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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第1章
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第八十五話 まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ!

連続投稿4日目です。今回は証人への尋問です。

───防衛長───

防衛長とはその領地内の戦力を使い戦闘を指揮する最高責任者である。領地内に魔物が大量発生していないかの調査、魔物の盗伐などが主な仕事である。少数の魔物であれば冒険者に任せることもあるが、大量に魔物が発生した場合は防衛長の指揮の下で領地で盗伐する。また、街の中の治安維持も担う事がある。────Maoupediaより抜粋




☆   ☆   ☆   ☆




 とある地下の薄暗い部屋、とある男が2人向かい合っている。椅子に座っている男が神妙な顔で口を開く。



「失敗したようだな。どう責任を取るつもりだ?」

「確かに屋敷に電池がないのは想定外でした。しかい、まだ手がない訳ではありません」

「ほう?どういうて手?」

「全て奴の仕業にします」

「奴か。易々と協力してくれるか?」

「こちらの敗北は奴の破滅につながります。奴は協力せざる負えません」

「……次はない。どんな手を使っても勝つのだ」

「はっ!」



☆   ☆   ☆   ☆



 前の裁判から3日後、裁判所では審議が再開された。



「ホウリさん、相手は何を企んでるでしょうか」



 相手が無策で時間を稼いでいるとは思えないし、何か考えがあるに違いない。相手を見るにあまり焦っている様子は見られないし何かあると思っていいだろう。

 私の質問にホウリさんはベビーカステラを摘まみながら答える。



「さあな、案外当てが外れるかもしれないぞ」



 ホウリさんが新しいベビーカステラの袋を取り出します。



「いつも思うんですけど、そんなに食べると太りますよ?」

「逆だ。俺は食わないと痩せるんだよ。頭を回しまくってるからな」

「それは羨ましいですね。頭を使えば痩せるんですか?」

「その通りだが、簡単な事じゃないぜ?」

「覚悟はできています」

「じゃあ、百マス計算を最低で5秒で出来るようにならないとな」

「すみません、やっぱりなんでもないです」



 思ったより過酷な事してた。私にはできそうにない。というか、人間に出来るとは思えない。



「ホウリさんは相手が何してたかは知らないんですか?」

「知らね」



 どうでもよさそうにコーヒーを啜るホウリさん。今更だけど法廷で飲食っていいのだろうか。そう思っていると、国王が入ってきた。

 不味いんじゃないかと思い、ホウリさんの方を見ると、テーブルの上にあった飲食物が全て消えていた。この人はマジシャンか何かなのかな?

 国王はいつものように裁判長席に座ると木槌を鳴らす。



「これより、ローブオ・サンドの国家転覆の審議を再開する。先日の審議にて弁護側はこの写真の人物がザリオ・サンドではない可能性を示唆したが、証人は見つかったのか?」

「いえ、残念ながら写真の人物の特定は出来ませんでした」



 国王の言葉にパンケは首を振る。やっぱり、そっくりさんを見つけることは出来なかったみたいだ。だとしたらこっちの勝ちだと思うけど、相手の様子を見るにまだ何かあるみたい。



「であれば、サンドの街がこの設計図をミンティ・カモミルに依頼したことを認めるのだな」

「いえ、そこは否定いたします」

「へ?」


 

 相手の言っていることが全く分からない。息子が依頼しているんだから言い逃れできないと思うんだけど。

 国王も同じ意見らしく、弁護側へ質問をする。



「弁護側、どういうことか説明しなさい」

「被告人以外にザリオ・サンドを共謀していた人物がいました。今回の騒動はその人物の仕業です」

「その人物とは?」


 

 国王の質問に待ってましたとばかりにパンケは高らかに宣言する。



「我がサンドの街の防衛長であるマカロ・フォンです。既に証言は取れております。防衛長とは言え、彼個人では作成することは不可能なはずです。彼が設計図を依頼したのであれば、国家転覆ではなく別の理由があった筈です!」

