EPISODE15/戦争は人を変える PART6
カイルはチャリオットのハッチから飛び出すと、スラスターを全開にして『敵艦』に突っ込んでいった。TBでは決して感じることのない高Gがカイルに襲いかかる。
「クッ…」
カイルの接近を察知した『敵艦』が、対小型標的用の機関砲を連射する。カイルはTCS用の大幅チューンダウンが施されたスラスターを使っているとは信じがたい完璧な戦闘機動で機関砲を回避する。すると、『敵艦』のハッチが開き、中からグラーベ数機が飛び出そうとする。狙い通りだ。カイルは手にしたマシンガンを構え、出撃直前のグラーベを狙って発砲。吐き出された光弾がグラーベの動力炉を貫き、寮機や母艦のデッキを巻き添えにして爆縮反応を起こして粉々に吹っ飛んだ。通常はタブーとされるリアクターの破壊をわざとやり、侵入口を開いたのだ。すさかずそこに飛び込み、狭い屋内ではデッドウェイトにしかならないスラスターを放棄して『敵艦』の中を突撃する。すると、フロアの角からアーパ3機がやって来る。
「邪魔だ退けぇぇぇぇ!!!!」
叫びながらマシンガンを発砲。敵が粉砕されるのも確認せず、さらに奥へ、奥へ。
その頃、501のチャリオットの格納庫で、カレンは目を覚ましていた。
「…ァ…私は…そ、そうだ、カイル!カイルは…!」
「カイルって…」
「じゃあ、やっぱりあれはカイルだったのかよ!?」
はっとなって見てみると、周りには運転席のアンナと穹を除く全員がいた。
「…皆…カイルが…カイルが一人で敵艦に…頼むチャック、今すぐトモエを使わせてくれ!」
「無理だ!修理には最低…」
「じゃあどうすればいいんだ!TCSはカイルが持ち出した!どうやってアイツを助けだせばいいんだ!」
カレンは、すがりつくような声で言った。こんな、泣きそうなカレンなど、皆見たことが無かった。
「カイル…頼む…生きて帰ってきて…」
頑丈な扉を腰の多目的ベルトに下げたプラズマグレネードで爆破し、中に飛び込む。そこは『敵艦』の主エンジンルームだった。部屋に飛び込み、追手を巻いた事を確認してから、そこの構造を確認した。
エンジンは部屋の中央にあった。シリンダーの様なパーツが互い違いに回転し、青白い光を放っている。
自分の状態を見てみる。酷いものだった。シールドはとっくに消滅し、銃撃戦でヘルメットも破壊されたため生身の頭を露出させている。銃はもうキャノン1本しかない。弾切れになったそばから投げ捨てて行った結果だった。…だが、それで十分だ。
「……」
カイルは息を大きく吸い、ビームランチャーを構えた。そして目を閉じ、出撃前に抱き合った最愛の人の姿を思い出す。
(…カレン…ごめんね。でも、君は僕なんかいなくても、幸せになれる。…信じてるよ。)
カイルは閉じた目を開け、指に力を込めた。最後の使命を果たすために。トリガーがカチンと鳴るのが聞こえる。そして、閃光と轟音がすべてを飲みこんだ…
突然だった。『敵艦』から閃光が迸り、凄まじい爆音と共にバラバラに吹き飛んだ。飛んでくる破片を、アンナが必死にかわしてチャリオットを走らせる。
「…嫌…ウソだ…そんなはずはない…アンナ!カイルはどうなった!」
『識別シグナルと生体反応…消滅しました…』
返答したアンナの声は、震えていた。しかし、カレンはもはやそんな事も分からなくなっていた。突きつけられた事実が、受け止められなかった。
「…嫌…嫌…そんな…カイル…」
一番最初に動いたのは咲魔だった。カレンのそばに膝をつき、慰めるように黙って彼女を抱きしめて背中を一生懸命にさする。しかし、やがて彼女の瞳からも、涙がこぼれおちる。
皆とて同じだった。いつもは無表情なジストも、沈痛な表情で顔を下げている。
「うっ…うぁ…うわぁぁぁん…あぁぁぁぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
泣き叫ぶカレンの声だけが、格納庫にこだました。
カイル死亡です。そしてグリパヘリル編終了です。これが転機になる…予定です。