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第九話 拉致監禁

 おれはあの後、リアガラスの割れた車のトランクに放り込まれて、変な場所まで連れて来られた。

 言ってしまえば拉致だ。


 車は二十分ほどで停まり、トランクから引き摺り出されると、これまた立派なお屋敷が現れた。

 武家屋敷って感じかな。

 周囲は壁で囲まれており、通行人は中を覗き見ることは出来なそうだ。

 しかも、所々に可動式のカメラが設置されている。

 車で門の中に入ったらしく、壁の外観は全くわからない。

 ボスっぽい男の後ろに、パンチパーマとスキンヘッドが続く。

 さらにその後ろにおれが引きずられて続く。

 うう、怖いよう。


 スキンヘッドとパンチパーマは「ちゃんと歩けや」とか言ってきたが、ボスは一言も発しない。

 目の前の屋敷から、ゾロゾロと恐ろしい風貌の男たちが現れた。

 そいつらは、屋敷の入り口に向かって八の字に並び、


「「お帰りなさいませッ!」」


 と頭を下げ、声を揃えて怒鳴った。

 お辞儀は誰もが綺麗な45度だ。

 お、おお……

 こりゃ正に、ザ・YAKUZAじゃないか。


 親分っぽいオールバックのおじさんは、片手を上げ、それに応えた。

 ダンディーである。

 屋敷の入り口には、空港でよく見る金属探知機が設置されてあった。

 親分が先に入る。

 ピーッと音がなったが、全くのスルーで中に入っていく。


 次にスキンヘッドが金ネックレスを外して通る。

 あ、子分はちゃんとやらないといけない感じね。

 音はならなかった。

 パンチパーマはサングラスを外して潜った。

 ピーッと音が鳴る。

「いけねぇいけねぇ」とベルトを外して、もう一度通過したところがコミカルである。


 ん?

 待てよ……

 二人が入った今なら逃げられるんじゃないか?

 チラッと後ろを振り返る。


「……げ」


 さっき八の字で並んでたヤーさん達が、おれの後ろを囲んでた。

 ぶっちゃけ少しちびりそうだった。

 いや、ちょっとだけちびった。

 ちょっとだけね!


「オラァ! 早くしろや!」


 尻を蹴られ、その勢いで金属探知機を潜り抜ける。

 音はしなかった。

 それを見て、先に入ったパンチパーマが「鉄砲玉のくせに、丸腰で来るとは上等だな」とか言いながら、にんまりと口角をつり上げる。

 だから鉄砲玉じゃねえっつーの。

 誤解を解こうにも「あの、僕は鉄砲玉じゃ……「黙ってろや!」ひっ!」って感じで、全く誤解が解けない。


 その後、入念なボディーチェックの後、屋敷に通された。

 おれはパンチパーマとスキンヘッドに挟まれる形で、歩き出す。

 屋敷内は強面のお兄さん達で一杯だったが、時々見た目麗しい女性の姿も。

 きっとこの女性たちも、背中には仏とか龍とかが掘ってあるんだろうな、と思いつつ廊下を歩く。

 心なしか、女性達がおれの事をポカンとした顔で眺めているようだった。

 あれか、イケメンスキルがパッシブなのか。


「おら! 入れ!」


 蔵のような場所に移動すると、その中の牢屋のような一室に放り込まれた。

 バタンと勢いよく牢が閉まる。

 監禁だな?


