心太、過去を見る 後編
こんばんは。なんだかすごく時間が掛かっちゃいました汗 ようこそお越し下さいました。もし、誤字、脱字等、お気づきの点がございましたら、えぇと……、ございましたら……ごめんなさい許して下さい。(修正する気持ちを待とうよ、と)では、よろしくお願いします! 後半行きます。
そいつは、四枚の黒い翼を背負っていた。
魔界の最高位―――サタン。
額に……ミミズを這わせている。
と、思ったら浮き出た血管だった。
あと……眉間に深い皺。さらに気怠そうな表情。
もう、一瞥して分かるぐらいに、めっちゃくちゃ怒ってんな……。
危険だ!って信号が俺の体にあったなら、今ごろうるさくて仕方ないだろう。
だってねぇ……ヤバそうな暗黒の空気の波が、室内に膨張している。
キャンプの翌日、俺に起きた魔獣バフは、とっくに無くなってる。
現にファウストからの黒煙は見えない。
なのに……サタンのソレはハッキリと見える……。
それにさっきからこの、ビリビリと耳鳴りみたいな音。
これ、かなりヤバいんじゃね……?
そのヤバい震源地になりそうな張本人が「……やれやれ」と、長い髪を掻き上げながら呟いて大きく息を吸い込んだ。
そして。
一言、叫んだ。
「ファァァァアアストォォォォオオオ!!!」
「!!」
地獄の怒号、一喝。
サタンの体から、暗黒のソニックブームが放たれた。
その、闇ソニックブームが。
立ち昇る炎を全て消し飛ばした。
「なんちゅう声だ……!」
思わず俺は呟いた。自分の耳を軽く叩くが、精神体となっているので何も感じない。
ただ、どうやら俺の耳は正常に機能している模様。
もし今、生身でいたなら、俺の鼓膜は消滅していただろう。
ただ……悪魔とはいえ、一応は生身のファウストの聴力もぶっ飛んだんじゃないの?
と、思っていたら。
(恐ろしい……魔力でどうにか聞こえはするが、今の一撃で我の聴覚は消された……)
って、心の声が聞こえてきた。
ん?
家の中の炎が消え去ったとはいえ、燻んでいる黒煙は残っている。ただ、その黒煙が……。
「静止してる……」
本来、昇るはずの黒煙が微動だにしない。
これは……えと、どういう事?
「へぇ。サタンというだけあって時間を止められるのかい」
俺が不思議に思っていると、婆ちゃんが現状を解説してくれた。
グッジョブ、グランマ。
火が消えたおかげで、部屋の様子がよく見える。
どうやらここはリビングらしい。
俺は……両親の元へ行こうとしてか、寝ていた部屋から逃げたか……よく覚えてないけど、力尽きてリビングで倒れていたようだ。
「……ここにいる者、それ以外の時間を止めた。部下が随分と無様な真似を晒したものだ。本当にすまない」
そう言うとサタンは深く頭を下げた。
そして、死神に対しては。
「黄泉の使者よ。申し訳ないがこの子供は蘇生したようだ。魂を連れて行くのは次回にしてもらえるか」
礼の代わりに死神に対して視線を落とすサタン。
「フン……受け入れるしか無さそうね……。でも……」
美女な死神はサタンから今度はファウストへと向いて。
「あんたとはいつかケリをつける。覚えておきなさい悪魔」
そう言い残して姿を消した。
「それにしてもアンタ本当にサタンかい? その物腰の柔らかさ……随分と印象が違うけどねぇ……」
「それはアレか……? 乱暴者、永遠の反抗期ルシファー。……そんなイメージか?」
「まぁ、そうだねぇ」
婆ちゃんにそう言われたサタンは。
「あぁ……それ、なんだが、なぁ……。人間は私のことをどうしても『おぉw 厨二病ワッショイwww』みたいなキャラに置きたがる……」と、ちょっと顔を紅潮させる。
「でも事実じゃないのかい? よく知らないけど」
「まぁ……昔の事は、ほぼ事実だ。しかし、アレだ……つまり……私とて若かったのだ。その親子兄弟喧嘩があってだ。それから数万年という刻が過ぎた。ならば流石に心の蟠りとなっていた雪や氷も溶けるというもの。神や大天使達とよく話し合ってな、問題は大昔に解決したのだよ」
「そうかい……でも……」
婆ちゃんはそこでファウストをチラッと見て。
「悪魔はまだいるんだね」
「……そこはそれだ。人間界とて、いつまで経っても変わらず犯罪者が現れるだろう。ゆえに、警察や収容所、刑務所というシステムがどうしても必要となる。ゆえに魔界もまた必要と、神はそう判断したのだよ。それで私がこれまで通り責任者として統治させてもらっている」
