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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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14/20

悪魔、エクソシストと対決す?



 火曜日の夜。


 仕事を終えた俺は、いつものようにマンションへ帰ってきた。

 今日の残業は三十分程度。まだ早い上がりだ。おかげで七時前だ。


 今日こそはゆっくりできそうだ。


「さて、今日は何食うかな……」


 そんな事を考えながらマンションの角を曲がった時だった。


 …………なんかいる。


 黒い服の男が一人。神父さんが着るような……カソックってやつか?

 長身。イケメン。

 そして―――どう見ても怪しい。

 そんな男が、マンションの前で腕を組み、建物を睨んでいる。

 この人、エクソシストにしか見えないんだけど……。

 しかもなんかブツブツ言っている。

 これは、関わりたくないねぇ。


「強い……」


「これは……かなり強い瘴気だ……」


「間違いない……」


(……この人、ヤバいよなきっと)


 とりあえず無視して横を通り過ぎようとした。

 その瞬間。なんとなく予想はついていたけど、男がグインと首を回して俺に振り向いた。


 そして、笑ゥせぇるすまんみたいに、ビシッ! と俺に指を差した。

 いきなり人に指を差したらダメなんだぞ?


「あなたですね!!」


「え?」


 男は小走りで近寄ってきて、「やはり!!」などと言って顔を寄せる。


 いや……距離感よ。

 近過ぎる。


「あなたから強い瘴気を感じます!!」


 俺は君から変質者の気を感じるが……。

 俺は一歩下がって。


「はぁ」


 と、ちょっとイヤそうに返事をしてみた。

 でも、そんな俺のことなんかおかまいなしで、男は胸を張り。


「安心してください!!」


「私はエクソシストです!!」


 なんて聞いてもいないのに、自らの業種を語った。

 やっぱりエクソシストか。


「……職業当てクイズ、まさかの正解」


 男はさらに胸を張る。


「では自己紹介を! 私は加藤かとう りく エクソシストです!!」


「……………………………」


 俺は思った。


(何故、エクソシストを二回名乗る……)


 頭の重要なボルトが二、三本外れてるんじゃないのか?

 俺は小首を傾げた。

 でもそれが逆効果だったようで。

 加藤君は真剣な顔で。


「あなたは悪魔に取り憑かれています!!」


 そう言い切った。

 どうやら自分の身に起きている事が、俺は分かっていないと思ったらしい。


「へぇぇ、そうなんですか」


「はい! 私が来たからにはもう大丈夫です! 今すぐ悪魔祓いを行います!!」


 俺は二、三秒ほど考えた。

 絶対にこのまま引き下がらないだろうな、この人。

 なので。


「とりあえずウチ、上がります?」


 そう誘うと、加藤は真剣に頷いた。


「もちろんです! 悪魔の巣窟へ!!」


(うん……巣窟じゃないんだけどなぁ……)


 とりあえず、この加藤って子を連れて、家のドアを開けた。


「ただいま」


 部屋の中は静かだった。誰もいないの? と思いきや、六畳一間の真ん中でファウストが座っている。


「戻ったか」


 そして、ベルクはノート広げて何やらまた書いている。

 っていうか、ベルク、普通に俺の部屋にいるんだけど何で? この部屋にいなきゃいけないのか?

 ただ、君達二人いるのに静か過ぎるぞ……。


「おかえりなさい」


 ベルクが顔を上げてニッコリと微笑む。

 そんな二人を見て。


「出たな悪魔ァ!!」


 ギラついた目で、加藤君が吠えた。


「……」


 ファウストは黙した。


「……」


 ベルクも絶句しているご様子。


「……ごめんよ。なんかエクソシストらしいんだ、この人。名前は加藤 陸 君だって」


 俺が紹介してあげると、ファウストはさも嬉しそうに。


「ほう」

 

 と、イタズラを考えている時の笑顔で応対する。

 そのファウストに、加藤君は十字架を取り出して。


「神の名において命じる!!」


「悪魔よ!!」


「この人間から離れよ!!」


 一つ、一つのセリフを丁寧に吟じるように告げた。


「心太」


「ん?」


「我らは、取り憑いているのか?」


「いや……違うはずだよね」

 

 俺がベルクに同意も求める視線を流す。


「えぇ。同居です。相互観察です」


 冷静にベルクちんが、回答する。

 加藤君は構わず続いての一発芸の準備に取り掛かった。

 今度はポケットから小瓶を取り出して。


「聖水!!」


 バシャッ!!

 ファウストと、ファウストの対面にいるベルクの顔にかけた。


「……おい。冷たいぞ。いきなり無礼な奴だ」


「これは……ただの水道水に十字架を浸したものですね」


「ば、ばかな……なぜ効かない!?」


 加藤がたじろぐ。かなり自信があった攻撃らしい。

 そんな加藤君を『フン!』と、ファウストは鼻で嘲笑い。


「効く理由がない」

 

 そうニヤリ、と笑う。

 

 これ……ファウストの奴、完全に煽ってるな。

 たまらず加藤君は次に聖書を取り出した。


「ならば……正式な祓いを行う!!」


 姿勢を正して。十字架を掲げる。そして呪文を読み始めた。


「In nomine Patris, et Filii, et Spiritus Sancti」


「Exorcizo te, omnis spiritus immunde」


「Omnis incursio adversarii」


「Omnis legio」


「Omnis congregatio et secta diabolica」


 部屋に静寂が流れる。その中、加藤君の声だけが響く。


「Ergo, draco maledicte」


「Ecclesia te adjurat」


「Ut desinas decipere humanas creaturas」


 しばし沈黙。


「……………………………………」


 やがてファウストはポツリと。


「……長いな」

 

