表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘と愛のかけら  作者: 長谷川るり
1/24

第1話 はじまりのひとかけら

『輝けるもの(上)(下)』に引き続いての第二作目です

前回の主人公とは又タイプの違う女の子ですので、その辺もお楽しみ頂ければと思います

お読み頂いた感想もお待ちしております

1.はじまりのひとかけら


「もしもし、はじめまして。淳哉あつやと言います。26です」

「はじめまして・・・有紗です」

二人の出会いは、電話だった。しかも真夜中の3時。

「よく・・・この電話掛けるんですか?」

「いや、初めて。そっちは?」

「私も初めてです。だから、どんな人が掛けてくるのか、繋がるまでドキドキでした」

『この電話』とは・・・いわゆる出会い系の電話だ。

「こんな夜中に起きてるって、何のお仕事ですか?」

「俺はバーテン。だからさっき帰って来て・・・ちょっと仕事モードから切り替えたくって。そっちは?この時間まで元気って事は、やっぱ夜の仕事?それとも・・・学生?」

「・・・OLです」

「OLさん?!明日仕事大丈夫なの?」

「・・・今日はなんか眠れなくって・・・」

「女の子がこういうの掛けるのって、抵抗ないの?それとも・・・目的あり?」

「目的?」

「ほら・・・だから・・・そっち系の・・・。もし おたくがそういう人探してるんだったら、他当たった方がいいよ。俺はただ単純に、何のしがらみも無く気楽に話し相手になってくれる人探してるだけだから」

