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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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2/20

悪魔をスーパーへ連れて行く


―――――悪魔をスーパーへ連れて行くーーー――



 黒のマント姿のまま外に出ようとするので、パーカーを投げる。


「目立つだろ。それ着てくれ」


「なんだこの服は……。我は恐怖の象徴だぞ」


「……職質の象徴になるぞ?」


 注意すると「ぬぅ……」とかまた唸って渋々フードを被る悪魔。翼は消しているが、隠しきれていない威圧感。なんとも濃い後味だ。


 自宅マンションを出て思考する。

 まてよ……。

 腹空かせた悪魔と俺、二人分なんだよな……。

 近くて便利なコンビニよりも……。


「……ちょっと歩くけど、コンビニよりも破格なとこへ行こうか」



――――――――――――――――――――――――――



 そしてやって来たのは、ギガマート・アライバル。

 安くて24時間の安心スーパーだ。


 ふと。

 ファウストが自動ドアの前で立ち止まる。

 そして俺の方を見て。


「これは結界だな?」


 小首を傾げる。

 頭上の緑色に灯ったランプの事を言ってるらしい。


「センサーだ」


 俺が一歩踏み出す。


 す、とドアが開く。


 ファウストは目を見開いた。


「……我らを認識しただと」


「いや………赤外線な」


 店内に入ると、光と音楽に包まれた。


 ファウストは小声で言った。


「ここが……人間界の補給拠点なのだな?」


「まあな」


 弁当コーナーの前で固まる。


「こ、これは一体………」


 ズラ〜リと並んだ弁当に唖然としている。

 これもしかして感動してるのか?


