残念な妄想ヒロイン
朝の転校生のドタバタしたホームルームは終わり最初の授業が始まった。一時限目は数学だ。
いつもならクラスのみんなに責めて勉強ができる奴だと思われたくて授業中は必死になって勉強してるのだが、今日は全然勉強が捗らない。
何故かと言うと、転校生が窓の外を見ているだけなのだろうが俺にはこっちを睨んでる様にしか感じないからだ。
そりゃ、一番廊下側の席から窓の外をを見ようとすれば必然的に俺が視界に入ってしまうのはしょうがないが、何だか落ち着かない。
なぜ、そんな遠くの席から窓の外なんか見ようとするのだろう?普通はそこまでして外を見ようとはしないだろう。何か外にあるのだろうか?
そう思い俺も窓の外を見てみるが、いくらここが三階と言えど見えるのは電信柱や家のみだ、大した物は無い。
何にせよこっちが気まずいのだ、何とかならないだろうか...
そんな事を考えながら俺は横目で転校生の方を伺ってみる。
(あっ、そうか...)
俺はそこで気づいた。
そうか転校生は今日この学校に来たばかりだがら教科書がないんだ、だがら困ってこっちの方を見ていたのかもしれない、確かに初対面の人に教科書を見せてもらうのは勇気がいる。
あんな自己紹介をしたなら尚更だ。
俺は気をきかせて、できるだけ笑顔を作りながら転校生に話しかけた。
「桐ヶ谷さん教科書がないんだよね?良かったら一緒に見る?」
俺は笑顔を保ちながら優しく聞いた。
我ながらに紳士の態様だ。自分で自分を褒めてあけたいぐらいだ。
そんな内面ドヤ顔になってる俺に転校生は予想もしない言葉を返してきた。
「こんなところ今更やんなくても解ってるから結構よ、変な気を使わないで」
「あ...あ、そうなんだ... ごめん」
俺はあまりにも冷たい返事に驚き、つい謝ってしまった。
そんな俺を見てクラスの奴らはこそこそと近くの友達と喋りだした。
「いくらなんでも今のは酷くない?」
「確かにいくら妄想野郎が相手でも今のは無いよな」
「バカ野郎!あのクールなところがいいんだろ!」
そんな言葉も聞こえてないのか転校生は頬杖をついてそっぽを向いてしまった。
今日の授業はいつも以上に疲れた。
まぁ、疲れた理由は明らか一時限目のことがあったからなんだが...。
俺はそんな苦労を思い出しながら帰りの身仕度をする。と、言ってもすぐに帰るわけではない、俺がこの学校で唯一好きな時間は皆が帰り誰も居なくなった静かな学校だ。
だからと言ってクラスに居ても隼斗が五月蝿いだけなので俺は鞄を持っていつも生徒が消えるまで学校をうろうろするのだ。
この杉ノ丘高校は最近できた学校のせいか学校自体は綺麗で、わりと広いので暇潰しの探検には丁度いい。
俺は隼斗にデタラメに挨拶してから鞄を持ってクラスを出た。
そして俺は探検を終えて、クラスの奴等が居なくなった頃を見計らってクラスに戻った。
辺りは日が傾いて赤くなっている。
こんな時間まで学校に残っているは部活動をしてる生徒ぐらいだろう。クラスには誰もいないはずだ。
だが、そこにはまだ生徒が一人残っていた。
一番廊下側の一番後ろの席に一人詰まらなそうに座ってる生徒が、そう転校生の桐ヶ谷 楓だ。
こいつもこんな遅くまで残っていたのか、俺は内面がっかりしながら何故か気まずいのでデタラメに言い訳した。
「あ、あぁ... 桐ヶ谷さんこんなに遅くまで残ってたんだ、俺もノートを引き出しに忘れちゃって取りにきたんだ... 」
俺はそう言って自分の席まで行って適当にノートを手に取り教室を出ようとした。
「ちょっと待って」
突然の呼び止めに俺は驚き思わず振り返った。このクラスには俺と桐ヶ谷しかいない、空耳というわけでもないだろう。だとしたら俺は今、話しかけられたのか?
