異界の魔獣使い10
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魔道船の墜落事故もあり、今後その処理をどうするのか王都エブラードへ向かった
ギルド長である兄の代わりに、執務室にいるエスティアは、兄が溜め込んだ書類の
山にうんざりとしていた。
「だいたいあの人は、なんでこうも毎回毎回私に書類の処理をさせるんだ……!」
兄がきちんと処理していれば、自分がする必要がないものである。
コンコンとドアをノックして、兄の付き人の一人が入ってくる。
「失礼します。ギルド長の昔馴染みと言う男性の方が訪ねてきています。
話したいことがあるそうなので2階にある6番の部屋にお通ししてあります」
「え~……兄の知り合いなら私はパス!面倒くさい…これ見なよ。この仕事の量!」
人に会うことまでさせんなと、バンバン叩いて机の上に溜まる書類の山を見せて言う。
「ですが、その方はギルド長だけでなく、貴方とも昔馴染みらしいので、会わないと
絶対に損をするとおっしゃっていたそうなので、会うだけ会わないと困るかもしれません」
「なにその謎かけ……。ん……しゃあないわ会うか。んじゃ行ってくるから、
書類処理の終わったものは机の上の処理済棚にあるから後の処理よろしく~」
ヒラヒラと手を振って執務室を出る時に、部屋に居たエスティアの魔獣が肩に乗ってくる。
『エスティア、ドコイク?』
「知り合いが訪ねてきたらしくてさ、これから行くとこだよ。ステラ」
肩に乗ってきたのは鷲型の魔獣だ。この魔獣の特徴は自分の大きさを自由に変更する
ことが可能なため飛行型魔獣の中では人気の高い種である。
当然、エスティアを乗せて空を飛ぶことも可能である。
『…シリアイ?』
「昔馴染みって言ってたからねぇ~まぁ友達の誰かだろうさ」
ステラと会話しながらエスティアは昔馴染みが待っていると言う部屋にむかったのだ。
◆◆◆◆
「誰だい?私に会いたいってのは」
やや不躾な入り方かなと、チラッと思ったがまぁ昔馴染みなら気にしないだろう。
「元気そうだね。エスティア……」
「……セルファ!……死んだって聞…いた」
兄からの魔道具を介しての連絡事項の会話でそう聞かされたのだ。
本当に本人なのかと、ガバッと抱きしめ確認をする。抗議のためかステラの声も
聞こえていたが無視である。
セルファ本人か確かめるのが先だ。
『ちょっとおばさん!…私のセルファに、抱きつかないでくれる!』
シラユキが邪魔なんですけどと、エスティアに噛み付く。
「イタッ……」
『なによ!このむちむちの脂肪の塊で、アタシのセルファに抱きつかないで!』
目の前に現れた人族女、しかもむちむちのでっかい胸!
金髪で、青瞳で、いかにも頭が軽そうな美人にシラユキはシャーッと威嚇する。
「すまないエスティア……」
シラユキの首根っこを掴んで、噛み付いているエスティアから引き離す。
「いやこっちこそ、興奮しすぎた。躾がなってないようだねこの仔」
ピンッとシラユキの鼻っ面をはじいて言う。
『イタッ!おばさんなにすんのよ!』
シャー、シャーッと首根っこつかまれたまま威嚇しまくるシラユキである。
「ああもう。シラユキ大人しくしないか!」
興奮状態のシラユキを抱っこしなおして言い聞かせる。
『アタシ、このおばさんキライ!』
フンッとそっぽ向く。
「まったく…とりあえず誰にも聞かれたくない話があるんだ。この部屋は安全かい?」
まさかこうもシラユキが、エスティアを嫌うと思わなかった。
「ああ大丈夫だ。しっかし死んだと兄から聞いたんだが、何故そうなっているんだ?」
向かい側に座りつつ、確認の為きいた。
「いろいろあって、まだ誰にも告げてないんだ。出来れば家に連絡をしないでくれないか」
どこから話すべきがと迷う。
『……あのうセルファさんこちらの方は?』
帽子の影からそ~っと見るのは小人族の3人である。
「紹介がまだだったね。エスティア。この3人は小人族で左からエル、ミル、カイだ。
昔馴染みの友人なんだよエル。怖い人ではないから大丈夫。そしてエスティアこの仔は
シラユキと言う」
抱っこしたままのシラユキは、まだ興奮状態なのか離さないように気をつける。
「……こ…小人族!……かっ…可愛い!」
噂にだけ聞いた小人族である。
小さくって可愛くって、愛玩したいと思う№1な亜人種だ。
「これ……ほしい!……セルファちょうだい!」
ハァハァと危ない人になっているエスティアだ。
その変わりようにビクッとなる小人族の3人は、帽子の影に隠れつつ恐る恐る姿を
見せては、またビクッとなることを繰り返していた。