異界の魔獣使い5
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魔方陣が作動しているとわかってはいても、大河から聞こえてくる妖獣・魔獣の鳴き声
にエルがビクビクと反応している。
「火の番は私がしているので、先に寝てかまわないですよ」
セルファとエル以外は、すでにテントで眠っている。時折シラユキとカイの寝言が聞こ
えてくるくらいで、ミルは寝相が良いのだろう静かなものだ。
『大丈夫です。セルファさんこそ助けていただいて、本当に助かりました』
改めて御礼を告げる。
「たまたまお互い運が良かっただけのことです」
気にしなくて良いとセルファは告げる。
『それでも、お礼は言わせてください』
「貴方は律儀な性格のようですね。エルさん、貴方は『死に戻り』をどこで知りましたか?」
焚き火の炎が消えないように、枯木をくべながらどれだけのことを知るのか聞く。
『私が捕まっていた人族の所に居たのは、5年ほどです。その期間に二人の雇われて
いた冒険者が『死に戻り』でした。ミルとカイは、ここ1年の間に連れてこられたので
そのことを知りません』
「そうでしたか。私の方は噂程度には聞くのですが、自分が『死に戻り』だと言いふらすような人物は見かけたことがなかったですね」
『死に戻り』『黄泉返り』の当たり障りのない話は聞くが、どれだけの者がその状態になっているのかさえ不明だ。
『セルファさん。私が知っていた『死に戻り』の方は二人とも死んでます。自分が変わる
ことに耐えられず死を選んだ。いえ狂ったとしか言い様がない有様の果てに死にました』
セルファも『死に戻り』だと言うのなら、そうなってしまっておかしくないのだとエルは言う。
助けてくれた恩人がそうなるのは辛すぎる。
「大丈夫。エルさん貴方には話しておいた方が良いのではないかと、考えてはいるの
ですが、今はまだその理由を話せそうにないです。ただ確かに『死に戻り』は
変わります。以前の私であれば、このように”私”と言った話し方はしませんでした。
年齢相応に”俺”と言っていたはずなのですが、気づけば私と言い方を変えてます。
『死に戻り』の影響でしょうね」
同じように『死に戻り』の果てに狂い死にした者たちは、変わる自分に恐怖したのではないかと考える。
適性があるかないかの違いなのかわからないが、それくらいしか思いつかない。
『わかりました。セルファさん。いずれは話てくださいね。』
「ええ いずれ話せる時がきたら話ます。おやすみなさいエルさん」
明け方までセルファは魔方陣と周囲の様子をみつつ静かな夜を過ごす。
◆◆◆◆
いつの間にか転寝してしまったらしい、うっすらと空は明るくなりつつあるが大河のすぐ側のせいか
朝靄が川面を隠している。
焚き火は消えかけ燻っていた。
夜に聞こえていた妖獣・魔獣の気配も消えているように見えるが、水辺に近づいてきた獲物を狙い
潜んでいる可能性もある。
無闇に水辺に近づかない限りは安全だろう。
『おはよう~』
シラユキがテントの中から出てきて猫科特有のしぐさをしながら、大きく伸びをしている。
後ろからエルとミルが目を擦りながら起きてきた。カイはまだ寝ているようだ。
「おはよう。朝の準備はするので、死にたくなければ水辺には気をつけてください」
『???なんで?』
首をかしげるしぐさが可愛らしい。
「水辺に水を飲みにきた獣がいたとします。それを待ち伏せしている水棲の妖獣・魔獣の餌に
されたいならお好きにどうぞ」
『………』
自分が引きずりこまれることを想像してか、ブルブルと震えてうなずく。
「ただし、後ほど水辺に流れ着いていた荷物を見にいきますからそれまで近づくのは我慢してください」
流れ着いた魔道船-ヴァンガード-の積荷の一部を確認しておきたい。
「今日もここで過ごします。ある程度の準備をしないことには移動は無理です。そうそうシラユキこれを」
隷従の首輪と言われ外した首輪だった。
「解析して分かったのですが、隷従の魔方陣と追跡の魔方陣を組み込ませていたのは真ん中にあった
大きな宝石だけでしたので外してあります。いずれそこには別の宝石いれてあげますので、残りは普通の首輪として使えます」
『わ~い……そのキラキラつけて』
どうやらシラユキはキラキラしたものに目がないようだ。
「そして、エルにミルこれを」
差し出されたのは小人族サイズに作られた小さな三つの簡易リュックだった。
「見張りが暇すぎて、卵入れ用の袋作るついでに作りました。今はまだ入れられる物がそうないと
思いますが、おいおい自分の物が増えると思うので使ってください」
『セルファさんありがとう』
エルが嬉しそうに言う。
『……セルファさ……んお母さんみたい』
ミルも嬉しいのかもらったリュックを抱きしめつぶやく。
「私は朝食準備をしますから、焚き火の火の用意をお願いします。」
道具袋から取り出す食材で簡単なスープに、パンとシラユキには肉を炙ったものだけで大丈夫だろう。
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