第百二十話 ドレミファソラシド
書きたい話があるけど、いつもより長いから時間を置いた方がいいよね。ロワとミエルの話でも書こうかな……ひゃっはー!我慢できねえ!
という訳で、茶番で予告した話になります。内容としては初めてのおつかいです。
ある日の朝、ノエルは玄関の扉の前でホウリお兄ちゃんと一緒にいた。
ちなみに、ノエルは外行きの格好じゃなくて冒険をする時みたいな動きやすい恰好をしている。たすき掛けで水筒ももっているし、お出かけの準備は万端だ。
「それじゃ、今から忘れ物チェックをする」
「はーい!」
お兄ちゃんと最後の忘れ物チェックを始めようとする。
すると、2階からロワお兄ちゃんが欠伸をしながら降りてきた。
「ふわあああ……、あれ?二人ともどうしたんですか?」
「これからおつかいに良くの!」
「へぇ、ノエルちゃんもそんな年かぁ」
ロワお兄ちゃんが感慨深そうに腕を組む。
「今から行くのかい?」
「うん!今から忘れ物チェックなんだ」
「話が反れたが進めるぞ。まずはお金」
「はい!」
布の袋に入ったお金を取り出して見せる。
「盗まれないように使う時以外はアイテムボックスに仕舞っておくんだぞ」
「はーい!」
「次にお弁当と水筒」
「持ってます!」
お弁当箱と水筒を取り出してホウリお兄ちゃんに見せる。
今日のお弁当はおにぎり弁当。水筒にはお茶が入っている。
「次に地図」
「はい!」
「情報が書いてある資料」
「はい!」
「杖」
「はい!」
「ナイフ」
「はい!」
「銃と弾薬」
「はい!」
「爆弾」
「はい!」
「ちょっと待ってください、なんだか荷物が物騒になってきてませんか?」
チェックの途中でロワお兄ちゃんが待ったをかける。
「おつかいですよね?なんで武器類が充実してるんですか?」
「ノエルは神の使いだぞ?何かあった時に対処するにはこれ位必要なんだよ」
「そんな物ですか」
「続けるぞ、盗聴器」
「はい!」
「やっぱりおかしくないですか!?どう考えてもおつかいに盗聴器は必要ないですよね!?」
「何かあった時に対処できるように、事前に色々と想定しておくのは大事だろ?」
「ホウリさんは何を想定してるんですか!?」
「次行くぞー」
「スルーですか!?」
ホウリお兄ちゃんはロワお兄ちゃんを無視してチェックを続ける。
「換えの洋服」
「はい!」
「携帯食料」
「はい!」
「以上だ」
「あれ?もしかしておつかいって泊りがけですか?」
「そうだ」
「初めてのおつかいで泊りがけって難易度高くないですか?」
「ノエルがやるって言ったの!一人旅みたいで楽しそうだし!」
「そう言うんだったらいいけど、無理だったらすぐに帰って来るんだよ?悪い人に付いて行ったらダメだよ?」
「了解であります!」
ロワお兄ちゃんの言葉にノエルは敬礼で返す。
「最後におつかいの心得」
「はい!1.道草は用事が終わってから。2.困ったら誰かに頼る事。3.無理だと思ったら帰ってくる事。4.ホウリお兄ちゃんの名前は極力出さない」
「よろしい。じゃ、行ってこい」
「行ってきまーす!」
ウキウキしながら扉を開けて外へ飛び出す。さあ、冒険の始まりだ!
☆ ☆ ☆ ☆
「ホウリさん、さっきの持ち物って明らかに普通じゃないですよね?ノエルちゃんのおつかいって何ですか?」
「最近、子供を狙った人身売買の組織が活発化しててな」
「それが何か?」
「ノエルにはその組織の壊滅を頼んだ」
「……すみません、もう一回言ってもらっていいですか?」
「ノエルにはその組織の壊滅を頼んだ」
「冗談ですよね?」
「本気だ」
「イヤイヤイヤ!いくらノエルちゃんが強くてもそれは無茶でしょ!?というか、初めてのおつかいのレベルじゃないですよね!?」
「なんとかなるんじゃないか?」
「結構適当なんですね!?」
「まあ、こっそりフランも付いて行ってるし大丈夫だろ」
「ああ、そうだったんですね。安心しました」
「フランが出ることになれば、その組織がどうなるか分からないけどな」
「怒り狂ったフランさんが必要以上に暴れる未来が見えますね」
「そう言う事。穏便に済ませたければノエルに頑張ってもらう必要があるな」
「……なんだか僕怖くなってきました」
☆ ☆ ☆ ☆
「ふふふ~ん、一人でお出かけ~」
「あらノエルちゃん、今日は1人なの?」
ウキウキでスキップしていると、八百屋のおばちゃんが珍しそうに話しかけてきた。
いつもだったらお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に来てる、けど、今日は一人だから珍しいのかな?