「その人物は今どこに?」

「既に証人室に来ていますので、証言してほしいのですが、よろしいでしょうか?」

「分かった。許可しよう。10分の休廷の後にその者の尋問に移ることにする。では、一時休廷!」



 国王が木槌を鳴らし、弁護側は一度退室する。



「ホウリさん、弁護側はマカロさんに罪を擦り付けようとしているのでしょうか?」

「その言い方は正確じゃない。領主の意志で設計図を依頼した場合は国家転覆に結び付けられるが、個人で依頼した場合はその限りじゃない。あんな巨大な装置を個人で作成できないからな。そうなれば、国家転覆の意志がサンド側にあるとは限らなくなる」

「責任の所在を個人に移すわけですか。確かに有効ですね」



 それが認められると、こちらに崩す手段はない。そうなってしまうと、他の角度から攻めて行くしかなくなってしまい、不利になってしまう。



「あれ?結構厳しくないですか?」

「そうだな。今回に限って言えばマカロが全面的に認めてしまえば、こちらとしても崩す手段はない。そうなると結構厳しくなるな」



 言葉とは裏腹に余裕そうなホウリさん。明らかに何か手を打っている顔だ。



「もしかしてですけど、また何か手を打ってるんですか?」

「さあな。審議が始まれば分かるだろ」

「またそれですか。たまには素直に教えてくださいよ」

「それじゃつまらないだろ?」



 いたずらっ子のようにニヤリと笑うホウリさん。私は不満に思いながらもそれ以上は何も言わないことにした。



───10分後───

 



 10分の休廷の後、証言台には弁護側が連れてきたマカロ・フォンが立っていた。マカロさんは戦闘服を着た体格のいい男性で、見ただけで戦う人であると分かる。けど、なんだか顔色が悪い気がする。ちゃんとご飯食べてないのかな?

 国王が木槌を鳴らして審議の再開を告げる。



「これより審議を再開する。証人は名前と職業を告げよ」

「マカロ・フォン。サンドの街で防衛長をしています」

「では、弁護側は証人へ尋問を開始せよ」



 弁護側はマカロさんへ向き直ると尋問を開始する。



「証人に伺います。あなたはザリオ・サンドと共にミンティ・カモミルに設計図を依頼しましたね?」



 勝ちを確信した表情のパンケ。質問されたマカロさんは神妙な顔で口を開く。



「いえ、()()()()()()()()()()()

「……は?」



 マカロさんの答えに目を丸くするパンケ。



「……えっと、もう一度聞きます。あなたはミンティ・カモミルに設計図を依頼しましたか?」

「いいえ、依頼してません」

「本当に依頼してませんか?」

「依頼してません」

「本当ですか」

「異議あり、質問が重複してます」

「異議を認めます。弁護側は別の質問をするように」

「……え?」



 訳が分からず呆然としているパンケ。国王はそんなパンケに痺れを切らしたように言う。



「弁護側、もう質問はないか?」

「あ、えっと……」

「無いのであれば尋問は終了する。検察側は尋問するか?」

「します」

「よろしい。では、検察側の尋問を始めるように」



 弁護側の尋問が打ち切られ、こちらの尋問が始まる。正直、私も何が行われているか分からない。

 尋問を認められた瞬間、ホウリさんは再び検察席を飛び出して、マカロさんの横へ立つ。



「マカロさん、あなたは防衛長といいました。普段はどのような仕事をしていますか?」

「本来は領地内を治安維持をしています。しかし、ここ2年間は違います」

「ほう?どのような事をしていますか?」

「!?、異議あり!本件に関係のない質問です!」

「本件の論点はサンドに国家転覆の意志があったかどうかです。領地内の重要人物である証人に領地内の事を質問するのは自然な事です」

「弁護側の異議を却下します。検察側は尋問を続けるように」



 明らかに焦りの色が見えるパンケ。隣にいるローブオも顔を青くしている。

 そんな2人を無視してホウリさんは尋問を続ける。



「続けます。2年前から具体的にどのような仕事をするようになりましたか?」

「領民からの税金の取り立てが主になりました」

「税金の取り立て?それは防衛長の仕事ではないと思いますが?」

「ある日、領主から税金を2倍にするというお達しが出ました。俺は反発する人から無理やり税金を取り立てることを命じられました」



 マカロさんの発言に傍聴席の偉い人達がざわめき始める。当たり前だ、それが事実ならば早急に資金を集めていたことになるし、そもそも王都の許可なく税金を重くするのは犯罪だ。



