EPISODE16/喪失の後
考えるのがメンドくさくなってきたのでサブタイトルに法則を持たすのはもう止めます。
既に1日半が経過していた。
作戦は最悪の結果に終わった。部隊の推定1/5が離反し、残った兵士たちはその半数弱が捕虜になったか戦没認定を喰らっている。作戦指揮のバウム中将も戦死し、20年かけて少しずつが開発された北米のTBも1/3ほどが撃墜されて失われた。
501や226の被害も甚大だった。226はチャリオットと二人の優秀なパイロットを失い、501は、カイル・アカーシャを失った。
彼らは現在とある川のほとりにいた。岸辺から少し離れた所に停まったチャリオットの中で、生き残った12人は沈痛な面持ちで押し黙っていた。
つけっ放しになったテレビから流れてくるニュースによれば、グリパヘリル攻略戦失敗を皮切りに、世界の各地で人類軍の兵士の1分が武装蜂起し、その地の人類側勢力を攻撃して次々と離反しているという。まだ戦闘が継続しているところも多いが、既に決着がついた所もある。
ジストは運転席の後部座席に座って、1人窓から外を眺めて考え事をしていた。
カインズをはじめとした反乱軍――プリベンターと名乗っていた――たちはいったい何が狙いなのだろうか。UMSの正体も目的も分かっていないが、人類に敵対的な存在に味方したところで得る物などあるとは思えない。
考えた所で自分が何か出来る訳でもないが、少なくとも心の靄を紛らわす位は出来る。そう思って色々と推測して見たが、結局堂々めぐりに終始するだけだった。うんざりして、皆がいるブリーフィングルームに戻った。
カレンはいなかった。聞いてみると、1分ほど前に風に当たって来ると言って外に出て行ったとのことだった。
すると、つけっ放しのテレビの画面に、いきなりノイズが走った。故障かと思ったが、違う。ノイズがどんどんひどくなり、回復したとき…そこに映っていたのはカインズ・アルカートだった。
「「!!!」」
カインズは離反する前と変わらない笑みを浮かべながら、静かに言った。
『人類のみなさん、ご機嫌はいかがかな。』
「ケッ、最悪だぜ。てめえらのせいでな…」
夜哉が画面目掛けて吐き捨てた。
『諸君らは現在、なぜ我々が突然敵に回ったのか、と思っていることだろう。私が今ここにいるのは、それを話すためだ。そして、諸君がUMSと呼ぶ機械兵士の由来と目的もだ。』
カインズは話し始めた。
およそ80年前、終わる兆しを見せない各地の戦争や紛争と、進み続ける環境破壊に突かれた人類は、科学の粋を結集して開発した量子演算型スーパーコンピューターを建造した。その名は『BRAIN』。地球の保全と人類の生存および発展を命題にし、BRAINは日々、人類にさまざまな指示を下していた。そしてそれにより、世界はいい方向に修正されつつあった。しかし、稼働開始から16年後、突如BRAINからの支持が途絶えた。ごく一部の人間しか知らないBRAINの設置場所に赴いた調査チームは消息を絶ったが、その前に来た連絡によれば、BRAINは原因不明の大規模な損傷により、もはや再稼働は絶望的だということだった。そしてそれ以降、BRAINは人々には忘れられ、やがて『かつてこんなものがあった』程度の存在となって行った。
しかし、BRAINは破壊されてなどいなかった。一体どうやって調査チームをごまかしたのかは分からずじまいだが、BRAINは推論の結果とある結論に達し、故意に交信を絶っていたのだ。
地球を破壊する最大の要因は戦争であり、そしてそれを根絶する最も確実な手段は、絶大な力を持った『共通の敵』を用意し、人類を一つにまとめ、戦争の脅威を強引にでも刻み込む事だ、と。
そしてBRAINは機動兵器『エリミネーター』を長い時間をかけて開発し、人類の文明を攻撃させるために送りこんだ。それこそが、人類によって未確認(unidentified)機械(machine)兵士(soldier)――UMSと名付けられた存在なのだ。
『…私は、エリミネーターの目的をつきとめるため、ずっと独自の調査を行っていたのだ。そしてすべてを知った私は、BRAINの方針に共鳴し、同志を集め、ずっと機会を待っていたのだ。
人類は確かに一つになりつつある。しかし、私はそれでも温いと思っている。
故に、我々反乱軍は人類に宣戦布告をするとともに、反対勢力には少々強引な手段を使う事も厭わん。人類側の諸君は、我々が戻って来る事はないものと考えていただきたい。…では。』
