EPISODE5/猛者は要注意対象
TBはひっさびさになりますね!
ジストが降り立った草原には、先客がいた。咲魔の『メアリー』とハルヤの『ジャック・ザ・リッパー』だ。
メアリーはグラディエートユニット『レーヴァテイン』装備の近接格闘戦型で、最大の特徴はあまりメジャーではない鎌を装備していることだ。大型のエネルギーサイス『復讐者』と、ビームが封じられた場合のために実体刃タイプの大鎌『リレントレス』も装備する。更に白兵戦用に小型ビームサイスも4つと計6本の鎌を装備。ただし火器は装備していない。機体本体は機動性を高めてあり、一瞬で敵に接近できる加速力を持つことで遠距離攻撃面での貧弱さを補っている。ゴスロリドレスの様なスカートアーマーが付いているが、この裏側には小型の可動スラスターを大量に装備、旋回性も確保されている。元々はペルセウスのプロトタイプであり、それを支給された咲魔が自分でカスタムしたのだ。
ジャック・ザ・リッパーはアビスユニット『スキュラ』装備で、水中戦型のアビスユニットの宿命として単体での空中戦が出来ないため飛行する際はボード型フライトユニットを利用する。
特筆すべきは水中だけでなく地上でも高い機動性を持つことと発熱量を抑えたことによる隠密性の高さであり、今回の様な開けた場所では意味が無いが、渓谷や密林などでのゲリラ戦も得意とする。武器は刃渡り35センチの大型ダガーナイフ『人斬り短剣』が2本と腰にマウントされた大型ハンドガン『命喰い』2丁。軽装だが相手の弱点を的確に突けるだけの腕があれば十分な破壊力をもたらす機体となっている。
「ジスト君…だったっけ?もたもたしてたら獲物は私達が全部持ってくわよ!」
咲魔がアヴェンジャーを振るいながら余裕しゃくしゃくでジストに言った。挑発のつもりらしい。しかし、相手はあのジストである。あおるだけ時間と労力の無駄だ。
「…競争に興味はない。だが任務だ。目標を殲滅する。」
相変わらずの冷めた声で言いながらガウェインセイバーを振り抜き、ジストは敵に向かって行った。目の前にいるのは近接戦闘タイプの軽量歩兵型『アーパ』が10体と中量戦車型の『リヴ』が3体。アーパは4脚を採用して機動性と積載力を高めたタイプであり、武装はビームアックスと両手用の実体剣。リヴは大型エネルギーキャノンとビームチェインガンを備え、堅牢な装甲が持ち味である。どちらも素人なら苦戦必至の敵だが、接近戦はジストの土俵だ。スラスターで加速してアーパ3機の脇をすり抜けながら手にした剣を振るい、そしてジストが通り過ぎた直後には、斬撃をよけきれなかったアーパが真っ二つにされて吹き飛んだ。
「うりゃああ!」
咲魔がリヴにアヴェンジャーを振り下ろしたが、流石に戦車型の装甲を一撃で貫く事は出来ない。しかし、2撃目で装甲に目に見えて分かるほどの傷がつき、更にもう1撃で遂に装甲が真っ二つに切り裂かれる。後1撃、というところで、急に咲魔が付けた切創にエネルギー弾が叩き込まれ、そのリヴを吹っ飛ばす。ハルヤがライフイーターを正確にぶっ放してちゃっかり手柄を持っていったのだ。ちなみに、彼の後ろには煙を上げてくすぶるアーパ4機とリヴ1機が転がっていた。
ジストが発射したマシンガンパイルが、不意打ち狙いで後ろから斬りかかってきたアーパに風穴を穿ち、バラバラに吹き飛ばすと、その辺の敵は全滅していた。
「咲魔、水中に3機いる。俺はそいつを叩いてくる。」
「分かった。お願い。私は夜哉の援護に向かうわ。」
ハルヤがマンチョッパーを二つとも抜いて水中に飛び込むと、咲魔はジストの方を向いた。
「言った意味、分かったでしょ?」
「…興味無いと言ったはずだ。」
「…はあ。愛想悪っ。」
とっさにとこから飛びのいたのは、鍛え上げられた反射神経のおかげか、生存本能のなせる業か。今まで咲魔が立っていた所に、片手用ロングソードと思しきものが飛んできて、地面に勢いよく刺さったのだ。
「!?」
上空から、1機のUMSが飛来してその剣のもとに降り立ち、その剣を抜いた。
グラーベだった。しかし、見た目は一般機とは違う。一般機はスカイブルーのボディに紫のアイセンサーで、武器はライフルとビームソードだ。しかし、目の前にいる機体は漆黒のボディカラーと血のように真っ赤なアイセンサーを有し、手にする武器は片手用のロングソードが1振りのみ。
「…ジスト君、気をつけた方がいいよ…こいつ…」
「…ああ、『猛者』だ。」
ジストが『指揮官機』や『高性能機』ではなく『猛者』と呼んだのにはれっきとした理由がある。UMSはふつうの機械兵器とは違い、経験を積むことで強くなるのだ。TB部隊が戦闘を行った際、UMSを何としてでも全滅させようとする理由もまさにここにある。幾度も死線をくぐりぬけ、数多の経験を積んだ個体は極めて高い戦闘能力を有し、自らの戦闘スタイルを最大限に発揮できる装備となって現れるのだ。ゆえに、彼らは『猛者』と呼ばれる。そして、人間の精神が乗り込んだTBが動きにどうしても緩急や乱れを生じさせるのに対し、純粋な機械であるUMSにはそれが無い。つまり、同じ経験を積んだTBとUMSでは、UMSが有利なのだ。しかも目の前の機体は、内装武器があるのなら別だが片手剣1振りしか装備していない。それはつまり、これだけでも十分に戦えるということを意味するのだ。
「…咲魔、撃破スコアがどうとかは」
「言ってられないわね…しょうがない、二人で叩くわよ。」
「…了解。」
漆黒のグラーベは剣をひゅんっとふり、そしてその切っ先を二人へと向けた。