EPISODE2 ファーストバトルはファインに決めろ
気付いた方もいると思いますが、サブタイトルは「○○は○○」という形でやってます。
此処で、今飛行している3機のTBについて説明を入れておく必要があるだろう。
ジストのガウェインは、人類軍主力TB『ペルセウス』がベースとなっており、装着するギアユニットは、地上での機動性を重視したアサルトユニット『グリフォーネ』。武装は少ないが汎用性はあり、またジストのスタイルに合わせて近接格闘戦に必要な能力が底上げされている。武装は片刃の片手用長直剣『ガウェインセイバー』と、もう一つ実弾系のライフルを装備している。貫通性を高めるために弾丸は杭状になっており、更に単発発射だけでなく秒間10発のペースでフルオート射撃も可能、その特性から『マシンガンパイル』の名前が付いている。そして今回は装備していないが、TB用の標準型シールドのうち、タイプEと呼ばれる物を装備。これは主に中量戦車型や戦艦型などとの戦闘で敵の重火器から身を守るのにつかわれる。
カイルのビリー・ザ・キッドは特務使用機『ロビンフッド』をベースとした空戦型で、装備するのはガストユニット『シルフィード』。武装はビームハンドガン4丁に、ビームサブマシンガンとビームナイフが一つずつと、軽量な物のみを装備。機体加速性や最高速度よりも旋回性にウェイトを置いた設計となっている。
マリアのカラミティ・ジェーンのベースはガウェインと同じくペルセウス。二つのギアユニットをミッションによって選択するようになっており、今回装備するのは狙撃能力の高いサーチャーユニット『セイレーン』。武装は狙撃用のロングレンジパルスライフルと、レールガンをハンドガンサイズにまで小型化したレールピストルが1丁ずつと少ないが、狙撃手の腕が十分であれば15キロ先にあるテーブルを焦がさないでその上にあるナットだけを撃つなどといったことも可能。そして、マリアにはその『十分な技量』が備わっている。もう一つのギアユニットはパンツァーユニット『フェンリル』だが、これに関しては後に説明するとしよう。
さて、3機のTBは目標地点を視認できるところまで近づいてきた。場所は小さな住宅街。避難は間に合っているらしく人影は見られないが、あちらこちらで戦闘の光が見える。
『12時方向にUMS反応を確認しました。数は19機です。』
「残りはたぶん、他の部隊と交戦してるんだろうね。」
「私は狙撃で援護するから、貴方達は前線で敵をせん滅して。」
「…分かった。」
「了解。」
マリアは近くの少し高いマンションの屋上に降り立って銃を構え、そしてジストとカイルはUMSがいるという地点に向かっていた。
そして、敵を発見した。
スカイブルーの装甲に、x字状のアイスリット。全体的にやや丸みを帯びたフォルムだが、シルエットそのものはシャープな印象を与える。武装は手に持ったビームライフルと、上腕にビームソードの柄が1つずつ。
UMS中最も数の多いとされる歩兵型、『グラーベ』だ。こちらを発見し、19機のうち10機が空中へと飛び上がり、残りは既に地上へと降り立ったジストに向かって手にしたライフルを発射し始めた。赤黒い閃光が銃口から迸り、着弾した地点を大きく抉る。
しかし、ジストは冷静に対応した。全てのビーム弾を最低限の動きでかわすと、ガウェインセイバーを構えて地面を蹴り、一気にダッシュで距離を詰めて手にした刃を振り上げる。
「シッ!」
掛け声と共に刃が2度3度振り下ろされ、かわしそこねたグラーベ3機が腰から両断されてバラバラに吹き飛ぶ。後ろからビームソードを振り上げたグラーベが飛びかかって来るが、ジストは冷静にガウェインセイバーで受け止めると腰の後ろにマウントしていたマシンガンパイルを引き抜き、銃口をグラーベのボディにつけてゼロ距離で弾を叩き込む。対UMS用特殊弾丸をさらに強化したパイル弾を、それもゼロ距離から叩き込まれては、グラーベ程度の防御力ではひとたまりもない。胴をパイル弾が貫通し、ジストが飛びのいた直後にそのグラーベが閃光と轟音を放って吹き飛んだ。
不意に、衝撃が襲いかかった。グラーベが1機、戦闘の動乱にまぎれてライフルを撃ち、それが肩を直撃したのだ。しかし、ガウェインのボディには傷一つない。
たった1機で大都市を焦土に変えてしまうほどの兵器に対抗するために、TBは3重防御構造を採用している。
まず、駆動系を覆う特殊強化繊維製スーツ。これだけでもレールガンの直撃の衝撃まで無に帰してしまうほどの耐久性を持ち、更にその上から、スーツの10倍近くの耐久力を誇る装甲を施し、最後にその上に、超音速飛行に伴う衝撃波に余裕で耐え抜く不可視のエネルギーバリアを展開、これによって、UMSの兵器にも無傷で耐えられるほどの防御力が得られる。もちろん通常兵器で破ることなど不可能である。マンガやアニメなどではシールドがあるからとか早くて攻撃が当たらないからとかそういう理由で―もちろん本当の理由はキャラを引き立たせるための読者サービス的なものであろうが―戦闘用であるにもかかわらずやたらと肌を露出するスーツなどがよく見られるが、UMSとの戦いにかかわる者から言わせればそんな兵器で戦場に出るなど正気の沙汰ではない。1トンの重石をつけてマリアナ海溝に飛び込むよりも100倍は無謀な行為なのだ。
なぜこんな神経質なまでの防御を施すのか。簡単だ。相手がUMSだからだ。今は大丈夫でも、その内桁違いの攻撃力を持った物が現れるかもしれないのだ。そんな相手に対しては、どんなに用心してもし過ぎることはない。TBとは『通常兵器を凌駕する兵器』であると同時に、『通常兵器を凌駕する兵器を倒すための兵器』でもあるのだ。幾ら強過ぎてもやり過ぎではない。
話を戻そう。
ジストが剣を構えた直後、飛来したビームがグラーベを次々と仕留めて行く。カラミティ・ジェーンのロングレンジパルスライフルが火を噴いたのだ。その命中率の高さに、ジストも少しだけだが驚いた。
一方、空中ではカイルがグラーベ達を持ち前の機動力で翻弄している。そして、敵の真ん中に飛び込むと手に持ったビームハンドガン2丁を空中に放り投げ、もう2丁を引き抜いた。
「派手に行くよ!ファイアァァァ!!」
叫ぶや右手のハンドガンを撃ち、そして1発撃つと左手のハンドガンを撃ちながら右手の銃を放り、空中にある別の銃を掴んで左手の銃を発射、右手の引き金を絞りながら左手の銃を放り投げて別の銃を掴み、その引き金を引き絞りつつ右手の銃を別の物に交換。この繰り返しで凄まじい数の光弾を周囲にばら撒き、グラーベを次々と撃破していく。
これこそが彼の戦闘スタイル、『4丁拳銃』である。
あっけなく、その周囲にいたグラーベ達は煙を上げる屑鉄の塊へと変わり果てた。
突然、アンナから通信が入る。
『警戒!新たなUMS反応!中型多脚タイプです!』
「場所は何処なの?」
カイルが素早く問いただす。
『そこから500メートル南西です!気をつけてください!』
「っていうことらしいよ。カレン、どうすればいい?」
通信機越しに待機していたカレンが指示を飛ばす。
「マリアは引き続きスナイピングで援護、カイルとジストはそこに急行しろ!」
「わかった!」
「…了解。」