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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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15/20

悪魔、キャンプをするーーー前編


 水曜日の夜。週の真ん中。

 

 仕事を終えた俺は、いつものようにマンションの階段を上がる。

 残業になったけど、なんとか八時前には帰って来られた。


 静かな廊下。

 鍵を取り出し、いつものようにドアを開ける。


 ガチャ。


 ……。


 …………。


「……なんだこれ」


 六畳一間の俺の部屋の真ん中に、テントが建っていた。

 しかも結構ちゃんとしたやつだ。

 三人用くらいのドーム型テント。

 そして床には。


•寝袋が三つ

•折りたたみ椅子

•焚き火用の金属スタンド

•クーラーボックス


 などが綺麗に並んでいる。そしてその横で。

 ベルクが、ノートに何かを書きながら座っていた。


「おかえりなさい」


 顔を上げて、いつもの穏やかな笑顔。


「……ただいま」


 俺は部屋を見回す。


「で、これは何?」


 ベルクは当然のように答えた。


「キャンプです」


「いや意味が分からない」


 その時、背後から声。


「うむ」


 振り向くと、ファウストが腕を組んで立っていた。

 今日はマントを着ている。


「人間界の娯楽と聞いた」


「聞いたって誰に」


「ベルクにだ」


 ベルクが頷く。


「人間は時々、自然の中で生活する遊びをするそうです」


「それはまぁ、人によってはそうだけど」


 俺はテントを指差す。


「なんで俺の部屋で準備してるの?」


 ファウストはニヤリと笑った。

 これ……嫌な予感しかしない。


「今から行く」


「どこへ」


「山だ」


「断る」


 俺が即答した瞬間だった。

 ファウストが指をパチンと鳴らした。

 視界が飴細工のように、ぐにゃりと歪む。


「ちょっ――」


 言い終わる前に、世界が変わった。


―――――――――――――――――――――――



 冷たい空気が頬に触れた。


 土の匂い。

 湿った葉の匂い。


 目を開けると。


 目の前に広がっているのは森だった。

 背の高い木々が闇の中に立ち並び、風が枝を揺らしている。

 夜空には星。

 街灯なんて当然ない。


 そしてすぐ横には、さっき部屋にあったテントが、すでに組み立てられていた。


 焚き火の準備までがしてある。


「……」


「……」


「……」


 俺はゆっくり振り向いた。


「拉致じゃねぇか」


 ベルクは首をかしげる。


「移動です」


 ファウストは腕を組んでいる。


「感謝しろ」


「するか。なんでいきなりキャンプなんだよ」


「やってみたくなったからだが?」


「悪気が無いのが救い用がねぇ」


―――――――――――――――――――――――


「ハッ!!」


 軽く組み立てた枝に手を差し出したベルクが、その手から炎を放出した。


 乾いた枝がパチパチと音を立てて燃え始めた。

 暗い森の中に、オレンジ色の光が揺れる。


 いや……もうちょっと原始的な手段で火をおこそうぜ。キャンプなんだろ?


 だが、その光景を見たファウストが満足そうに頷いた。


「うむ。まずは食料の確保だ」


 俺は辺りを見回す。


「……持ってきてないの?」


 ベルクが答える。


「現地調達です」


「サバイバルかよ」


 ファウストはすでに森の方へ歩き出していた。


「少し待っていろ」


 そう言い残して、闇の中へ消える。

 数分後。

 森の奥から、ドォォン!! と、地面が揺れるような音が響いた。


「なに今!?」


 ベルクは冷静に答える。


「狩猟でしょう」


「……狩猟の音じゃねぇだろ」


―――――――――――――――――――――――――


 やがて木々の間からファウストが戻ってきた。

 その肩に何か巨大なものを担いでいる。

 それを地面にドンと落とした。


 ズシンと土埃が立つ。


「……」


 俺は地面に置かれたそれを見た。

 まず大きい。

 豚っぽい。

 でも違う。

 イノシシにも似てるが……違う。

 目が三つある。

 皮膚が妙に硬そうで、牙が湾曲している。


「それ何」


 俺が訊くと。


「知らん」

 

 と、ファウストは平然と言う。


「知らんのかよ」


 ベルクがしゃがみ込み、観察を始めた。


「非常に興味深い生物です」


 俺は一歩下がる。


「食うの? それ……」


 ファウストは気にせずに言う。


「丸焼きにする」


「却下」


「食材としては合理的です」


「味方がいねぇ!」


――――――――――――――――――――――



 しかしファウストは完全に無視して作業を始めた。

 木の枝を折り、太い串を作る。

 そしてそのケダモノをズブッと突き刺した。


「おい」


 焚き火の上に設置。

 肉が焼け始める。


 ジュゥゥゥ……


 脂が落ち、炎が揺れる。

 匂いが漂う。


 ……あれ?


「……」


 俺は鼻をひくつかせる。


「……ちょっと美味そうじゃない?」


 ファウストが得意げに言う。


「当然だ」


 しかし、問題が発生。

 丸焼きになりかけていたケダモノが、ピクッと動いた。


「今……動いたぞ……」


 ベルクも見ている。


「動きましたね」


 サラリと返された。

 その次の瞬間。


 ガバッ!!


 ケダモノが突然起き上がった。


「生きてるじゃねぇか!!」


 ケダモノは焼けた串をぶら下げたまま森へ突進。


 ドドドドド!!


 ファウストがため息をつく。


「まったく」


 指を鳴らす。

 影が地面から伸びた。

 黒い手のような影がケダモノを捕まえ、


 ズドン!と地面に押し倒す。


 完全拘束。ファウストが近づく。


「逃がすか」


 もう一度焼き始めた。


「最初からそれやれよ」   


―――――――――――――――――――――――――


 しばらくして。


 完全に焼けた肉。


 ファウストがナイフで切り分ける。


「食え」


「ナイフで刺したまんま寄越すな」

 

 俺は悩んだ。あいつらのことだ。

 たぶん、この国、いやこの世界の生き物じゃないだろう。

 

 ただ、匂いが……。

 空腹の俺の腹を締めつける。

 思わず口へと恐る恐る一口。


 ……。


 …………。


「うまい」


 ファウストがドヤ顔。

 なんかちょっと腹立つ。


――――――――――――――――――――――――


 焚き火の火が静かに揺れている。


 虫の声。


 冷たい夜風。


 ベルクはノートに何かを書いている。

 ファウストは肉を食べ続けている。


 俺は空を見上げた。


 星が多い。


「……なんかまぁ、まだ普通のキャンプだな」


 この二人とやるキャンプにしては、だ。


「そうか?」


「うん」


 なんだろう。悪魔とキャンプしてるのに、妙に落ち着く。不思議なもんだ。


 その時、ベルクがふと顔を上げた。


「ちなみに」


「先程の生物ですが」


 嫌な予感。


「人間界の生物ではありません」


「……は?」


 ファウストが平然と言う。


「魔界の猪だ」


 俺は肉を見る。


 今食った肉を見る。


「やっぱりかよ!! 先に言えよ!!」


 森に俺の叫び声が響いた。


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