異界の魔獣使い23
話の流れから少し短いです。
23
ムルヴァーラにおける貴族院は、貴族が魔獣を持つ場合の事務手続きおよび貴族が所持する家畜化の魔獣の管理などが中心である。
魔獣使いとなる貴族は滅多におらず、だいたいがガーディアン的な役割を持つ魔獣を持つことをステイタスとして考えているようである。
そのせいもあり、魔犬と呼ばれる魔狼を改良したガーディアン犬が現在では20種ほど存在しているのだが、まだ種の安定に不安もあることから余り貴族社会で見かけることは少ない。
だが、人気は高いのか最近では小型化した魔犬が貴族令嬢などの護衛の任に付くことがおおいようである。
「なんかしてることは、魔獣使いギルドとかわんなくねぇ?」
リックは、規模こそ小さいが貴族院の役割をラスティルから聞いた。
「ああ。事務手続きなど、本来なら魔獣使いギルドでも出来る。だが、貴族連中は庶民と一緒では貴族としての誇りがゆるさないらしい」
平民とは違い、貴族は偉くて当たり前。
貴族基準の考え方と、平民の考え方は余りにも真逆なため衝突しないためにもあえてわけているのだという。
「ふ~ん。貴族ってのも面倒なんだな」
「今はまだ良いが、その口調は中に入ったら改めろ。仮にも俺の従者として付いてきているだけだからな」
聞いた話から、リックたちの村を管理しているチュリム伯爵の現状の確認が早急に必要だと思われるからだ。
結婚をしてもいない、養子させも取っていないと思われる貴族がいる場合、本来なら自分が出てくる必要はないのだ。
知りたいことがあるなら別の人間に調べさせればよいだけなのだが、2ヶ月前の事故で亡くした友人を思いやって落ち込んでいた自分に妹が助けるように言ってきたから協力することにした。
「わかったよ。スーズさんならさ、もっとやさしく言ってくれると思うぞ」
「そういえば、あのスーズと言う男はなんなんだ?ちゃらちゃらとした仮面を付けて、オババの知り合いのようだが」
思い出してもムカついてくる。
言うことが正論ばかりで、碌に反論できる隙がまったくなかった。
「俺も知らない。森で助けてもらって、気づいたら色々助けてくれて、仮面は顔の火傷隠してるからだろうってリファが言っていたから、付けてる理由はそれじゃないのか?」
「エスティアの知り合いらしいが、どうも気にいらない」
古くからの友人だと、妹から紹介もされたが自分が知らない友人が妹に居たことが気にいらない理由なのだろうか?
「気に入らないなら、話し合えば?あの人、かなり謎あるみたいだけど基本的に助言や助けてもらったりした俺とすれば、悪い人じゃないとおもうぜ」
言うことが、かなり辛辣になることもあるのだが、当たり前のことを言ってくれるのだ。
「…分かっている。魔獣が懐いていたからな」
滅多に見かけない白雪彪に懐かれているのだ。
あれを見た時に、本当に白雪彪か抱き上げて思いっきり引っ掛かれたのは痛い思い出である…。
同じ魔獣使いとしては、信用はできそうだ。
だが、なんと言うか気に入らないのである。
「魔獣といえば、あんたの魔獣は?」
そういえば紹介されてからも、連れていなかった。
「治療院にて休ませてる。特に深い怪我はないが、疲労を考慮してだ」
ラスティルの持つ魔獣は、翼種魔狼と呼ばれる種である。
翼を持つのだが、飛ぶ時以外では引っ込めているせいか見た目は普通の魔狼にしかみえない。
今回、同行しなかったのは疲労した翼の羽休めの為もあってのことである。
2ヶ月前の魔道船の、事故の折では飛んで救助出来そうな者を空から救助ようとしたのだが結果は芳しくなかった。
助けて上空に浮き上がらせようにも、それを見越して水棲の魔獣が襲い掛かってくるのだ。
助けられたはずの命も、助けられなかった。
その時の疲労が、まだ抜けきっていないことを考えて休ませている。
「さて、ここに入ったら何を言われようが全て無言でいろ。憤ることもあるかもしれんが、所詮は貴族だからと思えばいい」
門番に用件を告げ、通行証を受け取ると貴族院へと向かう。