「リンタロウお兄ちゃーん!起きてー!」
「うーん?」
ノエルが大声を出しながら強く揺すると、リンタロウお兄ちゃんが薄く目を開けた。
「あれ?ノエル殿?」
「朝だよ、起きて」
「もう朝でござるか」
リンタロウお兄ちゃんは大きく伸びをすると、ベッドから起き上がった。
「おはよう、ノエル殿」
「おはよう、リンタロウお兄ちゃん」
ノエルは干し肉や乾パンといった携帯食料を取り出して朝ご飯にする。
簡単な朝食を済ませたノエルはテーブルにこの辺の地図を広げる。
広げられた地図をリンタロウお兄ちゃんは不思議そうに眺める。
「何が始まるでござるか?」
「今から作戦会議をします」
「そう言えば、ノエル殿はおつかいの途中であったな。何を買ってくるのでござるか?」
「買って来るというよりも狩って来るの方があってるかも」
ノエルは地図に載っている宿を指さす。
「ここがノエル達がいる宿。で、目的地はここ」
宿から300mくらいの所にある施設を指さす。
「ここが目的地」
「何を買うのでござるか?」
「えーっとね、奴隷の子達」
「へ?」
「ここに奴隷になっちゃった子達を開放するのが今回のおつかい」
「この世界の子はそんな過酷なおつかいをするのでござるか?」
「お兄ちゃんはそう言ってたよ?」
「中々にディストピアでござるな」
納得したように頷くリンタロウお兄ちゃん。
「で、どうやって開放するのでござるか?正面から殴り込むでござるか?」
「それだと奴隷の子達を人質にされちゃう可能性があるの」
「なるほど、気付かれないように救い出す必要があるのでござるか」
リンタロウお兄ちゃんの言う通り、今回のおつかいは見つからない事が重要だ。
ホウリお兄ちゃんから、可能な限り無傷で救い出すように言われているし、何よりノエルが皆を救い出したい。大変かもしれないけど頑張ろう。
「これからどうするでござるか?」
「お兄ちゃんから内部の地図とか、見張りの時間とかは貰ってるから、作戦立てて買い出しかな?」
「まずは作戦会議でござるな。資料とやらを見せてくれぬか?」
「はいどうぞ」
ホウリお兄ちゃんから渡された資料をリンタロウお兄ちゃんに渡す。
リンタロウお兄ちゃんは資料をパラパラとめくると、すぐにノエルに返してきた。
「……文字が多すぎて頭が痛くなってきたでござる」
「フランお姉ちゃんみたいな事言ってるー」
ノエルは資料を受け取って、家で何回も見た資料をもう一回読む。
「この施設の名前はインセクト、おもちゃとか売っているお店だよ」
「表の顔と言う奴でござるな。拙者も話だけは聞いたことがあるでござる」
「そうそれ。夜は『ひごーほー』で奴隷を売っているお店になるんだって」
「この世界では奴隷の売買は非合法なのでござるか?」
「ダメだってお兄ちゃんは言ってた」
どんなことがあっても人をお金で買っちゃうのはいけない事だと思う。絶対に助けないと。
「内部はどうなっているでござるか?」
「おもちゃの倉庫の奥に、別の扉があるんだって。そこに奴隷の皆が入ってる檻があるんだって」
「目的は全員を助け出すことでござるか?」
「助け出した上で、憲兵さんに逮捕してもらう事が目的だよ」
「憲兵?警察のような物でござるか?」
「そうだよ」
ホウリお兄ちゃんが言ってた警察かな?確か憲兵と役割が同じなんだっけ。
「憲兵がいるのであれば全部任せておけばいいのでは?」
「お兄ちゃんが言うには、憲兵さんが突入すると奴隷の子達が怪我しちゃうかもなんだって」
「人質にされるかもしれぬしな。拙者達で助けた後で憲兵が突撃するのがベストでござるか」
「そう言う事」
次に資料にある写真をリンタロウお兄ちゃんに見せる。
「この髭が長いメガネのおじちゃんがリーダーさん。髪の長いお姉さんが右腕?なんだって」
「この2人を抑えれば話が早そうでござるな」