 しばらく、座ってじっと待っていたが、スキンヘッドとパンチパーマは戻ってくる気配はない。

 横になったり、壁に耳を当ててみたりしてるうちに、見る見る時間が過ぎて行く。


 一回落ち着こう。

 深呼吸だ。

 すぅーはぁー、すぅーはぁー……

 よし。


 状況を整理してみよう。


 おれは鉄砲玉と勘違いされて、監禁されてる。

 神様はカラスに連れ去られる。

 ヤーさん達にはイケメンスキルが発動しない。

 まあ、男相手に発動しても困るが。

 牢屋たぶち込まれて、もうかれこれ二時間くらい経つ。

 一向に出してもらえる気配がない。

 たまに屋敷で働く女性がチラチラ見に来る程度だ。

 見に来たら口々に「カッコいい……」とか言いながら、満足そうに去ってゆく。

 極道のくせに、きゃぴきゃぴしてやがる。

 ミーハーな女子高生かっつーの。

 彼女達はおれを牢屋から出してくれそうには無い。


「神様、大丈夫かな……」


 おれは冷たい床に胡座を掻きながら、神様の心配をしていた。

 神様がいないんじゃ、こういうピンチな状況は心細いこと限りない。


 すると、また女性が蔵に入ってきた。

 牢の前まで来ると、隙間からおれの顔をジロジロ見る。

 他の人は遠くからチラッと見るだけだったのに、この人積極的だな。

 というか、多分この人、ボスの女だ。

 見た目は美人だが、そんなに若くないように見える。

 美熟女ってヤツだ。

 さらに着物をビシッと着てる。

 アタイ、ボスの女よ、と言わんばかりの風貌だ。


「あーら、本当に凄いイケメンねぇ」


 なんだかとても艶っぽい声だ。

 少しドキドキしてしまう。


「あんた、本当に鉄砲玉なの?」


 その言葉で、はっと我に返るおれ。


「ち、違うんです! 誤解なんです! おれはただ……」

「姐さん、失礼しやす」


 弁解をしようと口を開くと、さっきのスキンヘッドが帰ってきた。

 くそう、これからって時に!


「翔、おかえり」


 スキンヘッドはサッと頭を下げる。

 こいつの名前は翔か。

 いい名前だ。

 だが、心の中ではスキンヘッドと呼ばせて頂く。

 既に定着してしまったからな。


「こいつ、連れて行きやす」

「あーら、残念ね。あまり乱暴にしないであげて」


 スキンヘッドは、姐さんに向かって一礼すると、牢屋を開けた。

 姐さん、優しいっすね。

 てか、乱暴にされるのか……


「オラ! 出ろ!」

「へいッ!」


 ちょっと子分っぽく言ってみた。

 なんだこいつ? って顔をされながらも、おれはスキンヘッドに連れられ、屋敷の一番デカい部屋に通された。

 ボスの間ってやつだ。


「つれてきやした」

「……」


 広い部屋には、和服に着替えた親分と、何人かの手下みたいなヤーさんがいた。

 親分は無言で俯く。

 おれは親分と向かい合う形に座った。

 もちろん正座だ。

 親分の凄まじい眼光が、おれを容赦無く貫く。

 こ、怖いです……


 そして、今まで一度も口を開くことなかった親分が、ついに口を開く。


「お前さん、なんでウチの車に石を投げた?」


 おれは親分の声を聞いて衝撃が走った。

 ぶっ!

 嘘でしょ?


「正直に言ってみな」


 ……ちょっと予想外過ぎて、吹き出しそうだ。

 何が予想外だって?


 親分の声だよ。

 某ボーカロイドそっくりな、可愛い声なのだ。

 こんなに強面なのに、なんでこんな可愛い声なん?


 おれは笑いを堪える為に、唇をぐっと噛み締め、下を向いた。

 膝の上では拳を握り、これでもかってくらい力を込める。

 だが、親分の声が今だに脳内再生され続ける。

 地獄だ。

 口を開けば、必ず笑ってしまうだろう。

 それも、大爆笑必須だ。


 しかし親分は、笑いを堪える為に全身を強張らせているおれの様子を見て、何か隠してると思ったらしい。


「何か言えない事でもアンのか?」


 チョット、待ってくれ。

 ……もう限界かもしれん。

 アンのか? の部分は反則的な面白さだった。

 こう、後半の『アン』の部分のしゃくり上げは見事だ。

 かなり危なかった。


 チラッと親分の顔を見る。

 先ほどと変わらない、恐ろしい表情だ。

 だが、こいつの真の声を聞いた今、その恐ろしい顔は、ただ滑稽なだけなのだよ。

 だ、だから……そんな顔で見ないでくれ……!


「やっぱりどっかの鉄砲玉なんかイ?」

「……ぶひっ!」


 なんかイ? で、少しだけ吹いてしまった。

 終わった。

 もう、無理だ。

 肩の震えが止まらない。

 一回吹いたし、もういいか。


 神様、おれ、頑張ったよ……

 おれはついに盛大に吹き出した。


「ブワハハハハ!!」


 おれは正座のまま仰向けに転がり、大爆笑した。

 もう死ぬかもしれないが、これは止められない。

 涙を流しながら、腹を抱えて笑った。


 親分の目がギロッと光った。

 周りの手下は、さっと立ち上がる。


「てめぇ! ふざけてんのか!?」


 そう言って凄む手下の方々の顔は、「わかるぜ、アンタ。あの声は反則だよな」って表情をしていた。

 ええ、反則ですとも。

 後で煮るなり焼くなり、好きにしてください。

 ただ、今は笑わせてください。


 おれの笑い三十分以上、広大な屋敷に響き渡っていた。

平次の運命や如何に!?

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