第百十話 俺は負けん!
投稿出来ました。今回は次回の導入なので短いです。
雲一つない青空が窓の外に広がっている。旅立ちの日にはピッタリの天気だ。
俺とロワは忘れ物が無いか最後のチェックをしていた。
「……よし、忘れ物は無いな」
「はい、ばっちりです」
部屋を見渡して忘れ物が無いか確認して胸を張るロワ。
「いくら僕でもこれだけ確認したら忘れようがありませんよ」
「俺が指摘した洋服は何枚あった?」
「……5枚ですね」
「多すぎだ。もう少し注意力を鍛えような?」
「はーい」
返事だけは良いんだよな、こいつ。
「じゃ、行くか。何かやり残した事はあるか?」
「思いつかないですね。ホウリさんは無いんですか?」
「食う物は食ったし、見る物は見たし、手に入れる物は手に入れた。思い残すことは何もない」
「それは良かったです」
ロワが目を細めて笑う。そういえば、ロワもこの国に来てから色々と苦労してんだよな。
「ロワはこの国に来てよかったと思ってるか?」
「勿論ですよ。色々な人と会えましたし、楽しい所に行けましたし」
「……そうか」
ロワの屈託のない笑顔を見て俺も笑う。心からロワが楽しいと言ってくれた、それが嬉しい。
荷物を持ってロワと廊下に出る。すると、隣の部屋からミエルとノエルも出てきた。
「お兄ちゃん達おはよー!」
「おはよう」
「おはようございます」
「ミエル、ノエル、おはよう。フランは食堂か?」
「恐らくはそうだろう」
「だったら早く行きましょう」
「おー!」
途中で使用人に挨拶をしながら、歩きなれた廊下を4人で進む。
そんな中、ロワが寂しそうに呟いた。
「ここを歩くのも最後ですか。寂しいです」
「最後とも限らないだろ。来たい時に来ればいい」
「その通りだ、なんならフランに王都からワープで連れてきてもらえばいい。そうすればすぐに来られるぞ?」
「本当に!?やったー!」
「そんな訳ないだろ。やったら国同士での争いになるからな?」
いつも通りくだらない話をしながら食堂の扉を開ける。すると、いつも通り食堂にはフランが座っていた。傍には給仕のメリゼも立っている。
フランはゆっくりと休めたのか普段よりも顔色が良い。
「おお、おはよう」
「おはようござますフランさん。今日は顔色が良いですね?」
「たっぷりと眠ったからのう。頭もばっちり冴えておるわい」
「そうか、ならレモの実はいらないな」
「いると言った事は無いからな?」
フランに睨まれながらレモの実を仕舞う。眠そうにしていたら仕込もうと思っていたが、その必要はないみたいだ。
俺たちはすっかりと定位置になった席へと座る。フランから時計周りに俺、ロワ、ミエル、ノエルの順番で並ぶのが定例になっている。
「それじゃ、いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」
テーブルに並んでいる食事に手を付ける。
今のうちに今後の予定について話しておくか。
「分かってると思うが、今からこの城を出ていくことになる。何かやり残したことがある奴はいるか?」
「昨日の内で知り合いには挨拶を済ませたから特にないな」
「ノエルも無いよ。昨日、皆といっぱい遊んだから満足」
「僕も無いんです」
意外とやり残しは無いんだな。これならすぐに出発できそうだ。
俺がそう思っていると、フランがサラダをフォークで刺しながら難しい顔をしているのに気が付く。
「どうしたフラン?何かあるのか?」
「いや、城でやる事は何も無い」
「となると、魔国でやる事は残っているのか?」
ミエルの言葉にフランが大きく頷く。
「フランお姉ちゃんは何をしたいの?」
「『したい』というよりも『やらねばならぬ』という方が正しいのう」
「また書類仕事ですか?」
「冗談でも殺すぞ?」
