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第十四話 命名

お待たせ☆

 腹ごしらえを終えたおれたちは、再び悠ちゃんの車に乗り込んだ。

 が、神様を定食屋の植木に忘れてきたので戻りに行った。

 植木についていた綺麗な緑の葉っぱは、この毒々しい色をした神様に六割程食われていた。

 食い過ぎだろ。


「ちょっとぉ☆ 忘れるなんて酷いんじゃない?」

「すみませんでした」

「ま、おかげでお腹一杯になったから許して上げるょ☆」

「ありがとうございます。てかちょっと食い過ぎでは?」

「……平次さん?」


 おっと。

 周りを気にせずに神様と会話をしていたら、悠ちゃんに変な目で見られた。

 神様の声はおれにしか聞こえないからな。


「その毛虫……じゃなくてペット、すごく大切にしてるんですね」

「ま、まあね!」


 悠ちゃんには、おれが虫好きな変態でべそ野郎とでも思われてるだろうか。

 まあ、神様がおれのペットだと設定したのはおれだから仕方がない。


「というか、ペットの記憶はあるんですか?」

「うえ? う、あ、うん!」


 いけね。

 設定が甘かったかも。

 確かにペットとか言って、こんなに愛着湧いてるようなら、長年飼っていると思われてもおかしくない。

 矛盾点が出てきたら、悠ちゃんにあれこれ追求されてしまう可能性が高い。

 そしたらおれだってポンポン都合のいい言い訳なんて流石に出てこないぞ。

 質問攻めにあう前に、自らすべてを語った方がいいか?

 心なしか悠ちゃんがジト目で見ている気がする。


「ペットの記憶だけあるなんて、かなり愛していたんですね!」

「……うん」


 悠ちゃんはどこか抜けてるな。

 なんというか、悠ちゃんがバカで良かった。


「たとえ毛虫でも愛情を注げば立派なペットですよね!」

「そ、そうだね!」


 愛情なんてないが、まあ一応神様だし、ぞんざいには扱わないつもりだ。


「もう、折角平次っちの人生ガイドしてあげてるんだから、もっと愛情こめてよねー☆」

「わかりましたよ」


 おれが神様にそう言うと、悠ちゃんがまたこちらを見てきた。


「もしかして平次さん、そのケムちゃんとお話が出来るんですか?」

「ケムちゃん?」

「そのペットのことです。

 あ、私が勝手に呼んだだけですけど、名前ってなんていうんですか?」


 ああ、毛虫だからケムちゃんか。

 しかし、名前と言われてもな……

 神様って呼んでただけだし、神様に名前つけるのも何か罰当たりな気がするな。

 でも、普通はペットだったら名前くらいあるよな。


「そうそう♪ 名前くらいつけてよねっ☆」


 神様が自らそう言うってことは、別に名前をつけても良いってこと?

 よし、そしたらおれがとびっきりの名前をつけて差し上げようではないか。


 おれは神様のグロテスクな視線と、悠ちゃんのキュートな視線を受けながら、脳みそをフル回転させて名前を考える。

 しかし、全然良い名前が思いつかない。

 二人の催促するような視線を受けて、おれはどうにも混乱してきた。


「……コイツの名前は」


 悠ちゃんのキラキラな瞳が光る。

 神様のザラザラな複眼が煌めく。


「毒虫です」

「……え?」

「……え☆」


 ミスった。

 いつも毒虫って思っていたからつい。


「ど、毒虫ですか?」

「ちょっと平次っちー☆ それ酷くない?」

「う、うそです!」


 二人からの嫌な視線を受けて前言撤回。

 無難な名前にしよう。

 えーと、無難な名前といったら…………なんだ?

 よくある名前、よくある名前……あ。


「ポチです」

「へえ! 可愛いですね!」

「悪くないじゃん☆」


 テンパって犬っぽい名前を言ってしまったが、なんだか二人には好評だ。

 まあいいか。

 グロテスクな毛虫のくせに、名前は犬っぽいポチ。

 ギャップがあって良い。

 我ながら中々のセンスだ。


「よく見ると何だか可愛いですね!」

「で、でしょ?」


 まさか悠ちゃんには可愛く見えるのか?

 うーん、確かにもじもじする動作は何となく可愛い気もするが。

 総合的に見てグロテスクなのは変わらない。


「ヨロシクね、ポチちゃん!」


 悠ちゃんがすっとポチに手を伸ばす。


「あ! 悠ちゃんダメ!」

「え、何が? ……うぎゃっ!」


 ポチ(神様)の頭をなでなでした悠ちゃんは、見事に神様の毒にやられて、手を腫らしてしまいましたとさ。

 めでたしめでたし。



−−−−−−−


 なんだかんだで悠ちゃんとダベリながら散策していると、結構日が傾いてきた。

 オレンジ色に変わりつつある日光は、ほどよい温かさを保っておれたちを照らす。


「それでですね、私は決めたんですよ。農家になるって!」

「へえ、じゃあ結構大変だったでしょ?」

「最初の頃は確かに大変でしたけどね」


 おれは悠ちゃんの農家になった話を聞きながら、今後どうしようかと考えていた。

 というか話を聞きながら、しっかり相づちも打って他の事も考えるって、おれってこんなに器用だったか?

