異界の魔獣使い18
18
冒険者ギルドは魔獣使いギルドと違って、ごく普通の建物を利用している。
それでも、中は冒険者たちが使う施設などかなり充実していた。
1階は主に受付となっており、新規登録と依頼受付に、報酬の受渡し、荷物の預かり所
地下はほぼ24時間営業の食堂であり、
2階は喫茶店、診療室、簡易図書室、談話室
3階から上は宿泊施設となっているようだ。
ムルヴァーラの平均的な建物は5階と言うことも考えると、この世界の文明レベルはそこそこ高いのかもしれない。
「確かに受取りました。報酬の100ルーグとギルドガードに追加したPtの確認をお願いします」
Ptは、ちゃんと追加されている。この、どのギルドでも使える共通カードはなかなか面白い。
「確かに、ではまた」
「ありがとうございました~」
セルファは待ち合わせの喫茶店に向かう。
食事や酒を飲みたければ地下なのだが、ただお茶をしたい場合や待ち合わせをする場合だと喫茶店か談話室と言ったところだろうか。
「いらっしゃいませ~1名様ですか?」
「いや先に連れが来ている…」
「スーズこっちだ…」
窓際のバルコニー席より、リックの声がかかる。
「居たようだ。彼らと同じテーブルで、飲み物はここのお勧めで頼む」
「待たせたかな」
「いいえ。でもどうしたんですか?」
リファはてっきり薬草店で、別れそれきりになるかなと思っていたのだ。
普通、冒険者はチームを組まないかぎり一緒に行動することは余りない。
「………」
店員が、お勧めだという。ハーブを使ったお茶セットを置いて行くのを待つ。
「…時は……なる…空間を……遮断……」
セルファは、空間を一時的に遮断する詠唱を唱える。
「なっ…」
「さてこれで邪魔は入らない。この空間の外からは、普通にお茶をしているようにしか見えないはずだ」
周囲に声も漏れることもないが…
「おまえ追っ手か!…」
剣に手をかけるリック。
「座れ。その場合だと森で助けた理由にならない」
「だめよリック!」
「ここで待ち合わせしたのは、追われているのがそっちだと分かったからだ」
「本当に追っ手じゃないんだな!」
嘘なら切ると、剣先を向ける。
「私が、何故追わねばならない?理由も知らずにどうしろと?この店に入った時点で二人連れの男がこっちを伺っていたぞ」
喫茶店内は、それほど混んではいなかったのだが、リックたちを伺っている様子なのは確かだった。
「あいつら、しつこいわね」
「で、追われる理由は?話したくないならどうでもいいが…意外といけるなこのお茶は」
お勧めと言われたハーブ茶の色が、毒々しい赤色だった。
ハイビスカスみたいとスズが言っているが、そのハイビスカスが何かわからない。
「スーズさん話したら助けてくれますか?」
「内容による…」
「まぁそうですね。話聞いたら巻き込まれる覚悟してくださいね。冒険者になる前のことで…」
リファとリックは、もともと幼馴染だと言う。
エブラード王国の、西よりのはじっこにあるタリムと呼ばれる小さな村の出身だ。
タリムの村の納税の時に領主様が、何の気まぐれか村に来てリファを見初めたのが原因とのことだ。
「あんなのが領主なもんか!行儀見習いだと領主の館に行った娘は、
孕まされて殺されるか良くても奴隷として売り払われる…」
リックが言うには、近隣の村から見目の良い娘をそうやって集め好き勝手してるとのことである。
殺されるは、連れてかれた娘の大半が自死を選んでしまうからとのことだ。
戻ってこない娘もいつの間にか消えてしまっていることから、奴隷として売られているのではとのことである。
予告なしに領主がきてしまった為、リファが見つかってしまったらしい。
「私がいると、村に迷惑かけると思って行こうとしたんですが、村の皆が逃げろって言ってくれて…」
どうすれば良いのか色々と考えたのだと言う。
通常領民は、領地の移動は冠婚葬祭くらいしかない。その場合は特に許可も何も必要しない。
「領民と言っても、冒険者になれることがわかったので、冒険者になれば移動の自由が保障されるのでリックが機転きがせて、二人でなんとか逃げ出して冒険者になりました。」
それが半年ほど前のことらしい。
「西のタリム村…領主の名前は?」
「チュリム伯爵です。なんでも王都の偉い公爵様と、親しいんだとか言って無理矢理連れて行かれた人もいるみたいです」
その辺の真偽はわからないが、周辺の村では女性は隠されるかしてはいたがどうにもならない状態とのことだ。