 と、退屈そうに後頭部を掻く。


「ただ、まぁ、発音は良いです」


「ベルク、意味分かるの?」


「ラテン語の悪魔祓いの呪文ですね。やくすると『父と子と聖霊の御名によって、汚れの霊、あらゆる汚れの霊よ、我はお前を祓う。悪魔のあらゆる襲撃。あらゆる軍団、悪魔的な会合と徒党……』などと、言っているようです」


「いずれにせよ、つまらん芸だ。もっと他に無いのか?」


 ファウストが加藤君の芸を踏みにじる。


「なぜだァァ!!」


 加藤君は膝からくずれ落ちた。

 そんな中、ファウストとベルクが同時に指をパチン、と指を鳴らした。


 一瞬。空気が歪んだ。

 だが、挫折マークみたいになっている加藤君は気づかない。


「何今の?」


「聖属性の力を無効化していました。聖の奇妙な気配がしましたので」


「それ……もはや反則だろ。無敵じゃん」


「悪魔だからな」


 ファウストがドヤ顔をする。なんか段々と加藤君が、かわいそうになってきた……。

 憐憫れんびんの目で加藤君を見てしまう。

 顔を上げた加藤君は汗だくになっていた。


「くっ……! まだだ!!」


 お次は塩を取り出した。


「清めの塩!!」


 ファウストとベルクを囲むように床に撒いた。


「掃除が大変だ……。貴様、誰が掃除をすると思っている?」


「ほんとだよ」


「大丈夫です。私が後で掃除機をかけます」


 ベルクが足でザッ! と塩を蹴る。


「もういい! 最後の手段だ! 神よ!! この迷える魂を救いたまえ!!」


 おぉ……。

 そうきたか。

 加藤君の最後の手段。


 まさかの神頼み。


 究極奥義的な技が、他力本願だなんて驚きだ。


「…………………………………………」

 

 沈黙すること約三十秒。

 依然と変わらず。


「終わりか?」


「……」


「効いていませんよ?」


「……うん。もう加藤君、帰る?」


 俺達に声をかけられた加藤君は床に座り込んだ。

 ダダっ子みたいだ。


「おかしい……資料では確実に祓えるはず……」


「それは弱い悪魔だろう」


「なに?」


「我らはそこそこ強い。まぁランクはA+というところだ」


「まぁ…Sランク、SSランクには届きませんが」


「いや、ガチャかよ……」


 加藤君は拳を握り、フローリングをドン! と叩いた。

 やめて。

 近所迷惑でしょ。


「諦めません!! 私はあなたを必ず救います!!」


「……ごめん。別に困ってないんだ……アリーヴェデルチ」


 俺がさよならを告げると。


「そんな……。もうそこまで懐柔されているなんて……」


 なんて事を言い出す。

 想像力はかなり豊かだねぇ。

 ただ、ちょっと気になったので。


「ねぇ、加藤君。俺達の事、どこで知ったの?」


 そう訊くと加藤君はスマホを取り出して動画を見せてくれた。


 その動画には、ファウストと俺がおもいっきり映ってある。


 そのタイトルが。


【病院で悪魔発見】だ。


 俺が採血されている最中のファウスト。

 顔が真っ青になっている。


 そして。

 

 角と翼が少し出ている。


「………………………………………」  


「…………………………………………」


「………………………………………………」


 俺とファウストとベルクは、黙ってその動画を凝視した。  


 ……これ、この間の健診の時じゃん。

 ファウスト、魔法で違和感調整したって言ってたのに。

 さては注射器を見て、効果が薄れたな?


「あの……たぶん、これフェイクです」


 そう言うのが精一杯だった。

 すると加藤君に涙目でキッ! と睨まれる。


「そんなはずはない! あなたはこの二人に騙されている!」


 …………なぜ言い切る。

 いや、合ってるんだけどね。半分は。

 フェイクじゃないからね。

 ただね?

 君のね? 

 プライドを俺は傷つけまいとね?

 

 それにこの二人、基本的には害がないから。

 たま〜に面倒な事を起こすだけで……。 

 でもまぁ、今日のところは。


「……今日は遅いからとりあえず、帰ってもらえます?」


 仕方ない。

 先延ばしにして、まだ残ってる可能性の道を当てがわなきゃ、この子、テコでも動きそうにない。

 俺は諦めて、また今度ね、と彼を追い出した。


「面倒なのが来たな」


 ファウストがニヤニヤしながら言う。

 明らかに面白がってるな……。

 そんなオモチャ見つけたみたいな、いやしい顔しないの。


「観察対象として面白いです」


 眼鏡をクッと、人差し指と中指で押し上げるベルク。


「あぁ〜あ……」


 俺は取り出したスマホで検索をかけると、出るわ出るわ、ファウストの異変。

 ガッチガチに映ってる。

 しかも、街中を歩いている様子のファウストの姿まで。

 

 こりゃ、また何かあるな……。


「私は……! 私は諦めない! 絶対に諦め…………ないからなぁぁぁ……」


 階段を下りながら加藤君が叫んでいるらしい。

 んっとにご近所迷惑な子だこと。


 この六畳一間。


 今日も騒がしい夜だったよ。



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