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救われぬ彼女達に救いの手を  作者: アニキ
マッチ売りの少女
3/8

3話

「……夢か」


 目覚めると俺はちゃんと自分の部屋のベッドにいた…… 当たり前だな。それにしても変な夢を見たものだ。夢だからってあんなイッちゃってるマッチ売りの少女と遭遇するなんて嫌すぎる。

 まぁ、マッチ売りの少女の状況を考えると寒さと栄養失調と疲労とストレスなどで正常な判断が出来なくなっていてマッチの火を見て温かい物の幻覚を見てもおかしくは無い。お父さんに腐ったネズミ肉を食わそうとするのが温かい物なのかは知らないが。


「でも、あれは酷いよな。レイプ目したイッちゃってるマッチ売りの少女とか子供に読み聞かせ出来ないだろ」


 そんな事を言いつつスマホの時計を見ると朝の5時だった。いつもより2時間も早く起きたようだ。

 俺は体を起こしベッドから出ようとすると床で寝ている女の子を見つけた。その女の子は夢で見たマッチ売りの少女(ラリ)だった。どうやら夢ではなかったらしい。動揺し過ぎてしばらく思考がフリーズしていたが、彼女を起こしてみないことには話しが進まないので起こすことにする。


「君、大丈夫?」


 そう喋りかけながら肩を揺すっていると身じろぎしながらも彼女が起き上がってきた。


「……お母さんと七面鳥と腐ったお父さんは?」

「お父さんと腐った肉が混ざってるぞ。それは君の見た幻覚だよ。そんな事より君の名前を教えてもらえる?」

「……」


 彼女は何も返事をしないでこっちを訝しげに見つめている。言葉が通じていないのか? いや、よく考えると彼女の立場に立てば気づいたら知らない場所にいて知らない男が話し掛けてきているのだ。怪しまない方がおかしい。


「ごめん、自己紹介がまだだったね。俺は剣流星、16歳だ」

「……アン、13歳」


 良かった、言葉は通じるようだ。外人さんなアンと言葉が通じているのはおかしい事だが、そもそもおかしい事は既に山ほどあるのだから今更だ。それと年下だとは思わなかった。正直、俺よりも年上かもと思ってたから驚きだ。


「アン、信じられないだろうけどここは日本の俺の部屋で君がいたあの街じゃない……ちょっと待って、俺もうまく説明出来ないから少しまとめる時間をくれ」


 俺にとっても荒唐無稽な事だ。さて、どう言ったものだろうか…… 俺はうーんと唸っているとアンから声を掛けられた。


「リューセイが私を助けてくれた人なの?」

「ん?いや、まだ何もしてないから助けるも何もないんだけど」

「でも、言ってたよ。助かって良かったって」

「どういう事?」


 アンの話しを聞くとマッチの火が消えて気を失う前に光の中で知らない人の声で「助かって良かった」と聞いたらしい。


「でも、よく思い出してみるとリューセイの声じゃなかったと思う。他の人の声も聞こえた様な気がするし」

「そっか。でも、いきなり倒れたから死んでしまったのかと思ったよ」

「いや、死にそう」


 ぐぅ〜とアンのお腹から音が聞こえた。


「食事、準備するね」


 アンは恥ずかしそうに頷いていた。


 ——————————


 朝食を食べ始めたのは7時頃だった。朝食の前にまず、アンには風呂に入ってもらった。大分汚れている上に言っては悪いが少し臭うのだ。女の子にそれを直接言うのは憚られるので服を洗うからと言う名目を使った。そうとうお腹が減っているのかずっとぐぅぐぅなるので食パンを一枚渡すとすごい勢いで食べてしまった。

 少しだけお腹が満たされて思考力が戻ってきたのか今度は質問の嵐。風呂の入り方を教えている時も何で水が出るのか、これは何で出来ているのかなどまくし立ててくる。面倒になり、そういうもんだと言い聞かせ風呂から出た。


 アンの服を洗濯機に入れてスイッチを入れる。もしかしたら洗濯機で洗っちゃいけない生地かもしれないけど、わからないので気にしない事にした。なるべく見ないようにはしていたがアンの履いていたパンツはカボチャだった。何度も呼ばれるのでその度に汚れが酷くなってきたら1度洗い流せだの髪が泡立つまで洗えだの答えていく。

 終わったら後ろを向きつつバスタオルを渡して体を拭かせて服を着させた。俺のTシャツと短パンだがさっきの汚れた服を着させるよりはマシだろう。着替え終わったとのことで振り返ると、そこには見違えるような姿のアンがそこにいた。暗い茶色かと思った髪は明るい栗色になり、肌は白人特有の透き通るような白なのだろうが、サイズが合わない服からのぞくそれは風呂上がりでピンクがかり少し色っぽい。アンが着ていた服はサイズが合っていなかったのか気づかなかったが、意外と胸も大きめでTシャツを押し上げて自己主張している。ついでに言うと、ブラを着けていないのでその上からさらに自己主張している物が見えるがあまり見ないことにする。色々とマズすぎる。


