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第13話 花咲く季節-3

 アタカと並んで歩きながら、早くもルルは己の行動を後悔していた。なぜ、自分はカクテに乗せられたりしたんだろう、と何度も自問自答する。完全に冷静さを失っていたとしか思えなかった。


 頼りなく揺れる短い布をじっと見つめながら、彼女は昨晩のカクテの言葉を思い出す。




「いい、ルル。ルルに足りないのは大人の色気よ!」


「い、色気……?」


 カクテにそう断言され、ルルは思わず自分の胸元に手を当てる。


「そう。いつも地味でお上品な格好ばっかりしてるでしょ?

 たまにはこう、刺激的な格好をしてみないと」


「そう、かなあ……」


「刺激が足りないのよ。長年連れ添った老夫婦じゃないんだから」


 いわれて見れば、確かにその通りと言う気もする。


「まず、アタカに異性だと認識してもらわないと何も始まらない。

 と言うわけで、あえて普段とは違う格好をして、アタカをドキドキさせるのよ!」


「なるほど……!」




 何が「なるほど」なの、とルルは昨日の自分を叱咤した。今日の彼女はキャミソールの上に薄手のシフォンブラウスを羽織り、膝上20センチのミニスカート、と言った出で立ちだ。無論、彼女自身はそんな服を持っていなかったので大半はカクテから借りたものである。


「なんかさ」


「う、うん」


 不意にそう切り出すアタカに、ルルはびくりと反応した。平常心を取り戻そうと意識すればするほど、彼女の挙動は不審になっていくという悪循環である。


「ちょっと、格好が恥かしいって言うか……なんかドキドキするね」


 照れくさそうに、アタカはそう言った。


 恥かしいってどういう事なの!? やっぱりこんな格好は、はしたないって事!? でも、ドキドキするなら目論見としては成功なんだろうか、でもそれで引かれたら元も子もないし……! と、一瞬でルルの脳裏を思考が疾走する。


「普段、こんな格好しないから」


「え、あ、うん。そうだよね……」


 アタカはルルをじっと見て、気恥ずかしそうに……しかし、真剣な表情で、問う。


「大丈夫かな。変じゃないかな」


「そっちの話!?」


 アタカが気にしているのはアタカ自身の格好であると、ルルは一瞬にして理解する。長い付き合いが故の、悲しい理解であった。


「似合ってる似合ってる……

 私とカクテで見立てたんだから、似合ってるに決まってるでしょ」


「そういえばルルも今日はカクテみたいな格好してるよね」


「ワンテンポ遅い!」


 不意打ちは止めてよね、と思いつつ、カクテみたいな格好と言うのは果たして誉め言葉なのだろうか、とルルは考えた。あの子はいつも恥かしげも無く腕とか足だとかを晒している。本人があんななので色気と言うものは特に感じられないが……あれ、ならこれ失敗なんじゃ。


「カクテみたいなって言うか、カクテから借りたの。

 ……その、たまにはいいかなって……思って」


「ふうん」


 さほど興味もなさそうに、アタカは相槌を打つ。


「まあルルは何でも似合うもんね」


 そして何の気負いも無く、当たり前の様にそう言ってのけた。


 この卑怯者、とルルは心の中で呟く。アタカは耳がいいので、聞こえないようにぽつりと呟くなどと言う事は不可能なのである。


「……何でそんな『卑怯者』とでも言いたげな顔をしてるの?」


 それどころか、表情だけで読み取られた。実は心を読み取る魔術でも編み出しているのではないか、と思うほどである。


「そう言う誉め方は良くない。ちゃんとどこがいいとか、どういうのが似合うとか、

 どんな感じで良いとか具体的に誉めてください」


 しかしその辺の間合いはルルも慣れたもので、唇を尖らせそう言った。


「はいはい」


 すっかりいつものペースのやり取りに、アタカは笑ってそう答えた。






「うーん……なんだか良くわからないけど和気藹々としてるわね……」


 その光景を物陰からひっそりと眺めつつ、カクテは眉根を寄せる。服を互いにじろじろ見ていたので、ルルの着ている服が話題になっていた事は間違いないように思えたが、ここからではどんな話をしているかまでは聞こえない。


「似合うとか、似合わないとか」


 ぼそりと、背後でソルラクが呟いた。


「聞こえるの?」


 問えばこくりと頷く。


「さすが竜人……聴覚まで人間離れしてんのね。

 じゃあ何て話してるか教えて……って無理か」


 もう一度、ソルラクはこくりと頷いた。会話の内容は聞こえるが、それをカクテに教えろといわれても上手く説明できる自信は皆無だった。カクテは、いかにも『駄目だこいつ役に立たない』と言いたげな表情をした。


「駄目だこいつ役に立たない……」


 そして、それをそのまま口から漏らす。これほどまでに考えた事をそのまま口から出せるのは、それはそれで羨ましい、とソルラクは素朴に思った。彼はいつも、自分の言葉によって相手がどう思うかとか、どう受け取られるかとか、そう言ったことを考えすぎて結局口に出せなくなってしまうのだ。


「まあいいわ……このまま尾行を続けるよ」


 壁に張り付くようにして、カクテはアタカ達の追跡を再開する。


 その時ふと、彼女は振り返って両手を広げて見せた。


「そういえば、交換で今日はルルの服きてんだけど、どう?」


 どう、といわれても、アタカの様な気の利いた返答など出来るわけもない。


「十文字以上で」


 その上、文字数制限まで付けられた。少し悩んだ末に、ソルラクは試しに思ったままの感想を言ってみる。


「たたかいにくそうだな」


「きっちり十文字で片付けるとは、やるじゃない」


 カクテは怒り交じりの笑みで、そう答えた。


 早く帰りたい、とソルラクは内心で呟いた。

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