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歪曲の終焉者  作者: 荒薙裕也
ツミキの町の終焉者
3/4

 さてさて、仲木戸景、戻ってまいりました~っ!


 びしっと敬礼みたいなポーズをしながら、五〇一号室に入るよ。

 あ、そうそう。やっぱり、この五〇一号室、角部屋だったよ!

 景色も五階だし、そこそこ遠くまで見えて嬉しい!

 でも、やっぱり駅近だから、背の高いビルが多くて、そこまで遠くまで見えない……、残念。

 ちなみに、お昼御飯は、フロントの人に教えてもらった老舗の食堂で親子丼でした。

 もうっ、卵がふわふわっのとろっとろで、それにジューシーな鶏肉のハーモニーがバッチリでしたよ!

 食べてる間、ずっと夢見心地だったけど、よくよく考えてみたら、地鶏が有名な地域なんだから、そりゃ卵だって新鮮なんだって話だよね。

 新鮮な玉子と、美味しい鶏肉の組み合わせ……、美味しくないわけがないよっ!

 うん。余は満足じゃ~。

 夜は、帰り掛けに見つけた鍋のお店にでも行ってみようと思う。

 鶏つくね鍋が一人前で手頃な値段で食べられそうだったからね。今から期待大だよ!


「――って、ほんわかして、忘れるところでした! お仕事、お仕事!」


 古ぼけた手帳を取り出して、今回の歪曲の記録とにらめっこ。

 うーん、なかなか凶悪そうな奴かも……。

 今回の歪曲の範囲は町ひとつ――、規模としては過去の例に比べると中規模ってところなんだけど、その割には死者が結構出ている……。

 死傷率が高いってことは、それだけ危険ってことだ。

 これは、気を引き締めて掛からないと、私もマズイかも……。

 うーん、こういう仕事こそ、師匠向けだと思うんだけどなぁ……。

 でも、今回は別の案件と競合(バッティング)しちゃったし、しょうがないよね。

 私は気を取り直して、メモ帳のページを捲る。


「今回の歪曲の発生時期は、凡そ三週間前――、つまり、定着にはあと一週間も残されていないのかぁ……」


 本当、どうして、もっと早く依頼が届かないのかと内心モヤっとする。

 多分、コレって私の立ち位置的な問題なのだろうとは思うけど、それでも解決したいなら早め早めに動いて欲しい。

 協会はいっつも後手後手なんだよ。事務所も、もっと協会に文句言って欲しいよね。

 いっつも、最終兵器的に投入される側としては、重圧がすごいんだよ! 本当だよ、もう!

 ちなみに、歪曲の定着期間は、歪曲の規模で長くなったり、短くなったりする。

 個人レベルの歪曲なんて、それこそ一週間で定着しちゃうし、町や村規模だと大体一ヶ月かな。国とか世界レベルだと、年単位だとか聞いたことがある。

 まぁ、その定着期間っていうのも、歪曲のレベルで上下したりもするから、あんまりあてにならないんだけど……。

 今回は一ヶ月って話だから、それを目指して解決しなければならない。

 私の腕の見せどころだ! うん!

 だからこそ、っていうのかな?

 本当、依頼だけは早めにして欲しいのだ。遅くてもお仕事が難しくなるだけだし、早く解決するに越したことはないからね。


「えっと、事件が起きた時の中心地が大体この辺だから……」


 メモ帳に自前の手書き地図を書き込んではあるけれど、細かな地形までは分からないから、ちゃんと分かる立派な地図を鞄の中から取り出す。

 町の建物の配置とかちゃんと書かれているから便利だよね。

 たまに、見たい部分が隅っこの方になっちゃったりして、困ったことにもなるけど……。

 私はメモ帳の書き込みを頼りに、地図に丸を書いてみる。

 綺麗な地図を汚しちゃうのは、ちょっと抵抗あるけど、必要なことだし仕方ない。

 そして、書き込んだ範囲の建物に何があるのかを、ひとつずつ認識していく。

 うん、歪曲には原因がある。

 で、その原因は、物とか人とかの強い想いを起因にすることが多い。

 つまりは、古い神社だとか、仏閣だとか、あるいは人が大勢集まる病院だとか、工場だとか、団地だとか、そういった場所で歪曲の原因が生まれることが多いのだ。

 だから、私が、地図とのにらめっこの結果、この場所に目を付けたのも普通といえば普通だったのだと思う。


「学校……」


 うん。すっごく怪しい。

 特に思春期の子っていうのは、想う力が強いからね。

 結構頻繁に、歪曲の原因になったりするんだ。これが。

 まぁ、私も、人のことをあれこれ言える歳じゃあないんだけどね!

 私は地図に書かれていたその学校の名前をメモする。


 公立S高等学校――。


 公立で、しかも、高校かぁ……。

 中卒で、学歴コンプレックスを患ってる私にはハードル高いかも……。

 でも、今は手に職を付けているんだし、お給料のためにも頑張れ、私!


