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歪曲の終焉者  作者: 荒薙裕也
ツミキの町の終焉者
2/4

 ベッドの横に荷物を置いて、私は早速ベッドに寝転がる。

 あー、フカフカのベッドが心地良い~。

 瞼を閉じたら、そのまま眠っちゃいそうだよ~。

 でも、ここで寝ちゃうと昼御飯食べ損ねちゃうしな~。

 朝も食べてないから、お腹空いてるんだよね~。

 私は頑張って睡魔に打ち勝って身を起こす。

 うーん。お仕事でこの町に来たのに、つい旅行気分になってしまう。

 たるんでいるのかな?


 ……え? 勿論、お腹のお肉じゃなくて気持ちの話だよ? 本当だよ!


「それにしても、今回の歪曲も随分進行しちゃってるなぁ。もっと、早くに手が付けられれば、のんびりと終焉できるのにねー」


 誰にともなく言うのは、私の悪い癖なのかもしれない。

 結構、一人で仕事をやることが多かったので、そういうのに慣れちゃったのだ。

 うーん。直さないといけないかなぁ?

 でも、誰にも迷惑掛けてないし、良いよね!

 うん、決定! 問題なし! ノープロブレム! モーマンタイ!


 ……で、お仕事の話だよね、うん。


 私のお仕事は、世の中に起きている世界の可能性――通称、歪曲っていうんだけど――それを終わらせることが、お仕事なのだ!

 歪曲ってなぁーに? って思った人もいるかもしれないので、師匠の受け売りだけど、説明するね!

 歪曲っていうのは、世界が持っている数多の可能性の内のひとつで、世界がお節介にもそれを人間に見せてくれている、ってことらしい。

 つまり、今回の件でいうと――。


『人間が頭の上に積み木を積んで暮らしている世界があるかもしれないので、実際に再現してみました』by 世界意志。


 ――みたいな感じらしい。

 超迷惑な話だよね……。

 で、更に厄介なのは、その状態を放っておくと、世界が『お、人間も積み木を頭に乗せて暮らしていく世界を受け入れたんだな! じゃあ、これ、新常識ね!』みたいに、世界の常識に変換しちゃうらしいんだよね。

 つまり、人間というものは、頭に積み木を乗せて移動するもの――。

 キリンの首が長いのとか、象の鼻が長いのとか、そういうのと一緒の感じで、新常識として誰も疑わず、誰も抵抗することなく、定着しちゃうんだ。

 だから、私たち、終焉者って呼ばれる職業の人たちが、『いやいや、世界さん。その常識は困るんで、その可能性は閉じさせてもらいますよ~』って終わらせないといけないんだよね。

 そんな歪曲を終わらせるから、終焉者って名前がついてるんだけど、私は何か出版社の名前みたいだなーっていつも思ってる。

 師匠に言ったら馬鹿にされそうだから、言わないけど。


「今回の原因は何かな~。何か、怨恨とか、呪いとか、そういうのが強そうだよねぇ」


 呟きながら、私は一人でうんうん頷いている。

 うん、傍から見たら、危ない人だね、これ。

 えーっと、一応、原因ってなぁに? って人もいると思うので説明するね?

 歪曲は、本来は自然発生しない……。

 えー、でも勝手に起きてるんでしょー!? って言われると、『うん……』としか言いようがないんだけど……。


 一応、歪曲が発生する原因というものが存在しているんだよね。

 それは、物だったり、動物だったり、人だったり、何かが原因としてあって、それを世界意志が可能性として叶えてあげちゃう――っていうのが歪曲らしいんだ。


 まぁ、師匠の受け売りなんだけど……。


 私も駆け出しの終焉者ではあるんだけど、それは凄く納得できるなーっていつも思ってるよ?


 多分、世界意志は強い思いとか、強い願いとかに反応して、歪曲を生み出しているんじゃないかと思う。

 だから、原因がいつもあって、それを何とかすることで、世界の可能性の芽は潰えるんだと思うんだ。

 そうじゃないと、歪曲の原因を取り除いた後で歪曲が失くなることに、上手く説明がつかないしね。

 それと、もう一点、歪曲に関して重要なことを言うのを忘れてた!

