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異能との遭遇

大学の講義室。教授の単調な声がBGMのように流れる中、俺は教室の後方でスマホの画面をスクロールしていた。

画面上では、昨夜立ち上げた『魂の甘露 ─ ソウル・ネクター』の裏取引ルートが順調に利益を上げている。実に有意義な時間だ。


「……あの、君、拳也さんだよね?」


不意に声をかけられ、俺はスマホから目を離さずに「……なんですか」と短く返した。


聞き覚えのない声。そもそも、この大学で誰かに名前を教えた記憶すらない。


「誰かに言うことではないんだけど……」


声の主は、いかにも周囲から好かれそうな、爽やか系の男子学生だった。彼は周囲を気にするように声を潜め、奇妙なことを口にした。


「俺、他人の『気』みたいなものを感じ取ることができるんだ。どんなに気配の薄い人でも少しは生気があるんだけど……大袈裟かもしれないけど、君からは1ミリも生気を感じられないんだ。……詳しく話を聞いてもいいかな?」


(ほう……?)


俺はスマホを操作する指を止めた。

この世界(地球)に魔素はないが、独自の『能力者』のような人間が存在するということか。


「君は能力者か何か?」


俺が興味を惹かれて顔を上げ、彼の目を見た、その瞬間だった。


「お"ぇ"!! うっ……ゲボっ……!!」


爽やかだったはずの男子学生は、俺の顔(正確には俺の奥底にある真っ黒な本質)を直視した途端、白目を剥いてその場に激しく嘔吐した。


「あ……」


俺の右袖に、べちゃりと醜い吐瀉物が飛び散った。

昨日、あぶく銭で買ったばかりの十数万円するハイブランドのシャツ。それが台無しになった。

静かな殺意と屈辱感が、腹の底からドス黒く湧き上がる。顔を見ただけで吐かれるとは、これ以上の侮辱はない。


「だ、大丈夫ですか!? ほら、トイレに行きましょう!」


周囲の学生たちがざわめく中、俺は咄嗟に『心優しいクラスメイト』の仮面を被り、彼の腕をがっしりと掴んでトイレの洗面所へと引きずり込んだ。

個室が空であることを確認し、入り口に【認識阻害】の結界を張る。

先ほどまでの優しい声色を捨て、俺は絶対零度の声で吐き捨てた。


「人の顔を見て吐くとは、いいセンスしてるね」


「ひっ……!? な、なに……!?」


怯える彼の背後――俺の影から、ぬるりとした漆黒の『触手』が無数に伸びた。

それは蛇のように這い上がり、彼の耳の穴、鼻の穴など、顔のありとあらゆる隙間へとヌルヌルと侵入していく。



「あ"っ!? がっ、ごぼっ……!!」



触手は彼の体内を這い回り、その質量だけで彼の身体を宙へと浮かせた。


「君みたいな能力者は、この世界にきて初めて出会ったよ。だから試させて。僕の力と、君の力。合わせるとどうなるのかな」


俺は彼が言っていた『生気』なるものを魔法で具現化しようと試みたが、地球独自の力なのか、どうにも勝手が違った。

ならばと、俺自身の生気――異世界で数多の命と絶望を喰らってきた『真っ黒な魔力』を、触手を通じて彼の体内に直接注ぎ込んでやった。



「ガッ……!? ギ、ギィィィィィッ!!」



途端に、彼の身体の周囲を真っ黒なモヤが包み込んだ。

両目は限界まで血走り、口からはカニのように泡を吹き出す。宙に浮いたまま、彼の手足はありえない方向にガクガクと痙攣し、必死にもがいていた。

許容量を超えた闇の力に、彼の精神と肉体が悲鳴を上げているのだ。


「……ふむ。君のことが、もっと知りたくなった」


俺が触手を引き抜いて床に放り投げると、彼は「ひゅーっ、ひゅーっ」と過呼吸を起こしながら、床のタイルを掻き毟って震えていた。


「このことは内緒に、って言っても……君はどこかで言いふらすだろう?」


俺が冷たく見下ろすと、彼はビクッと肩を跳ねらせ、涙と鼻水まみれの顔で勢いよく首を横に振った。


「君のような人間は初めて見たし、非常に興味深い。……僕の気が済むまで、相手してもらうよ」


俺が指を鳴らすと、彼の真下に底なしの黒い空間――

【次元収納 ─ ディメンション・ルーム】への落とし穴が現れた。


「んー! んんんー!!!」

何かを叫ぼうとした彼は、声にならない絶叫を残し、真っ暗な空間の底へと落ちていった。


「さて、と……。最悪の厄日だったな。早く帰ってシャワーを浴びよう」

俺は汚れたシャツを魔法で消し去り、予備の服に着替えると、何食わぬ顔で帰路につき、自分だけの城である高級マンションへと戻っていった。

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