映像は切れた。
カインズはこう言っているのだ。平和のために、自分たちが人類最後の戦争をするのだ、と。
「…どういう事だ…」
いつの間にか戻ってきたカレンが、絞り出した。
「…何よそれ…ッざけなないでよクソが!」
咲魔が叫び、拳をテーブルに叩きつけた。
「そんな…そんなことのために何千万人も死んだの!?トチ狂った鉄クズの独善のために何もしてない人が死んだなんて、ふざけんのもいい加減にしてよ!」
口に出さなくても、その場にいた全員が、同じことを思っていた。
「…返してよ…お父さんを…お母さんを…学校の…街のみんなを返してよぉッ!」
指が手を貫通せんばかりの力で拳を握りしめ、咲魔が言った。
「…皆、辛いのは分かる。」
言ったのは、ジストだった。
「「「…」」」
皆が、黙ってそちらを向いた。
「確かに俺達は凄惨な裏切りにあった。多くの物も失った。だが、考えろ。俺達が何のために力を手にしたのか。思い出せ、俺達が何のために人類軍へと入隊したのか!この戦争で大切なものを失う人間が、もう出ないようにするためだ!少なくとも、俺はそう信じている!俺達のこの力は、守るための物だ!その使命は、何があろうとも変わる物ではない!俺は誓う!例え俺が人類軍の最後の一人になっても、守るべきものが、信じてくれる人々がいる限り俺は諦めない!」
こんなに喋るジストは初めてだった。彼が内に秘めているものが、全て表に出ているようだった。
「…そうだよな。」
そう言って立ちあがったのは、ルーク。
「ったく、お前みたいなネクラに励まされるたぁな。…けどありがとな。何か、ふっきれたぜ。確かに、辛いのは変わらねえ。けど、俺達が未来を見ないで、どうしろってことだよな。俺は戦うぜ。」
「お前達は強いな。だったら、私はそれについていきたい。」
そう言ったのは、カレンだ。
「カイルを失った事が辛くない、と言うつもりはない。だが、私はこう思うんだ。カイルが私達を守ってくれたのは、私達に希望をつなぐためだ、と。だから私は、アイツが繋いでくれた希望を断つことだけはしたくない。」
その続きを言おうとしたカレンを、腕を出して制したものがいた。咲魔だった。涙をぬぐって、皆に向き直った。
「そして皆、私達には皆の力が必要よ。私達と共に来てくれる人はいる?」
「ヘッ、んなもん聞くまでもねえ。違うか?」
「私達仲間でしょ?ついていくわよ。」
「俺も賛成、だ。こんな事でしょげて諦めちまったら、死んじまった友達に顔向けできないから、な。」
「私もお伴させてもらうわよ。地獄までも。」
ジョナサン、マリア、夜哉、朝儀が答えた。
「オイオイ、俺達を忘れてもらっちゃ困るぜ?」
「バックアップも無しで戦う、なんてことは言わないわよね?」
「そーです!皆が命懸けで戦うなら、自分達も命がけでサポートします!」
「私は、雨が降ろうが核が降ろうが夜君と添い遂げるんだよ!」
チャック、アンナ、ロベルト、穹も、宣言した。
「満場一致、か。つくづくいい連れを持ったな、私も。」
カレンが感慨深そうに言った。そして、きっとした表情で皆に向き直る。
「いいか!私達は自らの意志で降りる事を拒否したんだ!だったら、途中でその意志を曲げる事は許されない!私達だけで出来ることなど高が知れているが、誰かを守ることくらいなら出来るのだ!我々はそれを遂行する!誇り高き人類連合軍の一員として!」
「志半ばで倒れた同志のために、私達は戦うのよ!勝利がやって来るか、魂が燃え尽きるまで諦める事は許さないわよ!分かった!?」
「「「イエス、マム!」」」
兵士たちの声を聞き、最後にルークも声を張り上げる。
「そうだ、その意気だ!解放の日まで、戦うんだ!心配すんなって、俺もついてるんだからよ。」
先ほどまでのショックが消えた訳では、もちろんない。しかし、各々が戦う意味を見つけ出したのだ。信じる物があるだけで、人は希望を捨てないでいられるのだ。
何か微妙に最終回ムードですが、もちろんまだまだ続きますのでご安心を!
所で、何か子供っぽい感じになってしまいました。現代ではこうした事が綺麗事として軽蔑される風潮にありますが、僕に言わせれば、綺麗でなにが悪いんだ、というところです。
と言う訳で、リアリティよりもヒロイズムをちょっとだけ優先して進めて行くので、よろしくお願いします。
そして次回、新ヒロイン登場!の予定です。