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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
133/459

第百九話 とりあえず却下します

連続投稿3日目です。今回は前回の続きです。

「ロワ、私と結婚して」



 ロワは一瞬何を言われたのか分からずに目を丸くする。

 ロワは数秒かけてペイトの言葉を咀嚼し、意味を理解できたのか顔を赤くした。



「けけけ結婚!?なんで僕と!?」

≪待て!貴様はホウリに負けたではないか!何を勝手な事を言っている!≫

≪あなたには関係ない≫



 ペイトの言葉にミエルが激昂する。当事者のロワよりも動揺しているかもしれない。

 この地獄に入っていくのは嫌だが、入らないと収拾がつきそうにないな。

 睨みあっている2人の間に入ると両方から睨まれる。



≪とりあえず2人とも落ち着け≫

≪止めるな。こいつが約束を破るのが悪い≫

≪私は約束を破ってない≫

≪確かに俺が禁止してるのはパーティーへの加入だけだ。ロワとの交際や婚姻は禁止してない≫

≪そういう事よ≫



 俺の言葉に勝ち誇ったように笑うペイト。



≪けどな、ロワが了承するかは別だからな?≫

≪分かってるわよ≫



 以上のやり取りをロワに通訳する。ロワは目を泳がせながら俺の話を聞く。

 全部聞き終わったロワは恐る恐る手を挙げる。



「あの、ペイトさんになんで僕なのか聞いてくれませんか」

≪ロワがなんで自分なのか聞きたいってさ≫



 ロワの質問にペイトがいつも通り、クールな表情で言う。



≪最初はいけ好かないと思っていたけど、今は一緒にいて楽しいと思える。だからよ≫

「それだけですか?」

≪それだけじゃダメかしら?≫



 ロワはニッコリと微笑むペイトから視線を外し、縋るように俺を見てくる。



「ホウリさん……」

「いきなりこんな事言われて戸惑うのは分かる。だが、これはロワが決める事だ」

「そんな……」



 俺の言葉にロワが頭を抱える。ロワは誠実だし、自分の事だけじゃなくて相手の事も考えてしまうんだろう。

 うんうんと唸っているロワを見かねてフランが話掛ける。



「何に困っておる?ペイトと結婚するかしないかじゃろ?」

「そうなんですけど、無下に断るのも悪いかなと思いまして」

「そんなの考えんでも良いじゃろ。断るならわしがやってもよいぞ?」

「それはダメです。真剣な思いにはちゃんと答えないと」

「真面目じゃな」



 フランはそれ以上は何も言おうとはせず、とある所に視線を向ける。

 そこには苦虫を噛みしめたような表情をしたミエルがいた。この顔は言いたい事は沢山あるけど、下手な事を言えばロワに嫌われてしまうから何も言えない顔だ。



『ミエルの下手な事を言えばロワに嫌われてしまうから何も言えない顔が、あからさま過ぎぬか?』

『俺もそう思うがロワにはバレないだろうし、別にいいんじゃないか?』



 こんな顔になるには珍しくも無いしほっとくか。

 ロワは数分間唸って、重々しく口を開く。


「僕が結婚を承諾したとして、スターダストには居られるんですか?」

≪勿論、脱退してもらうわ。夫婦は一緒にいるのが普通でしょ?私がスターダストに入れればそんな必要無くなるんだけど≫



 俺を見ながらペイトが言う。結構、根に持つんだな。

 ペイトの答えを聞いたロワは大きく深呼吸をしてペイトを見据える。どうやら答えは決まったようだな。



「ペイトさん、確かに僕もペイトさんと一緒にいて楽しかったです。こんなにも弓の事について語れるのはペイトさんだけでした」

≪じゃあ……≫

「ですが……」



 ロワは言っていいのか少し迷うと、そのまま言葉を続けた。



「僕にとってスターダストは家族同然なんです。なので気持ちは嬉しいですが、ペイトさんとは結婚できません。その代わりと言っては何ですが……」



 ロワはペイトに手を差し出す。



「良い友達として付き合ってくれませんか?」

≪………………≫



 ペイトは差し出されたロワの手を虚ろな目で見る。通訳しているから意味が分からないという事は無いだろうが、聞いているかも怪しい。

 手を取らないペイトをロワが不思議に思っていると、ペイトの視線がミエルに向いた。



≪あんたの性ね?あんたがいるからロワは私の物にならないのね?≫

≪はぁ?≫

≪そうよ、きっとそうよ!≫



 怒り出したペイトはミエルに掴みかかる。ペイトに掴み掛かられながら、ミエルは目を丸くする。

 これは流石に不味い。けが人が出る前に止めないと。



≪おいやめろ。ミエルに突っかかっても意味ないだろ≫

≪そうじゃ、自分がフラれたから他人に当たるなど見苦しいぞ≫

≪あんたさえいなければ!≫



 俺とフランが間に入ろうとするが、ペイトはミエルから手を離さない。無理に引き離せない程に力が強い。

 気絶させた方が楽かもしれない、俺がそう思っていると目を血走らせたペイトが更に叫ぶ。



≪私と勝負しなさい!勝った方がロワを手に入れるのよ!≫

 


 そう言うと、ペイトは弓を取り出してミエルに放つ。いきなり始める気か!

