異界の魔獣使い2
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たどり着いた岸辺は、漂流物がたどり着きやすい形状になっているのか、
そこかしこと魔道船の残骸や荷物とおぼしきも物、余り見たくはないが人だった物の
一部が流れついている。
「さすがにきつい……」
なんとか樽を抱え、やや開けた場所へ移動した。
あとで流れ着いた荷物を確認してみようと思うが、濡れそぼった服が気持ち悪い。
「樽開ける道具探すので、待っててください」
自分の持ち物の確認が先だ。
腰に挿したはずの精霊憑きの剣は、やはりない。
腰に付けた冒険者用の道具袋2つは無事だった。
これは一部の高レベル冒険者のみが、所持出来る道具袋で重さを感じずに持ち運び
可能なため旅の必需品だ。
これを作った者に気に入られないと手に入れられないと言う物である。
これが流されなくて良かったと思う。
道具袋から、樽を開けるのに使えそうな小剣を取り出す。
「とりあえず開けます剣先に気をつけて」
ぐりぐりと少しずつ樽の縁に小剣を差込なんとか蓋を開ける。
『やった!出られたわ感謝する人間』
飛び出して来たのは真っ白な子猫?体全体に模様が入って………
「……驚いた白雪彪の幼生体ですか」
まんま子猫にしか見えなくはないのだが、知るものが見れば白雪彪の幼生体だと分かるはずだ。
雪山に生息し、その毛皮は王侯貴族に好まれるSSランクの魔獣。
知能が高く狩るのはたやすくないため、滅多なことでは狩ることが不可能な魔獣である。
『わかるの?』
剣呑な眼差しで見ないでほしい。
「分かる人は分かるはずですね。そのままじゃ何なので、首輪外していいですか?」
魔獣用の人にしか外せない仕様の隷従の首輪が、邪魔だろうと思う。
『えーこれ結構気に入った首輪なんだけどキラキラして』
見た目は確かに綺麗な宝飾をほどこしているのだが、隷従の首輪で追尾機能付のはずだ。
「付けたいのはかまいませんが、それ追尾機能付で隷従の首輪ですよ。付けた人間が貴方が生きていると分かれば追っ手がくるはずです」
ちなみに人族や人型の者を、奴隷化する首輪は隷属の首輪といい魔獣用の首輪は
隷従の首輪と呼ぶ細かな機能の違いがあるらしいのだが、詳しくは知らない。
道具袋から自分の代えの服を取り出しつつ、濡れた服を脱ぎながらそう教える。
『ええっ!外して頂戴!人間!』
知らなかったのか、外せ外せとうるさい。
「着替えさせてください。まぁあの事故の混乱で、直ぐは大丈夫なはずです」
なにせあれだけ規模の大事故だ。
どれだけ下流に流されたのか分からないが、墜落した周囲はすごいことになっており、
それどころではないはずだ。
「白雪彪さん貴方の名前は?私は人間と言う名ではなく、スズ……いえセルファです。人族の男になります」
『名前なんてないわ。気づいたら人間のとこにいて、あの船でどっか連れていかれるとこで……』
なんとか自分に起きたことを説明してくれた。
ハンターにでも生後まもなく捕まったのだろう。
「そうでしたか。では仮の名前を付けてもいいですか?名があるほうが呼びやすいですしね」
なんとか濡れた服をすべて脱ぎ着替えの服を着込む。
やはり精霊契約の証は体から消えていると思いながら。
『……出して!……』
白雪彪の入っていた樽からまた声がする。
どうやらまだ何か入ったままだったらしい。
「まだ何かいるようですね……」
『忘れてた…』
白雪彪は自分が入っていた樽に顔を突っ込んで、何かを銜える。
樽には何がいるんだと、セルファがみれば、小人族3名と何か分からないコブシ大の卵が1つあった。
連続投稿です。