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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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10/20

悪魔、そして悪魔。さらに来訪者


 


「しかしベルク。来るのが予定より早いのではないか?」


 ファウストは対面に座ったベルクを睨む。

 どこかベルクの事をまだ信用が置けないらしい。

 その当人、ベルクは。


「あの方の指示です。迅速にと」


 カツカレーの匂いを一瞬だけ吸い込み、


「素晴らしい。香辛料の配合は良好ですね」


 と言った。

 褒められたらしいけど、評価された部分は企業努力。俺とファウストの力は関係ねぇ……。


「スパイスにより高い抗酸化能力。メイラード反応により香気も十分……」


「いいからさっさと食え」


 うん。

 ファウスト、ナイス。


―――――――――――――――――――――――


「本当によろしいのですか?」


 ベルクがテーブルを挟んでいるファウストに、身を乗り出して確認を取る。


「心太ならば余計な事は言わん。なぁ?」


「え? うん、まぁ話す人も友達も特にいないし……」


「……想像していたよりも孤独ぼっちな回答だな」


「う、うっせぇやい!」


 カレーを食べ終ながらベルクが「では報告を」と、また空気中に真っ暗な穴を空けて書類を取り出した。


 えぇ……食べ終わってからにしようよ……。カレー冷めちゃうよ? と、俺が思っていると。


「かまわん。このまま話せばよい」なんて事をファウストが言ったもんだから、その言葉にベルクが念を押したのだった。


「では申し上げます………。まず、期限内はこのまま観察継続。魔界、他の悪魔の介入は禁止する」

 

 本当にカレー食いながら話し始めちゃったよ。


「……決定を下したのは上位か?」


「はい。あの方と上層の判断です」


資産たましい状況は」


 ファウストがスプーン片手に低く問う。


「変動なし。ただし、感情値に上昇傾向」


 ぴくり、とファウストの眉が動く。


「誤差だ」


「分かりました。誤差として記録します」


 ベルクは封筒を差し出す。


「それとこちら……居候代です。心太様、お納め下さい。ファウスト様の生活費を一か月分相当ご用意いたしました」


 ファウストがチラッと俺の方を見る。

 その様子にベルクが。


「生活圧迫は観察精度を下げますので」


 と、また小首を傾げて微笑む。

 な、なんか手厚いな……魔界。

 受け取ると封筒はまさしく現金さつたばの重み。

 一ヶ月分にしてはやたらと分厚いんだが……。もしかして、全部千円札だったりして。


 俺は封筒を手に固まった。

 たぶん、今までに持った事の無い金額が入ってる。


 ファウストは一瞬だけ、ためらうような素振りを見せて。


「……施しではないな」


 と低く訊く。


「えぇ、もちろん。ただの諸経費です」


 ベルクは即答。

 一体、幾ら入ってるのか今すぐ見た………。


 ザッ!!


 え?どうした?

 いきなり二人してベランダの方を睨んだ。

 

 なんだか二人ともここに来て、一番シリアスな空気出してるんだけど。


 俺がいぶかしくしていると。

 ふと。

 俺の目の前を何が横切る。


 それは本当に一瞬の出来事だった。


 何かが俺の頭上を横切った。

 影? いや違う。

 平たい刃のようなもの。


 なぜ見えなかったのか。

 恐ろしく素早かった。という理由が一つ。

 

 そして、もう一つ。

 

 ファウストがいつの間にか俺の前に出て、後ろ手で俺の頭を押さえつけていたからだ。


 俺の額を床に叩きつける勢いで。


「心太!! 頭を伏せよ!!」


 ファウストが叫んだ。

 三人、その場で身を伏せる。

 空気が圧縮されて濃密になるのを感じた。

 

 俺の部屋ではまず、ありえない事だ。

 そんな濃密な空気を押し返すがごとく。


 二人の悪魔が立ち上がっていた。


 スプーンが皿に当たる音がした。

 ……やけに響く。


 そしてベルクが。


「……正体を……確認した」


 ベランダの引き戸を蹴り飛ばした。

 豪快にガラスが割れる音と共に、そこにいた何かが姿を現した。


 ファウストの目が鋭くなる。

 それが姿を現すと、部屋の温度が氷点下まで落ちるのを感じた。


「あれ何者……? って、なんか……急に寒い?」


 俺の問いかけに誰も答えなかった。

 ただ、その返事の代わりに。

 ヒールの音が一つ。


 コツ。


 ベランダに、恐ろしく整った顔の女の人が立っていた。


 黒い服。白い指。


 そして手には―――――――鎌!?


 草を刈るようなモノじゃなくて……もっと立派な……あれって、もしかすると……。


「デ……デスサイズ……!?」


 俺の心臓が、強く打つ。


 ドクン。


 なんだろう。

 俺……この女の人……知ってる……気がする。


「久しいわね」


 柔らかな声。でも冷たい。

 俺の頭をまだ鷲掴わしづかみしているファウストの指が、わずかだけど震えていた。

 

 今度はベルクが前に出た。


「魔界保護観察中です。干渉は規定違反」


「あら言えた義理かしら? 貴方達から先に喧嘩を売ったのよ?」


 女は微笑む。その目は全く笑っていない。


「二体目……」


 クスリ、とその女の人は愉悦ゆえつひたる、取って貼り付けたような笑顔があった。

 なんだこの人……。いきなり何をしてるんだ?