「どうしたの?」

「あぁ、悪い。見惚れてた」


 そう言うとアンは顔を赤くして俯いてしまった、初心な子だ。鏡をみると俺の顔も赤かった。俺も初心な子のようだ。


 そんな事もあり食事は今に至る。朝食はご飯にスクランブルエッグ、昨日の残りのハンバーグとサラダだ。俺の料理スキルで用意出来るのはこんな物しかなかったがアンは大喜びで食べていた。


「すごく美味しいよ、リューセイ!リューセイは料理出来るんだね!」

「いや、俺作ったのスクランブルエッグだけだしスクランブルエッグを料理と言うにはちょっと戸惑うな」

「この卵も美味しいよ、赤いのかけたらもっと美味しいし。ありがとう、リューセイ!」

「どういたしまして」


 そんなに量もなかったので朝食はすぐに終わった。牛乳を飲んでいるとアンから話しかけられた。


「ねぇ、リューセイ。ずっと気になってたんだけどこの腕輪なに?」


 そう、腕輪だ。敢えて無視していたが起きた時にはもう着いていた。アンの腕にも着いていた。細い腕輪で真ん中に小さい透明なガラス玉が着いている。外そうとしても外れず肌とくっついてるんじゃないかというレベルだ。


「俺もわからないんだよね。嫌かもしれないけど取れるまではこのままでいるしかないよ」

「うぅん、嫌じゃないよ。私、アクセサリーって持ってなかったから少し嬉しいんだ」


 そう言ってアンは嬉しそうに腕輪を触る。すると腕輪のガラス玉が光りだしアンは消えてしまった。


「アン‼︎」


 俺は咄嗟に叫んでしまった。するとアンは元いた場所に戻っていた。


「大丈夫か、アン‼︎」

「ビックリしたけど大丈夫だったよ」

「良かった。でも、どこに行ってたんだ?」

「私の部屋」

「アンの部屋?」

「そう、でもお母さんがまだ生きてた頃の部屋だった。あの頃は本当に幸せだった……」


 アンは悲しげに俯いてしまった。


「良かったら、アンの事聞かせてもらえる?」


 そう言うと、アンは小さく頷いた。


 アンの住んでいた場所はバリー村という他の村より大きな村でアンはそこで両親と3人で貧しくても幸せに暮らしていたらしい。

 10歳になった頃、母親が病気で亡くなった。その頃から父親はアンに辛く当たるようになった。最初はお母さんを亡くしてお父さんも辛いのだろうと思ってガマンしていた。だがこの父親、実はギャンブル依存症で稼いだお金をほぼギャンブルで使っていたらしい。

 母親がいた頃はしっかり手綱を持たれていたのでギャンブルをしていなかったがその母親が死に妻に先立たれた悲しみもプラスされギャンブルをまた始めてしまったようだ。家に生活費を入れないのでアンは森に入り果物や野草を取ったり編み物をして出来た物を売って毎日の糧としていた。


 13歳の誕生日を迎えた日、事態は急変する。夜目が覚めると話し声が聞こえたのでドア越しから聞き耳をたてると父親が誰かと話しているようだった。内容は自分を売るという話しだった。父親は借金をしてまでギャンブルをしていたのだ。

 それを聞いたアンは近くにある物を纏めると窓からそっと抜け出し家を出たそうだ。ひたすら歩き続けて数日後にようやく街に着いたはいいが自分を雇ってくれる所も無く、疲れと寒さで意識が朦朧としている時に俺に会ったらしい。


「そうだったんだね……」


 本当に大変だったのか涙を流しながら話し終えたアンに俺はそう答えた。正直マッチ売りの少女だと思っていたのでマッチ売ってないのかよとも思ったが、普通に考えると街に住んでるなら食べ物買うついでに雑貨屋でマッチ買うよなと思う。

 

「ねぇ、リューセイ。私どうしたらいい?」


 縋るような目で俺を見つめるアン。


「正直厳しいんだよな。父さん達は今じいちゃんの家に行ってていないけど戻ってきた時に何て説明したらいいのか……」

「そんな……」


 突発的とはいえ連れて来てしまったのだからなんとかしてあげたい気持ちはあるが、いきなり知らない外人さんを住まわせてくれと言っても納得しないだろう。しかも、住民票も国籍も無い身元不明の女の子ときたら何か危ない事件に関係してるんじゃないかと疑われてもしょうがない。


「あれ? そう言えばさっき消えた時、自分の部屋に行ったって言ってたよね?」

「そうだけど……」

「もう1度行ける?」

「分かんないけどやってみるよ」


 不安そうな顔をしてるけどアンは頷いてくれた。


「さっきアンが腕輪に触った時に消えたから今回も同じようにやってみて。あっ、もしかしたら俺も行けるかもしれないから手を握っててもいい?」

「いいよ」


 俺は優しくアンの手を握る。


「男の人と手を繋ぐなんて初めてだよ」

「俺も家族以外の女の人と手を繋ぐなんて初めだよ」


 そう言ってはにかみながら笑うアンを見て俺は少し安心する。やっぱり泣いてる顔よりも笑ってる顔の方がいい。


「それじゃあ、やってみるね」

「どうぞ」


 アンが腕輪に触れたその瞬間、景色が変わった。


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