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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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9/20

悪魔、そしてもう一人の悪魔。課長、ベルク

ブクマありがとうございます! 頑張ります


 健診も終わり翌、日曜日の昼。六畳一間はカレーの匂いで満ちていた。


「うん。やっぱり一晩おいたカレーはうまい」


「食材を切ったのは我だ」


 ファウストが得意気に言う。

 包丁がファウストの手により封印されているので、食材達を一瞬にして魔法でスパッと切ったんだ。

 指を鳴らすだけで皮もけて便利なんだけど。


「魔力の無駄遣いじゃないのか」


「効率だ」


 そうして土曜の晩に仕込んだ鍋。

 一晩寝かせたカレーは色が深い……気がする。

 俺が再びスプーンを持ち上げ口に運ぼうとしたその瞬間。

 玄関の方に……。


「赤い煙……?」


 玄関に近い床が(と言っても1メートルも離れてないんだけど)赤く暗い光を立ち上げている。

 そこからドライアイスが放出するような、もこもことした地を這う冷気が漂う。その冷気もまたどんよりと赤黒い。

 その様子にファウストも手を止めた。


「……もう来たのか」


 ファウストが低く言う。


「何? 何が来たんだ? これヤバいのか? ファウスト」


「いいや。まだ……大丈夫、のはずだ」


 なんだか心許ない返事だ。

 その赤い冷気が止んで霧散すると、1人の男が立っていた。


「ファウスト様。報告に参りました。」


 黒のスーツ。

 そして黒のネクタイ。

 銀縁の眼鏡に真ん中で分けられた髪型。

 清楚で清潔な塊だ。

 しかしながらその表情は薄い。


 なんだろう不思議な人だ。


 普通の姿なのにどこにでもいそうで、どこにもいない。

 そうか。

 人間味を感じないんだ。


 男が部屋を一瞥する。その目は、家具でも人でもなく、空間の“何か”を測っているようだった。


 ……ってかさ。


「なぁ、ファウスト。……誰なの? え? ちょっ……」


 ファウストの顔を見ると、その顔は憤怒に満ちて鬼の形相になって……いや、ちょいちょい忘れるけどコイツ悪魔なのか。

 とにかく。

 すげぇぇぇ怒ってる。


「貴様………」

 

 ギリギリと歯を食いしばるファウスト。

 その目はまるで長年の宿敵を見つけたように、燃え上がっていて、しかし冷え切っている。

 刹那。

 その彼めがけてファウストは飛びかかった!

 座った姿勢から脚力を爆破させた。


「ちょっ! ファウスト!?」


「貴様ぁぁぁ!!」


 なんだ、どうしたの?

 その人、大丈夫じゃなかったのか?

 もしかして思ってた人と違ってやっぱりヤバい奴が来たとか?

 ファウストの手にはいつの間に出したのか、紫の炎に包まれた剣があった。


 男を目掛けてファウストが剣を振り上げた。


 いや、ここ六畳一間!!


「ぬぅ!!」


 そのファウストの剣を男は受け止めた。

 男の手にも赤い炎で包まれた剣。

 その剣を横に持って、大根斬りしてくるファウストの剣を防いだ。


 ドン!!


 受け止めた瞬間。

 付近の壁、家電からピシリとイヤな音。さらに窓ガラスに颶風ぐふうがぶち当たり激しくゆれる。


 だがその男は冷静に。

 

「……いかがなさいました? 私はただ魔界の決定事項を伝えに来ただけです」


 体勢を全く崩さずに男は涼し気に言う。


「そんな事などどうでもよいわ!」


 さらに怒りに任せて剣を押し付けるファウスト。 

 グゴゴゴゴ………なんて音が聞こえるんだけど。

 

「なぁ、ファウスト。どうしたんだよ……その人、敵なの?」


「あぁ、そうだ!!」


「……それは心外です……ね」


 その男の反応に。

 さらにファウストは歯が折れそうなほど歯を食いしばる。


 そして一言。

 怒声を発した。


「靴を脱がぬか!! 貴様ぁぁぁぁぁぉぁああああ!!!」


「…………………………………………」


「…………………………………………………」


「………………………………………………………え?」


 うん……。

 いや、分かるけど………。

 確かにその人、土足で床に立ってるんだけど。


 なんなら昨日も健診と昼メシ終えた後、二人して雑巾がけとかしたし。


「我と心太でピカピカに磨いた床を……貴様は踏みにじった……。許さぬ……許されぬ………断じて………」


「ファウスト。ねぇ、落ち着こうか。分かるけどさ」


 彼とどんな確執があるのかと思ったら……。

 ねぇ、ファウスト。

 俺も空気読んで声には出さないけどさ。

 心の中でツッコんでおくよ。

 怒ってるその理由。


 いや、新婚かっ!


 いきなり剣で斬りかかるか? 