「お兄ちゃんもこの2人は絶対に捕まえるようにって言ってた」
首謀者の2人を捕まえれば何とかなるみたいだから、絶対に捕まえないと。
リンタロウお兄ちゃんは写真を見ながら口を曲げる。
「この2人を取り押さえつつ、奴隷を無傷で開放する。結構難しいでござるな」
「でも、ノエルはやりたい」
ノエルは真っすぐリンタロウお兄ちゃんを見つめる。
リンタロウお兄ちゃんはノエルを見つめ返すと、白い歯を見せながらニカッと笑った。
「拙者もノエル殿と同じ気持ちでござるよ。必ずや皆を救い出そうぞ」
「ありがとう!」
やっぱり、リンタロウお兄ちゃんに頼んでよかった。
あれ?そういえば、リンタロウお兄ちゃんに聞いてない事があったや。
「そういえば、リンタロウお兄ちゃんってステルス出来るの?」
「心配ござらん。元の世界でみっちり経験を積んでいるでござる。そう言うノエル殿はどうでござるか?」
「お兄ちゃんから色々と教わったから大丈夫!」
「そうでござったか。そういえば、ノエル殿に聞きたい事があったのでござった」
聞きたい事?なんだろう?
「なあに?」
「この世界にはステータスやスキルがあるのでござろう?」
「そうだよ」
「拙者にもスキルが使えるのでござろうか?」
「使えると思うよ?ステータスって念じたら見られるよ」
「では早速」
リンタロウお兄ちゃんは意気揚々と指を天井に向ける。
「ステータス!」
大声をあげたリンタロウお兄ちゃんはしきりに周りを見渡し始める。
「さあ!ステータスはどこでござるか!」
「目の前に出てくると思うけど?」
リンタロウお兄ちゃんは一通り周りを見渡して、不思議そうに首を傾げる。
「おかしいでござるな、それっぽい物は見当たらないでござる」
「そうなの?可笑しいなあ……」
ホウリお兄ちゃんも最初の人達もステータスあったし、地球の人もスキルを持っている筈。何がいけないんだろう?
ノエルも一緒に首を傾げていると、リンタロウお兄ちゃんが顔を伏せた。
「……拙者、スキル使えないでござるか?」
「ステータスが見られないからって使えないって決まった訳じゃないよ!何か手がある筈……」
落ち込んでいるリンタロウお兄ちゃんを励まして、ノエルは必死に頭を回す。
リンタロウお兄ちゃんはステータスじゃなくて、スキルが知りたい。だとしたら……
「そうだ!神殿に行けばスキルが分かるかも!」
「神殿?」
「うん!スキルって神殿で取れるんだけど、他人のスキルを確認出来る人もいると思う!」
「本当でござるか!?早速、行くでござる!」
リンタロウお兄ちゃんが部屋を飛び出していく。ノエルもその後を追って、部屋を飛び出したのだっ た。
リンタロウお兄ちゃんのスキルが分かると良いな。
☆ ☆ ☆ ☆
「申し訳ございません、こちらではスキルが分かりません」
神官さんがリンタロウお兄ちゃんが神殿で掛けた言葉はそれだった。
リンタロウお兄ちゃんが顔を引きつらせながら口を開ける。
「ど、どう言う事でござるか?」
「鑑定にてスキルを確認しましたが、どういう事か情報が全く出ません」
「スキル以外の情報も出ないの?」
「その通りです」
神官さんの言葉を聞いたノエルは、恐る恐るリンタロウお兄ちゃんの顔を見る。
完全に絶望しきったリンタロウお兄ちゃんは、軽く頭を下げると力なく神殿の出口へと歩く。ノエルは何て言っていいか分からず、リンタロウお兄ちゃんの後を付いて行く。
リンタロウお兄ちゃんは神殿を出ると、そのまま街の中を無言で歩き始めた。その足取りは少し押すだけで倒れてしまいそうな程に不安定だ。
えーっと、何か言わないと……、
「そうだ!リンタロウお兄ちゃん、お腹空かない?何か食べに行こうよ」
「………………」
「食べたいものはある?この辺りは王都の中心街だから美味しい物が沢山あるよ?」
