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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第百十三話 オールひろゆき

魔剣回です。やっとここまで書けました。

 俺は機械蜘蛛の残骸をアイテムボックスに仕舞う。

 中々強かった。少なくとも、ノエルの力なしでは勝てなかったな。



「ホウリさーん!」



 目に涙を溜めながらロワが駆け寄って来る。

 抱き着いてくるロワを引きはがしながらため息を吐く。



「少しは落ちつけ」

「ですが!あんなに強い敵に完勝出来るだなんて、僕感動しちゃいましたよ!ノエルちゃんもお疲れ様」

「いえーい、ノエル頑張ったよ。……おっとっと」

「これこれ、あんな高速で移動したのじゃ。無理をするでないぞ」



 足に力が入らずにふらつくノエルをフランが支える。

 ノエルは気丈に振舞っているが、疲労は結構大きそうだ。少し休んだ方がいいだろう。



「それにしても、あんな手を隠しておったとはのう?」

「非常事態だったしな」



 いつの間にか背後にいたフランがいたずらっぽく笑う。大方、俺の切り札を見つけたとでも思ってるんだろう。

 まあ、勘違いしているんだったらそれでいいか。



「そういえば、ミエルの足は接着剤で固められていたんじゃなかったのか?」

「機械蜘蛛を倒した後に、フランがスキルで取ってくれたのだ。それにしても、さっきの蜘蛛の強さは異常だったぞ?機能もさることながら、それを使うタイミングも完璧だった」