「ふーん……。まぁ、いちいちごもっともか」
「納得いただいたようでなにより、さて……では問題の解決だ」
婆ちゃんに対しての柔らかな表情から一変。
サタンは感情が抜け落ちた顔をギラリとファウストへ向けた。
「……っ、閣下……!」
「……黙れ、ファウスト」
その一言で、空気が凍る。
「規約違反、魂の損壊、人間への過剰干渉……」
一つずつ、言い渡す。
「言い訳はあるか?」
「……ございません」
「ではまずは、貴様の位を剥奪する。たった今から下位だ。そして……」
その声が、空間を支配する。
「その子を最後まで観察しろ。人間として健康に生命を全うするまでだ。貴様の魂とその子は繋がりを持った、故にその子に危険が伴う事があれば貴様も感じ取れるはずだ……。絶対にやり通せ、よいか……?」
「はっ……!」
「二度と同じ失態をするな」
「……はっ」
ファウストが頭を垂れる。
魔王は、婆ちゃんを見て。
「……こんなところでいかがか? 気に食わねば此奴を好きにしてくれてかまわないが」
「結構だよ。私は心太が無事なら……いや……」
言いかけて婆ちゃんは何かを思い出したのか、視線を別の方向へ向ける。
視線の先はリビングを隔てた別の部屋。
そこは……俺の両親の寝室があったはずだ。
俺の両親は……寝ていたところで一酸化炭素中毒となり……帰らぬ人となった、と聞いている。
「この子の両親も救ってくれないか?」
「……残念ながら絶命した人間を戻す事はできない。いや……出来るが……私は絶対に勧めない」
「どういう意味だい?」
「……そなたは術師なのだろう? なら分かると思うが、”蘇生”と”よみがえり”は、手段と動機は似ていても着地点がまるで違う……。言わんとしている事は分かるだろう?」
「まぁ……ね」
「その二人の魂は死神に連れて行かれ、黄泉比良坂から黄泉へと向かっている……。あの場所へ人間の魂が行くと精神や記憶がまず洗浄される。もちろん時間をかけてだが……。ただ、少しでも洗われるともう別人の魂へと変わり果てる。そなたが希望するところは、これまでのその二人を生き返らさせてくれということであろう?」
「……やっぱり無理なのかい」
「……すまんな」
「分かった……。それで、心太はこれからどうなるんだい?」
「……分からぬ。悪魔と人間の魂を繋ぐなど、前例がない。ただ……」
「『ただ?』」
聞き返されたサタンは、横たわっている子供の俺の元まで行くと屈んで、そして手をかざす。
すると、驚いた。
微弱な光が子供心太の俺を包み込む。
みるみるうちに、火傷の傷が無くなっていく。
「言いにくいが、この子は―――心太といったか? 心太はおそらくは、感情が現れにくい性格と、なるかもしれぬ。逆にファウストは、人間の感情を知る事になるだろう……。両者共、魂を共有し合っているからな。これから観察が必要だ」
「その観察を、その悪魔にやらせるつもりなんだね」
「左様」
「本当に大丈夫なのかい?」
婆ちゃんが訊くと、サタンはファウストへと目を向けて。
「過ちはもう……起こさせぬ。だな? ファウストよ」
「……もちろんです」
ファウストは即答した。
あぁぉぁぁ………! ツッコミてぇ……。
今の俺は声を聞いてもらえないらしい。
すっげぇ悔し……。
どこが大丈夫なんだよ。……ったく。
「必要とあらば……また来る。肝に銘じておくのだファウストよ。心太の事、ちゃんと見張るのだ。貴様はしばらく人間界で過ごせ……」
その言葉を残し―――サタンは上半身から空気に溶けて、やがて消え去った……。
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「お……! おぉ……?」
気づけば、俺は元の自分の部屋に立っていた。
戻った俺を見て、ベルクとファウストがそわそわと、お互いの視線を合わせている。
なんか、高価な壺だとかを壊して怒られる寸前の子供みたいだ。
そんな二人に。
俺は一喝した。
「あのさぁぁぁぁ!!! 問いただしたい事がいっぱいあるんだけど!」
俺の言葉にファウストが(ちょっと泣きそうな顔しとる)、ビクッと体を震わせた。




