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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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5/20

悪魔、インターネットに接続する。ーーー人間界の掟を学ぶ

来て下さりありがとうございます。

今回は消さずにちゃんと書ききります。。。

いいね、ブックマークお願いします!


 ファウストが来てから三日目。

 今日の朝食は「自分がやる」と言ってきかないファウストを丁寧に断り、俺が用意した。


 そうして今朝も、食パンと目玉焼きと簡単スープで朝食を済ませた後。

 

 ……今度はなんだろう。

 目を瞑って腕を組んだままファウストが動かなくなった。


「どした?」


「人間界には、明文化されぬ規則が多すぎる。朝から掃除機をかけてはならないなどと」


「昨日の事か」


「早朝に騒音を出してはならぬ。だが何時からが早朝なのかは記されていない」


「空気ってやつだよ」


「空気は吸うものだ」


 真顔で言うファウスト。

 日本人だったら思っても口にしない、しょっぱいジョーク。

 さらにファウストは続ける。


「空気を読め、という命令は具体性に欠ける。読むべきページ番号を提示せよ」


「いや、法令とかじゃないから」


 しばし沈黙。


 そして悪魔は、静かに俺のスマホを構えた。


「では、具体的な内容を探す」


 悪魔がインターネットに接続した。


「やめとけ」


「人間社会の最適解を算出する」


「算出すんな」


 画面を見つめながら、ファウストは音読を始めた。


「検索。“人間 怒られない 方法”」


「もうちょい前向きなワードないのか」


「“嫌われない人の特徴7選”」


「七つもあるのか」


「多いな。『否定的な事を言わない』うむ……。『感謝や謝罪を素直に……』うむ……。『人の話を………』」


 一つ一つに神妙に頷くファウスト。

 そんなに首肯しなくていいよ。


「次だ。“集合住宅 支配者になる方法”」


「ちょっと待って、なんで支配する側に行くんだ」


「支配されぬためには上に立つのが合理的だ」


「……うん。でもここ民主主義」


 スクロールする指が止まらない。


「“隣人 黙らせる”」


「やめろ」


「騒音対策だ」


「言い方よ……」


 さらに画面を凝視。


「“成功者は朝5時に起きている”」


「それは人による」


「我は常に夜型だ」


「悪魔だからな」


 しばらく沈黙。


 ファウストがぽつりと呟く。


「人間は評価し合う生き物だな」


「まあ、多少はな」


「ならば評価を最大化する」


「嫌な言い方するな」


 スマホを掲げる。


「実践する」


 嫌な予感しかしない。


―――――――――――――――――――――――――――――


「生活音は四十五デシベル以下が望ましい」


「どこ情報だ」


「掲示板」


 だろうな。


 ファウストはスマホを掲げ、部屋を測定し始めた。

 測定器のアプリをダウンロードさせられちゃったよ。


「今、四十二」


「実況すんな」


 冷蔵庫がブーンと鳴る。


「四十八」


 ファウスト、冷蔵庫を睨む。


「こやつ……敵だな」


「いや、めっちゃ味方だから。それ無いと生きていけな……」


 言いかけて。

 俺がくしゃみをした。


「へくしっ」


 ピロン。


「六十三」


 真顔。


「危険水域だ」


「生理現象だよ」


「抑制訓練が必要だ」


「いらん。無理」


 そんなやり取りをした後。

 ファウストはしのびとなった。


 足音ゼロ。ドアの開閉はスローモーション。水道の水は極細。


「なぁ……逆に怖いんだけど」


「完璧だ」


 そのとき、隣から掃除機の轟音。


 ゴォォォォォ。


 ファウストが固まる。


「……七十二」


「普通だよ」


「人間は矛盾している」


「お互い様なんだよ」


 ファウストは少し考え込んだ。


―――――――――――――――――――――――――――――


「次。“好かれる人の共通点”」


 まだやるのか。


「笑顔。共感。相手の話をよく聞く」


 そんなワードに俺の方をチラチラ見てくる。

 俺になんかしゃべれと言ってるのか?


「あぁ……ん〜……そいや今日ちょっとだるいな」


 ファウスト、真顔で頷く。


「……そうか」


 沈黙。


「うん……ファウスト。続きは?」


「聞いている」


 ……怖い。あくまでも真顔だ。

 それは会話って言わない。


 そして、お次は笑顔らしい。


 口角を持ち上げる。


 ぎこちない。


「それ威嚇だぞ」


「最大限の友好表現だ」


 そんな事を言いながらファウストは表に出る。

 そして玄関前に立つ。


「第一印象は三秒で決まる」


「誰にだよ」


「遭遇者に」


 三十分経過。

 誰とも遭遇しないまま部屋へ戻り、今度はキッチンへ向かった。


 何するつもりだ?


 訝しく思い眺めていたら、昨日、練習して焼いて焦がしたトーストを手にした。


「おすそ分け文化というのがあるそうだな」


「やめろ戦争が起きる」


「焦げは個性こせいだ」


個性あらを押し付けるな」


 さすがに止めた。


―――――――――――――――――――――――――――――


 静かになった部屋で、ファウストはスマホを見つめている。


「なあ」


 俺が声をかける。


「完璧にならなくていい」


「だが、評価は上げられる」


「俺は評価より静かな朝のほうが好きだ」


 少しの沈黙。


 ファウストはゆっくり画面を閉じた。


「……空気とは、数値化できぬのだな」


「たぶんな」


 外からまた掃除機の音が聞こえる。


 今度は測らない。


 ただ、窓の外を見た。


「……我は、貴様……心太の隣人でよいか」


「家賃払えればな」


 少しだけ、口元が緩む。


「重いな」


「魂よりは軽い」


 部屋は六畳のままだ。


 だが、さっきまでの無音よりも、今のほうが落ち着く。


 ファウストは腕を組み、言った。


「明日は味噌汁を検索する」


「ネットじゃなくて俺に聞け」


 少し間があって。


「……了解した」


 その返事は、いつもより少しだけ柔らかかった。


 焦げたトーストの匂いは、まだほんの少し残っている。

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