「うん!今日はおつかいなの!」
「あら、偉いわね。これあげるからおつかい頑張ってね」
「わー!ありがとうございます!」
おばちゃんからピカピカのリンの実を受け取ってお礼をする。お弁当のデザートにしよう。
手を振っておばちゃんと別れて街の中を進む。
「ノエルちゃん、1人でお出かけかい?これ食べな」
「ノエルちゃん、おはよう。これ飲むかい?」
「嬢ちゃんじゃないか。これ持ってきな」
街の人たちに挨拶していると色々と食べ物をくれた。ちゃんとお礼を言って全部受け取りながらノエルは進む。
でも、こんなに沢山の食べ物は一人じゃ食べきれないかも?アイテムボックスにも入りきらないし、どうしようかな?
腕にいっぱいの食べ物を抱えながらノエルは目的地に向かって歩く。少しすると、右手に人気が少ない路地が現れた。
確か少し路地を歩いた方が早いんだよね。ちょっと怖いけど近道しちゃおう。そう思ったノエルは路地へと入る。
日の当たらない路地は少しジメジメしていて肌寒い。周りからは野良にゃんこの声が聞こえてきて何となく怖い。
「……早く通り抜けちゃおう」
ノエルは進む速度を早くして路地を進む。すると、
「ぐえっ!」
「ん?」
やわらかい何かを踏んで、カエルの鳴き声みたいな声が聞こえた。
荷物の横から顔を出して下を見てみると、腰に刀を付けた着物を着たお兄ちゃんが倒れていた。
「うわ!」
びっくりしたノエルは着物のお兄ちゃんから足を降ろす。
「大丈夫!?」
荷物を地面に置いて着物のお兄ちゃんを抱き起してセイントヒールを掛ける。
ペチペチと頬を軽く叩くと着物のお兄ちゃんは目を開けた。だけど、目に力が全然ない。今にも意識を失ってしまいそうだ。
「どうしたの!?」
「め……を……」
「え?」
着物のお兄ちゃんの声を聞こうと耳を口の近くまで寄せる。
「めしを……めぐんでくれぬか?」
☆ ☆ ☆ ☆
(ガツガツムシャムシャ)
ノエルが差し出した食べ物を着物の人が凄い勢いで食べる。このお兄ちゃん、着物も汚れているし、お髭も伸びっぱなしだし、髪も後ろでまとめられているけどボサボサだし、お家に帰ってないのかな?