 歪曲ってあくまで世界の可能性を見せてくれるものであって、まだ完全な現実じゃないんだ。

 要するに、お試し期間みたいなもので、定着化する前に終焉することができれば、お試し期間中に起きたことはなかったことになる。

 例えば、殺し合いが日常化した歪曲が存在したとして――。

 その町だか、村だか、国だかで、多くの人が死んじゃったとしても、期間内に歪曲を終焉することができれば、その死者はなかったことになる。

 要するに、歪曲発生前に時間が巻き戻っちゃうんだよね。

 歪曲に巻き込まれた人たちは、その時のことを覚えてもいないし、世界でも無かったことになっちゃう。覚えているのは終焉者ぐらいなものかな?

 うん、でも、終焉に失敗したら、その限りじゃないんだけどね。


 ――と、ここで「おや?」って気付けたキミはセンスある。


 何のセンスかって言うと、終焉者のセンスなんだけど……。

 こういう、『ちょっとした違和感に気が付けないと上手くやれない』んだって、師匠には口を酸っぱくして言われてるんだよね。

 うん、まだまだ未熟な私には耳の痛い話です。はい。


 ……で、話を戻すね?


 終焉された歪曲は元に戻る――というか、無かったことになる。

 それこそ、歪曲が初めから起こってなかったかのように、全てなかったことになる。

 世界中の資料から、人々の記憶から、全部無かったことにされちゃうんだ。

 だから、解決された歪曲を覚えている人はいない。

 ただひとつの例外――、終焉者を除いては。

 別に、終焉者が特別な人間ってわけじゃないんだよ?

 私とか運動があんまり得意なタイプじゃないし、勉強だって凄く出来たわけでもない。普通ぐらいかな? あんまり自慢できない成績だったよ。

 でもね、終焉者になる人には必ずひとつの特徴がある。

 それは、過去に何らかの形で、『歪曲に巻き込まれた経験がある』ってことだ。

 そして、その歪曲が解決されなかったか、もしくは、解決されても歪曲の記憶を持ち続けた人だけが終焉者になれるんだよ。


 ……私はどちらかというと、後者かな?


 師匠に解決して貰ったんだけど、忘れるのを拒否したタイプ。

 師匠には頑固者って言われたけど、私は後悔してないよ!

 そして、面白いのは、歪曲に関わって、その歪曲を望む望まないに関わらず認めちゃった人は、必ずその歪曲を身につけちゃうってこと。

 そういう、世界の可能性の顕現? みたいな能力のことを、『異能』って言って、終焉者は大体使える。

 私も勿論使えるんだけど……、お手軽には使い辛いから、普段は使わないんだよね……。

 あー、簡単に好きなケーキが取り出せる異能とか欲しかったなぁ~。

 それなら、ちょっとお腹が減った時とかに、簡単にお茶ができるのにね~。

 うん、そんな事考えていたら、お腹空いてきたね。


「へぇ~、地鶏が有名なのかぁ……。そういえば、ここに来る前に何軒も焼き鳥屋さん見たなぁ~。だから、師匠が羨ましそうな目で見ていたんだね。私は未成年だし、お酒飲めないけど、師匠は焼き鳥とビール大好きだもんね~」


 ――はっ!


 いけない、いけない。今回の歪曲の情報を改めて整理しようと思っていたのに、いつの間にか、事前に調べたグルメ情報のページを覗いていたよ!

 お仕事は真面目にやらないとね!


 …………。でも、お腹空いたなぁ~。


 うーん。腹が減っては戦はできぬ……、だよね?

 一応、ホテルの予約をした時に、食事は付けないようにオプション選択しているから、待っていても食事は運ばれてこない。

 ルームサービスも味気ないし……、これは荷物を置いて、美味しそうなお店を探しに行っちゃおっかな?

 うん、いいよね!

 折角、知らない土地に来たんだし、地元のお店で美味しい物を頼む、というのも旅行の醍醐味でもあると思うんだ。

 うん! 普通に旅行じゃなくて、仕事だけどね!


「焼き鳥屋じゃなくて、鶏肉使った美味しいお店があると嬉しいんだけど、あるかな~?」


 私は荷物をベッドの傍らに置いて、貴重品だけを身につけて部屋を出る。

 この辺の美味しいお店は何処ですかって、フロントで聞いたら教えてくれるかな?

 とりあえず、まずは一心地をついてから……、お仕事はそれからにしよっ!

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