「…………」
「ノエル、お金は多めに貰ってるから何でも食べられるよ?何かない?」
「……カレー」
リンタロウお兄ちゃんは生気のない顔をノエルに向けて力なく話す。
「この世界にカレーはあるでござるか?」
「ご飯に少し辛いルーが掛かってるアレ?」
「それでござる。あるのでござるな?」
「うん!ノエルも大好きだよ!」
ノエルは辺りを見渡してカレー屋さんを探す。
「あ!あそこにカレー屋さんがあるよ!行ってみようよ!」
リンタロウお兄ちゃんの手を引いてカレー屋さんの中へと入る。
店の内に入ると、独特なカレーの臭いが鼻孔をくすぐった。掛かっている音楽も独特で思わずカレーが食べたくなっちゃう。
適当な席についてメニューを広げる。
「ノエルはキーマカレーかな。リンタロウお兄ちゃんは?」
「……海鮮カレー、大盛り」
「了解!すみませーん!キーマカレーと海鮮カレー大盛り!」
ノエルは店員さんを呼んで注文を済ませる。
無言のまま数分の時間が流れる。周りにもお客さんはいない中、カレーの音楽だけがノエル達の間に流れる。
無言の時間に耐えかねて話題を探していると、店員さんがカレーを持ってきた。
「おまたせしました」
店員さんはテーブルにカレーを置くと、そのまま厨房まで下がっていった。
目の前には美味しそうに湯気を立てているキーマカレーと海鮮カレー、早く手を付けたくて仕方がない。
我慢できずにスプーンを持って手を合わせる。
「いただきまーす」
「……いただきます」
リンタロウお兄ちゃんも表情は暗いけど、スプーンを持ってカレーを食べ始めた。よかった、食欲はあるみたいだ。
安心したノエルは目の前のキーマカレーを口の中に入れる。
「うーん、おいしー!」
お肉の旨味とスパイスの香りがとても良く会っている。スプーンを動かす手が止まらない。
ノエルが夢中になって食べていると、向かいに座っているリンタロウお兄ちゃんの異変に気が付く。最初は少しずつゆっくりと食べていたが、徐々に早くなっている。
リンタロウお兄ちゃんはノエルよりも早く最後の一口を食べ終わる。
「はー、美味しかったでござる」
幸せそうにお腹を撫でるリンタロウお兄ちゃんを見て、ノエルは安心する。どうやら元気が出たみたいだ。
ノエルも最後の一口を食べ終わり、手を合わせる。
「ごちそうさまー。あー、美味しかった」
「ノエル殿、すまないでござる。気を使わせてしまったでござるな」
「別にいーよ。元気になってよかった」
「いつまでもクヨクヨしていてはノエル殿にも申し訳ないでござるしな。もう大丈夫でござる」
そう言うと、リンタロウお兄ちゃんが白い歯を見せながらニカッと笑った。よかった、いつものリンタロウお兄ちゃんだ。
「よし、元気もでたでござるし、準備を進めるでござる!」
「おー!」
美味しいご飯を堪能したノエルとリンタロウお兄ちゃんはカレー屋さんを後にする。
うーん、でもなんでリンタロウお兄ちゃんはスキルやステータスが見られないんだろう?まあ、終わってからホウリお兄ちゃんに相談すればいっか。
という訳で、作戦会議回でした。
先に言っておきますが、倫太郎がステータスを見られない理由はありますが、この小説では明らかになりません。そこまで重要な事じゃないし本筋とは全く関係ないから仕方ないね。
余談ですが、倫太郎は別の小説の主人公だったりします。内容としては各世界を巡る旅のお話です。今回の話もその話の一部だったりします。公開の予定はありますが、かなり先になると思います。
各世界を旅?おのれディケイドォォォォォォォ!
次回はもうちょっとだけ作戦会議、短くなったら突入まで入れるかもしれません。
使っているイヤホンのカバーがよく無くなります。でも、探してないのに見つかります。いっそ完全に無くなってくれたら買い替えるんですけどね