「ホウリさんとミエルちゃんのコンビネーションが無かったら、フランさんしか倒せなかったですもんね」

「なぜロワを狙ったのかも分からんしな。謎が多すぎるわい」

「そうだな、ある程度しか分かんねぇな」

「ある程度は分かっておるのか」



 フランが呆れたように俺を見てくる。こういう視線を向けられるのも慣れてきたな。



「勿体ぶらずに、さっさと教えぬか」

「じゃあ結論から言うぞ?機械蜘蛛の正体は魔剣だ」

「は?」



 俺が何言ったのか訳が分からないのか、全員が首を傾げる。まあ、こうなるよな。



「意味が分からん。あれは機械じゃろ?どこをどう見たら剣に見えるんじゃ」

「もしかして口の部分が剣ってことですか?」

「確かにあの口は尋常じゃない切れ味だった。あれが魔剣だったとしても納得だ」



 ミエルが切断された盾に目を向け、額にしわを寄せる。結構精神にきてるみたいだな。



「信じられないのも分かるが、機械蜘蛛全体が魔剣だ。あくまで俺がいた世界での基準だけどな」

「ホウリの世界……魂と融合した道具という事か?」

「その通りだ」

「なぜそうなる?確かに強力ではあったが、じゃからと言って魔剣であるというのは飛躍が過ぎぬか?」

「いや、あの強さは魔剣以外にあり得ない」

「なんでそう言い切れる?」

「理由は判断能力の高さだ」



 確かに道具を使えるくらいじゃ魔剣とは言えない。だが、あの判断能力があれば話は別だ。



「確認だが、あの判断能力を機械に組み込む技術はこの世界にあるか?」

「わしは聞いたことは無いのう」

「私も無い」

「実は俺の世界でもそんな技術は無い」



 言い終わって、俺の頭に一人のクラスメイトの顔が浮かんでくる。あいつだったら出来ない事も無いが、ややこしくなるから黙っておこう。



「だったら、どうやって機械蜘蛛を作ったんでしょうか?」

「簡単だ。人が操作すればいい」

「人が操作……まさか?」

「ああ」



 俺は抜き取った部品を取り出す。



「この部品の中に人の魂が入っていて、そいつが機械蜘蛛を動かしている」

「……冗談だろ?」

「それ以外にないんだよ。あれだけの動きをするにはな」



 俺が接着剤を結界で回避した時や、雷装で速度を上げた時に動揺の色が見えたのは中に人が入っていたから。そう考えれば全部の辻褄があう。

 俺の言葉を聞いたロワが恐る恐る部品を突っつく。



「こ、この中に人の魂が……」

「あまり触るなよ。壊れたら怨念に取り憑かれるからな?」

「ひいい!?」



 俺の言葉にロワが怯えた様に手を除ける。

 怨念に取り憑かれるのは嘘だが、ロワにはこれぐらい言っておいた方が良いだろう。



「この機械蜘蛛は魔剣を守るために侵入者を処分するための守護者なんだろう。ここまでして守りたい魔剣ってなんだろうな?」

「どれだけ強力な魔剣なんじゃ……」



 フランが目を見開いて通路の先の暗闇へと視線を向ける。

 さっきまでウキウキで宝探しの気分だった皆の言葉が無くなる。侵入者は絶対に殺す、そういう意思を感じ取ったのだろう。

 だが、ここで眺めていても始まらない。俺は先へと続く暗闇へ足を踏み出す。



「行くぞ」

「で、ですが……」

「ここまで強固な守りだ。今回収しないと悪用されているのは目に見えている。怖くても行くしかないんだ」

「安心せい。わしが皆を守る。傷一つ付けさせん」



 俺とフランが3人を見つめて宣言する。

 その視線を受け、ミエルは自分の両頬を思いっきり叩いた。



「ミエルさん!?」

「私は行くぞ。絶対に魔剣を回収するんだ」

「ノエルも行く!皆の怪我はノエルが治すよ!」

「……僕も覚悟を決めました。行きましょう、ホウリさん」

「良く言った」



 全員が良い目になった。これならなんとかなりそうだ。



「全員、気合入れろよ。危ないと思ったらすぐに逃げるんだ。いいな?」

「はい」

「じゃあ行くぞ」



 フランを前に、明かりを点けて十分な警戒をしながら通路を進む。機械蜘蛛で相手が本気である事は分かった。警戒しすぎるという事はないだろう。

 どんな些細な事も見逃すまいと、集中力を極限まで高めながら通路を進む。中はかび臭いとかジメジメしているとかは無く、不自然にきれいだ。

 機械蜘蛛以外にも何かいるかもしれないな。

 そんな警戒の中で進むと、大きな部屋にたどり着いた。7畳くらいの部屋で、周りの机には大量の紙や部品が数多く散らばっている。

 そして、部屋の中心には台座があり、その上にはライトの光に照らされて一振りの刀が浮かび上がった。

 その光景を見たロワは生唾を飲む。



「これが魔剣ですか」

