43話 過保護な神
船から降りるとそこは港町だった。
沢山の船が並んでいて、漁業が盛んに行われていた。
船を降りたら直ぐそこに馬車が止まっていた。
王都まではこれで行くらしく、俺達はそのまま馬車に乗った。
馬車に乗る前に辺りを見回していたが、やはりみんなの頭に毛も耳があった。
うおー!本物の毛も耳じゃん!
俺のオタク心をくすぐったのか俺はとてもテンションが上がった。
馬車に乗ってしばらくしたら闘技場のような建物が見えてきた。
馬車を降りるとそこには王様らしき男とその護衛の騎士が数人、赤髪の髪に狼らしき耳が生えた気の強そうな美人な人がいた。
「ようこそ御越しくださった。人族の王よ。我はビーン大陸【王都レオス】国王アルフレッド・レオス。我々はソナタ達を歓迎する」
「これは御丁寧に、我は人族の王エリック・ゲルマニア。今宵は良い関係を築きましょう」
お互いの王様が挨拶を終え、周りの紹介に移った。
「紹介しましょう。これが今回我が国の代表となるシルフ・ウーレンです」
「御紹介に預かりました。シルフ・ウーレンです。今日はよろしくお願い致します」
「これはこれはこちらこそよろしく頼む。ではこちらも紹介しましょう。これが今回我が国の代表を勤めるシンです」
「シンです。こちらこそよろしくお願い致します」
そこからまた他の紹介に移り少し他愛のない話をした後、俺は控え室に通された。
話が長かったので控え室で椅子に座り一息つくと
「ねぇ」
俺の対戦相手である。シルフ・ウーレンが俺の控え室に入ってきた。
「何でしょうか、シルフさん」
「敬語はいいわ。楽に話なさい」
先程とは打って変わって話し方が違うな。
「そうかい。それで、何のようだ?」
「別に、ここに来るまでにあんたの噂を聞いたけど大したことなさそうね」
いきなり来といて失礼な奴だな。
「噂?」
「そう、500を越えるワイバーンの群れを一撃で倒したり一日で魔王を服従させたとか聞いたけど、所詮は噂ね。あんた強そうに見えないもの」
「人は見掛けで判断しないことだな」
「ならいいけど」
するとシルフは少し間を置いて
「大体おかしいのよ。人族と平和条約を結ぶなんて。王様は何を考えているのよ」
どうやらシルフもこの決闘が半分出来レースだというのは知っているらしい。
「なんで自分たちより劣る種族と仲良くしなきゃいけないわけ?私達より下等なくせに」
俺はその言葉にピクッと反応した。
「なあ」
「なによ?」
「人族が亜人族に劣るなんて誰が決めた?」
いくら俺でもそこまで言われたら少しイラってくるな。
「はあ?」
「自分たちの方が強いなんて勝手に決めてるおまえらの方がよっぽど頭が悪そうに見えるな」
「何ですって!!」
「少なくとも自分たちの方が強いなんて思っているどっかの誰かさんには、俺には勝てないな」
「言ってくれるじゃない.......いいわ、決闘であんたをボコボコにしてあげる。覚悟しときなさい」
そう言ってシルフは部屋を出ていった。
面倒な奴と決闘することになったな。
俺がそんなことを思っていると急に部屋に眩しい光が現れた。そこには茶髪に犬の耳が生えた人がいた。
「君がシン君だね。僕は亜神アルマニア、君に血を分けた一人だ」
亜神ってことは亜人族の神か。
「亜神が俺に何のようだ」
「君に頼みがある」
そう言ってアルマニアは頭を下げ
「頼む!この決闘、シルフに勝たせてくれ」
「は?」
え、なに言ってんの?
「実は僕はたまに暇で亜人達の暮らしを覗いたりするんだ」
神様のくせに暇なんだな。
「そこで僕は見たんだよ。美しい女神が産まれた瞬間を。そう、それがシルフちゃんだ。僕は一目見て俺の心は打たれた。そして同時に思ったんだ。こんな可愛らしい娘を放っておいたら他の男に襲われちゃうと。だから僕は彼女に俺の加護を出来るだけあげて自分の身を守れるようにした。そして何時までもこの神を崇めていようと。そう、彼女こそが神だ!」
神はあんただろうが。ていうか神が神を崇めるってどうなんだ?
「でも僕はやり過ぎた。彼女に加護を与えすぎたんだ。今は戦う敵が弱いからまだいいものの、君みたいな奴と戦うと彼女は無理をしてあのスキルを使う恐れがある。かといって瞬殺されてしまうと彼女の自信が粉々に砕けてしまう。だから頼む!ここは彼女に勝たせてくれ」
いやそれ加護を与えすぎたあんたの責任じゃね。
「ならその加護を消せないのか?」
「一度付けた加護は消せないんだよ」
後先考えて付けろよ。
「悪いが俺もあそこまで言った手前、負ける訳にはいかないんだ」
あんなに大口叩いておいてボロ負けとか情けなさすぎるわ。
「むぅ、だったら勝ってもいいからせめて接戦を演じてくれ。それなら彼女も満足するだろう」
いいんだそれで。
「....それならいいけど」
「そうか、ではそれで頼むよ。くれぐれも彼女を暴走させないようになね」
そう言ってアルマニアは消えていった。
なんだろう、この世界の神ってろくなのがいないな。
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