「静粛に!静粛に!検察側は尋問を続けるように」

「分かりました。そのようなするのは心苦しかったでしょう」

「はい、なので今回告発することにしました」

「とても勇気のいることだと思います。ちなみに、領地内で何か巨大な装置を建造していませんでしたか?」

「はい、領主様の屋敷の中に建設されていました」

「……マカロ、その発言をする意味は分かっているな?」



 今まで黙っていた弁護席のローブオがマカロに凄みを効かせる。



「……俺は自分が正しいと思ったことをするだけだ」

「バカな奴め。貴様はもう終わりだ」

「おーい、今はこっちの尋問中なんだが?楽しい雑談は裁判後にやってくれないか?」



 ホウリさんの言葉にローブオが黙りこくる。完全に流れがこちらに来ている。

 ホウリさんはローブオが黙ったのを見ると尋問を再開する。



「尋問を再開します。その装置はこの設計図の装置と同じですか?」

「はい、同じです」



 ホウリさんから渡された設計図を見て首を縦に振る。



「以上です」



 ホウリさんは満足そうな表情で頷いて検察席へと戻ってくる。



「えっと、なにがどうなったんですか?」

「飼い猫に手を引っ搔かれたって感じだな。相手は崖っぷちどころか崖の端を掴んでいる状況だな。いやー、ラッキーだったな」

「わざとらし過ぎて逆に偶然なんじゃないかと思いますよ」



 そんな事がないのは私にもわかっている。あれ?でも妙だな?



「ホウリさん、相手がマカロさんに設計図の件をなすりつけることは裁判前には決めていた筈ですよね?」

「確かに裁判中に決めたとは考えにくいな。恐らく裁判が決まった時からの計画だろうな」

「だとしたら、重要な証人であるマカロさんと簡単に接触できるとは思えないんですけど、どうやってマカロさんに接触したんですか?」



 ホウリさんに質問した私だったが、どうせまたはぐらかせるんだろうと思っていた。しかし、ホウリさんはニコリと笑うと種明かしを始めた。



「簡単な事だ。裁判が決まってから会えないなら、裁判が決まる前に会えばいい」

「そんな事できるんですか?」

「俺は憲兵じゃないからな。個人の方が調べやすい事もあるんだよ」

「でもどうやって説得したんですか?偉い人が寝返るなんて相当な事だと思いますけど?」

「そこはマカロの知られたくない所だ。聞きたいなら本人に聞け」



 ホウリさんが珍しく真剣な表情をする。

 ……そんな顔をされると何も聞けなくなっちゃうじゃないですか。



「わかりました。これ以上は聞きません」

「そうしてくれると助かる」

「検察側、もう打ち合わせはいいか?」

「すみません、大丈夫です」


 

 長話を国王に咎められる。理由は分からないが、相手の切り札を潰して大ダメージを与えられた。こちらが有利といった所だろう。

 証言を聞き終えた裁判長は木槌を叩く。



「マカロ・フォンの尋問は以上にする。弁護側、検察側ともに何かあるか?」

「……ありません」



 頭を抱えながらつぶやくパンケ。そんなパンケを見ながらホウリさんは晴れやかな表情で宣言する。



()()()()

「……は?」



 予想外の言葉に私は間抜けな声が出る。今のままでも相手に勝ち目はほぼない。こちらから仕掛ける必要はない筈だ。ホウリさんは一体何を考えているんだろう?

 だが、私は知らなかった。この裁判で重要なのはこの後の証言だという事を。

飼い猫に手を引っ搔かれるとは、飼い犬に手を噛まれるの異世界バージョンです。この世界に犬はいませんので、犬の慣用句は猫で代用されてます。犬好き激怒ですね。


次回は弁護側をボコボコにします。今もボコボコ?まだ殴れるでしょ?


ブックマーク登録者の方が一人増えました。あまり書いた事ないかもしれませんが、ブックマーク、評価、本当に感謝してます。これからもよろしくお願いします。

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