「よし! 思い立ったが吉日! 早速行ってみよう!」


 まだ日も高いしね。

 地図見た感じ、そんなに遠くなさそうだし、パッと行って、パッと帰ってこよう!

 歪曲の原因があった場合は、その限りじゃないけど、三週間かかって、まだ解決の糸口すら見つかっていない案件だし、そんな簡単に原因なんて究明できないと思うんだよねー。

 とりあえず、怪しそうだから行ってみて、私の勘にピーンって来たら、ちょっとお話とか聞いてみよう。

 何せ、あと一週間だからね。一週間。本当、のんびりとはしていられないよ。

 とりあえず、貴重品を身につけて――、あと手帳も必要だね。

 それだと、鞄も持っていた方がいいかな?

 でも、着替えとか入っていて、持ち歩くのには少し重いんだよね。

 うーん。いいや、カーディガンのポケットの中に突っ込んでいこう。

 って、結局、この暑い中、カーディガンを着る運命になるんだね……。とほほ……。


   ●


「公立S高等学校……。うん、ここだ……。やっと……、やっと着いたよ……」


 校門に掲げられた鉄の板に刻まられた文字を指でなぞって読んで、私は込み上げる思いに思わず瞳を潤ませる。

 別に道に迷ったわけじゃないんだよ?

 場所はそこまで遠くなかったし、地図も職業柄読み慣れてる方だし……。

 ただね、本当ね、等高線間隔までは確認してなかったんだよね……。

 何で、学校って丘とか坂の上に建てたがるのかなぁ。

 辿り着けただけで、思わず涙ぐんじゃうほど厳しい上り坂だったよ……。

 しかも、カーディガン着てるし! すんごく暑いしっ! 死んじゃうかと思ったよ!

 歪曲関係なく、命のピンチだったよ!

 もう~! これで、空振りだったら、どうしてくれよう!?

 うん。どうもしないけどね。

 というか、どうもできないよね? 自分で来るって決めたんだし……。

 ご行動は計画的に――って奴だよね……。


「とにかく、中に入れて貰おう……。職員室にでも行けばいいのかな……」


 それで、ついでに麦茶でも淹れて貰おう。

 さすがに、このままだと熱中症で倒れちゃうしね。

 あ、マズイ。暑さで校舎が分裂して見える。

 いや、違うや。アスファルトの上で揺れる陽炎のせいで、ブレて見えるだけもみたい。

 って、アスファルトに陽炎!? 一体、今、何度になってるの!? 四十度越えてるよね、多分!?

 し、死んじゃう……。

 もしかして、この町で死者が多い理由って、この暑さが原因じゃないの?

 頭に積み木とか乗せてたら、帽子被れないし、そうじゃないかな……。


「ちょっと、キミ! そっちは職員玄関よ? 生徒用の昇降口は――……、ウチの学校の生徒じゃない……、のかしら……?」


 フラフラ~っと歩いていたら、突然話しかけられました。

 若い女性の方です。化粧っ気も薄くて、スーツ姿で、それがまたビシっと決まっていて格好良い人です。

 学校の中で、そういう格好に、そういう年齢ということは教師の方でしょうね。

 丁度良いので、案内して頂きましょう。

 というか、暑さで割と限界近いです、私……。


「えーっと、すみません。私、こういう者です」


 そう言って、私は国から発行された第一種陸上特殊事変捜査員の資格証明書を見せる。

 顔写真付きのそれは、運転免許証と同じで色んな所で身分証明書代わりに使える。

 運転免許証を持っていない私にとっては、無くてはならないアイテムだ。


「第一種陸上特殊事変――……、まさか終焉者の方ですか!?」


 驚いた表情には、こんな女の子が? とか、こんなにちっちゃいのに? とか、そういった感情が見え隠れする。

 まぁ、私は毎度のことなので慣れっこだけど。

 最近は、どんな驚き方するかなぁ、と観察する余裕さえあるぐらいだ。

 悪趣味かなぁ~とは、ちょっと思ったりもするけど……。

 でも、驚かれる方としては、それぐらい楽しんでも良いと思うんだよね。


「はい。すみませんが、少しお話を聞かせて貰いたいんですが……。中に入れてもらっても宜しいですか?」


 言外に、露骨に中でオ・モ・テ・ナ・シを要求するよ!

 さすがに、汗だらだらの私の様子を見て、女性教諭の方も気付いてくれるよね?

 冷たい麦茶――、用意してくれるよねッ!


「分かりました。どうぞ、こちらへ。お飲み物も用意しますので、暫く中でお待ち下さい」


 やったあ! 私の思いが通じたよ!

 この人もすごく良い人そうだね! 良かったぁ~!

 私は上機嫌で満面の笑みを作り、その女性教諭に連れられて来客室に向かう。

 今度、ここに来る時は、この女性教諭のためにお土産のひとつも持ってこようっと!

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