異界の魔獣使い1
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魔道船-方舟ヴァンガード-の事故より一月が経った。
王都エブラードより公式発表として、魔道船-方舟ヴァンガード-の乗客に
五大英雄の一人、傭兵王ルクサス公の孫の死亡を公式に伝えられ喪に服することとなる。
五大英雄とは
傭兵王ルクサス公
騎士王ヴァルチス公
精霊巫女姫ルチア
魔道王ガーリァ公
盗賊王ムルサ公
の5人を指す。
そして彼らと共に魔族の脅威より世界を救った救世主として
王都エブラードの王にして、異界より流れてきたユウキ・スガワラを聖王として
現在の王都エブラードはまとめられている。
◆◆◆◆
話は一月前に遡る。
大河ムーリルヴァに起きた、魔道船-方舟ヴァンガード-の事故より数時間後である。
「なんとか岸につかねば」
大河ムーリルヴァに魔道船より投げ出され数時間、今だ大河から上がれず
流されるまま船の残骸と思われる木片につかまりなんとか生存してはいるのだが、
その命もまもなく尽きてしまうのではないかと、思わずにはいられない。
投げ出された直後は酷い有様だった。
泳げる者は、片っ端から水中へ引きずりこまれ溺死させられ死んでゆく。
魔道船が大河に沈んだことからも、大多数の乗船乗客が今だ魔道船の中にいるはず
だろう、そしてその者達もすべて脱出出来ぬまま溺死していったことだろう。
「悪運が良いのか悪いのか…ありえない世界だ」
とりあえず五体満足には生きている。怪我もなく、今の所妖獣、魔獣に気づかれてはいない。
これがもし怪我でもしていれば血の臭いから妖獣、魔獣に襲われていたことは間違いないはずだ。
自分が助かった理由は、投げ出された直後に余り動かなかったことではないかと考える。
どれだけ流されこうしているのかもわからず、岸にたどり着こうにも川幅が広すぎるのだ。
流れは緩やかで、周囲に散乱する漂流物を見れば生存している者は自分だけ。
流れに逆らわず、なんとか岸へと近づこうとしているのだが、なかなかに難しい。
頼みの契約精霊を頼ろうにも、精霊との証である紋様が肌より消えている。
考えられることは、精霊が契約を廃棄したと言うこと。
「まさか死に戻りか」
ありえなくはない。
大河に投げ出されたショックかはわからないが、一時的に心肺停止でもした可能性がある。
契約精霊とは、自分の能力になってもらうべく精霊と契約することだ。
強制的に契約することと、自然に契約出来る2種類のやり方があるのだが、自分の場合は前者だった。
自分が生まれた時に、家族が強制的に精霊と契約させたのだ。
自分としては物心つく頃からいた精霊だったが、契約が廃棄された状態だと言うことは自分が
一時的にも死んだからとしか思いつかない。
精霊との契約廃棄には契約した者が死亡した場合と、契約した精霊から愛想つかされるかなのだが、
自分の場合は一時的でも心肺停止したからとしか思いつかない。
精霊は契約者が死ぬと契約解除されてしまうため、「死に戻り」、「黄泉返り」した者は
契約した精霊との契約が解除されてしまい、今まで使役していた精霊が使えなくなってしまうのだ。
「死に戻り」、「黄泉返り」はそれほど珍しいことではないのだが、噂では冒険者や傭兵、
騎士がそうなってしまうと、今までのように活動することが難しくなるため、新たな精霊と
契約しなおさなければならなくなってしまうとの話だ。
「なるようにしかならないかもだが、諦めるのも癪だ。こんな面白そうな世界だし」
死ぬかもしれないと、諦めるのは簡単だ。
だが、こうして生きている以上命を捨てる気もないのも確かだ。
そろそろ掴まっているこの木片よりも、安定した大きさの浮遊物はないかと周囲を見渡せば、
樽が浮いているのが見える。
掴まるのは不安定があるが、確実に沈まないものとなるとそれくらいしか見当たらないので、移動する。
樽は自分がなんとか抱え込める大きさだった。
これを浮き輪にすこしずつ上がれそうな岸を探して移動する。
どれほどの距離を、流されているのか分からないがなんとか移動することは出来そうだ。
『……フギャ…』
掴んでいる樽の中から何かの声が聞こえた。
「???」
空樽ではなかったのだろうか?
『だkら…で……』
声は動物のようなもの?と言葉のようなもの?が聞こえるのは気のせいだろうか?
「樽の中に誰かいますか~?」
コンコンと樽を叩いてみる。
何も聞こえず、自分の気のせいらしい。
「長時間の漂流での幻覚か…」
低体温状態になりつつあるんだろうか、これは早急に岸めざして上陸せねばと考える。
「幻覚酷くなる前に岸目指すか。ここまでくればこれに掴まる必要なさそうだしな」
樽からはなれて泳いで岸を目指すことにした。ここまでくれば妖獣、魔獣の気配が薄い。
『まっ!待て…』
どうやら空樽には誰かいたらしい。
「こんにちわ。誰かしりませんが、人間じゃなさそうです」
『お願い岸へ一緒に…』
樽の中に何かいるか分からないが、同じ魔道船に乗っていたよしみで樽ごと岸まで泳ぐことに変更する。
「とりあえず岸まで、なんとか泳ぎつくようにするので、無事ついたら樽から出してあげます。ただし襲ってこないで下さい。人族じゃなさそうだし」
『分かった…』
何が樽の中にいるのか気になるところだ。
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