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歪曲の終焉者  作者: 荒薙裕也
ツミキの町の終焉者
4/4

 なんだろうね? なんで、こんな暑い日には、冷えた麦茶がとても美味しく感じるんだろうね?

 がぶがぶといくらでも飲めちゃうから、お腹ポッコリしちゃうよ。


「おかわり、要ります?」

「あ――、ありがとうございます。もう大丈夫です」


 私が遠慮すると、女性教諭は可笑しそうに笑う。

 さすがに、来ていきなり麦茶三杯もおかわりしてれば笑っちゃうよね……。

 暑さとか関係なく、耳が熱いよ……。

 とりあえず、今回訪問した経緯を話そうと、私は居住まいを正す。

 師匠も言っていたけど、人間、第一印象が大事だ。

 きちっとしたところは、きちっと見せないといけない。

 うん、もう手遅れな感じはあるけど……。


「申し遅れました。私、仲木戸景と申します。今回は、この町で起こっている歪曲を終焉しに参りました。どうぞ、よろしくお願い致します」

「これは、ご丁寧にありがとうございます。私は、この学校で教鞭を執る堀内加奈(ほりうち かな)と申します。こちらこそ、よろしくお願い致します」


 丁寧にお辞儀される。

 うん、すごく丁寧で優しそうな人だ。

 私は若輩者の終焉者だから、結構色んな所で侮られることが多いんだけど、この人には、それがないように感じる。

 高校生をいつも相手にしているからかな? 大人の余裕みたいなものがあるよね。

 私は、『堀内加奈さんは良い人』と心のメモに走り書きしつつ、さっと切り出す。


「実は、今日、この学校を訪れたのは、この町で起こっている歪曲についてのお話を聞こうと思って来たんですけど……、堀内先生はこの歪曲については認識していますか?」

「えっと、多分、コレのことですよね?」


 そう言って、堀内先生は自分の頭の上にある三段の積み木を弄ってみせる。

 おー、あれって触れるんだね。

 てっきりイメージ的な奴で実体はないと思っていたよ。

 それに、弄っても落ちないってことは、やっぱり勝手に落ちたりはしないんだね。

 どうでも良いことかもしれないけど、少しすっきりしたよ。


「その積み木が乗り始めたのは、多分、三週間ほど前のことだと思うんですが、その時のことは覚えていますか?」

「えぇっと――」


 虚空に視線を向ける、堀内先生。

 視線は左上かぁ。左上は心理学でいうところの過去のイメージの想起。

 嘘をつこうとしているのなら、右上を見るから、この人は本当に過去を思い出そうとしているんだろうね。


「私の頭に積み木が乗り始めたのは、能見先生の頭に積み木が乗った二日後だったから……。そうですね。確かに三週間前ぐらいですね。乗った瞬間は分からないんですけど、朝起きて、鏡を見たら既に乗っていました。ただ、その時はまだひとつだけでしたけど……」


 何だか、気になる箇所が幾つも出てきたぞ……。

 ひとつずつ解決していこうかな。

 欲張るとろくなことがないと、いつもパチンコから帰ってきた後の師匠も言ってるし。


「失礼ですが、堀内先生よりも先に、能見先生という方に積み木が乗り始めたと?」

「えぇ、はい。……というか、多分、学校で一番始めに積み木が乗り始めたのが、能見先生だったと思います。一応、念の為、診察を受けるといって学校を早退したことを覚えていますから。その次の日ぐらいからですかね。ポツポツと頭の上に積み木を乗せている人が増え始めて、三日目にはもう全員、頭の上に積み木が乗っていて、そして誰も気にしなくなりました」

「うーん。なるほど。参考になります」


 多分、最初の犠牲者が能見先生か、第一容疑者が能見先生のどちらかだと思うんだよね。

 それで、二日目に、歪曲の力を試して実験した結果、色んな人の頭の上に積み木が乗った。

 三日目には、多分、要領を掴んだんじゃないかな?

 町ひとつに影響が与えられることを知って、実行したってところだと思うけど……。

 もしかしたら、今の私の考えよりも、行動自体は一日早いのかもしれない。

 堀内先生は、寝て、起きたら、積み木が乗っていたと言っていた。

 つまり、前日に歪曲の力を使うことによって、指定した人間の頭の上に積み木が積み上げられる――と、そういうことなんじゃないだろうか。

 でも、積み木を積み上げてどうするんだろうね?