「カツ丼、天丼だ」


「余程に安価に作られた、と見えるな……」


 あまりに沢山の丼物や弁当が並んでいるからか、気圧けおされたらしい。


「安価じゃない。どれもこれもみんな調理してる人が、魂込めて作ってるんだよ」


 あ、やべぇ。

 変に魂とか言っちゃったよ。

 つぅ、と恐る恐るファウストの表情を見る。

 するとなにやら「うんうん」と深くうなずいて。


「人間は魂を透明な蓋で保存するのだな」などと言う。


「うん……悪かった。やっぱ違うわ」


 俺は半額シールの貼られた弁当を取る。


「見ろ、これが文明」


 ファウストは値札を覗き込み、震えた。


「おい……まさか……これらが半値だと言うのか?」


「そう。時間経過で価値が下がる」


「やはり魂と同じではないか」


 ぽつりと呟く声が、少しだけ低い。

 ほっといてレジへ向かおう。適当に食べられそうな物選んで……と。


 えぇと、カツ丼2つに天丼1つ。あとは外れのない、のり弁を2つ。

 うん、全部で弁当を5つ。

 悪魔の食欲は分からんから多めに買った。

 それらを持ってレジへ並ぶ。

 カゴを持つのが面倒だから、ファウストに3つ持たせた。


 しかし、今日はついてた。

 夜8時を回ったってのに、かなりの数の割引弁当が並んでた。


 そうして俺達の番が回ってきた。


「袋はご利用ですか?」


 店員の言葉に、ファウストが反応する。


「利用……だと?」


「え……はい。有料です」


「金を払わねば袋すら得られぬのか」


 また余計な事を……。


「資本主義な。ほら早く渡して」


 会計が終わり、店を出ると静かに夜風が吹いていた。


 風を感じているのか、それともスーパーの衝撃の余韻か、ファウストはしばらく無言だった。


「……心太よ」


「なんだ」


「貴様は……いや、おまえは、魂の価値は何で変わると思う?」


「さあな」


 歩きながら答える。


「どう生きるかじゃないか」


「どう生きるか……か。あぁ、全くもってそうなのだ」


「ん?」


「我ら悪魔が魂の価値を判断するのは、その者が生きた足跡。肩書き、社会的地位などだな」


「なぁ悪魔にとって、その魂で何が変わんの?」


「……魔界の地位だ。契約をして間違いなく回収をすれば地位を得られる」


「……完全にサラリーマンじゃん」


「サラリーマンが何か知らぬが、お前が言うならそうなのだろう。しかしだ……」


「何?」


「実際に……例えばの話だが、聖職者の魂は価値が高い。そして、特に生きて何も起きなかった者の魂の価値は、おのずと価値が低いという事になる」


「……それ後者、完全に俺じゃん」


「……その2つの違いを見比べるとだ。ほんのわずかばかり輝きが違う……。が、ただそれだけだ。他には何も変わらぬ」


「変わらんの?」


「そうだ。大きさも重さも温度……。何一つ違いはない」


「……何が言いたいの?」


「人間はそれを知らぬ、という事だ。自分の臓物ぞうもつの色を知らぬと同じように、まばゆい光を放っている……ずっとな。それを当人は知らぬ」


「いや……そりゃそうだろ」


「そうなのだ。当たり前の話だ。……しかし、その魂をさらに輝かせる事に、人間は意義を見出すのではないか?」


「あ〜……そうなのかな。よく分からんけど」


 ファウストは弁当の袋をじっと見つめる。


「急がねばならぬ。契約……」


 また、その言葉。


「やけに焦るな」


 足が止まる。


 ほんの一瞬、フードの奥の横顔がかげった。


「我は魔界より“猶予”を与えられている」


「猶予?」


「魂を持ち帰れねば――」


 言葉が途切れる。


 自動販売機の光が、ファウストの横顔を照らした。


「持ち帰れねば?」


 沈黙。


 数秒後、ファウストは元の表情に戻す。


「減給だ」


「やっぱりサラリーマンじゃねぇか」


「我は管理職だ」


「部下いるのか」


「いない」


 即答だった。


 俺は弁当を差し出す。


「ほら」


「……これは貴様のだろう」


「やるよ。食えるだけ食え」


 ファウストは固まった。


「……なぜだ」


「っていうか最初から大半を渡すために来たんだよ。四日も食ってないって……」


 少しの沈黙。


 悪魔はゆっくりと受け取った。


「……人間は、理解不能だ」


「よく言われる」


 ふたりで夜道を歩く。


 フードの奥から、かすかな声。


「――魔界では、契約を果たせぬ悪魔は価値を失う」


「株みたいだな」


「価値なき者は、存在を削られる」


 さらりと言う。


 軽い口調のくせに、言葉だけが重い。


「削られる?」


「記録から。記憶から。名から」


 夜風が強く吹いた。


「だから急ぐのだ」


 小さな声。


 俺は少しだけ考える。


「じゃあ焦ってミスるな」


「何?」


「減点方式なんだろ?」


 ファウストは目を瞬かせた。


「契約も人生も、焦るとだいたい失敗する」


「……貴様は、妙に冷静だな」


「死ぬつもりはまだないからな」


 沈黙。


 そして、ファウストは小さく笑った。


「ではしばらくは生き延びろ」


「命令か」


「……我の……頼みだ」


 ライトの加減か、フードの奥であるはずなのにファウストの顔がほんのり赤く見えた。


 なので、聞こえないふりをした。


―――――――――――――――――――――――――――



 六畳一間に戻った。


 電気を点けると、いつもの生活の匂いに包まれて安心。


 ファウストはまだ渡した弁当を見つめていた。


「時間で価値が下がる、か」


「冷めるだけだ」


「……ならば、温めればよいのだな」


「うん。温めるのあっち」


 俺が示した方に電子レンジ。


 その前で固まる悪魔。


「操作方法が分からぬ」


「そこからか」


 俺はボタンを押す。


 回転する弁当。


 ファウストはそれを真剣な目で見つめていた。


 まるで、この瞬間が消えないように。

 

 そして言った。


「我は人間界の事は分からぬ……」


「みたいだな」


「心太よ。貴様が契約書にサインをせぬならば……」


「なんだよ……」


 また悪魔は真剣に考え込む。

 なんかロクでもないことを言い出しそうな予感が。


「一時的に貴様の住処を拠点とする」


「居候宣言やめろ」


「さっきも言ったが、契約成立まで帰れぬのだ」


「何でだよ」


「……魔界からの指示だ」


「ふ〜ん、よし分かった。じゃあ帰れ」


「だから帰れぬ……! またこのやりとりをするのか?」


 ちょっと声を張るとファウストは肩を落とした。翼もしょんぼりしている。

 着替えたマントから翼を生やす。やっぱり翼を出せる切り込みが入っているのか。

 

 悪魔って衣装に気を使うんだな。


 なんとなく、たぶん、世界を滅ぼすタイプじゃないな。

 俺も少し考えて、ファウストに突きつける。


「……家賃」


「なんだ?」


「せめて半分払え」


 俺の一言に悪魔は震えた。

 意味が伝わったのか?


「それは……魂より重いモノ……か?」


「たぶんな」


 こうしてラスボスことファウストは、うちの六畳一間に住みついた。


 

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