 ペイトはミエルに向かって矢を放ってるが、頭に血が上り過ぎて狙いが定まっていねえ!こっちにも矢が飛んできやがる!このままじゃ死人が出るぞ!



「ミエル!ペイトを引きつけろ!」

「分かった!こっちだペイト!」



 ミエルが兵士達と反対の方向へ移動しペイトを引き付ける。



「フラン、ノエル、兵士たちをここから避難させろ!最悪の場合、兵士達にも流れ弾が行く!」

「了解!」

「分かったよ!」



 2人を兵士たちの元へと向かわせる。そして、俺からも目を丸くしている兵士達に向かって叫ぶ。



≪お前らも早く逃げろ!怪我するぞ!≫

≪こっちじゃ!≫

≪皆早く!≫



 飛んできている矢を防ぎながらノエルとフランが兵士たちを先導する。兵士達も最初のうちは戸惑っていたが、すぐさま危険だと判断し戦場を出ていく。こういう時にプロは話が早くて助かる。



「ホウリさん!僕はどうしたら!」

「ここに残って戦いを見守るんだ。お前なら矢は無効に出来るだろ?」

「そうですけど……」

「じゃあ見てろ。お前の人生は良くも悪くもこういう事の繰り返しだ。今回の件でしっかり学んで来い。それに……」

「それに?」

「ロワの為に戦ってる仲間をロワ自身が応援しなくてどうする?」



 俺の言葉にロワがハッとする。そして、2人が戦っている戦場に目を向けた。



「……分かりました。僕はお二人の戦いを見届けます。それが、僕の義務です」



 それでいい、と俺は心の中で呟き、2人の方へ視線を向ける。

 ミエルは盾と大剣を装備しているが、鎧は着ていない。とっさの事で装備する暇が無かったんだろう。まあ、ミエルなら盾だけで十分戦えるだろう。実際に矢は全部盾でさばき切れている。

 対するペイトはありったけの矢をがむしゃらにミエルに放ち続けている。そこに戦術は無く、純粋な殺意だけがあった。




≪あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!≫

≪分かっていたが、話し合いは出来そうにないな≫



 そういうミエルの額に爆弾矢が迫る。盾を軽量化して何とか爆弾矢を防御し、ペイトとの距離を詰めにかかる。向かってくるミエルに対してペイトはひたすら矢を放ちながら叫ぶ。



≪顔も良くて!スタイルも良くて!強くて!皆に好かれて!仲間にも恵まれて!あんたは私が持っていない物を沢山持ってるくせに!ロワまで奪うつもりなの!?≫



 ペイトの悲痛な叫びが戦場に木霊する。

 そうか、ペイトがミエルに突っかかる理由はロワだけじゃない。ミエルへの巨大な嫉妬も大きな要因だったのか。

 ミエルは傍から見たら完璧超人だ。突然現れたミエルが鬼のように強く、皆と溶け込むのが早かったのを見てペイトは嫉妬した。

 そこから惚れたロワから明確にフラれた事により感情があふれ出し、ミエルを攻撃し始めたのだろう。



≪あんたさえいなければ!あんたさえいなければ!≫



 何かに取り憑かれた様にペイトは矢を放つ。一つひとつの矢がペイトの感情を表すように力強く歪にミエルへと向かう。



「ペイトさん……」



 ロワもそんなペイトから何かを感じ取ったのか、思わず声が漏れ2人から目をそらせる。



「……僕、ペイトさんの気持ちに気付いてあげられませんでした」

「人の気持ちを100%理解するなんて出来る訳ないだろ。だからこそ、知ろうとする事が大切なんだよ」

「……そう……ですね」


 

 ロワは息を大きく吐いて、再び2人に視線を向ける。覚悟が再び決まったみたいだな。



≪あんたさえいなければ!!あんたさえいなければ!!!≫



 ペイトの思いを受けたミエルは足を止める。そして、ペイトの方へ視線を向けた。

 その目にあったのは明確な怒りだった。

 ミエルは盾と剣を地面に捨てると、そのままペイトの元へと歩く。



≪黙ってたら聞いていたら勝手な事ばかり……何が顔が良いだ?何が強いだ?何が皆に好かれるだ?≫



 ミエルは向かってくる矢をそのまま体に受ける。だが、矢は深くは刺さらず、全て地面に落ちる。



≪死ね!あんたなんか死んでしまえ!≫



 爆弾矢がミエルに直撃し爆発する。しかし、着ている服が少し焦げるだけでミエルは歩みを止める事は無い。



≪貴様は好きでもない奴に毎日迫られる気持ちが分かるか?受け持った小隊が力不足で魔物に壊滅させられた気持ちは分かるか?波風立てないように人の顔色を伺いながら生きる気持ちは分かるか?≫