ノエルがそう考えていると、紙袋いっぱいに入っていた食べ物は、ものの数分で着物のお兄ちゃんのお腹に入った。
「(ゴキュゴキュ)ぷはー!生き返ったでござる」
着物のお兄ちゃんはゴミを紙袋に仕舞って手を合わせる。
「ごちそうさまでござる。お主のおかげで胃助かったでござるよ」
無精ひげを伸ばした顔で歯を出して笑うお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんにノエルは質問してみる。
「ねぇねぇ、なんで倒れてたの?」
「いやー、この世界に来たは良いが右も左も分からなくてな。どうにかなるかと歩いていたら行き倒れてしまったでござる」
「この世界?」
「おおっと、まずは自己紹介でござるな。拙者は『角谷 倫太郎』。見ての通り侍をしているでござる」
「ノエルはノエル・カタラーナって言います。リンタロウお兄ちゃんもサムライなんだ。ノエルのお兄ちゃんもサムライなんだよ」
「ノエル殿の兄上もでござるか。この世界にも侍がいるのでござるな」
リンタロウお兄ちゃんの言葉を聞いてノエルは違和感を覚える。まるで、この世界の人じゃない見たいな言い方だ。
「リンタロウお兄ちゃんってどこから来たの?」
「この世界の人に説明するのは難しいでござるな。地球から来た、で分かるでござるか?」
「リンタロウお兄ちゃんも地球から来たの?ノエルのお兄ちゃんと同じだね」
「この世界にも異世界転移した者がいるのでござるか!」
「うん、お兄ちゃん以外にも1000年前に100人の人達がチキュウから転移してきたんだって」
「なるほど、異世界転移も珍しくないのでござるな。しかし、同じ地球から転移した侍がおったとはな。一度会ってみたいでござるな」
リンタロウお兄ちゃんがフムフムと頷く。
「それで、リンタロウお兄ちゃんはこれからどうするの?」
「そうでござるな……拙者はこの世界に明るくないでござるからどうしたものか」
「何か目的とか無いの?」
「あるみたいでござるが、さっぱり分からん。神からの通信も来ぬでござるしな」
そう言ってリンタロウお兄ちゃんは手に付けた腕時計みたいな装置を見せてくる。
「へぇ、リンタロウお兄ちゃんって神様と通信できるんだ」
「神の事を信じてるでござるか?」
「うん!この世界のスキルは神様のおかげで使えるんだよ!ノエルも神様と話したことがあるんだ!」
「ほう、この世界では神と話すのが当たり前なのでござるか。地球と比べて進んでいるでござるな。もっと色々な事を教えてくれぬか?」
「うんいいよ!」
それから、ノエルはリンタロウお兄ちゃんにこの世界について話した。内容はホウリお兄ちゃんが話してくれたチキュウと明確に違う点、スキルと魔物についてを中心に。
「……なるほど、この世界には魔物がいてそれをスキルと魔法を用いて戦う。なんだかゲームに出てきそうな世界観でござるな」
「神様がチキュウのコンピューターゲーム?を参考に作った世界なんだって」
「となると、この世界は地球が作ったと言っても過言ではないでござるな?」
「過言だと思うよ?それで、リンタロウお兄ちゃんはこれからどうするの?」
「そうでござるな、神からの通信が入るまでは何も出来ぬでござるからな。ノエル殿に付いて行こうと思うのだが、どうでござるか?」
「ノエルに?」
ノエルの言葉にリンタロウお兄ちゃんが刀を持って歯を見せながら笑う。
「戦闘から力仕事まで、肉体労働であれば手伝えるでござる。どうでござるか?」
「うーん」
ホウリお兄ちゃんには今回のお使いの内容は極力秘密だって言われてるし、断った方が良いのかな?でも、ノエルが断ったら独りぼっちになっちゃう。
まあ、この世界の人じゃないみたいだし話しちゃっていいか。何かあればホウリお兄ちゃんに相談しよう。
ノエルはリンタロウお兄ちゃんにペコリと頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「そう来なくてはな」
リンタロウお兄ちゃんから差し出された手をノエルは掴む。すると、リンタロウお兄ちゃんはノエルの顔をジッと見つめてきた。
「どうしたの?」
「いや、ノエル殿って結構美人と思ってでござるな」
「そうなの?」
フランお姉ちゃんからは可愛いって言われるけど、美人って言われるのは初めてだ。
「ノエルって美人なの?」
「そりゃあ、特級の美人でござるよ。それだけに惜しいでござるな」
「何が?」
「ノエル殿はまだ幼い。もう10年経ったらお茶に誘っていたのでござるが、非常に残念でござる」
顔を伏せて残念そうな顔をするリンタロウお兄ちゃん。瞬間、後ろから凄まじい殺気が突き刺さった。
ノエルは反射的に後ろを振り返るが、誰の姿も無かった。気のせい?でもあんなに強い殺気が気のせいな訳ないと思うんだけどな?
