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悪党の気まぐれ

『大東神社会』から奪った闇バイトの収益ルートと、俺が独自に構築した薬物『魂の甘露』のシノギは、俺が直接手を下さずとも完全に自動化されていた。

流通を担うのは、魔法で【強力な催眠】をかけた使い捨ての末端連中だ。もし仮に警察の捜査が及んだとしても、遠隔で彼らの脳のシナプスを焼き切って自害させてしまえば、俺に繋がる証拠は一切出ない。実に合理的で平和なシステムである。



厄介な警察の目を逃れ、俺は新天地へと拠点を移していた。

今回の顔と名前は、『深山みやま たける』。

少し遊び心を出して、すれ違う女が思わず振り返るような、爽やかで整った顔立ちに偽装してみたのだが――これが予想外の事態を引き起こした。


「あのさ、お兄さん。……私と、遊ばない?」


夜の繁華街を歩いていた俺に声をかけてきたのは、まだあどけなさの残る女子高生だった。

その潤んだ瞳と、どこか切羽詰まったような声色。完全なる「援交目的」の逆ナンである。顔を良く作りすぎた甲斐があったというものだが、まさかこんな子供から声をかけられるとは。

そして現在。

俺たちは、駅前の薄暗いラブホテルの一室にいた。


「じゃあ……シャワー、浴びてくるね」


彼女が覚悟を決めたように制服のブラウスのボタンに手をかけた瞬間、俺はため息をついてそれを制止した。


「ストップ。服は脱がなくていい。そこに座れ」

「え……? でも、私……」


「いいから。……なぜこんなことをしている? 金はいくら足りないんだ?」


俺がベッドに腰掛けながら尋ねると、彼女は戸惑ったように目を泳がせた。



(なんだ、その『こんな極悪人が何を言ってるんだ』という疑いの目は。……いや、誰の目だ。とにかく、俺にだって良心というものは少なからず残っているんだ。本当だからな!)



今まで散々、人を騙し、洗脳し、絶望に突き落としてきた俺だが、それはあくまで「俺より下の悪党」や「俺に牙を剥く者」に対してだ。

まだ10代の、こんな普通の子供にまで身体を売らせて搾取するような真似は、どうにも寝覚めが悪い。


「……親の借金とか、色々あって。とにかく、すぐにお金が必要なんです」


ぽつりぽつりと語る彼女を遮り、俺は一つの提案を口にした。


「個人的に金貸しをやってるんだが、一人で全部の顧客を回るには人手が足りなくてね。そこで、君を俺の『助手』として雇いたい」


「……え?」


「仕事は簡単だ。金を回収するだけ。君が仕事しやすいように、確実に返済できる大人しい連中だけをリストアップして任せる。それでも渋ったり、返済をバックれるような馬鹿がいれば、俺が同行する」


俺は彼女の目を見て、淡々と続けた。


「俺と同行した時、君の姿を見れば、向こうは『なんだ、ただの小娘か』と油断して下賎なことを考えるだろう。君には、そういう馬鹿どもを釣り上げる『餌』になってもらう」


「餌……」


「ああ。給料はその月の回収ノルマ次第だが、今は俺一人しかいないから、月50万でも出せる。どうだ? 今までみたいに見知らぬ男に身体を売るより、肉体的にも精神的にもよっぽど楽だろ」


俺の言葉に、女子高生は信じられないものを見るような目を向けた。



「なんで……なんで、そこまでしてくれるんですか? どう考えても、お兄さんにとって割に合わない。何か裏があるとしか思えないんですけど……」


当然の警戒だ。俺は苦笑交じりに肩をすくめた。


「こんな若い子にそんな真似はさせられないっていう、俺の良心……かな? 自分でもよく分からん。でも、俺としては本当に仕事の関係で人手が足りていないし、君は状況的に絶対に裏切らない『好物件』なんだよ」



「…………」


数秒の沈黙の後、彼女は小さく、けれどはっきりと頷いた。


「分かりました。……やります」


「オッケー。商談成立だ」


俺は立ち上がり、新しく作った【深山金融】の偽造名刺を彼女に差し出した。


「連絡先が書いてある。仕事のことも、それ以外のことも、何かあれば電話なりメールなりでいつでも聞いてくれ。あと、ここのホテル代はこっちで払っておくから、適当にくつろいで帰っていいよ。じゃあ、ばいびー」


ひらひらと手を振りながら、俺はスマートに部屋を後にした。

バタン、と重いドアが閉まる音が響く。

一人残された部屋の中で、彼女は手に握られた名刺を見つめ、これまでにないほど深く、長い息を吐き出した。



新たな街での、新たな出会い。

これが俺の第二の人生にどんなスパイスを加えるのか、今はまだ分からない。

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