「なに、不思議そうな顔してるのよ、私以外このクラスにはいないでしょ」
やっぱりそうらしい、あまりに息なりだったのですぐには気づけなかった。今まで冷たい態度だったのに息なり何の用だろう?俺はとりあえず聞いてみることにした。
「何だ?俺に何かようか?」
「えぇ、そうよ。あなたに聞きたいことがあるのいいかしら?」
俺はまたも驚いた。なんだこの丁寧なお嬢様みたいな口調は、今日の朝とは全然態度が違うじゃないか。なぜ突如、性格が大人しくなったんだ?全然わからん。
とりあえずその質問と言うやつを聞いてみよう。
「聞きたいことってなに?」
「友達ができないの」
「は?」
聞き間違いだろうか?俺はもう一度聞いてみる。
「ごめん、よく聞こえなかったみたい。もう一回言ってくれる」
「だから友達ができないのよ、こんなに私がみんなに好かれようと頑張っているのに... みんな私のこと嫌いなのかしら... 」
そう言って桐ヶ谷は涙目になりながら下を向いてしまった。
これはどういうことだ?何かの冗談だろうか?
俺がそう悩んでいると下を向いたまま桐ヶ谷は話の続きを喋り始めた。
「だってそうでしょ?私はこんなに一生懸命に人気者になろうとしているのに」
こいつはバカなのであろうか?俺にはまったくわからん。
それから桐ヶ谷は独り言のように呟いた。
「何故なんだろう...私の想像では今頃...ぐへへへ」
今なんと言ったのだろう?小さな声であまり聞き取れなかった。
そんな事を考えていると何処からかまた妄想が聞こえてくた。
(みんな慌てないで、ちゃんとサインしてあげるから☆え?それって告白?でもごめんなさい。私は誰のものにもなるつもりはないの、そう私はみんなの私でいたいの!人気者って辛いわ☆)
なんだろう、今まで聞いた中で一番痛々しいような気がする。
誰がこんな脳内お花畑の妄想をしてるんだ...
ハッキリ聞こえるからすぐ近くだとは思うのだが、俺は少し気になり廊下に顔を出してみる。だが誰も居ない、そのまま隣の教室も見てみたが誰も居なかった。
それじゃあ、俺の頭の中があまりの寂しさに可笑しくなったのだろうか?嘘でもそれはないと思いたい...
だとしら後は桐ヶ谷しかいないが、いくらなんでもそれは無いだろう。そう思いながらも俺はまだ下を向いたままの桐ヶ谷の顔を覗いてみる。
「ぐへへへ...」
とても残念な顔をしている。なんか怖い。
そこでまた妄想が俺の中に聞こえてきた。
これは俺と隼斗か?
(隼斗ダメだこんなところでみんなが見ている。いいじゃねぇか少しぐらい。ダメだ隼斗、あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!)
おいー!!
人でかってに変な妄想しやがって!
うぇっ、気持ち悪くなってきた...。
誰だこんな酷い妄想をする奴は!
桐ヶ谷は相変わらず気味の悪い笑いをしているし...
あれ?てか、まさか... この妄想してるのは本当にこいつか?
俺はそんなはずは無いと思いながらも桐ヶ谷に聞いてみる。
「桐ヶ谷さん?今、変なこと考えてたりしない?」
桐ヶ谷は俺の声が聞こえないのか、こっちの呼び掛けに気づいていない。
俺は口を耳のすぐ近くまで持っていき耳元で桐ヶ谷を呼んだ。
「おーい、聞こえてるかぁー」
「キャッ!」
やっと気づいたのか桐ヶ谷は驚いて後ろに倒れそうになりながらも必死に耐えた。
「な、何!?べ、別にあなたと小暮くんで変なことなんて考えてなんていないんだからね!」
「やっぱりお前が考えてたんかよ... 」
「あ、あなた私を騙したわね!」
「お前が勝手に自爆したんだろ...とりあえず口元を拭けよ、よだれが垂れてるぞ? 」
俺がそう指摘すると桐ヶ谷は「ぐぬぬ」などと言いながら袖で口元を拭いた。
「お前、人で何てこと考えてるんだ... あれじゃ、どこの阿〇さんだよ... 」
「なんで内容まで知ってるの!?超能力!?心を読んだの!?」
桐ヶ谷は眼を輝かしながら訪ねてきた。
変な期待をしてしまったようだ。悪いが後々面倒なので速めに夢を壊させてもらうことにした。
