異界の魔獣使い21
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チュリム伯爵とは、元々この魔獣使いギルドで知り合ったのが、今からだいたい40年ほど前のことらしい。
当時のウォルフナーは、二十代の駆け出し魔獣使いを目指していたのだが、自分の適性では魔獣使いになることは難しく、かと言って魔獣使いには未練があったせいもあり色々ここでしているうちに、今の魔獣の畜産用への改良に落ち着いたとのことだった。
当時のチュリム伯爵は、一言で言うなら魔獣馬鹿。魔獣好きと言ってしまえばそれまでなのだが、知識面でもかなり意欲的な人物だったらしい。
ただその当時から既に両親は亡く、後見していた爺さんがいたらしいのだが、その人も年齢的にみれば既に鬼籍だろう。
昔から身内に縁がなく、魔獣にのめり込むことで寂しさを紛らわせていたのではないかとのことである。
どちらが、より優れた魔獣を生み出せる、もしくは家畜化できるのかお互いに深夜まで談笑していた頃が懐かしいとのことだ。
5年ほどここで、色々な研究をしていたのだが領地経営をしなくてはならないため、その後は自分の領地へ戻り、領地の風土を考え組み合わせ完成させた魔獣の羊毛や肉などの改良に成功して今にいたるのだが、10年前になにかあったのだろうか。
「とりあえず、チュリム伯爵の系図確認からした方がよさそうですね。息子と言う人物が系図にいるのかの確認と、リックとリファは冒険者ギルドへ行き、チュリム伯爵領の周辺の村の情報を知る冒険者がいないか探してください。基本的には二人で行動すること、人通りのない道などはなるべく使わないように行動してください。連中、リファを今だ付狙っているようですから」
「ワシが知るチュリムなら、人を浚うようなことはさせんはずじゃが、いかんせ会わないでいた年月を考えると、わからんしのう」
もっとこまめに連絡を取り合うべきだったかと思うのだが、お互いに研究馬鹿なところがあったので過ぎてしまったことを後悔しても仕方がない。
「ウォルフナーさんには、手紙の用意お願いできますか?普通に元気でしているかとかの近状を知らせるもので構いませんので」
その手紙を利用して、チュリム伯爵と面会をする足がかりとすることにして、それまでに調べられることは調べてしまうつもりだ。
「ワシは構わんよ。そこの嬢ちゃんが狙われているなら、いいものがあるが使ってみんか?データを定期的によこしてくれるなら貸出しではなく譲るのもありだが」
「「「いいものですか?」」」
「みてのお楽しみじゃ。こっちとしてはデータ取ってくれる人物探しておったので協力してくれんか?」
謝礼はそのいいものでも良いとのことだった。
ウォルフナーはテーブルの上に置いてあったベルを鳴らす。
「お呼びでしょうか教授」
来たのは助手の男性だった。
呼ばれるタイミングを待っていたのか、手にはお茶を持っている。
「失礼します。遅くなりましたが、お茶をどうぞ。ここで改良している物なので感想くださると助かります」
「すまんのう。お客さんに先に茶を出すべきじゃったな。Hシリーズを隣の修練室へ連れてきてくれんか?被験者に合わせて様子みたいんじゃが」
連れてと、言うことは生き物?と考えるセルファだが、それが二人の助けになるなら利用するべきかと考えた。
「なんだろうないいものって?」
「???わからないね。あっコレ美味しいですね。ミルクにお茶混ぜてるのかな?」
「もう少しお茶の味が濃くても良さそうです。」
「まだまだ改良の余地はありそうじゃが、こんなものかのう」
ミルクに茶葉を混ぜて少し煮込んでみてから、砂糖を入れたものらしい。
「好みで何か香辛料も混ぜたら面白そうですね」
前世か憑依かわからないが、異界人であったスズの記憶を持つセファは、シナモンと言うスパイスがあることでそう呟く。
ただこの世界で、シナモンにあたる香辛料が存在しているのかは知らない。
スズが言うシナモンが、この世界にあるのかスズの世界のシナモンを知らないセファにはどうしょうもないのだ。
「ほう。香辛料か面白そうじゃな。色々調べさせるかのう」
コンコンとノック後、扉が開く。
「教授、用意できました」
助手の青年が、呼びにきたようだ。
「よし、ではこちらにきてくれんか。騒がなければ、何もしないはずじゃ」
ウォルフナーについて修練室へと案内される。
「これがHシリーズと呼ばれる魔犬じゃ」
そこに居たのは、10匹ほどの同種の魔犬だとの言う。
かなり賢いのか、お座りの状態でこちらをみている。
「すげ~」
「大きいです…」
「私は遠慮しておきます。シラユキがいますからね」
『シラユキ…』
その名に反応した魔犬が呟く。
「しゃべった!」
「知っているのですか?」
魔犬に聞いてみることにした。
『アレハ、フソンダ…』
不遜と言いたいらしい。
確かに思い上がっている風に見えるのかもしれない。
種族的な違いも大きいと思うのだが、どう思うかは個人の自由だ。
「どう考えるかは、貴方の自由でしょう。しかし、大きいですね」
外見は大型犬のシェパードのようだ。
ただそれに、二周りほど大きくしたサイズなのである。
跳びかかれたら、ひとたまりもなく押し倒されるだろう。
「護衛用にもってこいと思わんか?」
「じーさん護衛用はいいけどよ。食費かかりそうだよな…」
もし、譲り受けるとして世話することを考えると、一番金がかかるのは食費だろう。
畜産の村に住んでいたリックからすれば、日々の餌代の方がきつい。
「基本は、朝と夕に食べればよいだけじゃが、森にでも放せば自分で餌をとるぞ。」
街中ではそう言う訳にもいかないのだが、人間の3倍ほどの量を食べるらしい。
食料事情にきつい場所でも、自分のことは自分でするらしいので、お試しで預かってみろとのことだった。
「かっこいい~。リックこれ欲しい!背中に乗せてくれるかな…。触っちゃだめかな…?」
リファは物怖じしないのか、魔犬に近寄っていく。
「ちょっと毛は硬いね」
はじから触りまくっていくのだが、魔犬たちはじっとおとなしくすわっている。
命令には忠実なのだろう。
「どれを選ぶかとなると難しいです。どうしたら良いと思いますかスーズさん」
「そうですね。シラユキと会うことも多くなると思うので、シラユキに言い負かされることはないと思える魔犬は1歩前に出てください」
魔犬同士で、思うこともあるのか、シラユキを不遜と告げた魔犬が前にで出る。
「これの名前は?」
「H-07ですね。名前は今の時点ではありません。持ち主となった方の好みで名前はあったりなかったりしますね」
助手の青年が、この魔犬の持つ特性や気をつけるべき注意事項を告げていく。
「よろしくね。名前はあったほうがいいよね?」
「好きにつければ良いと思いますが…」
「名前はジーフイでどうかな?」
『ワカッタ、ジーフイダナ』
リファの手を軽く舐めて了承する。
「言い忘れたが、これでまた7ヶ月じゃ。成犬になればもっと大きくなるが、成長が安定すれば自分で大きさを変えることが出来るはずなんじゃ便利じゃぞ。ただ確実に出来るのかわからん。珍しいことが起きた場合に知らせてくれると助かる」
どうも改良して生まれたのはよいのだが、Hシリーズはまだまだ未知数な部分がありすぎで、それを知る為の報告を定期的に欲しいとのことであった。