 赤ちゃんは喜ぶかもしれないけど。

 うーん、歪曲が起きた原因に全然迫れていない気がする。

 でも、なんだか、この高校は怪しいって感じがピーンッとはしているんだよね。


 ……と、もうひとつ気になっていることを聞いておこう。


「堀内先生の頭の上に、積み木が乗ったのは、能見先生の頭に積み木が乗った日から、二日後なんですよね?」

「えぇ、そうです。二日目には、積み木が乗っている人と乗っていない人がいて、三日目には全員の頭の上に積み木が乗っていたんです」


 つまり、この歪曲は完全自動で発動しているんじゃなくて、狙った人の頭の上にだけ積み木が乗せられるってことでいいのかな?

 三日目に、町の人全員の頭の上に積み木が乗っていたというのは、それを悟らせないためのカモフラージュか……、それとも町の人全員に何らかの影響を与えるために積み木を乗せたのか……、のどっちかだと思う。

 前者だと良いんだけど、後者だと怖いなぁ。

 相手の頭に積み木を乗せるだけで、みんな姿勢が自然と良くなります、とか、そういう影響ならまだ微笑ましいのだけど、そうじゃないとなぁ、不安だなぁ……。


「あと、先程、最初に乗っていた積み木はひとつだけと仰っていましたが、その積み木の数は徐々に増えていくんですか?」

「それも、良く分からないんです。一日で幾つも増えたという方もいらっしゃいますし、私の場合は徐々にひとつずつ増えていったという形ですね」

「うーん……」


 どういうことだろう? 何か実験的なことをやっているのかな?

 増やすことでどうなるか……、とか調べているのかもしれない。

 そもそも、積み木を乗せることに何の意味があるのか、さっぱり分からないよ!

 地球意志は何を考えているのかな……?


「積み木に、何か意味はあるんですかね? 積み木が頭に乗ることによって、何か見えないものが見えるようになったとか、体が軽くなったとか、五感が鋭くなったとか、そういうことってあります?」

「いえ、首の凝りが酷くなったぐらいしか……」


 そりゃ、そうだよね。頭が重くなるんだもん。というか、重さがあるんだ、あの積み木。


「ただ、これは噂なんですけども……」

「はい?」

「積み木は、ツミキで――。積み木が十個頭の上に乗ったら『死んでしまう』と、そんな噂が、学生たちの間ではまことしやかに流れています」

「積み木は積み木?」

「ツミキのツミは、罪と罰の『罪』という字を用います」

「あぁ、罪木ってことですか。なるほど」


 何か嫌な感じだね……。

 しかし、これって、罪の木が十個、頭の上に貯まると断罪されるってことかな……?


 ――えぇぇっ!? 怖っ!?


 いきなり、旅行気分が吹っ飛ぶハードモード突入だよ!? 何で、こんな所でオカルティックな要素が入ってくるのか、すこぶる疑問だよ!?

 でも、学生ってそういう根も葉もない噂話とか、怖い話が大好きだもんね……。

 私はあんまり、そういうのは得意な方じゃなかったけど、好きな人は好きだもんね……。

 でも、今の情報の御蔭で何となく死傷率が高い理由も見えたかな……?

 要するに、今回の歪曲は積み木――いや、罪木が十個溜まったら断罪するという規則が決められている。

 それで、その規則に則って、人を裁いているから死傷率が高いと思うんだ。

 そして、今回の歪曲で最悪なことには、その積み木の数は恐らくある程度操作されているっていうこと。ただし、その操作には制限があって、一日経たないと効果を発揮しないってことかな?


 ……うん。素晴らしく危険だね。


 第一容疑者である能見先生とやらには、近付かないでおこうかな?

 いやいやいや、弱気になるな、私!

 とりあえず、仮想敵の能見先生の動向だけでも探っておこう。

 方策はそれから考えようかな。はぁ……。


「その……、失礼ですが、能見先生にもお話をお聞きしたいのですけど、今、いらっしゃいますか?」


 多分、いないと思うんだよねー。今、夏休み中だし、一部の先生しかいないと思うんだ。

 よしんば居たとしても、お忙しいと思いますので、またの機会に出直して来ます~って言って、逃げる用意がある。

 さすがに、殺傷能力が高い歪曲を前にして、迂闊に姿なんて晒せないよ。


「申し訳御座いません」


 堀内先生が謝るのを見て、私は能見先生が居ないことを悟る。

 うん、全て計算通りなんだけどね。


「能見先生ですが、一昨日にお亡くなりになられましたので、お話を聞くことはできません」

「……はい?」


 全く予期していなかった言葉に、私の頭の中は真っ白になってしまった。

 え? 第一容疑者じゃなくて……、能見先生はもしかして第一被害者のセンですか?

 うん。これはアレだね。……三週間掛かっても解決できないわけだよね。

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