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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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7/20

間話、足りない温度


 朝。

 昨夜の事はファウストに触れないようにした。

 先端恐怖症。

 何があったのかは知らないが、悪魔が拒否反応を示すほどなんてよほどの事だろう。

 とりあえず余計な事を考えてる時間はない。出勤前に朝メシだ。

 今朝は日本の朝メシの王道にする。

 味付け海苔、納豆、生卵にワカメの味噌汁。

 ちなみにファウストは納豆を拒否した。

 

 とりあえずこのメニューなら包丁はいらない。

 

 ……そういえばファウストが来てから、包丁を使ったのって昨日の朝だけだったな。


 だけどなぁ……。


「なぁ、ファウスト」


 テーブルに朝メシを運んで、向かい合うファウストに話す。


「なんだ?」


「やっぱり包丁が全く使えないのは不便なんだよ」


「それなら心配はいらん」


「なんで?」


「食材に斬撃を与えるのは我が受け持つ」


「その言葉あまり食材に使わない………ん?」


 なんだろう。

 お豆腐とわかめの味噌汁のお椀が、いつもよりも……。


「……なんか淡い?」


 お椀だけじゃない、汁も具もなんか淡いような……。

 椀を覗き込む。

 一口すする。

 味は変わらない。

 やっぱり気のせいか。

 俺が小首を傾げると。


「どうかしたのか?」


 向かいでファウストが言う。


「いや、なんか。今日の味噌汁がな薄い気がして」


「そうか? こんなものだと思うが」


「だよなぁ」


 味だけじゃく、食器も薄く見えた事を咄嗟に言わなかった。なぜか言わない方がいいような気がした。

 

 もう一口すする。

 うん、うまい。ちゃんと出汁も効いている。


 でも。


「……なんか、薄い」


 自分でも意味がわからない。

 ファウストは何も言わなかった。

 ただ、じっとこちらを見ている。


 こんな感覚はおそらく変なんだろう、と思う。

 まぁ気にしないでさっさと会社に行こう。



―――――ファウストの視点――――――



 その日の深夜。

 この六畳一間は相変わらず静かだ。


 心太の寝息は、穏やか。


 ファウストは布団の脇に立っていた。

 そして視る。魂を。淡い光だ。


 その縁が、ほんのわずかに欠けている。

 欠損は小さい。


 だが確実に。

 今朝、心太は自覚症状が出た。


 欠損は触れればもしかすると、埋められるかもしれない。

 たが、 ″かもしれない″ だ。

 指先を伸ばす。寸前で止める。


 ―――あの夜。


 炎の中。


 二重に響く魂。


 触れた瞬間の、柔らかさ。


 ファウストは手を引いた。

 

「アンタ……そんなにもこの子が気になるのかい?」


 寝ている心太から声が聞こえた。

 だけど心太じゃない。


 心太に寄り添うモノの声。


「あぁ、まぁな……」


 小さく、ファウストが返答する。


 ふと、心太が寝返りを打つ。


 その瞬間。欠けた縁が、わずかに光を増した。


 ほんの一瞬。共鳴するように。


 ファウストの目が細くなる。


「……やはりか」


「あぁ、あの日のままだ。この子の魂はね……」


 それだけ言うと。

 声は消えた。




 その様子をまた魔界も見ていた。


 黒曜石の床。

 片膝をついたベルクが報告する。


 「対象の欠損率、拡大なし」


 闇が問う。


「安定しているのか」


「はい。ただし――」


「ただし?」


「ファウストとの接触時、波形が増幅します」


 沈黙。


「補完し合っていると?」


「その可能性が」


 闇はしばらく黙った。


 やがて。


「干渉は許可する」


 ベルクがわずかに目を上げる。


「よろしいのですか」


「いずれ回収する」


 端的に伝えると、闇は揺れ、消えた。



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