異界の魔獣使い9
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ムルヴァーラの門をくぐり、道の両脇に並ぶ露店を眺めつつ広場の方にまっすぐ進んで行く。
夕暮れ前にもかかわらず、露店を営業する商売人たちは、大声を上げおのおのの商品を売り込むことに余念がない。
「魔獣使いのギルドはっと…」
確かこの先の広場に入ってさらに右の道の奥の方だったはずだと、記憶を確かめ進む。
抱っこされたままのシラユキは、珍しさから周囲をキョロキョロと見回している。
見れば魔獣を連れた者たちがかなりいた。
狼、獅子、熊、彪、蛇、龍と見かけるのだが、どれも厳しく躾けされているのか飼い主の側でおとなしくしている。
周囲も慣れているのかビクついているような者はいない。
ただ街中だけあって、用心の為なのか、大型の魔獣は口輪を付けている。
「驚いたかい?ここ出身の魔獣使いは、エブラード王国一と言われている」
ムルヴァーラの四分の一の大きさを占めているのが、魔獣使いギルドなのだ。
いわばムルヴァーラは魔獣ギルドの為にある都市であった。
危険の大きい魔獣が人が大勢住むような場所で、絶対に暴れたりしないように厳しく躾けて管理されているのだ。
広場から右の道を更に進んでいけば、獣特有の臭いがする。この道を入ったあたりから、魔獣を連れている人しか通らないようだ。
魔獣使いギルドは、扱うのが魔獣だけあるせいか、かなり大きな地所を所有しているのか、用心の為かぐるりと門で囲っているようだ。
扱っているものが魔獣である以上、何が起こるかわからないからだろう。
門には見張り番が立っているが、特に声をかける必要もなくそのまま進む。
魔獣使いギルドと呼ばれる建物には、初代の設立者が所持していたと言う
狼を模した旗がかけられており、面白いことに5階建ての建物に入り口が3つほどあった。
それだけでなく、見える範囲では夕暮れの訓練を始めるのか複数の魔獣使いが
訓練棟らしい小型のコロッセオのある方へと向かう姿も見られる。
そして上空からは時折、大型の鳥や龍といった飛行可能な魔物が降下してくる姿もみられた。
「もう少しだけ黙っていて」
入り口が3つあるが、どこから入っても良いようだ。
魔獣によっては、やはりどうしても相性があるのかどんなに躾けしても、
ここでたまたま会った魔獣同士で喧嘩しないとは言いきれない状態になることも
あるようで、出入り口を増やすことでかちあわないように気をつけているのだ。
比較的小型の魔獣を扱う受付に向かう。
「すみません。ギルド長に会いたいんですが、居ますか?昔馴染みなんで会って話ししたいことがあるんで」
受付に居たのは犬耳を持つ獣人の男性であった。
受付業務は、魔獣を扱うことを考えて、男性しかしていないようだ。奥の事務処理や喫茶する場所では女性も働いているのが見え人族だけでなく、ちらほらと獣人などの姿も見えた。
『少々お待ちください。…ギルド長ですが、現在は魔道船の事故処理の支援のため王都エブラードにいるようです』
管理職の予定表の見てそう告げる。
「タイミング悪かったか。そうですか、なら不在のギルド長の補佐に誰がここにいるか分かりますか?」
『ギルド長の妹さんの、エスティアさんですね』
「わかりました。エスティアとも昔馴染みなので、面会出来るように
話通してもらえませんか?会いたくないと言われても、会わないと絶対に損すると伝言して
くれれば会おうとしてくれるはずなので」
『かしこまりました。面会用に、そこに見える階段で2階に上り左側を進んで行くと、
6と書かれた扉の部屋がありますので、そこに入りお待ちください。』
受付に礼を言ってセルファはシラユキを抱えなおすと、言われた部屋へと向かう。
シラユキと言えば、見るものすべてが珍しいのかキョロキョロと世話しなく首が動いている。
色んな種類の魔獣使いを見れるのは、このギルドだからだろう。
小型から大型までかなりの種類の魔獣が見れるのだ。
時折、魔獣の唸り声が聞こえるが皆慣れたものだ。
「ふぅ~。なんとかここまで無事着いた。お疲れ」
エスティアが来るまで椅子に座り待つ。かぶっていた帽子を側のデスクに置いた。
『すげ~なにーちゃん。 魔獣だらけだ』
ごそごそと帽子から出てくるのはカイだ。エルはミルが出てくるのを手伝っている。
「その為のギルドだしね。シラユキも良い仔だ。魔獣は、喋れる個体もいるにはいるんだけど、
流暢すぎるのはまずいんだ」
『ふ~んそうなんだ。面倒だ……』
ぐぐっと体を伸びしながらシラユキはセルファの横に座り毛づくろいをはじめる。
「だから人が多い場所で喋るなら、カタコトにすることかな。あと猫科の魔獣らしい
唸り声とか鳴き声かな」
『ニャア…とかデスカ』
「そうそう。用心しとかないと、シラユキを連れさらう馬鹿も出てくるからね」
軽く雑談をしていると、廊下の方から待ち人が来たのか騒がしい。