 ミエルの言葉はペイト程大きくないが、言い表せられない迫力がある。

 そんな迫力に押されたのか、ペイトの猛攻が途切れる。そんなペイトの胸倉をミエルは掴みながら叫ぶ。



≪好きな人に思いが伝えられない私の気持ちが分かるか!?≫

≪う……≫

≪自分だけが不幸なんて思ってるんじゃない!≫



 ミエルは拳を引いて叫ぶ。



≪歯ぁ食いしばれ!≫



 そのままペイトの顔面に拳を叩き込む。吹っ飛んだペイトはそのまま戦場に転がって白目を向いて気絶した。



「終わったな」

「ミエルさん!」



 ロワがミエルの元へと走る。俺も念の為、ペイトの様子を見てみるか。

 のびているペイトの元に向かい状態を確かめる。ダメージはデカいが命に別状はないな。

 頬を軽くたたいてみると、ペイトが薄く目を開けた。



≪……ここは?≫

≪戦場だ。お前はミエルにぶん殴られて気絶していたんだ≫

≪……そうか≫



 ペイトは起き上がりながらロワとミエルへ視線を向ける。



「ミエルさん、大丈夫ですか!?正面から矢を受けてましたよね!?」

「大丈夫だ、あのくらいじゃダメージにならない」

「でも、爆発もモロに受けてましたし、念のため回復しておいた方がいいですよ!」

「問題ない。ホウリと初めて出会ったときにあれ以上の爆発を何回も受けてな。その時も無傷だったのだ。今回も問題ない」

「ですが、念の為ヒールシュートで回復していた方がいいのでは?」

「分かった、そこまで言うんだったら頼めるか?」

「任せてください」



 ロワがヒールシュートでミエルを治療するのを見て、ペイトは天を仰ぐ。



≪……私の完敗ね≫

≪ああ、2つの意味でな≫



 俺の言葉を聞いたペイトが大の字で横になる。



≪……ミエルも色々と悩んでいたのね≫

≪悩みが無い人間なんていない。それが表に出ているかの違いだけだ。そういえば、ミエルがペイトの事を話していたのは知っているか?≫

≪なにそれ?≫



 俺の言葉にペイトが首を傾げる。



≪ミエルがペイトの積極的な所が羨ましいと言っていたらしいぜ?何せ、一緒にいても何のアプローチも出来ていない奴だからな≫

≪ミエルがそんな事を?≫

≪ミエルだって完璧じゃない。むしろ、俺から見れば欠点だらけだ≫



 俺は今までのミエルの失敗話をペイトにする。

 家事が苦手で特に料理が壊滅的な話、頭は良いが咄嗟の事に対処できない話、ロワにアプローチ出来ず毎日落ち込んでいる話、そんな話をペイトは目を丸くして聞いている。



≪ミエルにそんな一面が?≫

≪色んな意味で不器用なんだよ≫

≪なんだか意外ね≫

≪人の長所は目立って見えるからな。自分の欠点と同じように。ペイトも他人からいたら羨ましがられるような物を持ってるんだぜ?≫

≪……そうね≫



 ペイトは天井の証明に手をかざして拳を握る。そして、何かを決意すると起き上がって、ミエルとロワの所へと向かった。

 ミエルはペイトに気が付くと、ロワをかばうように前に出る。



≪なんの用だ?まだやる気か?≫

≪……ごめんなさい、ミエルにいきなり攻撃したちゃって≫



 ペイトが素直に頭を下げたのが意外だったのか、ミエルが言葉に詰まる。



≪え……まあ、結果的にけが人は出なかったし、良いんじゃないか?少なくとも私は気にしていないぞ≫

≪そう言ってもらえると助かるわ≫



 ペイトが頭を挙げてニコリと笑う。



≪そうだ、もう一ついいかしら?≫

≪なんだ?≫



 ペイトはミエルに耳の近くまで近寄ると、小声でささやく。



≪私、ミエルの事諦めてないから。次魔国に来た時はガンガンアタックするからね?≫

≪な!?≫



 ミエルが目を丸くしている間に、ペイトが2人に手を振りながら出口に走り出す。



「またね、ロワ」

「はい!また遊びましょう!」



 走り去っていくペイトを3人で見送る。

 こうして、俺たちが魔国で体験した大きな事件は幕を閉じたのだった。

前の茶番でミエルをヤンデレにすると言いましたが、ペイトの方がヤンデレっぽくなりました。そんなつもりは全くなかったんですが、いつものノリと勢いです。



次回はお城から旅経ちます。もしかしたら木曜日に更新するかもしれません。しないかもしれません。


カラオケ行きたい欲が高まってますが、このご時世なんでいけません。思いっきりタトバって叫びたいんですけどね。プトティラの方が良いですかね?

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