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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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悪魔、死を告げにくるーーーその後、深夜の楽園へと誘う


『悪魔、死を告げに来るーーーその後、深夜の楽園へと(いざな)う』


  

 死ぬのが怖いか、と聞かれれば「恐怖心は限りなく薄い」と俺は答えるだろう。


 未練はもちろんある。


 冷蔵庫には昨日のカレーがあるし、録画した深夜アニメもまだ見ていない。


 それでもどこか感情、気持ちは淡白だ。


 だから、ベランダに黒い翼の男が降り立ったときも、わりと冷静だった。


「見……け……ぞ、人間」


 夜風を裂いて現れたそいつは、全身黒ずくめだった。長いマント。禍々しい角。背中には巨大な翼。


 どう見てもラスボスだ。


「我は……ゼ……ヴァ……ファウスト」


 低い声が窓ガラスを震わせる。

 うん。戸が閉まっているからハッキリ聞こえないんだが。

 俺は戸を開けてソイツに言う。


「宅配ならあっち、玄関だ」


「違う! 我は元、上級悪魔のファウスト」


 悪魔は叫んだ。なんて近所迷惑だ。

 ……っていうか、もと、上級悪魔って……。聞いてもいない情報を白状してきたよ。

 ちょっとえぐる。


「なんで元なの?」


「……今は下級だ」


 めっちゃ降格してるじゃん。何やらかしたんだよ。


洗井あらい……………あ〜と……これは……心太ところてんか」


「しんた、な! 訪問先の奴の名前ぐらいちゃんと確認しとけよ」


「……ぐぬ」


「ぐぬ、じゃない……。んで? 悪魔が何の用?」


「心太よ。貴様はこれより先、半年後に死ぬ」


「……へ?」


「死ぬのだ……貴様は」


「いや、じゃなくていきなり下の名前で呼ぶか? 距離感詰めすぎ」


「…………そこ気になるのか?」


「ううん全然。いいんだけど」


「だったら言うな!」


「とりあえず寒いからそろそろ中に入るか?」


「……う、うむ」


 出で立ちが西洋風だから、どうせ土足で上がるんだろ、と思いきやベランダで靴を脱いでちゃんと揃えるまでした。

 そして戸を閉めて向き直ると、マントをひるがえした。

 この六畳一間で。

 やめろ、狭いだろ。

 顔にちょっと当たったぞ。


「ってか、俺……死ぬのか?」


 そう口にしてみても、胸の奥は静かなもんだった。


「そうだ半年後にだ。正確には六ヶ月と三日後に」


「ふ〜ん」


「…………薄いな。もう少し驚かんか? それとも信じられぬか」


「いや、信じるけど。本物の悪魔っぽいし。でも、まぁそっか、って感じだ」


 ラスボス感強めのくせにポンコツそうだったり、靴を両足とも揃える奇妙な悪魔だが、嘘は言っていないのだろうと思う。

 だから俺の前にこのファウストは立っているんだ。

 ただ、自分でも驚く。

 死ぬと言われても感情の波は凪いでいる。

 そんな俺を悪魔はジッと見ている。

 まるで期限切れの食い物の痛み度合いを推し量るがごとく。

 ちょっと居心地が悪いぞ。

 

「なに?」

 

「……変わった奴だ」


「ベランダの戸を開けずに喋り始めた奴が言うな」


 その俺の言をスルーすると、黒い紙を広げた。羊皮紙を染めたものか、いかにもそれっぽい。


「契約書だ。内容を確認しこれにサインをするのだ。そして死の淵に立ったとき、我の名を呼べ。さすれば契約は完了する」


「いや呼ばないし、契約もしない」


「なぜだ!」


「119の方が早い」


 悪魔は黙った。


 数秒の変な間……の後に。


「……119………とは?」


 一段と低い声で聞いてきた。


「呼べばサイレン付きの白い車で来て、応急処置をしてくれる」


「……人間界の召喚魔法か」


「いや文明だ」


「ほほぅ」


 納得したように顎をしゃくるが、たぶん分かってないな。


「その契約すると、願いを三つぐらい叶えてくれたりするのか?」


 そう持ちかけてみると、ファウストはニヤリと笑い。


「ふん、よかろう。それでこそ契約というものだな。それでどんな願いだ?」


 と訊いてきたので。


「例えばありきたりだけど、大金を出してくれって言ったら?」


 そう言うと。


「この世界の金、という意味でならそれはできぬ」


 と、首を振るじゃないか。

 

「じゃあ魔界の金ならあるってことか? この世界じゃ両替できないと思うけど」


「我は魔界の通貨はさして持っておらぬ。だがそれ以上に価値のあるモノなら持ってはいる。それを金に換えればよかろう」


「ふ〜ん。どんな物?」


「聖者の心臓、火竜の欠伸あくび、四季おりおりの亡者の叫び声……。今はこれぐらいだ」


 …………それを俺にどうしろと?

 魔界にも四季があるのかよ。真っ暗なイメージだけど。

 詳しく聞きたいところだけど、興味を持ったと思われたら契約を決められるかもしれない。


「さぁ、どれがいい?」


 腹に力を入れたのか、ファウストの腹がグゥと鳴った。

 その音は聞かなかった事にして。


「いらない」、と回答する。


「なに!? 滅多に手に入らぬモノばかりだぞ」


「この国じゃ使えない」


「うぬぅ……」


 残念悪魔が唸ると、その腹がグゥと鳴る。

 ……聞かなかった事にして。


「じゃあ、俺がモテるようにしてくれるか?」


「……我の魔力は戦闘特化型だ。貴様のステータスをいじる事はできぬ。その代わりに暗殺をしてやる。殺したい奴はいるだろう。そいつの名前と生息地を言え」


 いるだろう、って決めつけんな。


「俺にそんな奴はいない。殺したいほど恨んだりはしないぞ」


「……貴様は幸せな奴だ」


 口の端を歪ませ、ファウストは残念そうに言う。

 なぜ悔しそうにするんだ。


 ふと。

 またしても腹を鳴らした。


 今度はハッキリと聞こえるように、ぐうと。


 ラスボス感の威厳が地獄へ逝った。


「空腹なのか?」


「気にするな、なんて事はない。四日ほど何も食べていないだけだ」


「……四日?」


 よく動けるな。

 冷蔵庫に悪魔が食えそうな物なんてあるかな。


「そんな事よりだ……。契約書を貴様と作成せねば……」


――――グゥウゥゥゥゥ!!―――

 いや、気が散るわ。


「……まず飯だな。コンビニでも行くか?」


「こんびに?」


「夜中の空腹にも応えてくれる楽園だ」


 返すと悪魔は真剣に考え込んだ。

 そして、ポツリと。


「敵地か………」


 と言った。


 


 

 

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