異界の魔獣使い11
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エスティアの興奮ぶりにやや引いていた小人族の3人だったが、怖い人じゃないとわかって安心する。
『にーちゃんこの人、大丈夫か?』
主にお頭のほうは大丈夫なんだろうかと、カイが聞く。
「まぁ…女性は可愛いもの好きだしね…」
『こっちに危害こないなら、どうでもいいけどさ』
エルとミルを守るのは、男である自分だと思っているカイだ。
「悪いね。こうも小さいものに反応するとは思わなかったしな。さてエスティア興奮する
のはやめて話を聞いて欲しい。家に連絡いれないで欲しいと告げたのは、現在の私に
は契約している精霊がいないからなんだ」
「えっ!……」
ガバッとセルファの右腕を取ると、手の甲を確認する。右だけでなく左も同様である。
「銀朱に紫紺の印がな…い…!」
「ああ…蘇芳に代赭もだ…」
「馬鹿な…ありえない!精霊契約は一生もののはずじゃなかったのかい!」
「イレギュラーなことが起きた。魔道船-ヴァンガード-の事故に巻き込まれた時に
『死に戻り』したようだ。この世界の記憶とは別に、もう一つの人格が今の私にはあ
る。これがどんな結果になるのか予想がつかない状態だ」
「『死に戻り』だと!…いや……確かに…」
何かを思い出すように、エスティアは自分が知る『死に戻り』のことを思い出す。
エスティアが知る『死に戻り』の関わる記録は、最悪な結果のことばかりだ。
10年前に起きた、大盗賊グランの大虐殺、8年前に起きた魔道師ルネの地方都市
ガナイの消滅まだもっと過去にも大規模な災厄を招いた者たちがいたがきりないほどだ。
これらの事件の首謀者は『死に戻り』であったことは各ギルド上層部と国の一部の上層部が知るだけだ。
あえて一般には知られていないのだが、『死に戻り』とは今現在の自分とは別の人格が
発生することと言われており、前世の記憶とか別人格が新たに生まれたと思われている。
『死に戻り』に耐え切れない者も多く、大抵は自死を選ぶ。が、
ごくたまにそれに耐え切った者が大規模な災厄を起こすため、
混乱を避けることも考え一般に知れ渡ってはいないのだ。
「なんかね。私の中の人?まぁ不思議な感覚なんだが女性だね。聖王と同じ世界の
出身ぽくて普通の主婦で、子供3人生んで孫は5人いたらしいね。死んだのは89歳
らしい。孫もいて、満足いく死に方だったようだね。スズ・アララギだってさ。
『死に戻り』で発生した人格は、ランダムでどの世界から来るか知らないが、
比較的平和だった世界から来たようだし、それほど心配しなくても大丈夫じゃない
かと考えているんだけどね」
なんでもないことのようにセルファは、告げた。
小人族のエルにも心配しなくても大丈夫だと言う意味も込めて話す。
「……確かに、セルファの家に連絡はできないな…」
『死に戻り』と発覚した時点で、幽閉されて一生を終わらせることは確定してしまうだろう。
「そんなわけで、死んだことにして自由に生きようかと思ったんだ。」
『そうよ…セルファはアタシといるもの…おばさんは邪魔しないで…』
落ち着いたらしいシラユキが、セルファに撫でてもらいながらつぶやく。
「この躾のなってない彪はなんなんだ?」
「それなんだが、魔道船-ヴァンガード-の積荷に魔獣があったか調べることできないか?」
小人族の3人も浚われていたことを話す。
「……密輸されていた可能性があると?」
「多分だね。あとこのシラユキ。よく見て欲しいんだけど、どの種の彪にみえる?」
「地彪のアルビノではないのか?他の魔獣にもアルビノはいるからな。それにしては
口が達者と言うか地彪らしくないしな…」
しげしげと見るが、エスティアがキライなシラユキはフンとソッポ向く。
「……まさか白雪…彪か?」
よくよく見れば地彪にない特徴が見られる。
『ちょっと……なに…』
ふっふっふっと笑い出すエスティアに引くシラユキ。
「これが白雪彪の幼生体なのか!足の太さみせてくれ。牙の本数は?…」
ああでもない、こうでもないとシラユキのあちこちを触りまくる。
『……セルファ!…助け…モガッ』
口を大きく開けられ、牙の確認までされている。
「エスティアは魔獣フリークだ。まぁこれからお世話になるんだし、我慢も必要だよ
シラユキ。そうそうエスティア。これなんの卵か分かるかい?」
水属性じゃないかと言うことだけ伝えるセルファは、謎な卵をエスティアに渡す。
「自然の気を吸って成長するらしい。それ以外は小人族とは会話出来たみたいだ」
どんな風に会話したとか分からないが、セルファが知ることを伝える。
「卵状態ではわからんな。う~んオババなら分かるか…んっ……」
卵を転がしたり、光に翳したり、自分の魔獣のステラに見せたりするが、ステラには興味なさそうだ。
「とりあえず、これはオババのほうが詳しいかもしれない。セルファのことは兄が戻って
からどうするか決めるとして、ここにいるといつ見知った連中に見つかるか
わからないしね、オババの森へ行かないかい?」
「頼む。あと魔獣使いとしての登録できないか確認してほしいんだが…」
バグっている冒険者ギルドカードを渡す。
このカードは、本来なら他ギルドでも使えるカードなのだ。
「これまた凄いバグだね」
「ははは……新しく作った方が良いなら、セルファ・スズ・アララギで作れないかな」
自分の中にいるもう一つの人格、それが異世界から生まれ変わった自分の前世
なのか、それとも『死に戻り』の恩恵で新たに生まれた人格なのかわからない。
ただ分かるのは、自分の中にいることだけだ。
そしてスズ・アララギの持つ異世界の知識?は、こちらでも使えそうだと思いながら。