「どうしたでござるか?」
ノエルが急に後ろを向いて目を丸くするリンタロウお兄ちゃん。
リンタロウお兄ちゃんに話そうか悩んだけど、気付いていないみたいだし話さなくてもいいか。
「ううん、なんでもない」
「そうでござるか。で、これからどうするでござるか?」
「うーんとね、お兄ちゃんが宿を取ってくれたから、チェックインして作戦会議かな?」
「確かに、何をするか分からないと手助けのしようがないでござるからな」
「そうと決まれば、宿までレッツゴー!」
「おおー!」
リンタロウお兄ちゃんと一緒に拳を天に突き出す。
こうして、ノエルはリンタロウお兄ちゃんと一緒に行動することになった。
☆ ☆ ☆ ☆
リンタロウお兄ちゃんと出会ってから5時間、疲れ切ったリンタロウお兄ちゃんを連れてようやく宿に着いた。
「ぜえぜえ、中々遠かったでござるな」
「でも森の中とか歩くよりも楽でしょ?」
水筒からお茶を出してリンタロウお兄ちゃんに渡す。
リンタロウお兄ちゃんはお茶を一気に飲み干すと大きく息を吐いた。
「拙者は都会っ子でござるからな。こんな長距離を歩くことが中々ないのでござる」
「そうなんだ。疲れてるんだったら、早くチェックインしようか?」
「そうしてくれると助かるでござる。拙者はここで待っているでござる」
そう言うと、リンタロウお兄ちゃんは宿にある椅子に座り込む。
早速、宿のカウンターでチェックインをしよう。確か、ホウリお兄ちゃんの名前を出せばノエルでもチェックイン出来る筈だ。
カウンターがちょっと高いから、背伸びをして受付の人に話しかける。
「すみませーん」
「何かなお嬢ちゃん?」
「キムラ・ホウリで予約してます」
「少々お待ちください」
受付の人は名簿をパラパラとめくる。
「えーっと、ありました。キムラホウリ様ですね。1名様で間違いないでしょうか?」
「もう1人いるんですけど、2人にできますか」
「追加料金をお支払いいただけたら可能です。1万Gですがよろしいですか?」
「分かりました」
お財布から金貨を出して受付の人に渡す。
「これで手続きは終わりです。こちらは部屋の鍵です。チェックアウトの際にご返却ください」
「ありがとうございます」
鍵を受け取ってリンタロウお兄ちゃんの所へと戻る。
「リンタロウお兄ちゃん、チェックインできたよ」
「おお、良かったでござる。ダメだったら野宿する所だったでござる」
「お部屋で眠れてよかったね」
「これもノエル殿おかげでござるな」
「えへへ」
リンタロウお兄ちゃんを連れてお部屋に向かう。
お部屋の鍵を開けて中に入ると、リンタロウお兄ちゃんがベッドに横たわった。
「拙者は疲れた。もう寝るでござる」
そう言うとリンタロウお兄ちゃんはベッドで寝息を立て始めた。
リンタロウお兄ちゃんの寝顔を覗き込む。気持ちよさそうに寝てるなあ。これは起こさない方が良いかな。
「お話は明日かな?」
とりあえず、お風呂に入ってご飯を食べてノエルも寝ちゃおう。
☆ ☆ ☆ ☆
「ぐーぐー」
「……起きろ」
「んが?貴様は?なぜ拙者に跨っておる?」
「……大声は出すでないぞ?出したら首を掻き切るぞ?」
「分かったでござる」
「随分と落ち着いているな?」
「強制的に慣れさせられているのでござる。で、何の用でござるか?」
「警告に来た」
「警告?」
「故意や事故に関わらず、ノエルに危害を出してみろ。貴様の首と体を切断してやるわい」
「それは心配ないでござるよ、拙者は恩人を手に掛ける事は絶対にない」
「なぜそう言い切れる?」
「拙者が侍だからでござる。恩人の為ならば命をも掛ける、それが侍でござる」
「……貴様の仁義などどうでもよい。とにかくノエルには手を出すな」
「分かったでござる。……それより一ついいでござるか?」
「なんじゃ?」
「お主、かなり美人でござるな?」
「……は?」
「用事が終わったら拙者とお茶でもどうでござる?何なら他の所へ遊びに行くでもよいでござるよ?」「……もう寝ておれ」
「ふにゃ!……ぐーぐー」
「まったく、なんなんじゃこいつは」
初めてのおつかい(犯罪組織の壊滅)
察していると思いますが、少し長くなります。と言っても後1~2話ですけどね。
次回は続きです。犯罪組織の壊滅ってどうやるんでしょうね?
知り合いに仮面ライダーの映画を初日に見ていない事を煽られました。次は初日に見て行ってやろうと思います。