フランが殺気を込めた目でロワを睨む。どんだけ嫌なんだよ。
震えるロワを落ち着けながら、フランに質問する。
「やる事ってなんだ?」
「……魔剣の情報が入った」
「魔剣だと?詳しく説明してくれ」
ミエルの言葉にノエルが首を傾げる。
「魔剣ってなーに?」
「魔剣とは強力な効果を持つ剣の事じゃ。切れ味が普通ではない程に良かったり、ステータスが大幅に上がったり色々な効果の魔剣がある」
「いつ誰が何のためにどうやって作ったのか、様々な学者が研究しているが全く分かっていない」
「今の技術じゃ再現できないから、一説には自然に出来た物とも言われてるね」
「へー、とっても凄いんだね!そんなに凄い剣だったらノエルも欲しい!」
「ところが、そうもいかんのじゃ」
フランがスプーンを置いて困ったように天井を仰ぐ。
「魔剣は強力な効果を持つ代わりに、それ以上のデメリットが存在しておる。呪いによって外せないならまだいい方で、物によっては人も魔物も関係なく襲うようになってしまう物もある」
「呪いってホウリお兄ちゃんの新月みたいなもの?」
「そうだな。俺の新月は固いだけの魔剣みたいなものだ」
「そう聞くと、新月も凄く聞こえますね」
「羨ましいなら譲ってやるぞ?」
「謹んで辞退します」
ロワが露骨に俺と目を合わせなくなる。そんなに新月が嫌か。俺も嫌だ。
「そんな危険な物の場所が特定できたとなれば、早急に回収する必要がある訳だな」
「わしが自由に動ける内に回収を済ませたい。皆には悪いが、寄り道しても良いか?」
「勿論です。僕も魔剣を見たいですし、手伝いますよ」
「私も賛成だ。万が一、悪者の手に渡ってしまっては被害が大きくなってしまう」
「ノエルも良いよ!」
「俺もいいぞ」
「決まりじゃな」
「それで、場所はどこだ?」
俺の質問にフランが困ったように顎を撫でる。
「実はのう、結構へんぴな所にあるんじゃよ」
「どこですか?」
「東にある『ナプキ』じゃ」
「へ?…………ええええええええ!?」
ロワが目と口を限界まで開いて驚く。
ナプキとは魔国の地方の一つだ。人が住めない程に地形が荒れており、魔物も強めの奴が多い。侵入するだけでも政府の許可がいるという、とても危険な地域だ。
「そんな危険な場所にあるんですか!?そんな危険なところでどうやって魔剣を探すって言うんですか!?」
「わしとホウリがおれば問題ないじゃろ?」
「そうかもしれませんけど……」
「情報があるって事は、ある程度の場所は特定が出来てるんだろ?」
「その通りでございます。こちらが資料でございます」
メリゼが資料を投げてよこす。剛速球で飛んできた資料を俺は難なく受け止める。
メリゼの舌打ちを聞きながら、俺は資料を見てみる。
「なるほど、結構場所は絞れているな。これなら1日で探し出せるだろう」
「見せてくれ。……絞れていると言っても小さな街くらいの大きさはあるぞ?複数人で数か月かけるべき広さではないのか?」
「そんな訳ないだろ」
「そうですよ、流石にそんなに大変では……」
「高低差や魔物による妨害があるから本来だったら年単位だ」
「もっとひどいとは思いませんでしたよ!?」
ロワの叫び声から右耳を抑えて守る。
資料を見ていたミエルが呆れた様に呟く。
「どうすればこの範囲を1日で探せるのだ?」
「全域を探す訳ないだろ。ありそうな場所を重点的に探すんだよ」
「ありそうな所?」
「ああ、魔剣を隠した奴の思考を読めば大体の位置は分かるからな」
俺が7個目のプリンにスプーンを入れる。すると、全員の視線が俺に向いていた。
「どうした?」
「どうしたじゃないわ!魔剣を誰かが隠したじゃと!?なんでそんな事が分かる!?」
「大方、強力な武器が出来てしまって壊すにも壊せず、仕方なく封印したって所だろ」
「出来てしまった!?魔剣って人が作ったんですか!?」
