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第十三話 迷い

 ユニワロの駐車場を出た後、すぐ近くに飲食店街があるという事で、軽トラでそこまで向かう。

 飲食店街は細い路地に位置していたので、近くのコインパーキングに車を停めて、歩いて行くことにした。

 道中、きょろきょろと周りを見てみたが、元の世界と一緒のモノが多くて、パラレルワールドに来ているという実感はすっかり薄れてしまう。

 看板に書かれた文字は日本語だし、コインパーキングの値段も地球とあまり変わらない。

 まあ、ここは地方都市って感じだから東京よりは少し安いけど。


 しかし、窓ガラスに反射して移るおれの顔がめっちゃイケメンなのを見ると「あ、おれ転生したんだ」という実感も湧く。

 ああ、本当にイケメンだよなあ……

 まあデベソのままだけどな。


 でもこのイケメンフェイスよりも、憎たらしいでべその方が強烈なアドバンテージになっているっていうのは、本当に理解に苦しむ。

 どうして女性は、こんな腹に飛び出したポッチに惹かれるのだろうか?

 大変、変態だ。


 男も男だ。

「男なら拳骨解決」っていう思想の代表であるヤーさん達すら、プライドを捨てて土下座だもんな。

 まったく、おかしな世界だぜ。


 そしておれ達は今、下町の商店街のように賑やかな飲食店街を練り歩いていた。

 今まで神様(毛虫)がしれっとついて来ている事を知らなかった悠ちゃんが、おれの肩に上ってきた神様を見て「また虫がついてます!」と払おうとした。

 なので仕方なく「この毛虫はおれのペット」という事で何とか乗り切った。

 まあ若干変な顔されたがね。


 悠ちゃんが適当に店を選び、おれ達は食事をする事にした。

 この世界に転生してから初めての食事だ。

 ぶっちゃけかなり空腹である。

 悠ちゃんの選んだ店は、しがない定食屋といった感じの店だった。

 というか、しがない定食屋だ。

 女の子ならもう少しオシャレな場所を選ぶと思ったが、悠ちゃんはイタリアンなピザ屋さんも、オシャレなカフェも素通りして、若干ボロいこの店を選んだ。

 渋いチョイスだな。


 神様は店の外に多数置いてある植木鉢のところに置いて来た。

「わーい☆ これだけあれば食べ放題だぁ」とか言っていたので、くれぐれも食い尽くしたりしないように小声で注意しておく。

 ここら辺はカラスもいないし、大丈夫なはず……だよな?


 店に入ると、何組か先客がいる。

 みんな仕事途中のサラリーマンといった人たちだ。

 店内の様子もメニューの内容も特に変わったところはなく、元の世界の定食屋と何ら違いはないようである。

 おれはトンカツ定食を、悠ちゃんは鯖味噌定食を注文。

 料理が運ばれてくる間に、悠ちゃんは「そう言えば」と頬に人差し指を添えながら、おれに尋ねてきた。


「平次さん、どうしてあんなところにいたんですか?」

「あんなところ?」

「ウチの畑ですよ」


 う……確かに、これは答えなくてはいけない質問だ。


 別に畑荒らしとか思われているわけじゃないだろうが、どうしてあんなところにいたか気になるのは当たり前だろう。

 しかも、ウチの畑って言ってるくらいだから、きっと所有地のはずだ。

「転生したら、あそこらへんに出てきた」とか言ったら、頭のおかしい変態でべそ野郎なんて思われるかもしれない。


「散歩してたら道に迷って……ね」


 少し苦しいが、これで通るか……?


「散歩ですか。平次さんってどこに住んでるんですか?」


 しまった。

 この質問の答えを考えていなかった。

 どうしよう。

 ここまで来る間、結構きょろきょろしてたから地元民という言い訳は通用しなさそうだ。

 正直に言ってみるか……?


「じ、実はね……信じられないかも知れないけど……」


 おれは全てを語った…………りはしない。

 転生した事についてははぐらかした。


 気がついたら悠ちゃんの畑の近くにいたこと。

 訳もわからず彷徨ってたら悠ちゃんに会ったこと。

 今までの記憶が無くて、自分を確認出来る持ち物も何も持っていなかったということ。

 そして何故か、自分の名前だけ知っていたということ。


 とりあえず、こんな設定にしておいた。

 人を騙すのは気が引けるが、おれの言ってることも概ね合っている。

 嘘は言っていないぞ。


 その話を聞いて、悠ちゃんは「そ、そうなんですか!?」とあたふたしだした。

 取り乱し方がすこぶる可愛かった。

 悠ちゃんは「警察に行きましょうか!?」とか「病院に行きましょうか!?」とか言いながら、慌てている。

 病院に行くという選択肢は、決しておれがおかしな人だと思われたからではない、と信じたい。

 この提案におれは少し悩んだ。


 当然、悠ちゃんはおれを信用してくれているとは思うが、突然畑に記憶喪失の男が現れたとなったら気味が悪いだろう。

 しかも、悠ちゃんにとっておれは素性の全くわからない男。

 普通だったら事件のニオイを感じ取るだろう。


 そしてこの状況から考えて、おれが「警察には行きたくない」とか言い出したら、それこそ逃走中の犯罪者に思えてもおかしくない。

 でも、おれとしては転生してきたばかりで、警察に保護されているはずも無い親戚や知人を探すなんて馬鹿げたことはしたくない。

 ようやく不細工フェイスとおさらばし、社会のアホくさいしがらみから解放されたのだ。

 だから、今回は自由に楽しく生きたい。


 そしたらここで悠ちゃんとサヨナラして、一人でどこかに行ってしまうか?

 それなら警察に行かなくても済むし、おれも自由に動ける。

 しかし、問題もある。


 まず金がない。

 金がなければ何も出来ない。

 仕事を探すにも、面接用に履歴書がいる。

 もしかしたら住所の登録もいるかも知れない。

 元の世界と制度が違うっていう淡い希望もあるが、現実的に考えて住所不定&身元不明の男に仕事を任すところがあるとは思えない。

 これは……警察に行くしかないのか?


 何と答えようか悩んでた時に、おれのカツ丼定食が運ばれてきた。

 値段640円のくせに、かなり大盛りだ。


「どうしましょう……これから」


 悠ちゃんは困り果てた顔で唸った。

 おれも悠ちゃんに合わせて唸っていると、おれの腹も豪快に唸りだした。

 その音を聞いた悠ちゃんは、ニコッとして「お先にどうぞ」と言ってくれた。


「じゃあまずは腹ごしらえとしますか」


 おれは早速トンカツにかぶりつく。

 う、うまい!


 一口食ったところで悠ちゃんの鯖味噌定食も運ばれてきた。

 料理を目の前にして「わー」と短い感嘆を上げて食事を始める悠ちゃん。

 その可愛くて無垢な笑顔を見ていると、この子になら真実を言ってしまっても良いんじゃないかと思えてしまう。


 おれは小皿に乗ったたくあんをポリポリと食いながら、そう思った。

お待たせいたしました……長かった!

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