EPISODE6/実力差は大きい
早くも「○○は○○」形式のサブタイトルに限界を感じています。
こっから先大丈夫かな…
「きゃあっ!」
咲魔のメアリーが、斬撃を受け止めきれずに後ろに弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。TBは痛覚をトレースしないが、触覚はきっちりあるため、強烈な衝撃もそのままチャリオット内でコネクターにつながれたパイロットに伝わるのだ。
ジストがガウェインセイバーを構えて漆黒のグラーベを見据えるが、敵はピクリともしない。
「こいつ…」
「ええ…強い…」
ガウェインとメアリーのシールド耐久値が残り半分を切っているのに対し、ここまでの戦闘で二人はグラーベに一太刀も浴びせられていない。グラーベは此処までの戦いだけで二人のパターンをかなり学習し、もっとも受けづらく、かつ最低限の力でも最大限のダメージを叩きこめる戦法をとってきている。隊長クラスの咲魔はもちろんのこと、ジストも何度か猛者と戦っている。しかし、最弱クラスのグラーベでありながらここまで圧倒的な強さの個体など、今まで見たことも聞いた事も無い。それほどに圧倒的なでありながら、この個体が属するグラーベ級のスペックは確認されている全UMSで最低。それはつまり、戦闘スキルがどれほど高いかを意味している。
…その時。
『…ツマラン。』
「「!!」」
喋った。グラーベが、である。
別に今までUMSが喋らなかった訳ではない。ベルリンを焦土に変えた最初のUMSは、各国の軍を全滅させた後、こう言ったのだ。『余計ナ事ヲ、スルナ』と。
しかしUMSが話すことはほぼない。理由は簡単。機械同士のコミュニケーションに会話は不要だからだ。今まで記録に残っているUMSの会話はその、最初の個体の最初の言葉だけだ。
『…コノ程度ナラ、コレ以上戦ウ価値ハナイ。【アイツ】ニ見エルコトガ出来ルト思ッタガ、マタシテモ当テガ外レタカ。』
またしても、だ。
「『アイツ』って?どういうことなの?」
『貴様ラニ教エル必要ハナイ。私ハモウ去ル。次会ウ時ニハモウ少シマシニナル事ダ。』
漆黒のグラーベは二人に背を向け、スラスターをふかして去って行った。
「止まれ!」
ジストがマシンガンパイルを撃ちまくったが、無駄だった。全弾を見えているかのごとくかわし、漆黒のグラーベは戦場から飛び去って行った。アーパが2機と通常仕様のグラーベが1機、それに追随していく。…全機仕留められなかった。作戦失敗だ。
『…くま!咲魔!聞いてる?帰投して!』
穹から指示が来た。
「え?あ、うん…」
『エレディア准尉、任務完了です。帰投してください。』
「しかし、敵機を追撃しなくていいのか?」
『大丈夫です。敵の予測進行ルート上にはアラスカ基地とサンフランシスコ基地がありますし、その辺りには独立部隊もかなりの数控えています。彼らがすぐに追撃してくれるはずです。』
『むしろ、二人の機体は消耗してるよ。こんなこと言いたくないけど、このまま深追いしても、さっきの黒いのに撃墜されるのがオチだよ……』
「クソっ…この私が…任務失敗なんて…」
ジストは、漆黒のグラーベが去って行った方向を見上げ、ただ一言つぶやいた。
「……嫌な予感がする…」