「勿論だ。あんなものが自然発生してたまるか」
当たり前のように言う俺に皆が絶句している。俺は気にせずに8個目のプリンに手を伸ばす。
だが、そのプリンを向かいにいたミエルが颯爽と奪い去った。
「ミエル?どういうつもりだ?」
「どういうつもりもあるか!魔剣は学者が束になって研究しても進展が無いんだぞ!?のんきにプリンなんて食ってる場合か!?」
「説明するからプリンを返せ。あと、お前らの『!?』を止めろ。興奮するのは分かるが少し落ち着け」
ミエルが渋々プリンを俺の前に置く。プリンに黒蜜を垂らしながら、俺は魔剣について説明する。
「まず『いつ』出来たか説明する。発見された魔剣を見るに、出来たのは1000年前だろう」
「1000年前……始まりの人ですか?」
「それが『誰が』の答えだ」
1000年前の始まりの人のうちの誰かが魔剣を作った。作った本人か周りの人間かは分からないが、魔剣を危険視した奴が各地に魔剣を封印した。そんな所だろ。
「なぜ貴様がそれを知っている?」
「魔剣の作り方を知っているからだ。『どうやって』の答えになるな」
「すっごい武器なんでしょ?どうやって作るの?」
「……今から俺が言う事は絶対に外部に漏らすな」
「え?なんでですか?」
「聞けば分かる。フラン、念のため部屋に防音スキルを頼む」
「わ、分かった」
俺の真剣さが伝わったのか、素直にスキルを使うフラン。こういう時に話が分かる奴がいると助かる。
フランが防音スキルを使った後、ロワがワクワクした表情になる。
「で、魔剣ってどうやって作るんですか?」
「魂と武器を融合させる」
「へ?」
「人の魂と武器を融合させる。ざっくり言えばそれが魔剣の作り方だ」
俺の言葉に全員が言葉を失う。朝日が窓から差し込むさわやかな朝の筈なのに、食堂を漂う空気は重苦しい。
そんな空気の中、フランが呟く。
「それは口外出来ぬのう」
「だろ?学者が解明できない理由は魂の事を知らないからだ。魂の研究を進めれば人工的に魔剣を作る事も出来るだろう」
「……今後、魔剣の研究が進まない事を祈ろう」
「でもさ、なんでホウリお兄ちゃんは魔剣の作り方を知っているの?」
「地球でも似たような物があるんだよ。呼び方は全く違うがな」
「へー、ホウリさんの世界にも似たような物が。どういったものですか?」
「俺が使ったのはどこかにコインだな」
「へんな名前だな?どんな効果だ?」
「死ぬような不運に1週間耐えれば、今後の人生で色んな幸運に恵まれるって効果だ」
「ピンと来ないのう?不幸って何があった?」
「人食い部族に追われて、致死率100%の伝染病に感染して、殺人の冤罪を被せられた」
「それは大変じゃったのう」
「そうですね。……軽く流そうとしましたけど、どれも軽く流せる事じゃないですよね?」
10個目のプリンを平らげて皿を重ねる。すっかり説明が長くなったな。
「そんな訳で、人が隠したなら俺が見つけやすい訳だ」
「そういう事であれば納得じゃな。わしがワープを使ってホウリが目星をつける。これならば短時間で見つかるじゃろう」
「見つかった魔剣はどうする?人の魂が使われているのであれば、破壊した方が良いのではないか?」
「魂関連ならみっちゃんに相談するのがよいじゃろ」
「不本意だが、それが一番だな」
壊すにしても使うにしても紙に相談する方がいいだろう。後の事は知らね。
「んじゃ、城から出たらナプキに出発する。いいな?」
「「「「はーい」」」」
実は最初期から構想があった展開です。やっと書けます。
次回は魔剣を探しに行きます。やっと異世界の冒険らしい事が出来ます
2022年のゴールデンウィークを見たところ、やり様によっては10連休出来る感じでした。10連投稿?できらぁ!……無理かも?