「悪いが俺はそんな万能な力もってねぇよ、俺にできるのは他人の妄想を聞くことだけだ」
「は?何その頭悪そうな能力、何の役に立つの?人の妄想を聞くなんて趣味が悪いわよ?」
「悪かったな趣味が悪くて別に聞こうとして聞いてるわけじゃねぇよ、勝手に聞こえてくるんだよ。おかげで友達はあんまりできないし...まぁ、友達ができないのはそれだけじゃないのかもしれないけど... こんな力持ってたって良いことなんて何も無い... 」
「ふーん、あんたも苦労してるのね。でも、さっき私が考えてたことは内緒だからね!誰にも言っちゃダメだからね!」
「あ、あぁ... 解ったよ。その代わり人で変な妄想するなよ?」
「わ、わかったわ...気をつける... 」
気をつけなきゃ守れないことなのかよ... まぁ、それはともかく俺は1つ気になってることを聞くことにした。
「桐ヶ谷さん1つ聞いてもいいか?」
「さんはつけなくていいわよ、桐ヶ谷なり楓なり好きな様に呼んでちょうだい。で、聞きたいことってなに?」
「じゃあ桐ヶ谷、お前はなんで自己紹介の時にあんな自分に構うななんて冷たいこといったんだ?教科書の時も」
その俺の問に桐ヶ谷は極当然のように答えた。
「そんなの決まってるじゃない、そっちの方がかっこいいからよ」
「はぁ?」
思わず裏返った声が出てしまった。
「だって、そうでしょ?ハル〇だって自己紹介の時にただの人間には興味ないってみんなを遠ざけてたのに最後にはみんなハ〇ヒを慕ってるじゃない!」
「〇ルヒは自分に構うなまでは言ってねぇよ!」
「だってそこは主人公のライバルキャラみたいの要素を取り入れたらもっとかっこよくなるかと思ったのよ」
「それはライバルキャラじゃなくて雨の中、子猫とか拾うヤンキーのセリフだよ!」
「え、そうなの?でもそれはそれでかっこいい!」
はぁ...
なんて残念な頭の持ち主なんだ。
「じゃ、じゃあ教科書を断ったのは?」
「それは知的アピールよ!こんなところ勉強しなくても解るということをアピールしたかったのよ!」
「お前は人の優しさを何だと思ってるんだ!」
「あっ、それちょっとかっこいい!もう一回言ってみて!」
じゃあ何か?こいつは自分のキャラ設定のために今まであんな態度を取ってたって言うのか...
「とんだ妄想女だ... 」
「誰が妄想女よ、あんたみたいな何の役に立たない超能力を持った妄想野郎には言われたくないわよ」
「妄想野郎言うな!」
確かに何の役にも立ってないけど...
「はぁ... 俺、もう帰るわ...」
「ちょっと待ちなさいよ!まだ質問が終わってないでしょ!」
「もう、どうでもいいよ... 俺だって友達ができなくて困ってるんだ。お前に構ってる暇はない」
「何を言ってるのあなたには小暮くんがいるじゃない?はっ!もしかして既に友達と言う概念すら超越する関係に!?ぐへへへ... 」
「人で変な妄想するな!隼斗は確かに友達だけど... 。 はぁ...俺の超能力が念力とか透視とかそんな凄い能力だったらもっと友達ができたかもしれないのに...」
「まぁ、確かに他人に妄想を覗かれるなんてヤダもんね、そりゃ友達も中々できないわよね」
そうハッキリ言われると本気で落ち込む...
やっぱり誰が見てもそうなのだろうか、みんなが俺を避けるのは普通なのだろうか、隼斗は...まぁ、例外と言うか...人外だ。変態だし。
俺は嫌になり机に顔を押し付けた。
「しょうがないわね!あんたのその使えない能力の使い道を私が探してあげるわ!」
「はぁ?」
桐ヶ谷は突如、偉そうに胸を張って上から目線で言ってきた。
てか、こいつ思ったより胸デカイな。
「突然、何を言い出すんだ?俺の能力の使い道を探すって言ったって、どうするんだよ?」
「それをこれから探すんじゃない!」
前途多難だ...そんなもの本当に見つかるだろうか?
「まぁ、あんたは安心してタイタニック号にでも乗ったつもりでいなさい!」
沈むじゃねぇか...
こうして俺と桐ヶ谷は俺の使えない能力の使い道を探すことになった。