 前世はブサメンで特に友達もいなかったから、よく分からなかったが、おれって聖徳太子的な情報処理能力を持ってたのか。

 いや、違う。

 多分イケメン補正だ。

 なんだかんだ言っても、この体はかなりハイスペックだし。

 さっきは神様の名前も考えつかなかったが、コレとソレとは別って事だな。

 うん、そういうことだ。


「やっぱり自分で育てた野菜が実るのは、本当に嬉しいですよ!」

「そうすると味も違ったりする?」

「全然違います! 格別です!」


 結構興奮気味に話している悠ちゃんだが、おれはまず先に今後の事を考えさせてもらおう。


 正直警察とかそう言う所には行きたくない。

「転生したので住所がありません」なんて言ったら頭おかしい人だと思われるに違いない。

 だからといって、「記憶喪失です」とか言ったら、

 事件に巻き込まれてるんじゃないかとか思われて、身元がわかるまで警察で保護とか言う事になるかも知れない。


 ん?

 警察で保護って言うのもおかしな話だよな。

 別に命を狙われているわけじゃないんだし。


 ここは悠ちゃんに一緒に行ってもらって、身元がわかるまで身元引き受け人になってもらえば良いんじゃないか?

 そうすれば、悠ちゃんからしてみれば、おれが正体不明の変質者かもしれないっていう疑いは無くなるから安心か。


 つっても、その変質者に初対面でディープキスをお見舞いしてきたくらいだから、そんなに警戒してないのかも知れないな。

 でも、一応行っても悪くないか。

 イージーモードって言うくらいだから、まあ何とかなるだろう。


「中でもピーマンなんて本当に可愛いん……」

「悠ちゃん。警察に行こう」

「え? 急にどうしたんですか?」

「いや、善は急げって言うし、もしかしたらおれの記憶を取り戻せるかも知れないでしょ」

「そ……そうですね!」


 おれは思ってもいない事を言いながら、警察に行きたい旨を悠ちゃんに話した。

 もし、身元がわからないままだったら、おれの身元引受人になってくれとも伝えた。

 その時の悠ちゃんの顔と言ったら、耳まで真っ赤にして「あ、はい! よろこんで!」なんて言っていた。

 反応を見るからに、別に嫌ではなさそうだ。

 もしかしたら下着の件で変態野郎だと思われていると思ったが、そうでもないのかも知れない。

 寛大なお方だ。

 頭が上がらないよ。


「警察行くの明日でも良いですか?」

「え? なんで?」

「畑に収穫と水まきに行かないといけなくって……急いできたので、ネット被せるの忘れてて」


 ああ、そうだったな。

 悠ちゃんには農家という立派な職業があるんだった。

 自然との勝負だし、ここで無理言って警察に行って時間がかかってしまったら、もしかしたら鳥かなんかに農作物を荒らさせるかも知れないし。


「わかった。じゃあまた明日」


 おれは今日はここで別れるつもりでそう言った。


「え?」


 悠ちゃんがぽかんとしてる。

 どうしたんだ?


「泊まる宛はあるんですか?」


 そういうことか。


「いや、大丈夫だよ一晩くらい。公園でもどこでも寝れるさ」


 いくらなんでも流石に今日あったばかりの女の子の家に泊まるなんて気が引ける。

 家に上がった時はゲスい事ばかり考えていたが、おれはもう冷静だ。

 ジェントルマンだ。

 そう、ジェントル平次だ。

 

 まあ、そうは言っても公園で寝るのは少しヤダ。

 夜にDQNが来て「おいおい何寝てんだよ」とか因縁付けてくるかも知れないし。

 でべそがあれば何とかなりそうだが、おれは見せないぞ。

 断固、見せないぞ。

 出来れば悠ちゃんの家に泊めてもらいたいが、申し訳ないんだよな。


「風邪引いちゃいますよ! ウチに来てください」

「いいって。悪いよ」

「全然悪くないですよ!」


 そこまで言われると、うーん、どうしよう。

 悩むなあ。


「ウチに泊まれば明日警察行くの楽チンじゃないですか」

「まあ、そうだけど」

「ならウチに泊まりましょう!」


 悠ちゃんの目を見る。

 発情していた時の、メラメラとした目ではない。

 おれの事を心配してくれている目だ。

 なら…………まあ、いいか。


「わかったよ。そしたら、おじゃまします」

「はい!」


 ニッコリと笑う悠ちゃん。

 ちょうどおれの位置から見ると、その笑顔がオレンジ色の太陽に染められ、とても眩しかった。

 その眩しい笑顔に、不意におれの心臓がトクンと跳ねた気がした。


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