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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第1章
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第七十九話 諦めたらそこで試合終了

今回は大会2日目の夜です。少し趣向を変えてロット視点でお届けします。

───フレズ・シャルン───

フレズ・シャルンとは、ロット・シャルンの妹である。義務教育を終えてからロットの木こりの仕事を手伝っており、伐採されたきの加工をしている。筋骨隆々な兄と対照的に、華奢で可愛らしい見た目をしており、男女問わず人気が高い。また、両親とは死別しており、肉親は兄のロットのみである────Maoupediaより抜粋




☆   ☆   ☆   ☆




これは、闘技大会2日目が終わった後の話。ホウリとフランが何をしていたか、今こそ語っていこう。




☆   ☆   ☆   ☆



「……ここか」



 俺の名前はロット・シャルン。俺は今、王都の住居エリアから外れた廃墟の前に立っていた。周りにも多くの廃墟があり不気味な雰囲気を漂わせている。

 俺はもう一度持っていた手紙を読み返す。そこには短い文書が書かれていた。



〈今夜12時、武器を持たずに書かれている住所に来い。さもなくば妹を殺す〉



 俺は手紙をグシャリと握りつぶす。

 始まりは2週間前、俺がいつも通り木こりをして家に帰ると家の中は荒らされており、妹の姿もなくなっていた。そして、テーブルの上には一枚の手紙が置いてあった。



〈闘技大会に出場し決勝で棄権しろ。さもなくば妹の命はない〉



 手紙を見たとき、俺は思わずテーブルをたたき壊してしまった。

 誰が妹をさらったのかは分からない。だが、俺が決勝に行けなかった場合、妹は殺されるのは家の惨状を見るに間違いないだろう。

 そういう訳で俺は妹を救うために王都にやってきた。まさか、今まで拒み続けた闘技大会にこんな形で出場するとは思わなかった。

 周りの選手が真剣に戦っている中、俺だけ不純な動機で戦っている気がしてならなかった。心の中が締め付けられながらも俺は必死で戦って決勝まで行く事が出来た。

 そして今日、俺が宿に戻るとさっきの手紙があったという訳だ。手紙の内容通り、俺は斧を宿に置いてきてここにやってきた。

 時計を取り出して時間を確かめる。約束の時間まで後5分か。



「……フレズ」



 妹の名前を呼び夜空に浮かぶ月を眺める。必ずお前を助けてやるからな。

 決意を固めていると、急に後ろに気配を感じる。とっさに振り向くと全身黒の服を着た男が纏わりつくような視線で見てきながら口角を上げていた。



「おうおう、まだ時間じゃないぜ?」

「……フレズはどこだ?」

「さて、どこだろうね?」



 ニヤリと笑う男に怒りが湧いてくる。だが、妹を助けるためだ。冷静に頭を動かそう。



「……要件はなんだ?」

「ああ、要件。要件ね。忘れていた」



 男は頭に手を当てて大げさに頭を揺らす。人を馬鹿にしているようだが、態度があからさまだ。おそらく、俺を怒らせて判断力を低下させるのが目的か。だとしたら、ここは我を忘れずに注意するべきだ。

 男は頭を揺らすのを止めると、手を上に伸ばしてパチンと鳴らした。

 瞬間、周りの廃墟から武器を持った奴らが続々と現れた。男はニヤついた表情を張り付けながら口を開く。



「お前はここで死んでもらう」

「……貴様!」

「おっと、抵抗すれば可愛い妹ちゃんの命はないぜ?ま、斧が無い斧神が抵抗しても無駄だけど?」

「……くっ」



 武器を持った奴らがジリジリと距離を詰めてくる。数は確認出来るだけでも10人、恐らくまだいるはずだ。

 まずい、男の言う通り斧がない状況で相手するには数が多い。それに、斧があったとしても妹を人質に取られている以上は手が出せない。絶体絶命だ。

 男は追い詰められている俺を見て笑みを深くする。



「楽しいみだなぁ、これから神級スキルの使い手が何もできずに死んでいく姿はぁ」



 男がもう一度指を鳴らし、周りの奴らが一斉に襲い掛かってくる。

 


「死ねぇぇぇぇぇ!」



 振り下ろされる鈍器と剣を受け止める。すると、背中に鋭い痛みが走った。背後に目を移すと長槍を振り下ろしている奴がいた。幸いにも血は出ていないが、これが続くと流石に厳しい。どうにか手はないか。



