異界の魔獣使い8
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ムルヴァーラまでの距離は、おおよそ二日で済んだ。
一日目はなんとか歩き、二日目の途中で荷馬車に乗車できたからだ。
綺麗にならされた石畳の道を歩いていると、ムルヴァーラまで戻るらしい荷馬車が近づいてくる。
「あんちゃん、乗っていくかい?後ろなら乗せてやるぞ。魔獣使いとみたが…」
人が良さそうなおじさんが、荷馬車を止めてくれた。
「ありがとうございます。たいしたお礼もできませんが、かわりにこれをどうぞ」
渡したのは、荷馬車利用する時の大体の料金分のお金だ。
「まだ見習いで、これからこの仔の訓練に向かうんですよ」
噛み付かないし可愛いものですよ。頭なでて見ますか?と差し出す。
シラユキには先に愛想良くするように言い含めてあるので、噛み付くこともなく撫でられている。
小人族の3人は人族に見つかるとやっかいなため、帽子のなかに隠れてもらっていた。
「ほほう。なかなか可愛いものだな。これは地彪の仔かい?色が白いようだが」
一般的に彪と認識されているのは、地彪である。
地彪は大抵の山林におり、魔獣使いのなかでも良く見かけるのである。
「ええたまに居る色素がない仔なので、体が弱いのが心配なところですねぇ」
大嘘である。希少性の高い白雪彪の仔ですとは言わないが、適当に体が弱いらしい
幼生体だったせいで親が捨てたらしく、運良く手に入れたとだけ告げる。
「自然の掟も厳しいってことだな。さっ乗ってくれ」
荷馬車の主に礼を言ってシラユキを先に乗せると自分も後ろに乗った。
「そういえばここ数日大河が騒がしかったんですが、何かありましたか?」
魔道船の事故前から、この道を歩いていたんで、大河に浮かぶ残骸とか見たことをはなして様子を見ることにする。
「ああ。なんちゅう名前かしらんが、大型の魔道船が大河に墜落して沈んでよ。
乗っていた連中も助かったのは僅かってはなしだ」
「へーこの大河なんて妖獣・魔獣だらけじゃないですか」
おお怖っと身震いするような仕草をする。
「んだなぁ」
当たり障りのない話を荷馬車の主としながら最近の話題などを聞いて過ごしたのだ。
荷馬車の持ち主から聞いた話では、王都周辺は一時混乱で凄いことになったらしく、大河の妖獣・魔獣討伐に冒険者ギルドやら騎士ギルドに傭兵ギルドまで招集されたようである。
それでも討伐以前に、ただ見ているしかない状態だったようで、数少ない泳いで助かった者たちの支援に尽力していたとのことだった。
魔道船に乗っていて転移の魔法を使えた者だけが無傷で助かったようだとのことだが、ほとんどがお貴族様だけであり一般の平民は絶望的とのことだ。
「まぁ、死んだと思われてるかなこれは」
荷馬車の主に聞こえないように呟いた。
セルファは連れ戻されない為にも、適うなら再度の精霊契約と魔獣使いとしても使いこなせるようにしようと改めて思うのだった。
『きゅ……ぅ?』
何か言いたいらしいシラユキだが、他人が居る前では彪らしくするよう言い含めてあったのでしゃべることはないがかなり不満そうだ。
「今も王都は混乱してるかもしんねぇなぁ。犠牲者半端ないって話だ。身元確認しようにも妖獣・魔獣の腹の中か、船に閉じ込められたままの溺死だろう魔道船を引き上げるのも無理って話なのと、流された積荷を手に入れようとした馬鹿者が餌食になったって話も聞いたしなぁ」
荷馬車の持ち主と世間話に講じつつ、最低限の情報を手に入れたセルファだった。
◆◆◆◆
ムルヴァーラには夕暮れ前になんとか到着をした。
「おじさんありがとう。思っていたよりも早く到着できた」
「良いってことよ、こっちも臨時収入入ったようなもんだしな。またなにぃちゃん」
去って行く荷馬車に手を振り、魔獣使いギルドへ向かうことにする。
夕暮れ前のムルヴァーラは、家路を急ぐ者や歓楽街へ向かう
冒険者の姿があちこちに見えた。
「さてシラユキ良い仔だ。もう少しの辛抱だから我慢して」
『ニァ…』
シラユキを誰かに盗まれても困るので、抱っこしつつ移動する。