「いや、私も。私もです。・・・良かったぁ。ちょっと安心しました」

そこで淳哉が煙草をくわえながら喋る。

「女の子の方は、これってお金掛かるの?」

「・・・無料って書いてありました」

有紗の返事と重なって、淳哉のライターのカチッという音が微かにする。

「それじゃ、気軽に掛けられるよね。嫌な相手なら、切っちゃえばいいわけだし。もう何人かと喋った後?」

「いえ・・・今掛けたばっかりです」

「本当?俺もなんだけど」

淳哉がそう話した後に、フウーッと煙を吐き出している音が 有紗の耳に届く。

「・・・どこに住んでる方ですか?」

「都内。そっちは?・・・っていうか、名前何だっけ?俺聞いた?」

「有紗です。横浜に住んでます」

「おう!意外に近いね」

「・・・ですね」

「いくつ?」

「・・・いくつに聞こえますか?」

「おぉ、飲み屋のお姉ちゃんみたいな切り返しだねぇ。・・・そうだなぁ・・・22、3ってとこかな?」

「凄い!当たりです。22です」

「本当?!伊達に客商売やってないからね」

「お客さん商売だから、お話も上手ですね」

「って事は、まだ仕事モードのまんまって事だ。あぁ・・・有紗ちゃん、何か面白い話ないの?」

「面白い話・・・ですか・・・?」

「そうそう無いよね、そんなの。OLさんだもんね」

「えぇっと・・・待って下さい、今考えますから・・・」

「・・・・・・」

少し沈黙が流れた後に、淳哉がふっと吹き出した。

「有紗ちゃんって、いい子だね。面白い話 今考えますって・・・なかなか言えないよね、普通」

「そうですか・・・?でも・・・浮かばないなぁ・・・」

淳哉が鼻でくすくす笑っていると、有紗が大きな声を上げた。

「あ!ありました!今、目の前にペットボトルのお茶があるんですけど、それに俳句が書いてあって・・・読むんで聞いてて下さい」

そして有紗が俳句を立て続けに三首読み上げる。

「どれが一番好きですか?」

「二番目の・・・お父さんがどうのってヤツ」

「ですよね~。私もコレ、好きです。あっ、大賞もあるんだ。読みますね」

読み終えると、淳哉がくっくっくっと笑っている。

「えっ?面白かったですか?・・・私は断然、さっきの方が好きだなぁ」

「確かに、大賞の貫禄はないな・・・」

「ですよね~。え、でもさっき笑ってましたよね?」

「いやいや、それに笑った訳じゃなくて・・・。ありがとね」

先程までの笑い声の波がサーッと引き、あっという間に 初めの時の静寂が訪れる。

「あっ・・・もう切る感じ・・・ですよね?仕事モード・・・切り替えられませんでしたね・・・ごめんなさい」

「楽しかったよ。有紗ちゃんは、まだ眠れそうもない?」

「・・・んん、まだ・・・」

「そうかぁ・・・。明日仕事になんないんじゃない?何時起きなの?」

「・・・6時半です。でも・・・大丈夫です。何とか、頑張ります」

「・・・まだ・・・他の人と話す?」

「いえ、もう・・・」

「じゃあさ、俺の携帯に かけ直してくんない?」

「・・・・・・」

「これ、電話料金高いんだよね。悪いんだけど・・・。俺かけ直してもいいんだけど、有紗ちゃん 電話番号教えるの嫌でしょ?」

「・・・・・・」

「・・・だよね・・・怖いよね。もちろん非通知でかけてくれていいんだけどさ」

「・・・・・・」

「もしもし?あれ、これ もう切れてんのか・・・?」

独り言の様に呟く淳哉。すると受話器から再び声が返ってくる。

「あ・・・聞いてます。ごめんなさい・・・」

「あっ、ごめんね。もう切るわ。変な事言ってごめんね。せっかく楽しかったのに、後味悪くなっちゃったよね。頑張って早く寝るんだよ。おやすみ」

「あのっ・・・!かけます!」


 有紗は今書き取った淳哉の番号を眺めると、両手で顔を覆って溜め息をつく。

「どうしよう・・・」

そう漏れた本音をごくりと呑み込んで、有紗は非通知設定をして電話をかけた。

「もしもし。・・・有紗ちゃん?」

「はい・・・かけちゃいました」

「本当に電話来るか、半信半疑だった」

そう言うと、淳哉は軽く咳払いをして姿勢を正した。

「広瀬敦也。東京都練馬区在住、26歳。バーテンです」

「本名だったんですね・・・。全部ほんとだ」

「え?偽名なんて事あんの?」

「いや・・・わかんないけど・・・」

「そっか・・・。で、有紗ちゃんは?本名?」

「・・・葉山有紗です。横浜に住んでる22歳のOLです」

あぐらをかいていた淳哉が、携帯を反対の手に持ち替えて正座をする。

「改めまして・・・よろしく」

「こちらこそ」

一瞬改まった空気に、淳哉がまたプッと吹き出す。

「22歳のOLさんって言ったら、社会人1年生?」

「いえ、短大卒なんで3年目です」

「・・・って事は、今年23になるの?」

「はい。11月で」

「11月生まれ?!俺21日。有紗ちゃんは?」

「23日です」

「惜しい~!」

淳哉がはははと笑い、有紗もケタケタケタと笑った。ついさっき、淳哉の携帯にかけ直すのを躊躇していたとは思えない程 有紗は心を許して笑っていた。有紗はベッドに仰向けに寝転がりながら 会話を楽しみ、ふと時計に目をやると、針は4時20分になろうとしているところだった。

「夜の仕事だから、起きるのも遅いんでしょ?」

「昼過ぎかな。・・・っと、こんな時間じゃ、そろそろ本気で寝ないとマジやばいよ、OLさん」

「若いから、一日位オールしたって 気合で乗り切れます」

「まだ眠たくならないの?」

「・・・楽しかったから 目が冴えちゃって・・・」

「この電話が逆効果じゃない!受付嬢がウトウトしてたらまずいでしょ。ほら、もう切るよ」

有紗の胸が 少しきゅっと縮む。

「俺、明日昼間っから用事で動かなきゃならないからさ・・・」

ベッド脇のランプの紐を無意味に揺らしてもてあそんでいた有紗の指が止まる。

「明日の昼休み、モーニングコールくれない?」

「・・・・・・」

「・・・起こして欲しいんですけど・・・」

「・・・はい。何時ですか?」

「1時位までに起こしてくれたらいいから。頼むよ。絶対だよ。一回で起きなくても、何度か掛けてよ」


 次の日 12時を過ぎた時計を眺めながら、有紗はそわそわと落ち着かない様子で電話を握りしめていた。昨夜アドレスに登録した広瀬敦也の番号を 表示させては消し、表示させては消しを 何度か繰り返していた。そしてようやく 1時になりそうな時計に背中を押される様に、非通知設定にして発信した。

プルルルルルル・・・

呼び出し音を一回聞いて、慌てて切る。しかし、昨夜の淳哉の『頼むよ、絶対だよ』という声が有紗の頭の中でこだまして、再び 非通知設定のまま電話を掛けた。

プルルルルルル・・・プルルルルルル・・・プルルルルルル・・・

3回位呼び出した辺りで、淳哉が電話に出る。

「もしもし・・・」

いかにも寝起きの声である。

「おはようございます・・・」

「・・・・・・」

「・・・有紗です・・・」

「あぁ・・・有紗ちゃん?おはよう。今何時?」

「もうすぐ1時。・・・ごめんなさい、遅くなっちゃって」

「本当にかけてくれたんだ?助かったぁ。ありがとう」

「いえ・・・」

「今さっき・・・ワン切りしたのも、有紗ちゃん?」

「あっ・・・ごめんなさい・・・」

「いや、いいのいいの、誰か分かれば」

「・・・じゃ、起きて下さいね」

「有紗ちゃんは、今朝ちゃんと起きて仕事行けた?」

「・・・はい」

「そっかぁ、偉いなぁ。じゃ、俺も仕事しなくちゃ・・・」

電話の向こうで『う~ん』と伸びをする声が、有紗の耳に微かに届く。それを名残惜しげに聞いていると、今度は少し元気になった淳哉の声が届いてくる。

「今何時って言ったっけ?ごめん、俺今まだ眼鏡かけてなくて、時計見えないんだわ。正確な時間、教えてもらえる?」

「えぇっと・・・1時4分です」

「ありがと。・・・あっ、有紗ちゃん 昼休み過ぎちゃってんじゃない?」

「あっ・・・そうですね」

「ごめんごめん。じゃ、またね」

言ってから、淳哉が自分の言葉に首を傾げる。

「またねって言うのも変か」

再び、有紗の胸がぎゅっと縮む。

「また 眠れない時があったら、電話していいよ。あっちに電話して、変態エロに捕まるより いいかも。・・・あ、でも女の子は無料なんだもんな。あっちのがお得か?・・・ま、とにかく、またいつでもどうぞ。とりあえず、昨日今日と ありがとう」

電話を切って、有紗はまたベッドに横たわった。


第一話、お読み頂きありがとうございました

いかがでしたでしょうか?

今後の参考にさせて頂きますので、どうぞ率直な感想、評価をお願い致します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