「これは……ファウスト様……。申し訳ありませんでした。どうか剣を収めて下さい。そして不躾な行為、お許しください」


 彼とファウストはそこでようやく剣を収めた。途端に剣は消えた。

 そして彼は屈んで革靴に手をかけた。


「そこで脱ぐな! そっちの三和土たたきで脱ぐのだ!」


 ファウストがビシッ!と指をさす。

 そういえばファウストも初めてここへ来た時、ちゃんと靴を脱いで揃えてたっけ。


 意外と潔癖なのかな。


「重ね重ね……すみません。主人様あるじさま、洗井様」


「は、はい?」


「この、床を拭く物をどうか拝借させていただきたい」


「あぁ……いいですよ、そんなの。お構いなく」


「心太、いいからやらせておけ。この男に礼儀の無さを払拭させてやるのだ」


 ファウストがフン!と鼻を鳴らす。

 あぁ、もう、仕方ない。

 俺も立ち上がってキッチンのシンク下にかけてある雑巾を絞る。


「ファウスト厳し過ぎるよ?」


 俺が「じゃあ、お願いします」と、男に雑巾を渡す。するとその彼はうやうやしく「恐縮です」と頭を下げて、わざわざ両手で受け取った。


 ………丁寧な子や。


「これぐらいは当然だ。魔界の使い、謂わば魔界という看板を背負っているのだからな」


 地方に出張に行った営業の新入社員が言われそうな事、そのベストスリー的な内容を、まさかファウストの口から聞くとは思わなかった。


「ってかさ、さっきのファウストの一撃で家財道具がもし壊れてるんなら弁償だぞ」


「む……。壊……壊れてなど……ない……はずだ」


 弁償って言葉に恐れを抱いたらしく、手のひらを返したように、しどろもどろアンドぎこちない返答をする悪魔。


「……変わりましたね。ファウスト様」


 せっせと床を拭きながらお兄ちゃん(って呼んでいいやもう)がポツリと言った。


「……変わってなどいない。足りぬだけだ」


 ファウストがそう言って目を逸らす。

 どういう意味で言ったのか、俺には分からない。ただ、ファウストにとって、あまり触れてほしくない事なのかもしれない。


「………なぁファウスト、そろそろさ。その人の事、紹介してくれない?」


 ちょっとれた感じで俺が言うと。


「失礼いたしました。私、企画管理指導課長をしております。ベルクと申します」


 雑巾を置いてしゃがんだ姿勢のまま、俺に深々と挨拶……つまり土下座をするベルク君。


 ……にしても、企画管理指導課長って、あまり耳慣れない役職だ。

 俺はファウストに助けを求める視線を送った。


「……まぁ、つまり我のような悪魔達を取り締まる役だ。規約違反などがないか、と調査したりな」


「え? お偉いさん!?」


「……以前は我がついていた役職だ。そしてベルクはかつて部下だった。……ちょっと変わった奴だ」


「そなの?」


「まぁ、今は私が上司ですが」


 言ってベルク兄ちゃんは「フフ」と微笑む。


「ほぉぉ……言うようになったではないか。ベルクよ……」


 ファウストがまたニヤリと笑顔。だけど、なんだかその表情が悪い顔をしている。


 そうか。

 それでベルクが来た時の、あのファウストのリアクションが腑に落ちた。

 追い抜かれた元上司が、追い抜いた部下を見た時の顔なんだ。


 あぁ……ちょっとややこしいわぁ。

 大事にならなきゃいいけど。


「私の言い方は貴方譲りですよ? ファウスト様」


「……………フン」


 また鼻であしらうファウスト。

 だけど今度は、ただ、ちょっと、嬉しそうだ。

 

「で? ベルクよ。話があるのではないのか?」


「はい。よろしいですか? 今、申し上げても」


 言ってベルクは俺をチラッと見る。

 あぁ、そうか。俺の前で話しにくい事か。魂がどうたらこうたらとか。

 ここ、俺んなんだけどねぇ。


「分かった。俺ちょっと出てるから」


「かまわぬ。心太が行く必要などない。ただ、ベルクよしばし待て今我らは……」

 

 そうファウストはテーブルを見る。

 そこには俺達二人分の食いかけのカレーが。


「あ、ベルクさん。じゃあ、ついでに……」


 俺はもう一枚、キッチンからカレー皿を取り出して。


「一緒に食う?」


 俺がそう誘うと、ベルクはニッコリと微笑んで。


「あつかましい限りですが……もしかしたら、お誘いいただけるんじゃないかと思いまして……」


「うおっ……」


 突然、中空に真っ暗な穴が出現した。その穴にベルクが手を突っ込んだ。


「……こちらをご用意いたしました。いかがでしょう」


 穴から引き抜いた手には。


「え……と、お肉屋さんの袋……?」


″肉のハナマサ″ とプリントされたビニール袋がその手にあった。


「はい。ほふった動物の死骸を売買している店先でですね……」


「……いや、言い方」


「その動物肉にですね。小麦粉やパンをパサパサにした挙げ句、ボロボロにした物。さらには鳥からかすめ取ったであろう、卵をくぐらせ……」


「あの……うん……ねぇ……調理って……そんなに悪いこと……?」


「180度前後の油に投下し、タンパク質を凝固させ。さらには死骸の中の水分を排出させて、その水分が出ていった細胞の隙間に油をみ込ませるといった……」


「ベルクよ……おい……」


「良く言えばジューシーと言うのでしょうか? 別の言い方をすればお祭り騒ぎな高カロ……」


「ベルクさん!! それを ″カレーと一緒に食べませんか?″ って事なのでしょうか!!?」


 なんか話の途中から俺は泣きそうになった。

 なんでなのかは分からない。

 これは……うん。たぶん、疲れてるだけなんだ。きっと……。最近色々あったから。


 そんか俺の気持ちなどどこ吹く風、といった様子で「はい!」なんて快活な返事でニコッ! とベルクは笑い、小首をかしげる。


「…………なんかすまぬ、心太よ。な、ちょっと変わっているであろう?」


 突然、ファウストが謝ってきた。


 でもさ。


 お前らどっちもどっちだよ?

 そして俺も馬鹿だった。

 着てるスーツ、その立ち居振る舞いから、この子はきっとマトモだ!


 なんて決めつけてしまったから……。


「……じゃあ、改めて。ベルクさんもカレー、ご一緒にいかがですか」


 きっちり誘うとベルクは。


「ありがとうございます。是非」


 と、嬉しそうに微笑んだ。

 六畳一間の温度がちょっと上がった気がした。


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