「あ?切りつけられても無傷だと?これは骨が折れそうだな?おい、いつもの出せ」

「はい!」



 男が部下らしき奴に命令をして弓と矢を持ってこさせる。

 男は弓を引き絞ると俺に向かって狙を付ける。



「避けるんじゃねぇぞ?妹を助けたかったらな」



 男の言葉を聞いて襲い掛かっていた奴らが一斉に俺から距離をとる。当たれば致命的な何かであるのは間違いない。だが、避ける訳にもいかない。

 俺は体に力を込めて衝撃に備える。



「いくぜー、おら!」



 狙いが定まっていない矢を肩で受け止めにいく。こいつ、弓の腕はあまりないようだ。



「あー?心臓を狙ったんだがな?なんで肩に当たってんの?あの矢、絶対不良品だぜ」

「……貴様の腕が悪いんだろう」

「は!そんな口が利けるのももう終わりだ」



 男がニヤリと口角を上げる。すると、全身が電気が流れたように痺れ始め、同時に針で刺されたような痛みが走る。立っているのがやっとだ。



「……なんだ……これは?」

「これか?超強力な痺れ薬だ。痛みと痺れを同時に与える優れものなんだぜ?本来なら息をするのも難しくなるが、立ってられるのは流石ってやつだな」



 男は笑顔のまま再び指を鳴らす。



「やれ」

「ひゃっはぁぁぁ!さっさとくたばりな!」



 再び俺に剣が振り下ろされる。また、腕で防御を……ダメだ、薬で腕が上がらない。



「おら!っと固てぇなこいつ。剣で切り付けても血すら出ねえ」

「刃物の効きが悪いんじゃないか?。このモーニングスター使ってみろよ」

「サンキュー。さっさとこいつを始末して攫ってきたこいつの妹でお楽しみといこうぜ」

「……フレ……ズ」

「今度こそ死ねぇぇぇぇ!」



 俺の頭に強い衝撃が走り視界が真っ赤に染まる。



「今度こそくたばったか?」

「…………」


 