「迂闊に触るなよ。フラン、台座を鑑定して罠が無いか調べてくれ。残りで周りの書類とか部品を回収してくれ」



 フランが台座を調べ始め、残りで落ちている物を拾い集める。

 俺は落ちている紙を拾い上げる。少しボロボロになっているが、まだ読むことは出来るな。

 軽く読んでみると、さっきの機械蜘蛛の設計図が書いてある。あの機械蜘蛛は侵入者を始末した後に、岩を切り取って通路を隠す機能もあったようだ。

 なるほど、口の刃で岩を切り取って、内側から接着剤で固定するのか。良く考えられているな。



「そっちは何かあったか?」

「何か書いてある紙は見つけましたが、何が書いてあるかさっぱり分かりません」

「見せてくれ」

「どうぞ」



 魔語で書いてあるのかと思い、ロワから受け取った紙を読んでみる。これは……フランス語か?こっちは中国語だ。ヘブライ語もある。

 見た限りだと、地球の様々な言語で書かれている。こんな事出来るのは地球から来た最初の人以外にいない。やっぱり、魔剣を作ったのは地球人か。



「こっちにも何かあったぞ」

「ノエルも見つけたよ!」



 俺が読み進めているとミエルとノエルから俺を呼ぶ声がした。

 2人の所へ行ってみると、ミエルはプラスチックの破片を、ノエルは小瓶に入った接着剤を持っていた。

 2人から破片と瓶を受け取って眺める。



「どっちも機械蜘蛛に使われていたものだ。ここで機械蜘蛛が作成されたのか?」

「多分そうだな。さっき見つけた紙にもそう書いてあったから間違いない」

「なんと書いてあったのだ?」

「機械蜘蛛を作っている時の日誌だった。地球の言葉を使っているから始めの人が書いたものだろう」

「ホウリさんが言ってた通りですね」



 ここまでは俺が予想した通りだ。後は魔剣だな。



「フラン、そっちはどうだ?」

「鑑定結果が出た。この魔剣には軽度の精神汚染効果がある」

「軽度ってどのくらい?」

「持った者の破壊衝動を少し増幅させるようじゃ。余程強い破壊衝動を持っておらん限りは大丈夫じゃがそれ以上は分からん」

「フランでも分からないのか。俺の方でも調べた方がいいな」

「そうした方がよいじゃろう。で、問題は台座じゃ」

「台座?」



 ロワが台座を見つめるが不思議そうに首を傾げる。



「何も変哲ないように見えますけど?」

「この台座はセンサーになっておってのう。重量が変化すると仕掛けが起動するようになっておる」

「仕掛けって何?」

「この施設が爆破される」

「殺意が高い仕掛けだな」



 何も知らずに魔剣を取ったら終わりって訳か。魔剣を渡さないっていう固い決意を感じるな。



「本来だったら仕掛けを解除しないといけない」

「そんな悠長な事をするつもりは無いぞ?」

「だったらどうするんですか?」

「簡単な話だ。俺たちは外に出てフランが魔剣を取ってワープする」

「おおー、それなら安心だね」

「仕掛けを作った奴もこんな方法で突破されるとは思っていないだろうな」

「想定してない方が悪いんじゃよ。そうと決まればお主らはさっさと出ていけ。3分後にここを爆破する」

「取る物取ったしそうするか。全員退散」



 念の為、帰りにも罠が無いか確認しながら俺たちは外へと出る。

 念のため森の入り口まで離れ、フランが来るのを待つ。

 俺たちが出てからきっちり3分後、魔剣を持ったフランが俺達の目の前に現れた。その瞬間、



(ドガアアアアアン)



 背後にあった崖から地面を揺らす程に巨大な爆発が起こった。爆破された崖は大きな音を立てながら通路を埋めていく。

 崖が崩れ落ちるのを見ながら、ロワが体を震わせるながら口を開いた。



「ほ、本当に爆発するんですね。フランさんがいて本当に良かったですよ」

「そうじゃろ?もっと褒めても良いんじゃぞ?」

「はいはい、そう言うのは後でな。まずは戦利品の確認といこうじゃねえか」

「それもそうじゃな。ほれ、これが魔剣じゃ」



 フランが持っている魔剣を差し出してくる。さっきは暗くてよく見えなかったが、魔剣は鞘から柄にいたるまで真っ黒だった。見方によっては魔剣っぽいのかもしれない。

 フランから魔剣を受け取り、様々な角度から眺めてみる。



「……どうですか?」

「不思議な力は感じるが危険な気配はないな。抜いてみるか」

「不用心じゃないか?」

「精神汚染なら耐性がある。万が一、暴れ始めたら殴って止めてくれ」

「分かった。大剣を頭に叩き込んでやる」

「死ぬからな?流石の俺でも死ぬからな?」



 大剣を振りかぶるミエルを横目に見つつ、俺は柄と鞘を握り込む。

 警戒しつつ、鞘から少しだけ刀を抜いてみる。

 予想通り刃まで黒いな。流石は魔剣と言った所か───



〈ん?ここはどこ(スチャッ)〉


 

