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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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12/20

悪魔、ホームセンターに行く


 ベルクが立ち去った後。


「これ、開けていいんだよな?」


「当然だ。好きに使うがいい」


 封筒の中には札束がぎっしり入っていた。

 俺はテーブルの上にそれを広げた。


「……いち、じゅう、ひゃく……」


 数えている途中で、手が止まった。


「……ファウスト」


「なんだ」


「これ……百五十万ある」


 ファウストは食べ切ったカレー皿を見ながら答える。


「ふん……少ないな」


「いや、少なくねぇよ……。一ヶ月分の居候代で百五十万ってどういう計算だよ!? ここの家賃五万だぞ!? 金銭感覚ズレ過ぎだろ」


「魔界基準だ。まぁ、これで生活が安定するならば良かろう」


「三ヶ月はいけるぞ……」


「庶民だとそうなるか」


「面と向かって庶民、言うな!」


 俺は封筒を見ながらため息をついた。


「……まぁ、せっかくだしな」


「?」


「買い出しにでも行くか」


 ファウストが顔を上げる。


「買い出し?」


「そう。生活用品とか。鍋とか皿とか」


「……必要か?」


「必要だろ」


「ベルクを呼べば魔法で出させるぞ?」


「便利道具の為に召喚するのは気の毒すぎるぞ」


 俺は立ち上がる。


「日曜なんだから外に出るんだよ」


 ファウストは小首をひねる。


「人間は休日に出歩くのか」


「だいたいな」


「理解した」


 そして静かに言う。


「観察対象として同行しよう」


「そんな大げさなもんじゃない」


 俺は財布を持つ。


「ホームセンター行くぞ」


「ホーム……?」


「センター」


「なるほど拠点か」


「違う」


「補給拠点なのだろう?」


「違……いや、なんかズレてるようで合ってはいるな……」


――――――――――――――――――――――――

 

 日曜の午後だけあって、やたらと人が多い。

 近くで一番大きなホームセンター、カインズ。


 その入口の前に黒コートの男、ファウスト。

 どうしたのか、ぼぅと突っ立っている。


「……」


「どうした?」


「広い」


「広いよ」


 ファウストはゆっくり店内を見る。


「ここは何だ」


「ホームセンター」


「何を売っている」


「大体の家庭用品は全部」


「?」


 ファウストの眉が寄る。

 俺は説明した。


「工具とか家具とか園芸とか。あとアウトドア用品なんかも充実してる」


武器えものは?」


「売ってない」


 俺がそう言うと少し残念そうだった。


「何を買いに来たのだ?」


「メインの買い物はベルクの引っ越し祝いだ」


「?」


「この国では知人や友人が引っ越したりすると、何かプレゼントをしたりするんだよ」


「変わった風習だな……。あざむくのではないのか……」


 ファウストんの魔界ルールはそうなのか。

 引っ越し早々に騙し討ちとか辛すぎる。

 

――――――――――――――――――――――――


 まずは食器類を見に行く。

 カレー作るみたいだから、ティファールの鍋セットとか喜ばれるんじゃないか、と思う。

 その売り場まで通り過ぎようと思っていた矢先、工具コーナーで、ファウストが立ち止まる。

 そしてある物を手にして。


「これは何だ」


 と訊く。


「電動ドリル」


「拷問具か? それにしては少し小さいが……」


「違う!……まぁ、なんか言うだろうとは思ってたけど」


「そうか分かったぞ。では壁に穴を開ける道具なのだな? 情報収集するための」


「使用用途が乱破らっぱすぎるぞ!」


 そしてまた次のアイテムを手にする。


「これは」


「ノコギリ」


「これは分かる。処刑具であろう」


「……何、魔界ってそんなの使って処刑するのか?」


「あぁ、時には長く苦しみを与える」


 ファウストは真顔だった。

 ノコギリなんか使わんでも、もうちょっとあっさり行こうぜ……。


「直接的な武器は無くても、人間は拷問具を日用品として売るのだな」


「いつの時代のどこの国の文化だよ」


――――――――――――――――――――――


 そして今度は園芸コーナーでファウストは足を止めた。

 そこにあった移植ゴテを手にする。

 手持ちサイズのスコップだ。


「墓掘り用にしては小さいな……」


「……それガーデニング用」


「ガーデニング?」


 俺は窓ガラスの向こうを指した。

 外には特設売り場。そこには多種多様の花が置かれている。三畳分ほどのビニールハウスには胡蝶蘭まで置かれている。

 ファウストはその花達を一瞥いちべつして。


「人間は花を育てるのか」


「魔界は育てないのか?」


「育てようものなら、植物は手足を食いちぎるからな」


「……答えに絶望しかなかった」


「ゆえに魔界では石しか育てん」


「石を……育てる?」


「あぁ、そうだ。魔力の回復に使えるからな」


「あぁ、そっか。そりゃそうだよな」


 びっくりした。

 石をジーーー、っと見続けてる悪魔達を想像しちゃったよ。

 悪魔って病んでんのかなぁ、って考えちまった。


 俺が立ち止まってると。


「何をしている? 行かぬのか?」


 ファウストが急かせてきた。

 なんだかんだで、もしかしてファウスト、カインズが楽しいのか?


――――――――――――――――――――――


 今度は生活用品コーナー。

 やっとで来れた。

 俺は色々な鍋を手に取るが。


「やっぱりこれだな。これをベルクに渡そうか」


 ティファールの鍋セットが有用と見る。

 一万二千円なり。


「きっとカレーを作りたがるぞ」


「多分な」


 すると後ろから声をかけられた。


「心太様」


 振り返るとやっぱりベルクだった。

 またスーツ姿。手に持ったカゴの中にはスパイスが大量に入っている。

 って、引っ越しは?


「何してんの? 引っ越し終わったの?」


「えぇ。無事終わりました。今、研究材料を仕入れに」


 本当に仕事が早いな。


「何の?」


「ご馳走していただいたカレーです」


 やっぱりか。

 なんかでもちょっぴり嬉しそうだ。そんなベルクにファウストが言う。


「やめておけ……」


「はい? 何故でしょう」


「心太に食べさせるつもりだろう?」


「はい。成功した暁には」


「せめて契約を結んでから食わせてやれ」


 そう言われたベルクは、俺とファウストを交互に見て。


「……なるほど確かに」


 納得した。

 

「いや、納得すんな」


――――――――――――――――――――――――


 そして帰り道。

 外はさんさんとした西陽。

 その中を三人の影がゆらゆらと並んでいる。

 俺とファウスト、それにベルクだ。

 三人で袋を抱えている。

 渡す人にプレゼント見られちゃったよ。

 でも。


「なんかやっと普通の日曜だな」


 俺が一息ついて言う。


「普通か?」


 ファウストが聞き返す。


「うん」


 そしてベルクが。


「魔界ではありえません」


 そう微笑む。

 俺は笑って。


「だろうな」


 そのとき。


 風が少しだけ吹いた。


 ほんの一瞬。


 遠くの電柱の影で。


 黒い影が揺れた気がした。


 だが。


 俺は気づかなかった。


 ―――いや。


 気づかないフリをした。


 そして三人で帰る。


 スパイシーな匂いが充満するであろう、自宅マンションへ。


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