 俺は頭のモーニングスターを握り潰し、目の前の奴をにらみつける。



「ひぃ!?」

「……フレズに手を出してみろ。お前らを殺す」



 モーニングスターを持っていた奴が腰を抜かして後退りする。砕いたモーニングスターを投げ捨てる。



「ひ、怯むな!相手は何もできない木偶だ!さっさと始末しろ!」

「お、おう!」



 武器を持った奴らが一斉に襲い掛かってくる。虚勢を張ったのはいいが、打開策が全く思いつかない。



「死ねえ!」



 槍が眼前に迫る。……ここまでか。すまない、フレズ。

 槍を睨み見つけながら死を覚悟する。瞬間、



「1人に複数人は卑怯じゃないか?」



 突然、黒い影が表れ槍を蹴り飛ばした。



「……お前は?」

「よう、大変そうだな。助けにきたぜ」



 影の正体は決勝戦の相手であるパイナだった。

 パイナは何が起こっているか分からずに呆然とする奴らを殴り飛ばし、男に指を向ける。



「フレズは救出した。もう観念するんだな」

「な!?なんだと!?」



 視線を宙に向け、落ち着きがなくなった男に鉄仮面が笑いながら話す。



「念話が通じないか?なんでだろうな?」

「ま、まさか本当に!?くそっ!確認してこい!」

「へい!」



 うろたえる男を無視しパイナは俺の方へ向きなおり何かを突き出してきた。



「……これは?」



 月明かりに照らされ、パイナの手に握りられた物が業物の手斧だと分かった。

 驚きつつパイナを見るが、表情は鉄仮面で分からない。だが、不思議とさっきまでの絶望は綺麗に消え失せていた。



「戦えるか?」

「…………」



 俺は答える代わりに手斧を手に取る。すると、パイナも真っ黒い棒状の武器を取り出して構えた。



「背中は任せたぜ」

「……分かった」



 パイナと背中を合わせるような形で手斧を構える。

 こいつがいれば負けることはない。なぜかそう確信が持てる。



「だから何だっていうんだ!1人は死にかけで数はこちらが上だ!やっちまえ!」

「三下だな。数で攻めればどうにかなると思ってやがる。ロット、準備はいいか?」

「……ああ、いくぞ!」



 目の前に迫りくる剣を手斧でたたき切る。武器を持ち変える前にこぶしを叩き込んで無力化する。



「ぜりゃああ!」



 すると、横から大剣で別の奴が切りかかってきた。俺は大剣を手斧で受け止めると横に受け流して、ガラ空きの腹に蹴りを繰り出す。



「チェーンロック!」

「……くっ」



 隠れていた呪術師によって体にチェーンロックが巻き付く。急いでチェーンロックを引きちぎろうとするが、薬のせいでうまく引きちぎれない。



「隙あり!」

「……しまった!」



 動きを止めてしまった間にナイフが眼前に迫る。だが、ナイフは勢いを失い目の前で止まった。



「何が起こった!?」



 よく見てみると、月明かりできらりと光る糸がナイフから伸びていた。糸の先を目で追うと、パイナが手に付けた魔道具から糸を出していた。



「おのれ!」

「……ふんっ!はあ!」



 この隙に俺はチェーンロックを引きちぎり、ナイフを持った奴に頭突きを食らわせる。



「この野郎!ちょこまかするんじゃねえ!」



 俺へ襲い掛かった奴の1人が、パイナの方が脅威だと判断したのか俺に背を向け、パイナの背後から襲い掛かる。



「……パイナ!」



 俺は咄嗟に手斧を投げて、パイナの背後の奴が持っている剣を吹き飛ばす。



「サンキュー。よっと」



 パイナは呪術師に狙いを変えて突進する。だが、そうはさせまいと盾を持った騎士が割り込んできた。



「……させるか!」

「ぐあっ!」



 俺は騎士にタックルしてパイナの道を開ける。

 パイナは呪術師に糸を飛ばすと持っていた杖を取り上げて、そのまま糸で手と足を拘束する。

 俺は戻ってきた手斧をキャッチして一振りで騎士の盾と鎧を破壊し気絶させた。これで、盾役とデバフ役は潰したな。



「ななななな!?なんでこんな奴らを始末できねぇんだ!?」

「どうした?万策尽きたか?」

「ええい!もっとだ!もっと人呼んで来い!」



 男の声で廃墟からさらに人が現れる。



「ど、どうだ!こっちにはまだ人数がいるんだよ!お前らに勝ち目はねえ!」



 それを見た俺は軽く息を吐き、手斧を構えなおす。



「……まだ戦える」

「そうだな。この調子なら朝まで戦えるな」

「な、なんなんだよ!お前らは!」



 狼狽した男に俺たちは答える。



「……木こりと」

「通りすがりの冒険者だ。覚えておけ」

「くそがあああ!やっちまえ!」

「「「「うおおおおおおお!」」」」


 

 敵が一斉に俺たちに襲い掛かってくる。俺は迎撃するために斧を思いっきり振りかぶる。だが、そんな俺をパイナが手で静止する。



「……どうした?」

「もう大丈夫だ。()()()()()()



 パイナがそう言うと、敵が全員一斉に倒れ伏した。その光景をみた唯一立っている男が腰を抜かして驚愕する。



「なにが起こりやがった!?てめえら何しやがった!?」

「時間切れって事だ。残念だったな」

「意味わかんねえ事いってんじゃねえ!誰か!こいつらをさっさと始末しろ!」



 俺たちを始末することをまだあきらめていないのか、男が廃墟に向かって叫ぶ。

 しかし、男の言葉に答えるものはおらず廃墟から出てくる者もいなかった。



「なんで誰も出てこねえんだよ!まだ連れてきた奴らいるだろ!」

「全員無力化したよ。廃墟に隠れている奴も本拠地にいる奴も」

「くっ!なぜ本拠地がバレた!知っている奴は限られている筈だ!」

「お前が人質を確認しに向かわせた奴いただろ?あいつの後を追って突き止めた」

「なん……だと……!?ということは、お前が表れた時には!」

「まだ人質の解放はできてなかったな」

「だったらなぜ念話が使えなかった!」

「そこらに念話を妨害する魔道具を大量に仕込んだんだよ。俺がお前らの仲間のフリしてな」

「じゃ、じゃあこの惨状は……」

「俺の仲間に化け物みたいに強い奴がいてな。本拠地を壊滅させた後にここにいる奴らを壊滅させた」

「な……」



 パイナの説明に言葉を失う男。俺はそんな男にゆっくりと近づく。



「く、来るな!来るなあああ!」



 腰を抜かして絶叫しながら後ずさる男に俺はゆっくりと近づく。



「わ、分かった!金か!金ならいくらでもやる!だから見逃してくれ!」

「…………」

「分かった!自首しよう!今までやったことも全て白状するだから命だけは!」

「………………」

「頼む!助けてくれ!俺が悪かった!」

「……………………」



 俺は土下座している男の胸倉を片手でつかみ、高く持ち上げる。



「ひい!」



 怯えている男を見据えながら俺は話す。



「……お前らは俺の妹を攫い、あまつさえ酷い仕打ちをしようとした。許しがたいことだ」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」



 うわごとのように謝罪を繰り返す男。本来であれば殺してしまいたい程に憎い相手だ。だが、



「……パイナ」

「…………」(フルフル)



 俺の言葉にパイナが小さく首を振る。確かに、ここでこの男を殺したとしてもフレズは喜ばないだろう。だから……



「……ふん!」

「ぐべえ!」



 思いっきり男を殴って廃墟の壁にたたきつける。この1発で終わりにしよう。



「気はすんだか?」

「……ああ。助けに来てくれて助かった──」



 パイナに手を差し出そうとした瞬間、安心して毒が回ったのか力が抜けて膝から一気に崩れ落ちる。



「ロット!」

「……パイ……ナ」



 遠のく意識の中で、パイナの鉄仮面と横から現れた赤髪の女の子の姿が目に映った。



「フラ……いつを治療してやっ……。別状は……が重傷だ」

「命に……ない重症とは……じゃい」

「気にす……とりあえず治……頼む」

「了……じゃ」



 こうして、俺は意識を失った。

という訳で、次回に続きます。予定では1話に収まるつもりだったんですけどね。



次回はホウリが何してたかとロットとの交渉です。



色々と漫画を読むようになってきました。ですが、種類が多くて迷ってしまいます。

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