 刀を鞘に戻す。



「誰か喋ったか?」

「いえ」

「ううん?」

「喋っとらんぞ」

「私もだ」

「だよな」



 剣から声が聞こえたが気のせいだ。多分、疲れによる幻聴だろう。王都に戻ったらゆっくり休もう。

 そう思って再び鞘から刀を抜いていく。



〈痛いなー!乱暴に扱わないで(スチャッ)〉



 再び刀を鞘に戻す。



「悪い、刀が喋る幻聴が聞こえてきた。ちょっと疲れているみたいだ」

「安心せい幻聴ではない。わしらも聞こえておる」

「マジかよ……。喋る道具にはいい思い出はないんだよな……」



 嫌な予感を感じながら、観念して鞘から刀を抜く。

 鞘から完全に刀を抜き切ると、刀はまた喋り始めた。



〈あんたいい加減にしろ!どういうつもりだ!〉

「当たり前のように喋るな。まずはお前が何なのか説明しろ」

〈はあ?俺様の事が分からないのか?〉

「知らん」



 俺の言葉に呆れた刀がやれやれといった様子で話す。



〈俺様は『魔剣・ブラン』。MPを少しでも込めれば何でも切れるようになる最強の魔剣だ〉

「なるほど、確かに強い」



 MPの下限が無いんだったらかなり強力だ。最強といっても差し支えないだろう。



〈で?あんたらは誰?〉

「俺の名前はキムラ・ホウリ。冒険者だ」

「わしはフラン・アロスじゃ」

「僕はロワ・タタンです」

「ノエルはノエル・カタラーナです」

「私はミエル・クランだ。よろしく頼む」

〈ふーん、あっそ。で、ここ何処?〉



 俺たちの正体にはさほど興味が無いのか、早々に次の質問に移る。



「ここはナプキだ。封印されていたブランを俺達が解放した」

〈そうなんだ。一応お礼を言っておこう〉

「偉そうだな?」

〈偉そうじゃない、偉いんだ。何でも切れるんだからな〉



 なんだこいつ?確かに強いんだろうがかなり偉そうだな?ここはひとつお灸を据えてやるか。



「ほう?なんでも切れるんだな?」

〈その通りだ〉

「じゃあこれはどうだ?」



 俺は新月を取り出してブランに見えるようにする。

 だが、ブランはさっきの余裕そうな声が聞こえなくなった。そんなブランに追い打ちをかけるように新月を近づける。



「なんでも切れるんだよな?こんな棒切れを切れないなんてこと無いよな?なんなら強制的に試してもいいんだぜ?」

〈……へへへ、旦那。ちょっとした冗談じゃないですか。私なんてしがない魔剣でゲスよ〉

「一気に態度が変わったな」

「語尾も変わっておらぬか?」



 新月は頼りないとはいえ、神が作った武器だ。最強の魔剣だろうが切る事なんて出来ない。というか、その程度で壊せるなら苦労してない。

 鍔迫り合いしようものなら、ブランが砕け散るだろう。

 立場の違いが理解できたのか、ブランが謙虚な口調で話し始める。



〈へへへ、それで私の持ち主はどなたですかな?〉

「なんの事だ?」

〈私は魔剣ですので、何かを切るのが生きがいなんでゲス。どなたか私を使ってくださいませんでゲスか?〉



 ブランの言葉に俺たちは全員で顔を見合わせる。



「……使う奴いるか?」

「……いないのう?」

〈……嘘ですゲスよね?なんでも切れる私が用無しって事は無いでゲスよね?〉



 俺たちは再び顔を見合わせる。



「俺は新月があるから無理だ」

〈そうでゲスよね。そこの赤髪のお嬢さんはどうでゲスか?〉

「わしは魔剣などなくても何でも破壊出来る」

〈………………〉



 ブランは無言でロワに視線を向ける(気がした)。



〈そこのイケメンな方、私を使ってみませんか?一度使えば病みつきになりますよ?〉

「僕は弓使いなので刀は使わないですよ。近距離で使うにしても大きすぎて邪魔になりますし」

〈………………〉



 ブランは諦めずに、ミエルへと視線を向ける(と思う)。



〈そこの凛々しいお嬢さん、私を使ってみませんか?守りも攻めも完璧になりますよ?〉

「私のスキルは大剣専用が多い。むしろ戦いにくくなってしまう」

〈………………〉



 ブランは縋り付くような視線をノエルに向ける(多分)。



〈お嬢ちゃん、私を使ってみませんか?なんなら包丁代わりでもいいですよ?〉

「ノエルが使うには大きいよー」

〈………………〉



 ノエルの言葉にブランが完全に沈黙する。

 あー、どうするかな?



「……とりあえずぶっ壊すか」

〈それだけはやめて!〉

という訳で、喋る魔剣です。かなり強いですが、性格がかなり残念です。最初は関西弁でしたが、似非がかなりひどかったので、三下になりました。


次回は王都への帰還です。魔剣の処遇も決めます。


最近、ガッシュを読み直しました。一番好きなキャラは華麗なるビクトリーム様です。

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