 手にしていた鎌が、揺れた。


 刹那だった。


 蛍光灯が、消える。


 次の瞬間。


 風が裂ける音。

 

 ベルクが動いた。


 右足で蹴り上げる。

 微かに見える恐ろしく早い蹴りだ。

 しかし。

 女の人がベルクの動きを凌駕りょうがする。

 大鎌が横薙ぎに走る。


 一閃。


 ―――――――ザシュ。


 ベルクのジャケットが裂けた。


 遅れて。

 その下の空間が歪む。

 すると、ベルクの胸元に、細い裂傷が出来ていた。


 血は出ない。


 だが、そこだけ色が抜けたように歪む。


「しまった……これは油断です……」


 ファウストの目が凍る。

 そして。


「……下がれ」


 と一言、ファウストは言った。低い声。

 でも怒りではない。

 恐怖でもない。


 もっと複雑な何か。


 女の人は首を傾げる。


「あら……広がった? あなたのソレ……」


 再びその女の人が鎌を振ろうとした瞬間。

 ベルクの手が空間を掴む。


 ビキビキビキビキ………。


 見えない力が走る。

 なんだこれ……恐ろしい重圧プレッシャー


 空気が圧縮される。


 その女の人の足元が歪む。


「観察対象外の排除は許可済み………。行動に移します」


 声は静かだ。だが、冷酷だった。


 次の瞬間、女の人の姿が霧のように薄れた。

 そして最後に残した。イヤな微笑を……。


「またね」


 楽し気に言うとその人は、ふと消えた。


 そして、静寂。


 蛍光灯が戻る。

 カレーの匂いも戻る。


 俺だけが座らされている。


「……今の、何だよ」


 ファウストが振り返る。


「ただの酔っぱらいだ」


「嘘つけぇっ!!」


 ベルクが胸元を押さえている。


 裂け目が、じわりと黒く滲んでいた。


――――――――――――――――――――――――



「大丈夫ですよ。問題ない」


 ベルクはそう言うが、声がわずかに浅い。

 ファウストが一歩近づく。その手が、ベルクの傷に伸びる。

 が、止めた。

 出したその手を、ファウストはグッと握る。


 そんなファウストの事は触れず、ベルクは少し視線を落として。


「……接触により、私も観察対象へ移行となります」


 そう事務的に言った。


「は?」


 我ながらマヌケな声で俺は聞き返した。


「魔界規定第六条。外的干渉を受けた調査役員は一時滞在……」


 そんな事をさらりと言う。


「よって私は……このまま滞在延長となります」


「えと、どこに? もしかして、ここに……? 流石に三人は無理だぉ?」


「いえ、この建物の空室を確保いたします」


 ベルク即答。

 ファウストが舌打ちする。


「……冗談だろ」


「規定です。それと、この建物はすでに企画管理指導課が押さえています」


 ベルクは淡々と言う。

 えと、ちょっと待って。

 このワンルームマンション、魔界のモノなの?


「それは本当か」


「はい、一昨日です。手続きが無事、完了いたしました。なので私が先ほど壊しました、そちらのガラス引き戸もすぐに修繕させますのでどうかご安心を」


 まるで、「携帯を買い替えました」ぐらいのトーンで言うベルク。


 マジか……この人。


「なぁ、ファウスト」


「ん?」


「じゃあ、俺達さ。生活音をそんなに気にしなくても……」


「それとこれとは別だ」


 キッパリと突っ返された。

 

「……それより、どんな様子だ。ベルクよ」


「どんな様子……とは? どういう意味でしょうか」


「……とぼけるな」


 ファウストが気にしてるのは、やはり裂けた布の下……ベルクの傷だ。


「まだ……よく分かりません」


 そう傷口を押さえるベルク。

 ファウストも視線をそこへやるが、すぐに目を逸らした。

 俺はわからずに訊いた。


「……ここに住むって、魔界で療養しなくていいの?」


 そう訊くと、ベルクは一瞬だけ考える素振りを見せて。


「心太様。残念ながら、この傷は治るモノではありません」


 そう苦笑した。


「へぇ……そうな……んだ」


 なんて言っていいのか分かんないや。

 あの鎌で斬られたからか。

 

 じゃあ、やっぱりそうか。

 あれほどの立派な大鎌といい。

 あの女の人。

 アレしか考えられないよなぁ……。


「なぁ、さっきのあの人って、死神?」


「だから酔っぱらいだと言って―――」


「―――はい、そうです」


 ファウストの戯言をベルクがキッパリとさえぎって。


「おい! ベルク!」


 初代厄介悪魔しょだいやっかいあくまの憤りを軽く買う。


「仕方ありません。流石に誤魔化しきれないでしょう」


 夏の海!ってぐらい爽やかに、ベルクが微笑む。

 しかし。

 やっぱりそうなのか……。

 俺、どこかで会った気がするんだよなぁ……。

 

「ですが、心太様」


「ん?」


「今はこれ以上、お話できません。どうかお許し下さい」


 慇懃いんぎん、お行儀よくベルクがこうべをたれる。


「うん。いいよ。分かった」


 俺はあっけらかん、と返した。そして。


「あのさ、ベルク」


「はい?」


「よかったら……その……」


「?」


「もう一杯、カレーどう? ガラス片とか入ってるかも、だし」

 

 俺が訊くと。


「はい! いただきます」


 ベルクは頷く代わりに、小首を傾げてニッコリと微笑んだ。


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