7話
「やっぱり、ここに来るのか」
気がつくと予想通りあの台座の部屋に来ていた。昨日と変わっている所は無く、あるのはガラス玉の乗った台座と俺とアンの部屋の扉だけだ。
アンの時と同様にあの子も来ていた。自分の体よりも何倍も大きかった翼は背中に隠れるくらいの大きさになっており、まだ目覚める気配が無い。
「なんだ、これ?」
彼女の右腕を見ると青、黄色、ピンクの3本のリボンが巻きついていた。そういえば海見たいな場所にいた時、腕に何か引っかかっていたのを見た。大量の情報に隠れてよく見えなかったがこれも情報のようだ。これは……
「うっ……」
どうやら、彼女が気がついたようだ。
「大丈夫? 怪我は無い?」
「……どうして助けたの?」
「えっ?」
彼女は起きた途端にそう言った。
「どうして私を助けたの‼︎ 私はもうあっちにもこっちにも関わりたくないのに‼︎ もう……私には何も無いの…… それに、私のせいで誰かが死ぬのを見るのはもう嫌……」
膝を抱えて泣く彼女はそのまま消えてしまうんじゃ無いかというほど弱々しかった。こんな状態の女の子に聞くのは酷だが、俺はずっと思っていたことを聞くことにした。
「……君はもしかして翼って名前、だったりする?」
「ヒック……私の名前を知ってるってことはあなたも私を捕まえに来たの?」
彼女は泣きながらも俺を親の仇の様に睨みつけてきた。
予想は的中した。ありえないと思っていたがさっきまでいた世界がどうしても似ていたのだ、『fallen angel』の世界に。正確には、あの壊れた街や海みたいな場所、彼女自身も全く同じという訳ではない。
『fallen angel』の天使翼は茶髪のショートヘヤーで顔立ちも彼女と若干違う。街並みも未来設定なのか奇抜なデザインの建物ばかりだったがあの世界で見た街は俺がよく知る普通のビルだった。あの海見たいな場所が電子の世界だとしても『fallen angel』の電子の世界は暗い星空みたいな場所だった。それでも俺が彼女を天使翼だと思った理由は2つあった。
1つは背中にある翼。『fallen angel』で電子の世界にいる時の天使翼は背中に真っ白な翼を生やしていた。彼女の翼は『fallen angel』の天使翼と酷似している。もう1つは彼女の右腕に巻かれたリボンだった。
「俺は君を捕まえに来たわけじゃないよ。それに、君の名前を知ったのは君の腕に巻かれたリボンを見たからだよ」
「リボン……‼︎」
彼女はリボンを見て驚愕していた。そのリボンは彼女へのメッセージだった。
『翼、頑張って』
『諦めるな、翼』
『翼ちゃん、負けないで』
青、黄色、ピンクのリボンにはそう残されていた。
「どうして……お父さんもお母さんもみーちゃんも私のせいで殺されたのに……」
俺は読むことは出来たが、彼女にはこの情報が誰から来た物かもわかるようだ。
「『人間の思考が電気信号でしかないのなら肉体を捨てれば電子の世界に行くことは可能である』だっけ?」
「なぜ、それを知ってるの? それはフランクリン博士以外知らないはずなのに……」
俺が知っているのは『fallen angel』で見たからだ。ちなみに、『fallen angel』ではフランクリン博士ではなく高杉教授だった。
「俺は幽霊や魂っていうのが本当にあるのかは知らない。でも、人の思考が電子の世界に行けるなら人の想いが情報として残るってこともあるんじゃないのかな?それと君が情報を取り込んで沈みそうになってたのを止めてたのもその情報だったよ」
「そんな…… 私のせいでみんな死んだのに…… どうして……」
彼女は本当にわからないようだった。こんな簡単なこと誰にだってわかることだ。だから俺は彼女にこう言った。
「君の事を大事に思っていたからだよ。じゃないと文字通り死んでも君を守ろうとなんてしない。君はみんなに愛されてたんだよ。君はさっき俺にどうして助けたの、て言ってたけど君を助けたのは俺なんかじゃない、君を助けたのは君を大切にしていた人達の情報(想い)そのものだよ」
彼女の目から堰を切ったように涙が止めどなく流れていった。
「お父さん、お母さん、みーちゃん…… ありがとう……」