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EPISODE14/戦争は人を変える PART5

 明けおめです!

 グリパヘリルが揺れていた。大地を揺るがすような振動が響く。そして、それは姿を現した。


 グリパヘリルの乗っていた地盤を突き破り、巨大な物体が出現した。

 前方からのシルエットを低く、火器面を高くした形状は、紛れもなく人類軍も保有している飛行戦艦の物だ。しかし、そのサイズは尋常ではない。

 人類軍の艦が400m強位のサイズなのに対し、この艦の全長は軽く1kmはあるだろう。赤く塗られた船体には無数の砲台が備えられ、それらは1撃で小さい街なら蒸発させかねない威力をうかがわせる。船体中央よりもやや後ろに備えられた艦橋ブリッジ状の構造物の形状は、グリパヘリルの中央タワーと瓜二つ…いや、そのものだ。船体にはざっと見ただけで8つはハッチが備えられている。恐らく、UMSの発着用デッキだろう。



「怯むな!総火力ではこちらが上だ!退きながら主砲を叩きこめ!」

 バウム中将の指揮のもと、旗艦テルタインをはじめとした5隻の陸上艦の主砲が火を噴いた。

 そこから発射されたビームが、名すらも分からない『敵艦』に吸い込まれ、命中する。

 だが、『敵艦』は無傷だった。正確には多少の損傷を与えてはいるものの、致命傷とはほど遠い。

 そして、『敵艦』の主砲から無数のビームが放たれた。地上に降り注いだエネルギーの束はそこにいたTBやチャリオットを次々と飲みこみ、爆炎に変わる暇も与えず蒸発させていく。

「…!!」

 レベルが違い過ぎる。バウム中将は戦慄を隠せなかった。

 その時。


「12時方向より接近する反応あり!この信号…エンキドゥです!」

「何だと!?クソっ…対空砲火で迎え撃て!牽制位にはなるはずだ!」

「了解!」

 《テルタイン》の対空レーザーが、姿を現したエンキドゥ目掛けて放たれる。しかし、カインズに掠りでもした光弾は一つとしてなかった。エンキドゥ本来の鈍重さをかけらも感じさせない高度な戦闘機動でレーザーをかわし、両腕のガトリング砲で砲座を次々とスクラップに変えていく。

『逃がしはせんよ。貴様のために取って置いた残り弾だからな。』

 カインズの声が、艦橋に通信で響いた。その声は、あくまで冷静だった。

「…ふざけるな…こんな幕引きなど…」

 バウム中将が声を絞り出すと同時に、至近距離から全弾発射フルファイアされたミサイルやビームが《テルタイン》の防御シールドを紙屑の様に引き裂き、ブリッジを木破微塵に吹き飛ばした。








「TBは出せないのか!?」

 その光景をカメラで観ていたカレンは、チャックに向けて叫んだ。

「ムリだ!最高速度で戦闘機動なんて無茶したせいで機体がかなり傷んでる!きっちりオーバーホールしねえとたちまち空中分解だ!」

「クソ…」

 TBはかなり高い機動性を持っているが、それはあくまで航空性能に依存している。足で走っても時速280kmがせいぜいだし、チャリオットに乗って砲台になったとしても、こちらからの攻撃を認識したとたん『敵艦』の主砲の1撃でチャリオットごと粉微塵になるのがオチだ。

 何も出来ない。苦い顔で全員が画面上の『敵艦』を睨みつけていた



 その時だった。カイルが何か呟き、格納庫の方に去って行ったのは。

「…カイル?」

 カレンはそれに1人だけ気付き、後を追った。






 格納庫に付いたカレンが見たのは、TCSをその身にまとったカイルの姿だった。手に軽機関銃ライトマシンガンを握り、太腿にビームマシンピストルを2丁差している。背中も小型のビームランチャーを2門マウントした、かなりの重武装だ。拠点攻撃、という言葉がカレンの頭をよぎる。

 とたん、カレンは気付いた。気付いてしまった。カイルが何をしようとしているのか。

「…カレン。君は来ちゃ駄目だ。」

「…カイル…止めろ、お前は死ぬ気か!?」

「作戦開始前に、僕は言ったよ。必ず、君を守るって。…今がその時だ。」

 カイルの言葉が、重くのしかかる。

 カイルは言っているのだ。『敵艦』に挑むと。

 その選択をしてしまえば、カイルはもう2度とここに帰ってこれない。

「…嫌だ…」

 カレンがうつむき、声を絞り出す。そして、感情に任せてカイルに抱きついた。

「カイル…私を一人にしないで…私は…お前なしでどうやって生きて行けばいいんだ…?」

 カイルは泣きじゃくるカレンを優しく抱きしめ、その耳元で囁いた。

「カレン、有難う。…でも、これは僕の決定なんだ。僕も男なら、大好きな君を命をかけて守りたい。いや、守らなくちゃならないんだ。」

「だったら私も一緒に行く!私を1人で置いていくな!」

「…1人じゃないさ。」

「…え?」

「君には、隊のみんながいる。僕がいなくても、君は一人じゃない。辛い時に支えてくれて、困難に一緒に立ち向かってくれる、大事な仲間がいるじゃないか。」

 カイルは優しく、カレンに語りかけた。

「1人で背負い込まないで。辛いときに誰かを頼る事が出来るのは、凄く幸せな事なんだよ。…それと、これが僕からの最後のメッセージだと思って。…カレン、有難う。君を愛してる」

「…あぁ…私もだ…お前が大好きだ…」

 カレンがカイルを一層強く抱いたのを確かめ、カイルは太腿のマシンピストルを静かに抜き、カレンの頭に光弾を叩きこんだ。

 鼻にかかったような銃声が響き、スタン・ブラストを喰らったカレンが失神して倒れた。出力を調整しておいたので、10分もすれば目を覚ますだろう。

「…カレン、本当にありがとう。」

 そう言い残して梯子を上り、ハッチから飛び立ったカイルの姿に、かつてのおとなしい少年の面影はなかった。愛する人を守りたい。その想いだけを胸に、彼は死地へと飛び込んでいった。

 カイルの見せ場です。ああいうセリフを自分のオリキャラに言わせるのが、ちょっとした願望だったりします。

 ちなみに、数回前に言った『TCSの重要な役割』はこれです。

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